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常夜の境内に季節という概念はない。参道の外側の季節問わずして絵馬掛けには春、手水舎には秋、本殿の裏には冬がある。とりわけ境内のうちのほとんど占めているのが夏の為、『常夏の神社』とも呼ばれているとか、いないとか。
そして、今夜は一段と蒸す。参詣者も普段より多い為、巫女は忙しなく駆け回っている。勤勉で結構な事だ。暑さに加えそれだけ動けば当然汗もかく。普段髪を結わない巫女も、さすがの暑さに観念したようで髪をひとつに結った。

「んん?巫女巫女〜、虫に食われてるんだをん」
「えっ?どこ?」
「項なんだわ、ほれ」

そう言って狛犬達が巫女の首筋を指差す。指差した先には確かに赤くなった一点があった。……はて。狛犬達は『虫に食われた』等と言うが……どちらかと言えば鬱血痕か?
……ふむ、成る程、そういうことか。

「……あっ!?……あ、あはは、ほんどだぁ……いつの間に……」

巫女はその『虫に食われた』箇所を確認するや否や、顔を深紅に染め上げた。どうやら当人には思い当たる節があるようだ。心の中が随分騒がしいが気付かぬふりをしておこう。

「巫女薬塗る?みーこー?」
「なんか巫女真っ赤なんだわ。なんで?」
「さぁ?人間はよく分からんをん」

そんな巫女の様子はつゆ知らず、狛犬達は不思議そうに首を傾げた。

(巫女よ……交際関係について兎や角言ふつもりはないが……あまり《甘やかす》ではないぞ?)

(!?は、はーい……心掛けます……)


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