SAO-1/10000-

 ヒースクリフなりの気遣いか、次の誘いは数日空けてからだった。
 会わないでいる間に彼の真意を推し量ってはみたが解るはずもなく、どちらにせよレベル上げはするべきだと結論付けてその誘いにもOKの返事を送った。
 ところが行ってみるとヒースクリフの姿はなく、団員が10人、そこで待っていた。団長は急用で来れないのだと言う。
「なんだ、そういう事なら連絡してくれれば良かったのに。中止ってことでいいかな?あんたたちもレベル上げしなきゃならないだろ?」
「いや、それでは我々が団長に叱られる。しっかりレベル上げの手伝いをするようにと仰せつかっているのでな。」
 気まずくて、でもなぁ、と返事に困っていると、彼らは気にせず歩き出した。
「今日は迷宮区に行く。あそこなら我々も程よくレベル上げが出来るからな。気兼ねする必要はない。」
「最上層の?…いや、それじゃあんたらの負担がかなり大きくなるだろ。そんなに迷惑掛けられないよ。」
 小走りで追いついてそう返したが、心配するな、団長の御命令だ、と取り合わない。仕方なく、申し出に応じることにした。


 迷宮区に足を踏み入れてすぐ、小道に入る手前でパーティーのリーダーであるガランがアイテムの確認をしようと提案した。
「回復アイテムあるな?状態異常回復…ふん、転移結晶は?」
 お前、出して見せろ、と近くの団員に命じ、団員は素直に応じる。
「うっかりじゃ済まないことだからな。あなた方も、確認してくれ。万が一のこともある。転移結晶は一個しか装備できないんだ。補充を忘れたらコトだろう。」
 団員たちに倣って出して見せると、予備があるかと問われた。
「いや、基本使ったら買うことにしてるから、これ一個だ。」
「それは好都合だ。」
 どういう意味だ、と返す余裕はなかった。いきなり近くにいた団員に突き飛ばされ、手に持っていた転移結晶が地面に転がる。
「うわっ!?」
「何を!」
 ジェネフリーの他の3人も同様に転ばされていた。それだけではなく、団員も2人突き飛ばされている。彼らは今日、急遽同行が決まった者達だった。
「何だよ!」
 抗議の声は剣に遮られる。
 ルーズはじめ6人は、鼻先に向けられた剣のせいで動けなかった。
 ガランがにやりと笑って言う。
「お前たちが悪いんだ。お前たちの所為で団長は変わってしまった。団の外にしか目が行かなくなっている。血盟騎士団に致命的な亀裂が入る前に、お前たちには消えてもらうことにした。」
「…殺す気か?」
 絞り出した声にまた笑いが返る。
「手を汚す気はない。」
 彼の答えを合図にしたかのように、入口から現れた者たちがいた。武器を手に構え、戦闘態勢の彼らは、オレンジギルドだった。
「雇ったのかよ…。」
「さあな、ともかく、お前たちはここで死ぬんだ。」
 青ざめて団員二人が叫ぶ。
「なんで俺たちまで!」
「運が悪かったな。団長からお前たちを連れて行くように言われなかったら、こんなことに巻き込まずに済んだのに。」
 口封じということだろう。剣が退かれるのと入れ替わってオレンジギルドが近づく。
 ガランがオレンジギルドに視線をやったその瞬間、ルーズは機敏に立ち上がって彼に突進した。バランスを崩した相手は直ぐ傍の男を巻き込むように倒れた。
「逃げろ!!」
 ルーズの合図で皆、走り出す。行き先は迷宮区の中、モンスターが出現する区域だ。レベルに不安はあっても、今はオレンジギルドから逃げることを優先するしかない。



「慌てる必要はない。ここで待ち構えていればそのうちしびれを切らせて戻ってくるだろう。他に出口は無いんだ。それに、この区画ならモンスターが始末してくれるかもしれん。」
「それじゃ俺たちが出向いた甲斐がないだろう。だいたい、そんなんで報酬を値切られちゃかなわねえからな。」
 ガランの言に不服気に返すのはオレンジギルドのリーダーだ。
「殺したくてうずうずしてる奴もいるんだ。まあ、俺はきっちり金を貰えりゃ文句はねえよ。」
「なあ、もしアイツらがモンスターにやられて戻ってこなかったら、こいつら殺すってどうです?」
 下っ端が出した提案にぎくりとして、ふざけるな、と返す。
「金はきっちり払う。…そうだな、のんびり待つこともないか。数班に分かれて追い詰めよう。」
 オレンジギルドが最上層の迷宮区に出向くことは殆どない。もっと下層で弱い獲物を狙えばいいからだ。故に、普通のオレンジギルドは攻略組ほどのレベルはない。彼らも大した手練れではなかった。ただ、人を殺すことに慣れた者は躊躇がない分、対人戦なら格上相手にも引けを取らない。自分たちの手を汚さないために、高い報酬を約束して連れてきたのだ。彼らがモンスターにやられてしまっては元も子もない。ガランは団員数名とリーダーに待ち伏せをさせることにして、他のメンバーでオレンジギルドの面々を守りながらルーズ達を追った。






「よし、ここで休憩できる。皆、こっちだ。」
 モンスターの出ない場所に到達して、六人はようやく息を吐く。
「取り敢えず、お前たち、フレンドを解除してくれ。ギルドからも抜けるんだ。」
 ルーズは団員の二人、バンクとアズミにそう言った。
 フレンドの居場所はマップに表示されてしまう。同ギルドのメンバーも然り。二人は直ぐに理解して操作を始めた。
「なあ、このまま長時間逃げ回ったとして、居場所を特定するために俺たちのフレンドが無理やり連れてこられるってことあるかな。」
 ナナの心配が杞憂だとは言い切れない。
「…その場合は、多分その人も口封じで殺される…よな?」
 ルーズは口を結んで頷いた。
「フレンド全員解除しよう。こんなことに巻き込むわけにはいかない。」
 マップはまだおそらく三分の一にも達していないだろう。とにかく追い詰められないように、地理を把握してうまく逃げ回らなくてはならない。
「マッピングするつもりで動き回るぞ。曲がり角は気を付けて。」
 フレンド解除の操作を終えるとルーズは立ち上がった。そして団員二人に頭を下げる。
「バンク、アズミ、二人には負担を掛けることになるが、頼む。一緒に来てほしい。」
 レベルは二人が上だ。ルーズ達だけではこの階層のモンスターを倒すのに時間がかかってしまう。
 二人は顔を見合わせて頷いた。
「もちろん。俺たちだって狙われてるんだ。一緒に逃げよう。」
 ありがとう、とルーズが手を差し出すと、二人は握手に応じた。



 二時間が過ぎた。数回、敵に見つかりそうにはなったが、なんとかまだ逃げ回っていた。
「もう、きっと囲まれてる。どこにも行き場がないよ。」
「どうしよう、これ以上奥に行ったって出口は無いよな。戻る方法なんて…。」
「疲れたよ…早く部屋で寝たい…。」
 口から出るのは不安や泣き言ばかりだ。
「なあ、なんでだよ。なんで俺たちこんな目にあってんの?俺たち悪いことなんもしてないだろ?」
 本当に泣きそうな顔で、ナナがそう言った。
「あいつら、諦めてくれないかな…」
「口封じに仲間まで殺す奴らだぞ!?そんなわけないじゃん!」
 レイシーがぼそっと呟いた希望的観測にナナが切れ気味に返す。
「…そりゃ…そうだけど…」
 ルーズは立ち止まってしまった一行から少し進んで角を覗き込むと、くるっと踵を返して戻って来た。
「おい、出口、見つけたぞ。」
 皆が驚いてルーズを見た。
「出口!?」
 慌てて角を曲がると、そこにあったのは重そうな巨大な扉だった。
「…これ…」
「ボス戦やるとこ…に見えるけど。」
「てか、それ以外ないだろ…」
 ルーズがニッと笑う。
「な、お前ら、人と戦って死ぬのと、モンスターと戦って死ぬの、どっちがいい?」
 それにはナナが即座に返した。
「そんなんどっちもヤだよ!!なんで俺たちが死ななきゃならないんだよ!」
 人と戦って殺してしまうのは嫌だ、と道中ナナは漏らしていた。それでそんな聞き方をしてしまったが、少々不味かったなとルーズは苦笑する。
「あー、わりい。じゃ、こーゆーのはどうだ?」
 一呼吸おいて続けた。
「人を殺して生き残るのと、モンスターを殺して生き残るんだったら、どっちだ?」
 そんなの決まってるだろ!?とナナがまた返す。
「ボス倒して!生きて帰る!」
 意を決したように武器を構えて扉の前に進んだ。
「やるしか…ないのか?」
「ここが一番出口に近いよな。」
 まだ不安げにしている面々に、ルーズは言った。
「さっきからさ、モンスター倒した時のドロップ率、良くなかったか? 俺はもうストレージいっぱいだ。」
 それを聞いて皆頷く。確かに普通じゃ考えられないくらいアイテムが手に入った。
「茅場が見てるかどうか知らねーけど…行けって言われてると思わないか?」
「茅場の手の内だと思うのは面白くない。…けど、ドロップ率がいいのが運の良さなら、行けるかもしれない?」
「行ける…かも。ここは普通のボスがいるはずだ。」
 敵が近くに来ているかもしれないから、むやみに後退はできない。それに後ろから討たれる危険性もある。しかし、他に道がないことは明白だ。
 全員が扉を睨み付けて歩みを進めた。
「開けるぞ。」
「入ったらすぐ閉めよう。少しでもあいつらの目をごまかせるように。」
 扉を閉め、立ち止まって広間の中央を見る。どこまで行けばボスが出てくるのか、明確なラインはない。
 前進する前にルーズはサンを呼んだ。
「なあ、ちょっと言っときたいことあるんだけどさ…」
 ハッとしてサンは耳を塞ぐ。
「やめてよ!そんな死亡フラグみたいなこと言うの!」
「そう言うなよ。今言わなきゃ、多分一生言わねーから。」
「だから、それが死亡フラグだってば!」
「聞けよ。これを言ってからじゃなきゃ足が動かねえ。」
 時間がないことを盾に取られ、サンはしぶしぶ耳から手を離した。
「お前の友達が死んだとき、俺はあの場に飛び込むこともできた。それをやらなかったのは、死ぬのが怖かったからだ。わが身可愛さに、お前らを見捨てたんだ。…ごめんな。」
 ぶんぶんとサンは首を横に振る。
「やめてよ…ルーズさんは悪くないよ。なんでそんなこと…」
「今度は逃げない。皆で生きて帰ろう。」
 そう言ってルーズが一歩足を出す。追うようにしてサンが言った。
「僕がルーズさんを守るから!」
 ルーズは笑って振り向く。
「俺もお前を守る。生きようぜ」





 何時間戦っただろう。二人組になったり三人組になったりしながらスイッチを繰り出し攻撃を決め、何度も交代で回復をして、時折ストレージからアイテムを出すために戦線を離脱したりもした。
 後ろからオレンジギルドが来たら終わりだと思っていたが、まさかボス戦をやっているとは思わないのか、幸い誰も入ってこなかった。
 ボスのHPバーはあと少し。しかし、回復アイテムはもう尽きていた。
 ナナが吹っ飛ばされてそこにアズミがガードに入る。
「ナナ!下がれ!次を受けたら危ない!」
「ごめん!」
 徐々に全員のHPが削られ、一人二人と下がっていく。
「もう少しなのに…。」
 ストン、と着地をして、ルーズが笑った。
「あとは任せろ。行ってくる。」
 あの技を使うつもりだと仲間はすぐにわかった。
「俺がガードする!」
 出ようとしたレイシーの手をサンが掴む。
「僕が行く。僕の方がまだ残ってるよ。」
 サンは走ってルーズの傍に張り付いた。
 ルーズはぎょっとして、しかしすぐに敵に向けて構える。
「行くぞ!」
「うん!」
 二人の声と同時に、バンクも「行くぞ」と残りのメンバーに声を掛ける。
「いくら何でも二人じゃ無理だ。タゲを取って逃げるだけでいい。」
「おう!」

 数回のステイアライブで、ボスは消えた。
 声もなく崩れ落ちる面々。もう精神力も限界だった。
「…い…行こう…。見つかったら…無理だ…」
 武器を仕舞い、ふらふらと全員で次の階層に向かう。街に出れば、すぐに回復が出来る。そして、部屋に帰って眠ることも。



 外は夜明け前だった。
 アイテム屋で必要な物を揃え、回復を終えるとルーズ達の部屋に向かう。
 階層が開かれたことはもう敵も気付いただろう。この街でゆっくりするのは危険だ。こっそり帰って今後の対策を練ろうという話になった。
 しかし。
「待て、血盟騎士団がいる。」
 部屋からかなり離れた位置でルーズがそう言った。
「え?見えるのか?あんた遠見に数値振ってたっけ?」
「色で分かるんだ。めちゃ離れた場所の宝箱、よく見つけたろ?」
「確かに白いものは見えるけど…。団服?」
「とにかく隠れよう。」
 しばらく様子を窺っていると、すぐ近くを血盟騎士団が通りかかった。
「まだ見つからないのか。」
「はい。…でも、信じられません。バンクとアズミがオレンジギルドを雇っただなんて。」
「信じたいのは分かるが、騙されるなよ?現に奴らはオレンジギルドとつるんでルーズ一行を襲ったんだ。もし連絡を取ってきても、口車に乗るんじゃないぞ。」
 聞き耳を立てて聞こえてきた会話は信じられないものだった。口封じに殺されそうになったうえ、濡れ衣を着せられていた二人は、握りこぶしを震わせた。
 離れよう、とルーズが小声で皆を促し、転移門に向かう。周りを警戒しながらケイトの店がある街に飛んだ。



 コンコン、というノックの音でケイトは裏口に向かった。外にいるのが誰か表示されない。フレンドではないのだと判断して、声だけで応対した。
「こんな早い時間に何の用ですか?どなたです?」
「ルーズだ。悪い、フレンドはちょっと解除してあるんだ。入れてくれないか。」
 聞こえてきた声は確かにその人の声に聞こえる。しかしまだ警戒を解かず、出窓から外を窺った。
 ルーズたち四人と、血盟騎士団の団服を着た人が二人。
 状況を推し量ろうと考えたが、本人たちだと確認できたことと知らない二人が比較的評判のいい血盟騎士団の団員だということで、ドアを開けることに決めた。
「どうしたんですか?なんでフレンド登録を…」
「悪い、とにかく寝たいんだ。ここでいいから寝かせてくれ」
 なだれ込むように入って来た面々は、思い思いのところで壁にもたれて眠り始めてしまった。
「あああ…少しなら予備のベッドありますよ!皆さん、ちょっと!」
 ルーズだけはケイトにもたれ掛かるようにしてかろうじて立っている。が、今にも目を閉じそうだ。
「ケイト。俺たちがここに居ることは絶対人に言うな。仲のいい友達にもだ。いい…な…」
 それだけ言うとルーズも倒れ込んでしまった。



 新しい階層が開いたことはお知らせで知った。時間をみると夜明け前。そんな時間に攻略が行われていたことにケイトは少し違和感を覚えた。
「チーム名は…バスターズとナイツ? 聞いたことないな。新チームか、攻略組が名前を変えたのか。」
 ボス戦攻略のたびに半額セールをやっているケイトだが、今日はどうしようかと考えあぐねていた。
 ルーズはここに居ることを誰かに知られたくないらしい。多分フレンドを解除したのもそれが理由だろう。当初は自力で解決しようとしていたがそれが儘ならなくなった。だから助けを求めてやって来たのだろう。
 店は休みにするべきか。でもフレンドを解除するほど警戒しているとなると、店が休みになることで知られたくない誰かに訝しがられはしないだろうか。しかし、店を開けば不特定多数がここを訪れることになって、客がここまで入ってくることはないにしても気配を気取られることになりはしないか。
 朝ご飯の支度や店のちょっとした準備をしながらたっぷり一時間、考えに考えてケイトは決めた。
「よし、休業休業。」
 店の前に休業のお知らせを出す。
「攻略おめでとうございます、と。店主所用のため、本日は休業いたします、でいいかな。」
 きちんと閉めてさえおけば、外からは見えないはずだ。縮こまるように身を隠さなくても、この建物の中なら自由に動けるし勿論食料もある。しばらくは休業してルーズたちをかくまおう。そう思った。
 昼過ぎになって、やっと六人が目を覚ました。
「説明、してくださいね。わからないと、きちんと協力できませんし。」
「ああ、ほんとに申し訳ない。」


 ひと通りの説明を終えるころには、ケイトは身を固くしてテーブルの一点を睨み付けていた。
「ひどい!そんな目に合わされていただなんて。」
 うっと込み上げたものを押さえ、涙目でルーズを見た。
「よく、無事で…。良かった…。」
 そして全面的な協力を約束して、寝室をどうしようか、と彼女は思案し始めた。
「ずっとここに居るつもりはないよ。多分その必要もない。俺たちが隠れ家を手に入れれば、安全に暮らせるはずだ。」
 ルーズはそう言って当面の問題を上げる。
 血盟騎士団がこの問題をどう取り扱うのかは、ガランたちが上層部にどんな報告をしているかで変わってくるだろう。バンクとアズミに罪を着せているのだから、自分たちに疑いが向かないようにうまく嘘を吐いている筈だ。
 昨晩の様子から見て真実を知らない団員たちも駆り出されて、『犯人』を捜している。もしかしたら血盟騎士団全員が敵に回ることになるかもしれない。
 ガラン達自身は、口封じを完璧にする必要がある。ルーズ達4人も、あとの二人もまだ殺す気でいると考えるのが自然だ。
 そして、オレンジギルド。
 目的を果たせなかった彼らがどう出るだろう。もし当初の金額が支払われていれば、もう何もしてこないかもしれない。だが、現にルーズ達が生きている。殺すために雇った相手に、目的が達成されないまま全額支払われたとは考えにくい。
「あの場にいた血盟騎士団のメンバーとオレンジギルドは、まだ俺たちを狙っていると思う。それを解決しなきゃ普通の生活には戻れない。」
 ルーズの言に皆が頷いた。
「俺たちは」とバンクが少し気後れ気味に口を開く。
「汚名返上しなきゃ帰れない。」
 血盟騎士団の団員であることに誇りを持っていた、と彼は言った。
「あいつらの悪事をさらけ出して、血盟騎士団に戻りたい。」
 アズミも力強く頷く。
「俺たちが潔白だって、証明したい。」
「ああ、勿論。それも含めて、解決策を探ろう。」



 ルーズ達4人は今住んでいる部屋を売って、資金を合わせてどこか安全な場所に大きめの家を買うことになった。解決した後も普通に暮らせるような家なら、また次を探す手間も省ける。バンクとアズミはしばらく居候になるという話で落ち着いた。
 ケイトの協力で良さそうな物件がすぐ見つかった。
「しばらくは回廊結晶で行き来しましょう。外に出なければ安全です。あと、私とルーズさんはストレージのやり取りも出来ますし、食事の心配はしなくて大丈夫です。任せてください!」
 殆ど外に出られない状況の中、変装をし、別れて行動することでなんとか敵の目を掻い潜り、数日後、やっと落ち着くことが出来た。
 寝室が四つとゲストルームが一つ。丁度いい間取りだ。家具はそれぞれが前の部屋で使っていたものをそのまま配置した。
「やはり、血盟騎士団の中でもバンクさんとアズミさんが悪者ってことになってるみたいです。処分すべきだ、と主張するグループが血眼になって探してるって聞きました。」
 ケイトが集めてきてくれた噂話を聞いて状況を推し量る。
「全体で動いてるわけではないってことか。」
「はい。でも、探していないグループの人たちも、見つけたらタダじゃおかないって言ってます。」
「やっぱ血盟騎士団全員が敵だって思ってた方が良さそうだな。」
「で、俺たちのことはどうなってるんだ?」
 ナナが訊ねると、ケイトは少し間を置いた。
「ジェネフリーの四人は、死んだ、ということになってます。」
 皆どう反応すべきかわからず黙り込む。
「…狙いから外れた、と見ていいのか…。」
 ぼそっとルーズが呟くとケイトがきっぱりと否定した。
「違います。もともとあなた方を狙ってたグループは隠れてあなた方を探しています。私にもコンタクトを取ってきました。」

 ガラン直下の団員が言うには。
 ジェネフリーの四人は生きているかもしれない。多分怖くなって身を隠しているのだ。早急に保護したい。居場所を知らないか。連絡はないか。最後の連絡はどのようなものだったか。犯人を捕まえれば彼らが隠れる必要はなくなる。もうすぐ解決する兆しだから本人たちに伝えたい。

「どう答えたんだ?」
「知らない、と。そもそも墓を見に行って名前を確認したと聞いているって言ってやりました。そしたら『敵を欺くための嘘だ。墓に彼らの名は刻まれていなかった』って。だから、生きてるんですね!?良かった!連絡があったら私にも教えてください!って…。一応、うまく演技出来たと思います。」
「そうか、ありがとう。」
「それで、去り際に口止めしていきました。血盟騎士団にも今のことは話すな、どこにスパイがいるかわからないって。」
 うーん、とレイシーが考え込む。
「ケイト、張られてないかな。」
「張られてます。それらしき影が常にある気がします。でも、回廊結晶使ってるから、ここはバレてない筈です。」
「ごめんな、巻き込んで。」
「何言ってるんですか。皆さんの命が掛かってるんです。全力で守ります。」
 それでも、敵がどう出てくるかわからない以上、警戒は必要だ。
「なるべくここに来るのも控えてくれ。回廊結晶の行き先は分からなくても、アイテム屋での買い物も見られているかもしれない。」
「…分かりました。とにかく、食べ物は届けますね。うちはレストランだから、食材はいくら買っても疑われませんから。」
「フレンドリスト、見られる危険はないかな。」
「見せろって言われてもプライバシーだからって断ります。疑われても、こちらが操作しなければ見せられないんだし。なるべく店のカウンターから出ないようにします。」
「なるべく人目のある道を歩けよ。」
「圏外に出ちゃダメだぞ?」
「仲のいい人となるべく一緒に」
「ガランと仲の悪い団員と仲良くなっておくのもいいかもしれない。」
「ヒースクリフ団長に話が出来れば…」
 ケイトの身を案じて口々に言った言葉の最後を聞いて、ルーズが手を打った。
「それだ!」
 全員が驚いてルーズを見ると、彼女は続ける。
「ヒースクリフに全員で会おう。で、顛末を話せば力を貸してくれる…てか、アイツが動かざるを得ないだろ。」
 確かに、団に広まっている話で犯人とされているバンクたちと、襲われたルーズたちが共に出向けば、認識を変えてくれるだろう。
 問題は、どうやって会うかだ。
 血盟騎士団は組織がしっかりしているだけあって、その団長に面会を申し込むには団員に話を通してもらわなければならない。あの日、フレンドは全員解除してしまった。ヒースクリフ本人に直接連絡する手立てがない。
「…ケイト、キリトかアスナに連絡付かないか?」
「フレンドにはなってないんです。…でも」
 少し考えこんで顔を上げた。
「あの人!風林火山の人なら登録してます。なんとか店に呼んでみますね!」
「ああ、取り敢えず、俺がアスナに会って頼んでみる。その機会を作ってくれ。」



「ケイトちゃん、今日は休みなのに、俺たち呼んでくれたの?」
「新作デザートの味見をしてほしいって言ったでしょ?」
「俺頼られてる?嬉しいな~。な、感謝しろよ。俺の友達だから選ばれたんだぞ?」
 クラインはキリトとアスナに向かってデレデレの顔でそう言った。
「でも、私たちで良かったの?クラインさん、風林火山の方たちに恨まれない?」
「それは、ケイトちゃんの希望なんだ。俺らおっさんばっかの意見じゃ偏っちゃうだろ?だから、若者の男女一人ずつで、アスナちゃんとキリトが選ばれたってわけ。全部俺のおかげ。」
 キリトは少々呆れ気味で「はいはい、感謝してますよ」と返す。
 ケイトは一度キッチンに引っ込み、その奥にいるルーズに親指を立てて見せた。ルーズはこくりと頷いて返す。
「お待たせしました。新作のゼリーアラモードです。もう一品あるんだけど、取り敢えずこっち食べて感想聞かせてくれますか?」
「おお、見た目が豪華!フルーツもおいしそうだし。いただきまーす。」
「あー、クラインさん!ゆっくり! 味の評価が欲しいんだから、ちゃんと味わって食べてくださいね。」
「あ、そうだよね。ゆっくり、味わいます。」
「はい。ごゆっくり。」
 そう言ってキリトたちにも同じものを差し出しながら、あ、と何かを思い出したように声を出す。
「ごめんなさい。もう一品、少し手を加えたかったのに、うっかりしてた。…あの、アスナさん、ちょっと手伝ってもらえますか?」
「いいわよ?私でよければ。」
「アスナさん料理上手そうに見えるから、期待してます。」
「これは、手を抜けないな~」
 アスナに出したデザートはまたお盆に乗せ、二人でキッチンに向かう。
 そして数分後、ケイトだけがまた現れた。
「あの、キリトさん、ちょっと…。」
 クラインと他愛ない会話を交わしていたキリトは何かあったのかと少し眉間にしわを寄せた。
「アスナさんが困ってて、キリトさんを呼んでほしいって…。」
「俺?俺が手伝えることなんてないと思うけど。何かあったのか?」
「あ、大したことじゃないんだけど、とにかく、ちょっと、来てください。」
 わかった、と立ち上がり、促されるまま奥に入って行く。
「え、ケイトちゃん?俺は?」
 一人取り残されたクラインは茫然と見送り、そして、察した。
「…つまり、今日の俺って、ただのつなぎ?」
 なんだよ!畜生!と悪態を吐いて皿の上の残りを口に詰め込む。
「どうせ、俺になんか興味なかったってことだろ!?畜生!キリトの奴め!全部持っていきやがって!」
 味わうどころか全部丸のみする勢いで口に入れてしまったものを、ろくにかまずにグラスの水で一気に流し込む。
 畜生、ともう一度言ったところにケイトが戻って来た。
「ごめんなさい、クラインさん。お待たせしてしまって。」
 手にはもう一品のデザートを持っている。
「はい、チョコレートケーキ。甘いものばかりでごめんなさい。でも、これ、ビターだし、珈琲にも合うと思うんです。」
 そう言って珈琲も差し出した。
「あ、あれ?二人は?」
「キリトさんとアスナさんは奥で盛り上がっちゃって。私だけじゃつまんないですか?」
 ちょっと拗ねたような顔をしたケイトにドキリとして、クラインはブンブンと首を横に振る。
「なんだ、困ったやつらだな~。招いてくれたケイトちゃん放って盛り上がるなんて。」
「いえ、私はクラインさんとゆっくりお話ししたかったので。」
「ほ、ホント?そっか、だからか。いや、ちょっと誤解しちゃって。」
「誤解?」
「キリトのこと呼びに来たからさ、本命はキリトだったのかなって。いや、ごめん、誤解。」
「やだ、クラインさん。そんな誤解してたんですか?キリトさんはついでですよ。」
 鼻の下が伸び切ってしまったクラインに心の中で謝りながら、でもこれもルーズさんたちのため、と笑顔を向ける。
「いや、おいしいね、このケーキも。誕生日にも食べたいな、なんて。」
「うれしい。頑張って作った甲斐がありました。いつでも食べに来てくださいね。」
『誕生日いつですか?その日はもっと特別なケーキを用意します。…食べて、くれますか?(私を)』という展開を妄想したクラインは、「いつでも」という言葉で終わってしまったことにガックリと肩を落とした。



 アスナは目の前にルーズが現れたことに驚き、聞かされた事実に戦いた。
 信じられない、という思いは、死んだと聞かされていたルーズの存在ですぐに掻き消されたが、信じたくない思いはまだくすぶっている。
 二人の団員がオレンジギルドを雇ってルーズ達を殺した、という話を聞かされた時だって何かの間違いだと思いたかった。それは嘘だったわけだが、結局は犯人が別の団員だったというだけの話だ。その上、自分の悪事をその口封じに殺そうとした二人に擦り付けたのだ。
「…ごめんなさい。信じないわけではないの。…ただ…混乱して…頭を整理したいから、少し時間をくれないかしら。…キリトくん…に話してもいい?」
「構わない。ケイト、呼んできてくれるか。」
「はい。」
 キリトの方は、ルーズの顔を見て少し驚きはしたものの、話はすんなりと飲み込んだ。
「ひどい目にあったな。六人でボス攻略なんて無茶をする。」
「やらなきゃ死んでたよ。それに、あの時はホントに運が向いてた。ボスモンスターの動きだって、攻略しやすいものだった。行動は確率によるだろうが、多分、易しいパターンを何度も引き当てたってことだと思う。」
「無事でよかった。」
「ああ。で、手伝ってもらえるか?」
「もちろん。そんな理不尽を許していいわけがない。」
 彼が力強くそう頷いたことで、アスナも気持ちが決まったようだった。
「そう、ね。勿論、それなりの対処をしなきゃ。団長にも話します。」
 全てを伝えてくれる気でいるのを見てとって、ルーズは「それなんだが」と考えていることを話す。
「あの二人は血盟騎士団に戻りたいと言っている。話だけを団員全員に共有しても、多分疑惑は晴れない。だから、俺たち全員でヒースクリフのもとに出向いて、こちらの要望を伝えたい。アスナには俺たちがヒースクリフの前に行けるよう、手伝ってもらいたいんだ。」
 回廊結晶で、直接あの執務室に行きたいのだと伝えると、アスナはすんなりOKの返事をした。
「出口を設定するのは簡単だと思うわ。私も度々呼び出されるし。団長のスケジュールの調整も任せて。団長が自分で一日空けてくれるように誘導してみる。」
 ありがとう、とルーズは口元を緩めた。
「キリト、キミには立会人になってもらいたい。話の流れを変えられそうになったり、こちらの不利に動いたりしたら軌道修正をしてみてほしい。勿論、キミの手を煩わせないようにこちらでも気を付けるつもりだが。」
「わかった。任せてくれ。」
 ルーズは深く息を吐いた。心底ほっとしていた。ともかく、第一段階はクリアしたのだ。




 その日、バンクとアズミは団服を身にまとった。表情には覚悟と決意が見て取れた。
「行くぞ。」
 アスナからGOサインが届く。キリトも既にそこにいるはずだ。
 ルーズを先頭に、ジェネフリーの四人がまず回廊結晶に入り、その後ろにバンクたちが続いた。
 出口は部屋のほぼ中央。キリトとアスナはその両サイドに控えていた。ヒースクリフ以下副官たちは、茫然とその光景を眺めた。
「…ルーズ…殿?…生きて、おられたか。」
「死んでいてほしかったかい?」
「まさか。どうしてそのような言いようを…。」
 ふふっとルーズは笑う。
「すまない。質の悪い冗談だったな。本題に入ろう。」
 ルーズが事の顛末を語り、これから起こりうる問題を言及した。
 部屋にいる者は皆、一様に驚き、すぐさま当人たちを罰するべきだと声が上がる。
「すぐ追放しましょう。血盟騎士団にあってはならない不祥事だ。」
 それにヒースクリフが頷くや、ルーズは止めに入る。
「それでは困る。」
「どうしてかな。悪事を働くものを処罰するのは当然だと思うが。」
「アンタらがアイツらを追い出してみろ。行き場を失って逆恨みされるのはこっちだ。今でさえ命の危険に怯えて暮らしてる。オレンジギルドと繋がった奴に恨まれた俺たちを、アンタらは守ってくれるのか?」
 ふむ、と団長は思案する。
「では、どのような対処をお望みか。出来る限りのことはしよう。」
「ガラン達を放り出すのはナシだ。ちゃんとアンタらで抱え込め。仲良しごっこをしてもらおう。」
 まず、団員全員の前でバンクとアズミに関するデマを報告ミスによる誤解が発端だと弁明しろ、とルーズは言った。
 ガランが嘘を言ったわけではない、しかし二人は犯人ではない、という体を作り上げ、ガランが反論できないように持ち込むこと。そしてあたかも団長がガランを高く評価しているかのような論調を整え、それなりの役職を与えること。ただし、それは権限を与えるわけではなく、監視対象に落とし込むということだ。
 そして、面目を保ってやった代わりに、オレンジギルドを黙らせることに協力させる。ルーズ達を襲っても特はない、むしろ損失がデカイとオレンジギルドに思わせること。
「難しいことをおしゃる。」
「そうかい?あんたなら、何とでもできそうだ。それに、オレンジギルドが今回の件だけで引き下がるという保証はない。一度きりの繋がりを世間にバラすとあんたたちを脅しに来る可能性だってあるだろう。金を要求されるか、悪事を見逃すことを要求されるか。そんなことになるより、今関係を完全に断ち切る方法を考えた方がいい。」
「確かに。しかし、難しいことには変わりない。例えば、どうやればよいと?」
「叩きのめしてギルドを崩壊に持ち込む、とか、そういう事になるぞと脅しをかける、とか?」
 方法は任せるよ、とルーズは投げかけた。苦笑するヒースクリフに、不敵な笑みを返す。
「アンタのことだ。もうそれなりの方法は頭の中に組みあがってんだろ。それでやってくれれば文句はない。俺は関与しないし手助けもしない。当然だよな?こっちは被害者だ。」
 しばしヒースクリフは目を伏せた。
「全て要求通りにしましょう。全団員を招集。急げ。」
 副官たちが慌てて準備を始める。
「あなた方はどうなさいますか?」
「全て、ことが済むまで、ここで寛がせていただきますよ。」
 ソファを要求して、そこに陣取る。
「何時間かかるか、今日中に終わるかもわかりませんよ?」
「どのみち解決しなきゃ外を歩けないんだ。俺たちがきちんと扉から外に出られるように整えてくれるのを、気長に待つさ。」
 わかりました、とヒースクリフは一礼してから、バンクとアズミを連れて部屋を後にした。
 キリトにはその時点で礼を言って帰るように促した。もう、かかわりのないことだ。



 ちゃんと話が進んでいるのか、気にならないわけではない。気が気じゃない、というのが本当のところだ。しかし、全幅の信頼を向けることであの団長にプレッシャーを与えようとしている。明らかな理不尽をそのままにする男ではないだろう。それが元々の人間性によるものか、外面の良さによるものかは知る由もないが。
 四時間ほどで招集と集会が終わったらしく、バンクとアズミが礼を言いに来た。誤解が解けたのだそうだ。
 そして二人が去るのと入れ替わりで、ガランたち、あの時のグループが全員やって来た。
 ヒースクリフが彼らに向けてにこやかに言う。
「さて、どういう状況かはもう分かったかな?お前たちのやったことは全て聞いた。その上でお前たちに手柄をやったのだ。ひとまず、謝罪と感謝が欲しいところだが。」
 ガランは顔色悪く視線を床に這わせて左右に何往復かしたところで、口を開きかけた。そこでヒースクリフが遮る。
「おっと、言い逃れができると思ってないだろうね。全てが『明白』だ。そのつもりで発言してくれよ?」
 顔は笑みの形をとっているが、その声は笑っていなかった。充分に畏怖を感じる。
 そこでやっと観念したようだった。
「申し訳…ありません。血盟騎士団の内部崩壊を防ぐために…」
「内部崩壊を防ぐために六人の人間を殺す、そんな組織だと?」
「…私の独断です。」
「そうだろうな。」
「…団を脱退させていただきます。」
「それは許さない。先程役職も与えたはずだ。内部崩壊を防ぐのが目的だったというなら、その目的をもって今から行動してもらう。いいな。」
「は、はい」
 あと数回のやりとりがあり、ヒースクリフはガラン達と共にまた出て行った。


 それからまた数時間が経ち、日が暮れかけた頃、ヒースクリフは戻って来た。
「お待たせしました。もう、大丈夫ですよ。玄関から外へどうぞ。」
「俺たちが狙われることはない?」
「あのオレンジギルドに狙われることはありません。ご安心を。勿論、我が団員からも狙われませんよ。」
 ルーズがゆっくりとソファーから立ち上がり、仲間もそれに倣う。
「お手数を掛けた。…本来、アンタ個人に責任はないんだろう。人を殺そうってやつを集めているわけじゃないんだし…。でも、アンタの力に頼るしかなかった。」
 謝罪の言葉を言うべきか、逆に言えば失礼にあたるのか判断が出来ずにいると、団長はふわりと笑った。
「お気遣いなく。組織を統べる者としての責任を果たしたにすぎない。どうか、この先もご無事で。」
「ああ、アンタも。団長殿。」
 一礼して、四人は部屋を出た。


「ルーズ…、俺、もう限界だ…。」
 ナナが縋るようにルーズの肘を掴んだ。
「腹が減って死にそう…。」
 執務室に到着してから今の今まで、四人は飲み物以外を断って何も食べていなかった。いわばハンガーストライキのようなもの。ヒースクリフに動いてもらう以上、それなりの覚悟を見せるべきだと考えてのことだ。
「ああ、そうだな。よく頑張った。まずは腹ごしらえをしよう。」
 口には出さなかったが、サンもレイシーも同じだったようで声を上げて喜んだ。




 ジェネフリーはその後、血盟騎士団とは関わらなかった。ときおりアスナと顔を合わせることはあったが、あいさつ程度の軽い会話で終わる。攻略戦に誘われることも、勿論入団を迫られることもなかった。
 そして随分時が経ち、その日が来る。
「俺、ちょっと隣の店行きたい。」
「あ、僕も。」
 そう言ってナナとサンが走っていく。
「分かった。俺たちこっちにいるから。後でな。」
 軽く手を上げ、ルーズとレイシーは自分たちの目的の店に入った。
 その途端。

 ゲームがクリアされました
 ログアウトに移行します

「え?…これって…。」
「ルーズ!ログアウトだ!あー…ありがとな。」
 レイシーが慌ててそう言った。店の外をナナたちが走ってくるのが見える。
「ルーズ!!レイシー!!今までありがとう!!楽しかった!!」とナナ。
「また会いたいよ!いつか会おう!!」サンは笑顔でそう言った。
 ルーズも慌ててアワアワとなりながら言葉を探す。
「あ…ありがとう!また…またな!どこかで!」


 四人はそれぞれの場所で、長い長い夢から覚めた。




fin.
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