土器土器体育祭

まさかの2(×2)



先生の頑張りと体育祭実行委員のお陰で進行はスムーズに進み、次はスウェーデンリレーとなった。残すところ障害物競走で昼になる。

出番が終わった俺は遠坂と共に隅の方でしゃがんで携帯ゲームで遊んでいた。サクッと終わるゲームの操作を教え、数ゲーム終わって遠坂がゲームに慣れ始めたそんな時だった。これまでと違った騒つきがあったのは。
密やかながらも嬉々とした歓声が小さくそこかしこであがる。

異常な雰囲気を不思議に思う。
なんだ?誰だ?保護者に超美形でも居たか?
遠坂と立ち上がって周りを見渡し、小森を見つけて背後に忍び寄った。良いところに。

「ヘイ小森」
「っ!……ったく。なんだ柴か」
驚いて肩を弾ませて勢い良く振り向いた小森は溜め息を吐いた。悪かったって。
「これなんの騒ぎ?」
「あれ」
そう端的に言って指を指した方を遠坂と覗き見た。

場所はスウェーデンリレーの走者が待機している校庭の真ん中。そこに立っていたのは、塩島風紀委員長と親しげに話している、肩に付かないくらいの長さの髪の半分が縦に黒で、半分が紫の随分と派手な見た目をした生徒。身長は俺くらいで、しかも例に漏れずイケメン。ピアスはそこまで開けていないようだった。

「…Zクラスだよな?あんな派手な奴見たことねえし」
どうやら注目の的であることに間違いはないらしい。笑顔で軽く塩島委員長の背中に手を弾ませた途端に周囲のチワワが小さく歓喜の声をあげたことで確信した俺が小森に聞くと、馬鹿にした顔でやれやれとアメリカンに肩をすくませた。
なんだお前。
コミカルだな。

「言うと思った」
有名人らしい。そりゃそうか、イケメンだもんな。
「あの人がZクラスの現リーダーの飛鳥 蓮(アスカ レン)だよ」
「えっ」
えっ?あれが。

驚いて小森に向けていた視線を元に戻した。
そういえばどの人か小森に聞こうと思っていたことを今思い出す。思わぬタイミングで知ったことに動揺。

あっ、えっ、へぇ……。
てっきり"漢"!!な人かと想像してたからあんなホストみたいな…と思ったが、半袖の体操着から伸びた手足には筋の入った筋肉が見えた。古傷も遠目ながら幾つか数えられる。

あれはホストではないな。
神妙に頷いた。
それと、生徒達が密やかに喜んでいることにも納得した。校舎が違い、滅多にお目にかかることのできないZクラスのリーダーであり、イケメン。ただ、Zクラスという異質な枠組みである為、親が見ている手前大っぴらに歓声をあげることのできないもどかしさ故だったのだろう。

それにしても塩島委員長 とZクラスのリーダーが仲が良いとは。意外な。
「仲良さそうだけど、他の生徒も驚いてる様子も無いし有名なのか?」
「2人は1年の時から仲が良いらしい。その写真もよく出回ってるよ」
へえ。
ふと惶が言っていた、体育祭においてのZクラスへの条件を思い出した。塩島委員長も随分破格な交渉を先生としたな、と考えたが、Zクラスのリーダーと仲が良いからこそもあったのかもしれない。

そうこう話しているうちに、異様な熱気の中いよいよ競技が始まった。

結果はというと、ラスト400mを任された塩島委員長と飛鳥先輩が、運動部が居るなか接戦を競い、飛鳥先輩が1位のワンツーフィニッシュ。Zクラスの雄々しい歓声が目立つ最後だった。

あと、何気に上野も2年生の部で2番目に走っていた。上野が先頭でバトンが渡ったが、結果としては2位だった。頑張った頑張った。ちゃんと俺はお前の勇姿を撮ったぞ。
それに焼肉を賭けたクラスにとって安心なことに、1年は紅組が勝ったことになったが、3年、2年共に白組に点が入ることになった。狂喜乱舞するポンポン。

そうそうたる面子で注目が集まっていた中頑張ったクラスメイトが帰ってきたのを出迎える俺達。汗が光る上野にタオルを投げ付けて2人と労わっていると、さっき走っていたクラスメイトの様子が何やらおかしいことに気付いた。

耳を澄ますと、どうやら足を挫いたらしく、保健室に行くことになりそうだった。
大丈夫か?上野達と顔を見合わせて眉を寄せる。
心配な声と共にあがる焦りの声。
それもその筈。
担任の肩を借りて保健室に向かったクラスメイトは陸上部で、目標焼肉におけるAクラスの主戦力だった。
肩を借りていた様子を鑑みるに、手当を受けても今日明日で復帰は厳しいだろう。体育祭のプログラム片手に委員長とクラスメイトが彼の穴埋めを必死に考えているのが見えた。

委員長が何人かに声を掛けに行った後、その目が合った。

嫌な予感。

外れろと願いながら後退りをしたが、無慈悲にも真っ直ぐ俺の前に立ち止まった笑顔の委員長。

「無理です」
「上野君とか、他の人も考えたんだけどね、」
「無理です」
「明日のプログラムの順番的に難しくて…。」
「無理です」
「だからね、」
「…無理です」
無理ですbotと化した俺の周囲にはみっちりと筋肉もりもりのクラスメイトが。
いつの間に。
恐怖する。

「次の競技の、借り物競走。頼むね、柴君!!」

「…………はい」
筋肉の圧に負けた。

周囲の筋肉から肩を叩かれて応援の声を貰う。

いいよもう!!熱いって!!散れ!!筋肉共!!



「知らねえからな…負けたって…!」
「まあ単純に走りがメインじゃないし頑張りなよ、焼肉が好きな上野くんの為に」
「柴なら大丈夫だよ!手伝えることあったらすぐに言ってね!」
「僕もポンポン持って応援するよ!」
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