新入生歓迎会するんだってよ
長い1日の終わり
遠坂にこの部屋臭くないか聞いてから、汗をかいている3人には氷を数個入れた水を。俺と惶にはインスタントのお茶に湯を注いでテーブルに持っていく。
4人テーブルだからか、惶だけソファーに座りに行ってくれた。
椅子を引いて座り、一息ついた様子の上野達にさっきの続きとして話を促す。
「で?なんでそんな汗だく?」
「あのね……貴様、スマホ見てないだろ。さっさと見ろ。分かるだろうから」
呆れたように小森に言われてズボンの後ろのポケットからスマホを出して起動する。
画面には5件の着信履歴と、上野と小森(と思われる人)の20を超えるメッセージが。サイレントマナーにしてたから全く気付かなかった。小森は本名で登録してるみたいだから今ここにいるその小森で合ってる筈。後で上野に礼言わないと。
えーと……大量のスタンプに、どこにいるのか、無事か、返事の催促ーーーーのミルフィーユ。とりあえず部屋に行くというメッセージが最後に残されている。探しに来てくれたから汗だくなのか。
これは、流石に罪悪感。
「わ、悪い……帰るって言ってなかったっけ……?」
「「言ってない」」
「急いでる、としか言ってなかったね」
あーーーーーそんな気もするな〜〜
…………。
「お騒がせしました…………。」
そう言って深々と頭を下げた俺を見て、しょうがないなぁと言ってくれるのに苦笑いしかできない。ごめん。
「おいお前ら。…なんで俺がいる?話は柚木だけだろうが」
そうだ。
「なんで惶も?関係なくね?」
「ちょっと待って柴ストップストップ」
「なんだよ」
「うっ、そんな仔犬みたいに首傾げてもダメだから…!」
いやなんなんだよ。惶と顔を見合わせる。
「そうだねぇ…端的に、彼と仲良さげだからかなぁ?」
遠坂がこっちを見て頬杖をつきながら話す。
「今日コンタクト取ったのは食堂とここでの2回の筈だし、名前呼び。」はい。
「あと変なところも見ただっけ?」それは語弊。
「それに、悪いんだけど……狼谷君って話しやすそうな人でも無いのに、柴君フランクだもの」なんて、どれも同じく"今日はじめまして"の僕が言える話じゃないんだけど。と軽く肩を竦ませた。
「2回……?」
惶が呟く。やっぱり気付いてなかったか。そのまま思い出さないで欲しい。遠坂スペシャルヒントやめろ。
「!それだ。それが本題。し、柴の変なところ……見たって、どういう事か話してもらうよ」
「あ?リビングに「ちょーーーーっと待った、それは、俺が、話す」」
あぶねぇ…………!!
姉ちゃんに関して上野は多少知ってるけど、勿論2人は知るわけがない。
ほんの少ししか話してないが、惶は言葉足らずな所があると分かった。念の為に俺が話さないと。
そう考えてた俺は惶の言葉を遮り、姉の趣味の、少し変わったDVDをここに散らかしてたのを見られただけで、ほんと別になんでもないんだ、と話した。
「なんだ、変態じゃなかったのか。皆に警鐘しようと思ってたのに」
そう言ってスマホを直す小森。
どの皆?!!?
風評被害が目前に!!!
「本当に…その、あのお姉さんの趣味の物が見られただけだよね?トイレを覗かれたとかじゃないよね?」
「テメェは俺をなんだと思ってやがる」
惶を無視した上野が覗き込んで来る。
段々顔に熱が集まるのを感じながら、本当にそれだけだから、と椅子から立ち上がって中腰になり手で顔を押し返す。
あれ〜どうしたの顔真っ赤にして〜とからかってくるような遠坂に、体質だうるせーと返して俺の顔を見たがっている上野の顔から手を離さずむしろ力を入れた。
ふと惶の方を見るとバッチリ目が合ってしまった。見てたんですか。少し治まったと思った熱が再発。
惶はソファーから立ち上がるとこっちに向かって来る。
えっなに。
上野を除いた皆が見守る中、俺の横に立った惶。俺が中腰とはいえ長身による威圧感が凄い。
「な……なに…?」
「……………………。」
「えっちょっ、」
返事をせず俺の顔をがっしり掴まれ上を向かされる。痛え。今日は首を酷使してる気がする。考え込むように顔をガン見してますけど……あっ待ってまさか。嫌な予感。
数秒お互い顔を見合わせてると、惶の目が微かに見開き口が動いた。
「食堂のヒョロイ腕、」
ヒョロ………
「……お前だったのか。」
また騙されたな。………古いし、嫌な予感は的中した。
「雰囲気が違いすぎて気付かなかった」
「いや、着替えてもないけど……っ」
そう言いながら顔を掴んでる手をタップ。
首がもげる。
悪ぃと言って手を離してくれる。
「今は、あの時と一緒で顔も赤ェし目が潤んでた」「やめてもらえますかね」
あの時の羞恥心思い出すから。
食い気味に言葉を返す。
……ヒョロイ腕……ヒョロイほど痩せてない筈、なん、だけど。
……腕立てするか……。
「成る程ね、思い出したわけか。
で、そのムードしまってくれない?尻軽な犬に僕吐きそう」
「しりがっっ?!出してねーーーよ!!!!」
「柴はおれのなんで。口説かないでね〜、狼谷サン」
背もたれの方に引き寄せられ首元に腕がまわる。いつの間にか上野が後ろに回り込んでいた。目を隠していた手を外したのを忘れてた。
「なんだ、テメェらデキてんのか。」
「そういうんじゃねーから!!固い友情!!!」
片眉を上げて俺達を見る惶。やめろその納得してない顔。ノーマルだって言っただろうがDVDの時。
「おれら愛を誓い合った仲でしょ……?」
「俺の記憶には無いんだけど……?」
「やっぱり顔掴んだ時に脳に何かしらしちゃったのかなおれ…………。」
「ヤバいな…………。」
色んな意味でなゴリえもん。
「ね、そろそろ6時になるけど晩御飯どうする?」
ひとり我関せずだった遠坂が聞いてきた。
そういえばもうそういう時間か。
「今日は解散で。小森と惶は誰かいるだろうし、上野はどうせ作り置きあるだろ?」
「まぁあるけど」
「それで遠坂はーーーー、」
「僕は大丈夫だよ。たまたま同室者の人と知り合いだったから、その人と食べることにするね。」
遠慮してる雰囲気でもなく、その言葉に安心した。前からの知り合いなら俺達といるより気が楽だろうし。
帰る3人を玄関まで見送りに行く。
2人はまた明日とあっさり帰ったが、上野は珍しく渋った。そういえば今日の上野は珍しいというか、いつもより何か変だったな…。少し心配ででかい背中に声を掛ける。
「上野、今日どうしたんだよお前……何かあった?」
「……………。」
「おーい。」
「……………………おれだけの柴だったのにって思っただけー」
ええ…お前とよく話すだけで、去年から他にも友達いるからな。
拗ねたようにそう言ったでかい背中が俺の顔面を押し潰した。
「いや重い重い重い!俺に気軽に背中を預けんな!」
「おれの命は柴にかかっている頑張れ!」
重いわ。
唸りながら力一杯前に押し返して玄関を開け、上野と共に廊下に出た。なんとも言えない顔でこっちを見る上野。
別に明日から会えないわけじゃないだろうに、今日はどうやらお互いセンチメンタルになる日な様で。馬鹿らしくなって笑う。
「上野、賑やかになるけど2年からもよろしく。明日の4限は寝んなよ、気まぐれメニューがすげえ安いみたいだから争奪戦だ」
2人からのメッセージを見てる時に食堂不定期メールが入ってたのを見たから確実。
顔を覗き込んでそう言った俺を見てキョトンとした上野はしょうがないな〜とはにかみ、俺の頭をぐしゃぐしゃに掻き乱した。
「うん。また同じクラスよろしく、柴。10分前位に優しく起こしてね」
シャーペンで刺してやる。
いつもの雰囲気に戻った上野に、何かあの不良にされたら言うんだよと言われ、大丈夫、お前より紳士と返して気になってたことを聞いた。
「部屋に入ってから何か視線とか感じなかったか?」
「いや?別に何も…?」
そうか、ならいい。
けど、部屋に入ってから帰るまでほとんど小森は上野の顔をガン見していたのに何故何も感じないんだ。視線に慣れすぎたお前が心配だよ……。
不思議そうな上野に憐れみの目と共に気を付けて帰れよと言って帰し、扉を閉めた。
一旦制服からラフな服に着替えリビングに戻ると惶がテレビを観ていた。
今まで同室者がいなかったから、ここに誰かが居ることの違和感が凄い。
これは…慣れるのに暫くかかりそうだな。
「惶は晩飯どうすんの?食堂?」
「あ"ー……、そんな腹減ってねぇから行かねぇ。」
マジか。それでも上野と同じ高校生かよ。
片付けようとチャイムが鳴る前に持ってきて放置してた袋を畳み、端に避けて冷蔵庫を開ける。
晩飯な〜〜〜〜……休みの間カップ麺とかお茶漬けで料理すんのサボってたから期限大丈夫か?
卵とかそろそろ…まだ大丈夫か。
飲み物以外で特に冷蔵庫見ていなかった為、期限切れを確認しながら食材になりそうなのを探す。
惶に悪いし近いうちに整理しないとな。
期限が近くて作り置き出来そうなやつだとーーーー麻婆豆腐ぐらいか。
食材を台に起き、台所から後頭部を見つめる。
正直そんな関わろうとは思ってなかったけど。流石に一言もなく自分だけ……ってのもな。
「なぁー麻婆豆腐作ったら少しだけでも食べるか?」
ソファーから背を離しこっちを見る。
「……いいのか?」
拒否されなくて少しホッとする。
「まぁどうせ作り置きするし。……その代わり食堂ほど美味く無いし、好き嫌いは許さねぇぞ」
考えるの面倒くさいからじゃないですやっぱり栄養面で考えるとねみたいな。
「何も文句はねぇよ……手伝う」
そう言いながら台所に来る。
それは有難い。でも一旦制服脱いで来い。そう伝えて素直に部屋に行くのを見送り準備を始めた。
惶が着替えた服装。
スウェットとTシャツというクソラフな服にも関わらず、いや、むしろこれがお洒落なのかもしれないと勘違いしそうになる。
呆けた俺を訝しそうに見た後声を掛けてきたので、正気に戻り野菜を切るのを頼んだ。
料理しない人かと思ったけど、意外と手付きが慣れていた。聞けば前の部屋でそれなりに料理をしていたようだった。もう少しお近づきになれたら、惶にも今度作ってもらおう。そんな話をしているうちに完成。麻婆豆腐とついでに期限の近かった野菜をたっぷり入れたスープも作った。鶏ガラスープの素様様だ。
多めに作った為好きな量を盛ってと伝えると、大きい丼にしっかり盛っていた。
腹減ってねぇーんじゃなかったのかよ。健康的で何より。
「いただきます。」
「…いただきます。」
正面に座る惶を見ながら食べる。
うーん、ギャップ。
別に食事の前に手を合わせんのは自由だしマナーとか他人のなんて俺は気にしないんだけど、惶はことごとく俺の不良像を破っていくな。
なんだ?ここの不良はそれなりの教養を的な?つい地元の、姉ちゃんとよく遊んでた不良達と比べてしまう。
あいつらは食べ方汚かった……。
惶の場合立場的なネームバリューがデカイから、より思ってしまうんだろう。多分。だから本人の情報が回って来ず、危ない奴ってレッテルがーーなんて考えていると目が合う。しまった見過ぎたか。
「美味ェよ」
「…………、あっ、悪い違う、そういう事じゃないんだけど……いや、口に合ったなら良かった」
感想の催促をしたみたいで申し訳なくなる。ただ、確かに気がかりではあったから聞けて良かった。
テレビを消してる為リビングは2人の食べる音とたまに会話をするくらいで静かなのに、初めての同室者との晩飯は不思議と居心地が良かった。
けど今度はテレビ付けることを決意。
食べ終わってから気づいたが、見たかった番組普通に見過ごしてた。ショック。
「ごちそーさま。」
俺の方が量が少なかったのもあり、早めに食べ終わった。洗い場に持って行こうとすると声を掛けられた。
「柚木、皿置いとけ。ついでに洗っとく」
「いやいやこれぐらい洗うって、悪いし」
「カレー」
要求!?まだ腹減ってんのか!?
「…食堂で奢るっつったろ。」
あぁ……上野と勘違いしたあれか。
いや言ったけど、そもそも人違いというか、覚えてんのかよ、でもなくて。
なんで今?
「洗い物ぐらい俺がするから次カレー作れ。次からは食費も出す」
異論は認めない、とでも言わんばかりの顔。
成る程?今後はリクエストする代わりに洗い物代行と食費も出す、と。
良い条件ではある。
出費はなるべく抑えたいし。
少し面倒くさい、けど……折角の"同室者LIFE"だもんな。これくらい楽させてもらおう。
「…乗った。まだ麻婆残ってるだろうから明後日カレー!で、いい?」
「わかった」
続けて、先風呂入ってくるからと洗い物を頼み、着替えを取りに自室に向かった。そういや風呂場も散らかしてたな……惶が入る前に気付いて良かった。洗面所兼脱衣所は既に諦めた。手洗った時に見ただろうし。タンスから着替えとタオルを持って風呂場に行った。
……脱衣所にパンツ脱ぎ捨てたままだった。
重い溜息をパンツに落とし、洗濯機に投げ入れ風呂に入った。
風呂はシャワーで済ませ、風呂場をそれなりに綺麗にして出た。着替えはTシャツとハーパン。四月の初めだからかまだ少し肌寒い。
後でパーカー羽織るか。
タオルで頭を荒く拭きながらテレビの音が漏れてるリビングのドアを開ける。
「惶?洗い物サンキュー。風呂上がったから次どうぞ。あと、あるやつ好きに使って。気に入らなければまた自分で調達してくれ」
「おー」
テーブルに食器が無いのを見て、見渡す。発見。ソファーに沈みテレビを流し見していた惶はこっちを見て返事をした。
多分これで…おk?そのまま自室に行こうとすると呼び止められた。
「おい待て。髪乾かさねぇのか」
よく見ろ俺タオル持ってる。首にかけたタオルの端を持ってアピール。
「……ドライヤーはどうした」
「洗面台の下のどっか…」
どうせいつも髪は短いからと、姉ちゃんから貰ったドライヤーだが学校に来てから実は一度も使ってない。呆れたような顔の惶。
「使え」
「えぇ〜…別に俺髪短いから良いって」
誰がこの短さでドライヤー使うんだよ面倒くせぇ。
俺を見て深い溜息を漏らした惶はソファーを降りこっちに向かって来る。
凄い怖い顔で。
急にどうしたんだよ、キレるところ分かんねえって口答えすんなと?ちょっと慣れたからって調子に乗りすぎ?不遜?
口元がヒクつくが時間は止まらない。
長い足がこっちに来るまであと3歩の所で顔をガード
した俺を通り過ぎ洗面所に入った。
き、キレやすい若者代表じゃなくて良かった…。
お目当ての物を見つけた様で再び俺を通り過ぎてリビングに入って行く。さっきとの違いは俺の首根っこを掴んでるところ。
恐らく顔を見るに物凄く力抜いてるんだろうけどそれでもこの握力……小さいメロンなら粉砕しそう。ちょっとした恐怖を体感した為首に触れる手の冷たさなんてどうでも良くなった。
ゴリラ以上ってなんだ。ドンキーコング?
ソファーの前の床の絨毯に座らされ、惶がソファーに座って何故かドライヤーをかけてくれている。
正直気持ちよくて寝そう。ぼーっとした頭で兄がいたらこんな感じなのかもなと思う。
「どうせ半乾きでも寝るつもりだったろお前」
頷く。
「だろうな。半乾きで寝ると頭皮がカビんだぞ」
「……マジで?」
「あぁ。次から自分でやれよ」
恐怖で目が覚めた。
やろう……元気あったら。
カチッと音がして風が止まった。
「終わった」
「ありがとうゴザイマス…。惶ってもしかして兄弟いたり?」
気になってたから聞いてみた。
「あ?…弟と妹がいる。それがどうした?」
はは、通りで。
「あーその、……お兄ちゃんっぽいなーと…」
「…思ってんなら世話焼かすんじゃねぇ。兄弟は足りてる」
呆れた声と共にドライヤーで軽く頭を小突かれ、風呂に入ってくると言い残してリビングから出て行った。
惶の出て行ったリビングのドアを見ながら考える。
俺の心の中で惶の属性が決まった。オカンかお兄ちゃん。どっちも女子人気高いやつだ。しかも不良ってギャップ。姉ちゃんのやってたDSの乙女ゲームにいたわそんな奴。俺もモテる属性どれか欲しい。
そもそも女子いないんで意味ないけどな。もっと言うと3次元に求めてない。そうさ俺は永遠にモテない…誰も俺を愛さない…。
あまりの不毛さに思考を放棄して俺も歯磨きをしにリビングを出た。
シャワーの音を聞きながら歯磨きを終え、自室に入る。
パーカーを羽織り2教科だけだが、習慣付いてしまって落ち着かないから、取り敢えず5分くらいだけ復習。鞄から今日の授業の教科書を取り出す。
この習慣が無かったらここに俺はいなかっただろうとよく思う。予習復習大事。
これは姉に中1の頃に叩き込まれ、反抗期なんてない様なもんだった……。
口も聞かず夕食後すぐ寝に行こうとすると、復習だけはしろって当時ハマっていたというプロレス技をかけられた毎日だった。段々掛ける技の難易度が上がっていくのに変に感心したのはいい思い出......にしておく。
将来の幅の為と言われ、確かに身になったから感謝してるが、今思えば姉ちゃんの思惑通りな気もする。別に姉ちゃん嫌いじゃないし良いんだけど……って思ってる俺は最近シスコンかもしれないと嫌々理解。
んーーっ。
教科書を閉じて伸びをする。5分程で済むと思っていたがガッツリ集中して15分に伸び、身体が少し硬くなっていた。
時計を見ると22時。
だいぶ早いけどーーま、一通り復習したしゲームの溜まってるアイテム回収して他のもログボだけ貰って寝るか。
机の電気を消し、ベッドで寝転びながらスマホを触っているとメッセージが入った。小森からだ。小森によると幸いな事に廊下から惶の姿は見えていなかったようで、俺と惶が同室になったという話はまだ出回っていないようで一安心。
お礼のスタンプを探していると隣の部屋のドアが閉まる音がした。ベッドから起き上がり、向こうの部屋とを隔てている壁を見つめる。
惶が良い奴でほんと安心したんだけど、誰かが此処にいるって認識したらやっぱり違和感というか....なんか、もぞもぞする。嫌ってわけじゃなくて、こう、修学旅行で皆と部屋に泊まってるぜーーみたいな気持ち....?んーーーーーーー、
ポコンと『犬が既読無視とは良い度胸だな?』とメッセージ。
やべ、忘れてたスタンプ返してねぇ。つかちょっとぐらい待ってくれよ。
悪い用事してたと返事を返して、無難にありがとうと言っているしろくまスタンプを押した。
はぁ。
無意識に溜息を吐きながらスマホを枕の方に放って再び寝転がる。一気に眠気がやって来て目を擦る。
そういや近状報告ハヨってこの前メッセージ来てたから姉ちゃんに……また電話しねぇ……と………。
「んぁぁ……ドンキーコングと巨大ゴリラのプロレス……姉ちゃんが…乱入…でデスマッチ…………ぐぅ……」
遠坂にこの部屋臭くないか聞いてから、汗をかいている3人には氷を数個入れた水を。俺と惶にはインスタントのお茶に湯を注いでテーブルに持っていく。
4人テーブルだからか、惶だけソファーに座りに行ってくれた。
椅子を引いて座り、一息ついた様子の上野達にさっきの続きとして話を促す。
「で?なんでそんな汗だく?」
「あのね……貴様、スマホ見てないだろ。さっさと見ろ。分かるだろうから」
呆れたように小森に言われてズボンの後ろのポケットからスマホを出して起動する。
画面には5件の着信履歴と、上野と小森(と思われる人)の20を超えるメッセージが。サイレントマナーにしてたから全く気付かなかった。小森は本名で登録してるみたいだから今ここにいるその小森で合ってる筈。後で上野に礼言わないと。
えーと……大量のスタンプに、どこにいるのか、無事か、返事の催促ーーーーのミルフィーユ。とりあえず部屋に行くというメッセージが最後に残されている。探しに来てくれたから汗だくなのか。
これは、流石に罪悪感。
「わ、悪い……帰るって言ってなかったっけ……?」
「「言ってない」」
「急いでる、としか言ってなかったね」
あーーーーーそんな気もするな〜〜
…………。
「お騒がせしました…………。」
そう言って深々と頭を下げた俺を見て、しょうがないなぁと言ってくれるのに苦笑いしかできない。ごめん。
「おいお前ら。…なんで俺がいる?話は柚木だけだろうが」
そうだ。
「なんで惶も?関係なくね?」
「ちょっと待って柴ストップストップ」
「なんだよ」
「うっ、そんな仔犬みたいに首傾げてもダメだから…!」
いやなんなんだよ。惶と顔を見合わせる。
「そうだねぇ…端的に、彼と仲良さげだからかなぁ?」
遠坂がこっちを見て頬杖をつきながら話す。
「今日コンタクト取ったのは食堂とここでの2回の筈だし、名前呼び。」はい。
「あと変なところも見ただっけ?」それは語弊。
「それに、悪いんだけど……狼谷君って話しやすそうな人でも無いのに、柴君フランクだもの」なんて、どれも同じく"今日はじめまして"の僕が言える話じゃないんだけど。と軽く肩を竦ませた。
「2回……?」
惶が呟く。やっぱり気付いてなかったか。そのまま思い出さないで欲しい。遠坂スペシャルヒントやめろ。
「!それだ。それが本題。し、柴の変なところ……見たって、どういう事か話してもらうよ」
「あ?リビングに「ちょーーーーっと待った、それは、俺が、話す」」
あぶねぇ…………!!
姉ちゃんに関して上野は多少知ってるけど、勿論2人は知るわけがない。
ほんの少ししか話してないが、惶は言葉足らずな所があると分かった。念の為に俺が話さないと。
そう考えてた俺は惶の言葉を遮り、姉の趣味の、少し変わったDVDをここに散らかしてたのを見られただけで、ほんと別になんでもないんだ、と話した。
「なんだ、変態じゃなかったのか。皆に警鐘しようと思ってたのに」
そう言ってスマホを直す小森。
どの皆?!!?
風評被害が目前に!!!
「本当に…その、あのお姉さんの趣味の物が見られただけだよね?トイレを覗かれたとかじゃないよね?」
「テメェは俺をなんだと思ってやがる」
惶を無視した上野が覗き込んで来る。
段々顔に熱が集まるのを感じながら、本当にそれだけだから、と椅子から立ち上がって中腰になり手で顔を押し返す。
あれ〜どうしたの顔真っ赤にして〜とからかってくるような遠坂に、体質だうるせーと返して俺の顔を見たがっている上野の顔から手を離さずむしろ力を入れた。
ふと惶の方を見るとバッチリ目が合ってしまった。見てたんですか。少し治まったと思った熱が再発。
惶はソファーから立ち上がるとこっちに向かって来る。
えっなに。
上野を除いた皆が見守る中、俺の横に立った惶。俺が中腰とはいえ長身による威圧感が凄い。
「な……なに…?」
「……………………。」
「えっちょっ、」
返事をせず俺の顔をがっしり掴まれ上を向かされる。痛え。今日は首を酷使してる気がする。考え込むように顔をガン見してますけど……あっ待ってまさか。嫌な予感。
数秒お互い顔を見合わせてると、惶の目が微かに見開き口が動いた。
「食堂のヒョロイ腕、」
ヒョロ………
「……お前だったのか。」
また騙されたな。………古いし、嫌な予感は的中した。
「雰囲気が違いすぎて気付かなかった」
「いや、着替えてもないけど……っ」
そう言いながら顔を掴んでる手をタップ。
首がもげる。
悪ぃと言って手を離してくれる。
「今は、あの時と一緒で顔も赤ェし目が潤んでた」「やめてもらえますかね」
あの時の羞恥心思い出すから。
食い気味に言葉を返す。
……ヒョロイ腕……ヒョロイほど痩せてない筈、なん、だけど。
……腕立てするか……。
「成る程ね、思い出したわけか。
で、そのムードしまってくれない?尻軽な犬に僕吐きそう」
「しりがっっ?!出してねーーーよ!!!!」
「柴はおれのなんで。口説かないでね〜、狼谷サン」
背もたれの方に引き寄せられ首元に腕がまわる。いつの間にか上野が後ろに回り込んでいた。目を隠していた手を外したのを忘れてた。
「なんだ、テメェらデキてんのか。」
「そういうんじゃねーから!!固い友情!!!」
片眉を上げて俺達を見る惶。やめろその納得してない顔。ノーマルだって言っただろうがDVDの時。
「おれら愛を誓い合った仲でしょ……?」
「俺の記憶には無いんだけど……?」
「やっぱり顔掴んだ時に脳に何かしらしちゃったのかなおれ…………。」
「ヤバいな…………。」
色んな意味でなゴリえもん。
「ね、そろそろ6時になるけど晩御飯どうする?」
ひとり我関せずだった遠坂が聞いてきた。
そういえばもうそういう時間か。
「今日は解散で。小森と惶は誰かいるだろうし、上野はどうせ作り置きあるだろ?」
「まぁあるけど」
「それで遠坂はーーーー、」
「僕は大丈夫だよ。たまたま同室者の人と知り合いだったから、その人と食べることにするね。」
遠慮してる雰囲気でもなく、その言葉に安心した。前からの知り合いなら俺達といるより気が楽だろうし。
帰る3人を玄関まで見送りに行く。
2人はまた明日とあっさり帰ったが、上野は珍しく渋った。そういえば今日の上野は珍しいというか、いつもより何か変だったな…。少し心配ででかい背中に声を掛ける。
「上野、今日どうしたんだよお前……何かあった?」
「……………。」
「おーい。」
「……………………おれだけの柴だったのにって思っただけー」
ええ…お前とよく話すだけで、去年から他にも友達いるからな。
拗ねたようにそう言ったでかい背中が俺の顔面を押し潰した。
「いや重い重い重い!俺に気軽に背中を預けんな!」
「おれの命は柴にかかっている頑張れ!」
重いわ。
唸りながら力一杯前に押し返して玄関を開け、上野と共に廊下に出た。なんとも言えない顔でこっちを見る上野。
別に明日から会えないわけじゃないだろうに、今日はどうやらお互いセンチメンタルになる日な様で。馬鹿らしくなって笑う。
「上野、賑やかになるけど2年からもよろしく。明日の4限は寝んなよ、気まぐれメニューがすげえ安いみたいだから争奪戦だ」
2人からのメッセージを見てる時に食堂不定期メールが入ってたのを見たから確実。
顔を覗き込んでそう言った俺を見てキョトンとした上野はしょうがないな〜とはにかみ、俺の頭をぐしゃぐしゃに掻き乱した。
「うん。また同じクラスよろしく、柴。10分前位に優しく起こしてね」
シャーペンで刺してやる。
いつもの雰囲気に戻った上野に、何かあの不良にされたら言うんだよと言われ、大丈夫、お前より紳士と返して気になってたことを聞いた。
「部屋に入ってから何か視線とか感じなかったか?」
「いや?別に何も…?」
そうか、ならいい。
けど、部屋に入ってから帰るまでほとんど小森は上野の顔をガン見していたのに何故何も感じないんだ。視線に慣れすぎたお前が心配だよ……。
不思議そうな上野に憐れみの目と共に気を付けて帰れよと言って帰し、扉を閉めた。
一旦制服からラフな服に着替えリビングに戻ると惶がテレビを観ていた。
今まで同室者がいなかったから、ここに誰かが居ることの違和感が凄い。
これは…慣れるのに暫くかかりそうだな。
「惶は晩飯どうすんの?食堂?」
「あ"ー……、そんな腹減ってねぇから行かねぇ。」
マジか。それでも上野と同じ高校生かよ。
片付けようとチャイムが鳴る前に持ってきて放置してた袋を畳み、端に避けて冷蔵庫を開ける。
晩飯な〜〜〜〜……休みの間カップ麺とかお茶漬けで料理すんのサボってたから期限大丈夫か?
卵とかそろそろ…まだ大丈夫か。
飲み物以外で特に冷蔵庫見ていなかった為、期限切れを確認しながら食材になりそうなのを探す。
惶に悪いし近いうちに整理しないとな。
期限が近くて作り置き出来そうなやつだとーーーー麻婆豆腐ぐらいか。
食材を台に起き、台所から後頭部を見つめる。
正直そんな関わろうとは思ってなかったけど。流石に一言もなく自分だけ……ってのもな。
「なぁー麻婆豆腐作ったら少しだけでも食べるか?」
ソファーから背を離しこっちを見る。
「……いいのか?」
拒否されなくて少しホッとする。
「まぁどうせ作り置きするし。……その代わり食堂ほど美味く無いし、好き嫌いは許さねぇぞ」
考えるの面倒くさいからじゃないですやっぱり栄養面で考えるとねみたいな。
「何も文句はねぇよ……手伝う」
そう言いながら台所に来る。
それは有難い。でも一旦制服脱いで来い。そう伝えて素直に部屋に行くのを見送り準備を始めた。
惶が着替えた服装。
スウェットとTシャツというクソラフな服にも関わらず、いや、むしろこれがお洒落なのかもしれないと勘違いしそうになる。
呆けた俺を訝しそうに見た後声を掛けてきたので、正気に戻り野菜を切るのを頼んだ。
料理しない人かと思ったけど、意外と手付きが慣れていた。聞けば前の部屋でそれなりに料理をしていたようだった。もう少しお近づきになれたら、惶にも今度作ってもらおう。そんな話をしているうちに完成。麻婆豆腐とついでに期限の近かった野菜をたっぷり入れたスープも作った。鶏ガラスープの素様様だ。
多めに作った為好きな量を盛ってと伝えると、大きい丼にしっかり盛っていた。
腹減ってねぇーんじゃなかったのかよ。健康的で何より。
「いただきます。」
「…いただきます。」
正面に座る惶を見ながら食べる。
うーん、ギャップ。
別に食事の前に手を合わせんのは自由だしマナーとか他人のなんて俺は気にしないんだけど、惶はことごとく俺の不良像を破っていくな。
なんだ?ここの不良はそれなりの教養を的な?つい地元の、姉ちゃんとよく遊んでた不良達と比べてしまう。
あいつらは食べ方汚かった……。
惶の場合立場的なネームバリューがデカイから、より思ってしまうんだろう。多分。だから本人の情報が回って来ず、危ない奴ってレッテルがーーなんて考えていると目が合う。しまった見過ぎたか。
「美味ェよ」
「…………、あっ、悪い違う、そういう事じゃないんだけど……いや、口に合ったなら良かった」
感想の催促をしたみたいで申し訳なくなる。ただ、確かに気がかりではあったから聞けて良かった。
テレビを消してる為リビングは2人の食べる音とたまに会話をするくらいで静かなのに、初めての同室者との晩飯は不思議と居心地が良かった。
けど今度はテレビ付けることを決意。
食べ終わってから気づいたが、見たかった番組普通に見過ごしてた。ショック。
「ごちそーさま。」
俺の方が量が少なかったのもあり、早めに食べ終わった。洗い場に持って行こうとすると声を掛けられた。
「柚木、皿置いとけ。ついでに洗っとく」
「いやいやこれぐらい洗うって、悪いし」
「カレー」
要求!?まだ腹減ってんのか!?
「…食堂で奢るっつったろ。」
あぁ……上野と勘違いしたあれか。
いや言ったけど、そもそも人違いというか、覚えてんのかよ、でもなくて。
なんで今?
「洗い物ぐらい俺がするから次カレー作れ。次からは食費も出す」
異論は認めない、とでも言わんばかりの顔。
成る程?今後はリクエストする代わりに洗い物代行と食費も出す、と。
良い条件ではある。
出費はなるべく抑えたいし。
少し面倒くさい、けど……折角の"同室者LIFE"だもんな。これくらい楽させてもらおう。
「…乗った。まだ麻婆残ってるだろうから明後日カレー!で、いい?」
「わかった」
続けて、先風呂入ってくるからと洗い物を頼み、着替えを取りに自室に向かった。そういや風呂場も散らかしてたな……惶が入る前に気付いて良かった。洗面所兼脱衣所は既に諦めた。手洗った時に見ただろうし。タンスから着替えとタオルを持って風呂場に行った。
……脱衣所にパンツ脱ぎ捨てたままだった。
重い溜息をパンツに落とし、洗濯機に投げ入れ風呂に入った。
風呂はシャワーで済ませ、風呂場をそれなりに綺麗にして出た。着替えはTシャツとハーパン。四月の初めだからかまだ少し肌寒い。
後でパーカー羽織るか。
タオルで頭を荒く拭きながらテレビの音が漏れてるリビングのドアを開ける。
「惶?洗い物サンキュー。風呂上がったから次どうぞ。あと、あるやつ好きに使って。気に入らなければまた自分で調達してくれ」
「おー」
テーブルに食器が無いのを見て、見渡す。発見。ソファーに沈みテレビを流し見していた惶はこっちを見て返事をした。
多分これで…おk?そのまま自室に行こうとすると呼び止められた。
「おい待て。髪乾かさねぇのか」
よく見ろ俺タオル持ってる。首にかけたタオルの端を持ってアピール。
「……ドライヤーはどうした」
「洗面台の下のどっか…」
どうせいつも髪は短いからと、姉ちゃんから貰ったドライヤーだが学校に来てから実は一度も使ってない。呆れたような顔の惶。
「使え」
「えぇ〜…別に俺髪短いから良いって」
誰がこの短さでドライヤー使うんだよ面倒くせぇ。
俺を見て深い溜息を漏らした惶はソファーを降りこっちに向かって来る。
凄い怖い顔で。
急にどうしたんだよ、キレるところ分かんねえって口答えすんなと?ちょっと慣れたからって調子に乗りすぎ?不遜?
口元がヒクつくが時間は止まらない。
長い足がこっちに来るまであと3歩の所で顔をガード
した俺を通り過ぎ洗面所に入った。
き、キレやすい若者代表じゃなくて良かった…。
お目当ての物を見つけた様で再び俺を通り過ぎてリビングに入って行く。さっきとの違いは俺の首根っこを掴んでるところ。
恐らく顔を見るに物凄く力抜いてるんだろうけどそれでもこの握力……小さいメロンなら粉砕しそう。ちょっとした恐怖を体感した為首に触れる手の冷たさなんてどうでも良くなった。
ゴリラ以上ってなんだ。ドンキーコング?
ソファーの前の床の絨毯に座らされ、惶がソファーに座って何故かドライヤーをかけてくれている。
正直気持ちよくて寝そう。ぼーっとした頭で兄がいたらこんな感じなのかもなと思う。
「どうせ半乾きでも寝るつもりだったろお前」
頷く。
「だろうな。半乾きで寝ると頭皮がカビんだぞ」
「……マジで?」
「あぁ。次から自分でやれよ」
恐怖で目が覚めた。
やろう……元気あったら。
カチッと音がして風が止まった。
「終わった」
「ありがとうゴザイマス…。惶ってもしかして兄弟いたり?」
気になってたから聞いてみた。
「あ?…弟と妹がいる。それがどうした?」
はは、通りで。
「あーその、……お兄ちゃんっぽいなーと…」
「…思ってんなら世話焼かすんじゃねぇ。兄弟は足りてる」
呆れた声と共にドライヤーで軽く頭を小突かれ、風呂に入ってくると言い残してリビングから出て行った。
惶の出て行ったリビングのドアを見ながら考える。
俺の心の中で惶の属性が決まった。オカンかお兄ちゃん。どっちも女子人気高いやつだ。しかも不良ってギャップ。姉ちゃんのやってたDSの乙女ゲームにいたわそんな奴。俺もモテる属性どれか欲しい。
そもそも女子いないんで意味ないけどな。もっと言うと3次元に求めてない。そうさ俺は永遠にモテない…誰も俺を愛さない…。
あまりの不毛さに思考を放棄して俺も歯磨きをしにリビングを出た。
シャワーの音を聞きながら歯磨きを終え、自室に入る。
パーカーを羽織り2教科だけだが、習慣付いてしまって落ち着かないから、取り敢えず5分くらいだけ復習。鞄から今日の授業の教科書を取り出す。
この習慣が無かったらここに俺はいなかっただろうとよく思う。予習復習大事。
これは姉に中1の頃に叩き込まれ、反抗期なんてない様なもんだった……。
口も聞かず夕食後すぐ寝に行こうとすると、復習だけはしろって当時ハマっていたというプロレス技をかけられた毎日だった。段々掛ける技の難易度が上がっていくのに変に感心したのはいい思い出......にしておく。
将来の幅の為と言われ、確かに身になったから感謝してるが、今思えば姉ちゃんの思惑通りな気もする。別に姉ちゃん嫌いじゃないし良いんだけど……って思ってる俺は最近シスコンかもしれないと嫌々理解。
んーーっ。
教科書を閉じて伸びをする。5分程で済むと思っていたがガッツリ集中して15分に伸び、身体が少し硬くなっていた。
時計を見ると22時。
だいぶ早いけどーーま、一通り復習したしゲームの溜まってるアイテム回収して他のもログボだけ貰って寝るか。
机の電気を消し、ベッドで寝転びながらスマホを触っているとメッセージが入った。小森からだ。小森によると幸いな事に廊下から惶の姿は見えていなかったようで、俺と惶が同室になったという話はまだ出回っていないようで一安心。
お礼のスタンプを探していると隣の部屋のドアが閉まる音がした。ベッドから起き上がり、向こうの部屋とを隔てている壁を見つめる。
惶が良い奴でほんと安心したんだけど、誰かが此処にいるって認識したらやっぱり違和感というか....なんか、もぞもぞする。嫌ってわけじゃなくて、こう、修学旅行で皆と部屋に泊まってるぜーーみたいな気持ち....?んーーーーーーー、
ポコンと『犬が既読無視とは良い度胸だな?』とメッセージ。
やべ、忘れてたスタンプ返してねぇ。つかちょっとぐらい待ってくれよ。
悪い用事してたと返事を返して、無難にありがとうと言っているしろくまスタンプを押した。
はぁ。
無意識に溜息を吐きながらスマホを枕の方に放って再び寝転がる。一気に眠気がやって来て目を擦る。
そういや近状報告ハヨってこの前メッセージ来てたから姉ちゃんに……また電話しねぇ……と………。
「んぁぁ……ドンキーコングと巨大ゴリラのプロレス……姉ちゃんが…乱入…でデスマッチ…………ぐぅ……」