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エントランスホールにある自習スペース、そこにペパーの姿があった。

「ペパー?」

声をかけてみたが返事はない。ちらっと手元を覗くと、見覚えのある紫色の表紙の本を黙々と読み込んでいるようだった。
仕方ないので彼の隣に座って、その横顔をじっーと眺めることにする。
文字を追う度長い睫毛が揺れた。その眼差しは真剣で、料理をしている時とはまた違うそれに少しだけドキッとした。
瞬きの音が聞こえそうなくらいには近付いているのに、まだ気付かない。それだけ集中しているのか。彼には一度集中すると周りのことが見えなくなるところがあるが、この集中力は博士であるお父様譲りなのかな、とぼんやり思った。

「……ん?」
「あ、」

一瞬文字から逸れた視線がぶつかり、目が合う。

「う、わっ、ネモ!?いたのかよ!!?」

ペパーは大袈裟なくらい驚いて立ち上がった。読んでいた本を放り出しそうな勢いにこちらも驚いてしまった。

「えぇっ、そんなに驚くこと?」
「そりゃ驚くわ!声くらいかけろよな」
「かけたよ?でもすごく集中してるし邪魔しちゃ悪いかなって」
「だからってそんな近くで眺めてるか普通……」

彼は呆れたように肩を落として溜め息を吐く。その溜め息と共に何か呟いていた気がするがよく聞こえなかった。

(この鈍感ちゃんめ)
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