土器土器体育祭

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それぞれがハチマキを頭に巻いているとチャイムが鳴り、担任が普段よりキリッとした顔をして教室に。
財布の覚悟が決まったらしい。「1日目、怪我せず頑張れよ」とだけ言って教室から俺達を送り出した。

広い運動場に集まる生徒達に俺たちのクラスも混じる。体育祭実行委員会がテントでまだ慌ただしく働いている中、普段見かけない生徒を見回した。

隅に集まるガラの悪い生徒と反対に、上下ジャージで線の細く見た目麗しい生徒達。
クラスの色が見事に出ている。

また、生徒の大多数が保護者の観覧スペースの方をチラチラと気にしていた。表情は憂鬱そうな者と、照れている者と様々だったが。

観覧スペースを人の隙間から覗き見ると、見やすい場所は埋まっていて、結構な人数が来ているようだった。片手には学園側で販売しているジュースを持っている人も居た。既に携帯やカメラを構えて、我が子の映像を収めている人も。

体育祭だなぁ…。
実感していると放送がかかった。

──『それでは大変お待たせいたしました。第XX回、金望高校生の体育祭を開幕いたします!』
ピストルの鳴る音と拍手が校庭に響いた。

『ありがとうございます!それでは本日放送、進行、実況を担当させていただきます、放送部3年ヒラニシです!頑張って盛り上げていきますのでよろしくお願い致します!!』
お。例のヒラニシさんだ。新入生歓迎会で活躍していた人だと思い出して緩く拍手を送った。

皆の拍手を受け、放送のテントで手を振るのが見える。
黒髪で落ち着いた雰囲気だが、表情は明るくノリが良さそうだった。

ヒラニシさんの進行が始まり、親衛隊にとって待ちに待った "紅組、白組の選手宣誓、兼挨拶" が。

校庭の朝礼台に登る2人に歓声が上がる。団長服である学ランと額に結んだハチマキが青空にたなびく姿は随分と絵になる。すぐ前の小森や小柄な生徒がこぞってレンズを構えるのに、毎年のことながら苦笑いしてしまった。
芸能人かよ。

あ、うちわを振ってる奴いる。アイドルだ。

まずは会長が挨拶をするらしく、マイクを先生から渡されて音を拾う。
『お集まりいただきました保護者の皆様、本日は我が校の体育祭にお越しくださりありがとうございます。本校の生徒会長をしています、氷室です。生徒会長として、紅組の団長として精一杯努めさせていただきますので、応援していただければと思います。よろしくお願いします。』
まともに挨拶をして頭を下げる姿に拍手と歓声が湧いた。
不遜な表情そのまま隣にマイクを渡す。

『本校で風紀委員長をしております、塩島です。風紀委員として本日も務めさせていただく一方で、白組としても紅組に負けるつもりはございません。応援していただければ嬉しく思います。本日はよろしくお願い致します。』
煽りつつ、にこやかな笑顔で頭を下げる姿に拍手と歓声が。睨むように塩島委員長を見る会長の2人の姿に悲鳴とシャッターが鳴り止まない。

──『それでは挨拶が終わったところで選手宣誓をお願いします!』

マイクを先生に渡し、2人が手を後ろに回すと、自然と場は静かになった。

「「宣誓、私たちは普段の練習の成果を発揮し、正々堂々と戦い、恥じることのないよう、全力で挑む事を誓います」」

言い終えた姿に拍手を送る。
あの2人がこの台詞を言うのマジでシュール。内心親衛隊にフルボッコにされそうなことを思いながら。

2人が朝礼台からはけたと同時にレンズは下げられ、移動を促される。

クラスの待機場に向かうと、先に着いていたクラスメイトが肩を組み始めているのを見て口角が引き攣った。

マジか。
やんのか。
今。

テントで待機していた担任が面白そうに腕を組んでそうにそれを見ている。視線がこっちに向き、俺の表情に気付いた担任はにやにやしながら円陣に向かって指を差した。
さながら「ほら、頑張れよ若者」と言わんばかりに。
このおっさんがよ。

小森は少し面倒くさそうに、遠坂は面白そうに足取り軽く、上野がはしゃいで俺の手を引っ張っていくのにしょうがなく円陣に交わった。
隣の奴の筋肉で肩が重い。もう帰りたい。

クラスメイトが全員円陣に組んだのを見た委員長が「よし!じゃあ行くぞお前ら!」と声をあげた。
片足を揃って前に出す。



「絶対勝つぞ!!」
「「「「「おう!!」」」」」
「焼肉絶対食うぞ!!!!」
「「「「「おう!!!!!!!!!」」」」」



「…おー」
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