土器土器体育祭

借り物競走



すぐに競技が始まるため、急いで障害物競走の待機場に向かった。

着いた途端に校庭に動き出したのを見て、ギリギリ間に合ったな、と思った。

クラスメイトを見つけて合流。
状況を知らないクラスメイトが驚くのに、本来の奴が足を捻挫して保健室に行っていることを伝えると心配そうにしながらも納得したらしく、「頑張ろうな」と肩を叩かれた。後に続くのは「焼肉のために」だろうが。

現金な奴等め。そう思っていると、ポケットから振動が。
姉貴達は既に帰るとラインが入っていた。病院に急患が入ったらしく、人手が足りていない為にお義兄さんが駆り出されることになったらしい。大変な仕事だ。

けど、これから俺が借り物競走に出ることを知られないことには物凄く安堵した。
恥ずかし過ぎる。

校庭の中心に向かいながら考える。
姉貴が帰ったことだし、あとは障害物競走を走った事がなく、どんな内容の紙を引くかだけが俺の心配の種だった。
頼む。簡単な奴でお願いします。
ポンポンとかはちまきとかジャージとか砂とか、その辺。
無い?願うだけは自由だろうが。

時は残酷で、体育祭実行部隊は準備が早く、乾いたピストル音と共に第一走者目である1年達が走り始めた。
これまでろくに体育祭を見てなかったから、次に走る自分のために観察することにした。

見るからに陽キャが、クラスメイトと思われる方に手を振りつつ1着でお題を引く場所に着いた。レーン毎に横並びに立った5人の先生がお題の書かれた紙が入っているらしい箱を持っているようだ。
この競技で実況をするらしい、"放送部"と書かれた腕章を腕につけた生徒が片手に紙を持ち、片手にマイクを持って紙を引いた生徒に近付く。

『1着で着いたアダチリョウヘイくん!さてさて、君が引いたのは……「動物の鳴き真似ができる人」!!?』

大袈裟に驚いたようなリアクションを取る放送部の生徒に笑い声があがった。
そんな人いるのか〜?!頑張って!と、笑顔のまま頭を掻いて走り出す走者に手を振って見送った。

てか、先にお題言うのか。というか、名前言われるのか。嫌すぎる。
俺と同類と思わしき嫌そうに走る地味な1年に心の中でエールを送った。

続けて続々とそれぞれのお題を引き、読み上げられていく。お題はどうせ最後にでも読み上げられるだろうからまだいいか。……と思っていたが、案の定「可愛いと思っている人」などがあり、ガチな人選に場が大いに盛り上がった。

それでいいのか保護者。

はたから見ると青春を感じるが(男子校だが。)、これから自分に降り掛かるとなれば心の底から人間をお題にならない事をガチ目に祈る。こんなの公開処刑だ。

頼む頼む頼む、お願いだから物にしてくれ。

周りを見ると、同じように死んだ目で祈る生徒が何人か居た事で、同族意識から俺の心は少しだけ楽になった。



「(俺は強欲ではないので俺さえ救ってくれたらいいから神様。頼む。)」
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