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「ネモは好きな人とかおらんの?」

思わぬ質問にネモは少し困惑した。だってこの質問の主は、アカデミーのクラスメイトではなくリーグで四天王を務めるチリなのだ。
彼女はその中性的な容姿や立ち振る舞いのせいか、女性リーグスタッフやアカデミーの女子生徒、その他主にパルデアの多くの女性達から人気を集めている。一方で、彼女に告白をして玉砕したなんて話をいくつか聞いたこともあるし、彼女との会話の中でもそういう話題が上がることもなかった。だから、そういうことに興味がない人なのだと思っていたが、どうやら違うらしい。

「急にどうしたんですか?」
「いやー、どうなんかなー思うてな、確認確認」
「?えぇっと、いないですよ」
「せやったら今まで付き合った人は?」
「いないですって」
「ふぅん、おらへんの……」

その答えにチリは何やら思案しているようで、ネモは首を傾げた。

「ほな、チリちゃんがファーストキス奪ってもええな」
「え、」

数秒の思案から開けた彼女の言葉を聞き返す間もなく、彼女はくいと顎を掬うとネモの唇に自分のそれを押し当てる。ちゅ、と音を立てるように吸い付いて離れた。

「ごちそーさん」

そう言って離したばかりの唇を親指でなぞる。
一瞬の出来事に、ネモは何をされたのかすぐには分からなかった。とにかく一度頭の中で状況を整理する。
顎を掬った長い指、いつもより近くに見えたルビー色の瞳、唇をなぞったグローブの感触。……いやその前に唇に触れたのは――?ようやく理解した頃にはネモの顔は真っ赤に染まった。

「……っ!?チ、リ、さん?」
「アハハ!ほんまに初めてやったんやなぁ、真っ赤になってかーわいい」

そう指摘されてますます顔が赤くなる。ドキドキと心臓がうるさい。からかわれているのは分かるがどうしようもなく、ネモは掌で顔を隠すしか出来なかった。

(はー、二回目ももろてしまおかな)
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