新入生歓迎会するんだってよ

同室者(仮)


……………………ガチャ。


「…………何してんだお前」


日本で最上級の謝罪の方法。


しばらくドアの前で蹲り心の中で激しく荒ぶっていたが、どうせいつかは会う事になるしなと思い決心した。
本心ははやくアレを回収したい。傷が浅いうちに。

という訳で静かにドアをオープン。
ドア越しでも痛い視線を感じていたので正座のままスライドして床を見ることに全力を注ぎ、前屈みで両手の平を前に出した。
簡単に言えば土下座にちょーだいのポーズ。
理解できた?冒頭に戻る。


「その…………その貴方様がお手に持っていらっしゃるブツをこちらにお渡し頂けますでしょうか…!私には決してその様な趣味は御座いませんしノーマルですのでご安心下さい!不快かもしれませんが本当にマジで誤解を解かせて頂きたくこのような私の最大限の謝罪をさせて頂きました…!」

「…………ヤリチン☆ビッ「それですそれです合ってるのですいませんほんと頼むから読み上げないでください」…。」

鬼か。
このイケボ野郎。星までちゃんと読むとか律儀か。
こんな、俺が何したって…………共同スペースなのに荒らしてるからだわ。1人だからって調子乗って申し訳ない。

………………。

沈黙が痛い。

依然無言のまま足音が近付いて来る。

目の前に影来て

手に重みが。


えっこんな、素直に渡されるとは。
思わず顔を上げると


前に伸ばした手にはブツと、目の前には同室者のドアップ。
澄んだ翡翠色の瞳にはまぬけな顔をした俺が見えた。


どうやら立ったまま片足を曲げて前屈みで俺の手の上に置いたようだ。通りで顔が近い。なんて言ってる場合ではない。


それより問題は


「え"」
「あ"?」


同室者が昼助けてくれた人だったことだ。



ブツを無事回収した俺は小さい段ボールに散らかしたDVDと漫画を詰めていく。
が、……物凄く気まずい。当たり前だ。
渡された後何も話していない。向こうが俺だと覚えているのか分からないのがもどかしい。わざわざ自己申告して俺の恥ずかしい勘違い話をするのも嫌だ。本当…なんであんなことした俺…。

同室者は何故か部屋に戻らず備え付けのテレビの前にあるソファーにどっかり座ってスマホを触っている。
あっちょっとまってうああそのファンシーなぬいぐるみなんで片手に持ってんの?!なんで何の疑問も抱かず握ってんの?!
聞かれても姉のって答えるしかないけど…顔が……うさぎの顔が陥没してる………。

ファンシーうさぎ顔面陥没事件以降ソファーの方を見ないように片付けに集中。
何だかんだ30分程度で終了した。ずっと中腰で作業してしてたから腰が痛い。
チラッと見上げると丁度目が合ってしまった。
直ぐ目を逸らしたが、何か言いたげに口が動いたのでもう一度視線を向ける。

「……突然邪魔して悪かった」

驚いた。小森からのあれだけの情報で完全にヤバい奴だと悪いイメージに固めてしまってた。

助けるという行為が出来る人なのに。

「あーーーーいや、こっちも変な所見せたし部屋が無いなら全然しょうがないことですし……」

俺の中にはまだ疑問が残るがこれでお互いの罪悪感は帳消し、な筈。
思ったより話しやすく、なんで転校生じゃなく貴方様がここに、とか思わず口が滑りそうになって危ない。何かあったんだろうけど、ちょっとまだ聞きづらい。話せるラインが掴めてないから。
ま、そんな仲良くなるとも思えないけどな。
Zクラスのボス候補と俺が、とか。鼻で笑う。

話し掛けられる事はもう無いと思い段ボールを部屋に持って行く為に立ち上がると、待てと声を掛けられ振り向いた。

「はい?」
一度口を閉じてまた開くのをじっと見る。

「お前敬語止めろ、同学年だろ。
…………話しづらい」

えぇ、いやそんな、不良のお前がそんなことあるか?
いや俺は学んだ。偏見良く無い、

「……分かった。短い間だと思うけど、よろしく」
そういや自己紹介してなかった。
「俺は柴 柚木。…お前は?」
「……俺は狼谷 惶(カミタニ コウ)だ。世話になる。

柚木」

そっちを呼ばれるとは。思わず目をかっぴろげて瞬きを繰り返した。
ここの学校に来て久々に下の名前で呼ばれた。
さっき"ああ"思ったのに俺も現金なやつだ。
馴れ馴れしい思わなくて、単純にただの呼び名なのに距離が近付いた気がして少し、嬉しく感じるなんて。

頬を緩ませながら、ノリでよろしく惶と返した。向こうも嫌な顔してなかったから多分大丈夫。後から思うとZクラスのボス候補に不遜だった。
やっと柴犬の呪いを断ち切った気がして浮かれてたんだきっと。
もう一度段ボールを抱え直しドアの方に向かう。
先に開けるの忘れていたので片手を空ける為に抱え直しながら歩いていると、長いリーチを持った惶が先回りしてドアを開けてくれた。

「助かる、ありがと」
脅しやがってあのチンピラ教師め。普通に紳士で感動したんだが。
今まで教室の扉の前で荷物一杯で困っててもにやにやしながら頑張れとしか応援しかなかったヤツもいるのに。
これは上野、お前のことだ。

同時に各自の部屋へ入った。チラッと見えたけどそこまで荷物は無いようで荷解きはすぐ終わるのだろう。

段ボールを部屋に直した俺はついでに暫く部屋の掃除もしておいた。ひと段落ついてベッドに腰掛けたが、冷蔵庫もごちゃごちゃだったのを思い出したので再びリビングへ。
ゴミ袋を手に整理に取り掛かろうとしているとチャイムの音が鳴った。

誰だ?
手に持っていたものを置き、よっこいせと立ち上がり扉に向かうとすると激しいドアバンとチャイム連打。
ドアバンとチャイムで奏でる音楽。

そうそれは只の騒音。

ったく急げば良いんだろ!
惶もあまりの喧しさに部屋から出てきて、玄関を開けようとする俺を少し後ろから壁にもたれ掛かり腕を組んで見守っている。

片付け終わったのかなーとぼんやり思ったままドアノブに手を掛けた。

「誰でしょうーー「大丈夫?!?!!」…か。」
あと一文字くらい言わせてくれよ上野。
開けた瞬間悪質訪問販売の如く速さで足を扉の間に突っ込み雪崩れ込んできた。
上野の後ろには遠坂に小森まで。

2人は大量の汗を浮かばせていて、遠坂だけが少し息を切らしているくらいだった。
流石に何事と思い事情を聞こうとすると、口早に先生から同室者が誰か聞いたと声を荒げて上野が言う。直後、俺の後ろを見て固まる。

「誰だ。……お前の知り合いか」

耳元から低い声が聞こえて振り向くと惶が俺の真後ろに立っていて肩越しに上野達を覗き込んでいた。
息を整えるのが聞こえて視線を前に戻す。

「……………あんたが同室者で、Zクラスの狼谷か?見たところ柴は大丈夫そうだけど……何もしてないだろうな」

硬い声で聞く上野に、少し考えて惶が答えた。

「何もしてないが変な所は見た」

ちょっとその答え方良くない。
確かに俺もそう言ったけど……っ!惶様それは駄目それは誤解を生む。
なんでこういうデジャヴばっかなんだ今日は。誤解フラグ建築士のアビリティ解除したか?

思った通り俺を見て段々赤くなり口を開閉させる上野と、軽蔑するような目で見る小森。やめろその目。
上野はいつノンケを卒業したんだ。聞いてねぇぞ同志。ところで去年から思ってたけどチャラそうなのに純情とか狡くないか。そういうギャップってモテるらしい。イケメンだから許されるとか聞こえない。
遠坂は惶が顔見せてからずっと観察するかの様に惶の方を見ている。
一目惚れとかそういう雰囲気じゃないし、何、ご存知で?

色々と思う所があったが、まだ寮の廊下に人がちらちら通るのが見えて騒がれる前に一旦全員リビングに移動する事にした。
人が見れる状態に片付けてて心底安堵。




「お邪魔します」
「なんだ、全然汚くない。期待外れなんだけど。」
「(………………スンスン)」
「(何気初めて部屋に入れたからって上野真剣に周りを見過っ……スンスン……!?)」
「(なんだこいつら)」
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