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【眠り姫には目覚めのキスを】


目が覚めた。カーテン越しに差し込む光からしてもう朝だ。休日の特に何の予定もない朝。手探りで探し当てたスマホで時間を確認すればまだ午前七時半。これは二度寝だなと思ったところで、ふと隣の温もりに気付く。いつもなら休日でも私より先に起きる彼女が、まだすやすやと眠っていた。彼女の寝顔を見れるなんて朝からツイてる。これは二度寝してる場合じゃない。身体の向きを彼女の方へと向けて、その寝顔を堪能することにした。

夜空のような黒髪。穏やかに眠る表情と閉ざした瞼を飾る整った睫毛。白い肌。ふにふにと柔らかい頬。凛と鈴を鳴らすような声を紡ぐ唇。
 
――嗚呼、全部愛おしい。
思わず伸ばした手で、髪を撫で頬の輪郭をなぞった。いつまでもこうしていられる気がする。このまま一日過ごしてもいいかも。なんて思ったりもしたが、やっぱり声も聞きたいし起きて様々な表情を見せる彼女にも会いたい。
さて、どうやって起こそうか。少し思案して思い至ったのは有り触れた童話の一節だった。《お姫様》を起こすのにはピッタリだ。

まずは愛しい彼女の前髪へ。それから瞼、鼻筋、頬。順番に口付けを落としていく。

「いただきます」

そうして最後に唇へ。触れるだけの口付けをする。あぁでもちょっと足りないな。もう一回、今度は吸い付いて味わうように、ちゅ、と大袈裟に音を立てた。


「……んーん……?あきはるしゃん……?」


音か感触若しくはそのどちらもで、どうやら彼女が目覚めたようだ。ゆっくり目を瞬かせながらまだ甘い呂律で私を呼ぶ。


「おはよう、私のお姫様。お目覚めはいかがかな?」

「……ん、おはよ……」


まだ覚醒しきる前のぽわぽわした彼女も可愛い。寝惚けている隙にもう一回唇を吸う。そして徐々に覚醒していく意識の中で、次第に顔が真っ赤に染まっていった。


「……今、ちゅー、した?」

「眠り姫には目覚めのキスだよね」

「ふ、ふつうに起こして……っ!」



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