土器土器体育祭

まさかの



「よ!元気そうじゃない。青春してんね」
「は?」
「会うのは随分と久しぶりだよね、嬉しいよ柚木くん」
「えっ???」
え"っっ。

俺の前に立ち塞がった2人に固まる。

長い茶髪を頭の高い位置に1つ括りした、派手なメイクとヒールを履いた新宿に居そうな女性と、上品な顔立ちで穏やかな表情を嬉しそうに綻ばせた、細身のストライプスーツを着た男性。栗色の髪は休日スタイルらしくふわふわと風に揺れていた。

そう。
何故か、俺の姉貴とお義兄さんが目の前にいた。
呆けたままの俺を、楽しそうに2人で腕を組んで見ていた。



時は遡り、円陣を組んだ後のこと。

我がクラスのガチ選抜ではラッキーなことに俺の出番は特に無かった。
お陰で当初の目論見通り、俺の出場する競技は比較的入る点数の少ない"玉入れ"と"棒引き"となった。体育祭1日目は主にリレー系が多く、今日の俺の出番は玉入れだけだ。
最高かよ。
その分応援の為のポンポンを渡されたが。

全学年選抜のリレーが盛り上がる中、次が玉入れの為、玉入れのメンバーが移動を始めるのに着いていくことにした。ちなみにリレーには上野が出ている。足が速いと俺も思っている上野でも、全学年選抜メンバーの中では接戦で俺の住む世界と違うぜ…と思った。

前を歩く黄緑の頭も、盛り上がるコーナーから目を離せないようだった。鼻息が荒い。
と、前から他の生徒がぶつかりそうになるのを肩に手を置いて横にずらした。
「前見て歩けって、テントに残ってる奴が撮ってるんだろ?」
弾かれたように前を見た後、驚いた顔のまま俺を振り向いて小森はすぐに前を向いた。
「目で録画するのは義務だ」
そうすか。
「あと、あ、ありがとうとは思ってないけど礼は言っておく」
そうすか。
ツンデレめ。

このツンデレも玉入れ部隊だ。
俺と違い、腕力を期待して選抜された。なんてったって、体育の野球の時の剛腕っぷりにはクラスメイトから定評があった。あの玉に当たったら俺は胴体貫かれると思ってる。

たまに小森の肩を掴んで操縦しながら待機場に向かっていると、人混みから2人の人影がふらりと俺達の前に立ち塞がった。

よくよく顔を見る前に話しかけられた。
「よ!」と。

で、現在に戻る。

「青春ってなんだよ、ってか来たのかよ!えっ、なんで?」
口元を緩ませたまま目を細めて俺をヘッドロックする姉ちゃんの腕にタップする。
「なんでってなんでだよ。嬉しいよな?嬉しいんだよね〜!!」
「うれしいですギブ」
これさえなければもっと嬉しいとは言えない。
そこ。お義兄さん、微笑ましそうに見る場面じゃないです。

首から腕が離れてすぐに困惑した様子の小森の横に逃げた。
姉ちゃんの視線が俺から横にずれる。
「えっ可愛い〜!!クラスメイト?嘘、まさかユズの友達?」
「うるせぇな、クラスメイトで友達だよ」
横から視線を感じたけど、身内が近くにいる俺はお前の影にすら隠れたい気分なんすわ。お前まで見ないでくれ。

「へぇ〜!そっか〜友達上野くんだけじゃなかったのか。こんにちは、それの姉の理沙です。面倒な奴だけどよろしくしてあげてね」
面倒ってなんだよ。

「こん、にちわ、小森雫です。こちらこそ彼にはお世話になって…いま…す。」
借りてきた猫の様な姿の、完全に巻き込まれた小森の様子ににやにやしていたのがバレたらしい。尻すぼみになったと同時に俺を鋭く睨むのが分かった。ごめんて。後で脇腹パンチ喰らうなこれ。

慌てて話を逸らすことにした。
「それで、なんで来れたわけ?車修理中だっただろ?」
「それがね、理沙さんのご友人が送ってくれたんだ」
お義兄さんの言葉に、ご友人?ヲタ友か?と内心首を傾げていると、俺と姉ちゃんの間にスキンヘッドが突然にゅっと現れた。
「オレっす!!どもども!!」
「うわっ!」
「っ?!」
驚く俺と小森の目の前に、両手に紙コップを持って現れたのは、良く焼けた小麦色の肌に柄シャツ、スキンヘッド、耳にピアスをジャラジャラと付けた輩だった。

……なんか見覚えあんな。
思い出せそうで記憶を辿っていると、姉ちゃんがスキンヘッドの柄シャツを引っ張った。

「そ、あたしの舎弟で友達のタマが送ってくれたってワケ」
姉ちゃんがウインクする。
上手いの腹立つな。
「スゲー久しぶりっすね!中学ぶり?ユズさんも元気そうで!」
学校の出店の買い出しに行かされていたらしく、紙コップを2人に渡すと勢いよく頭を下げてきた。

あ。
あ〜〜〜。

納得して上下に首を振る。そういや、家に入り浸っていたうちの1人でこんな人いたな。段々思い出してきた。料理すると絶対焦がす、"黒焦げタマ"って呼ばれてた。

「俺こそ久しぶりです、タマさん。随分焼けたみたいですけど、料理はどうです?」
皮肉る俺に軽快に笑うタマさん。温和なところ相変わらずらしい。

「全然焦げるっすね!!」
まだ焦がしてんのか。
呆れて笑っていると、玉入れの召集の放送が流れた。
小森がジャージの裾を引っ張るのに、姉ちゃん達に挨拶する。

「じゃあ俺ら玉入れだから、来ることない高校楽しんでなよ」
「勿論!綺麗な子多いし、目と心の保養にしとく!……それと、ユズと小森くんも応援してるから頑張ってね」
姉ちゃんが俺の頭を雑に撫で、小森の頭を柔らかくポンポンと手を置くと、目を合わせて穏やかに微笑んだ。
恥ずかしくて熱を持った顔を背け、「それなりにやるって」と言って停止した小森の背中を押してそそくさとその場を離れた。

ほとんどが集まったと見える人数の待機場で静かにしていた小森が視線を前に向けたまま口を開いた。
「柴」
「…なんだよ」
俺を見上げる視線と目が合う。
「あんた元ヤンなの」
……。
「待ってなんで違う違う違う違う違う違う」
「現役?」
なんでだよ!!!
一歩離れた様な距離感を感じる小森に、あれは姉ちゃんが元ヤンで、等と誤解を解きながら玉入れに向かった俺だった。

初っ端から疲れた。
勘弁してください。

ちなみに玉入れの戦歴に関しては俺はそこそこやったが、小森はごっそり周囲の玉をまとめて掴むと強引にほとんどをカゴに入れていた。そのおかげか、無事白組が勝ち、クラスメイトから大歓迎のハグを受けた。暑苦しい。
それから、心なしか同じ玉入れ部隊のクラスメイトからの距離を感じた。なんでだ。



「…良い人だね。お姉さん」
「……だろ」

「さーーて!ウキウキウォッチング!」
「柚木くんとも会えたし、理沙さんが嬉しそうで僕も嬉しいよ」
「じゃ!オレちょっと外で煙草吸ってくるっす!」
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