SAO-1/10000-

アマゾネス




 怯えて街から出ようとしない人々を尻目に、ミクはいくつかのグループに紛れて始まりの街を後にした。
 チームは組まなかったが、同じ方向に進むグループが殆どのモンスターを片付けてくれる。特に危険はなかった。
 ただ煩わしかったのは、幾つかの男性グループにしつこく言い寄られたことだ。その全てをにべもなく断り続け、彼女は時折襲い来るモンスターをあっさりと倒して見せた。
「女がソロでやる気かよ!!」
 腹立たしげな口調で男が言ったが、気にすることはない。ミクはこれまでも様々なゲームを体験してきたが、その全てで男に引けを取らない実力を持っていた。このデスゲームでも、その自信は変わらない。

 宿に落ち着くと、ミクは装備を外してベッドに体を投げ出した。
「あー、もうっ!」
 オンラインゲームの一番の醍醐味は、見知らぬ人とチームを組めるところかもしれない。でもそれが同時に一番の厄介事になり得るということも経験済みだ。
 ミクの場合、異性とチームを組むと必ず恋愛絡みの問題に巻き込まれた。自分にそんな気がないにも関わらず、だ。
 現実世界なら「私が美人なのがいけないのね。」と己惚れて気分も良くなるかもしれないが、ゲームで使うアバターは皆可愛いものだ。自分がどうしてそんな対象になるのかが謎だった。

 ふと鏡があることに気付き、立ち上がる。まじまじとその中に映る自分を見た。
 現実の自分とほぼ変わらない姿。よくもまあ、ナーヴギア設定時の情報だけでこれだけそっくりのアバターが作れたものだ。その点では、あの茅場とかいう技術者を誉めてもいいと思う。
「折角『アバタ』だらけにしてあったのに…。アバターだけに…。」
 口に出してから、あまりに寒い駄洒落に自分で呆れた。
 それはともかくとして、確かに彼女の使っていたアバターはお世辞にも美人と言えるものではなかった。これまでの経験を踏まえて、チームを組むなら同性と決めていた。その為に、男性から声を掛けられにくい容貌にしてあったのだ。
 それが今はリアルな自分。自惚れではなく美人だと、彼女自身思っている。
「早く仲間を見つけなくちゃ。」
 5、6人のチームを組んでしまえば、それだけで誘われにくくなるし、誘われても軽く断ることが出来る。
 明日からこの街にいる女性プレイヤーに声を掛けまくろうと心に決め、ミクは眠りについた。




 仲間集めは思った以上に難航した。
 狩りをする気のある女性プレイヤーは既に男性プレイヤー達のチームに入っているし、狩りをする気のない者はちゃっかり男を捉まえていたりした。
 どうやらこのゲーム内では異性との性交渉が可能らしく、それを交換条件に通貨や食料を得るのだという。
「それって娼婦じゃない!?」
「いーじゃん、現実世界じゃないんだし。私の体は今、病院で守られてるでしょ?」
 それはそうだけど、と言葉に困っていると、「あんたも割り切んなよ。楽に生き延びられるよ?」と逆に説得するような口調で言われてしまった。

 仕方なく、ソロプレイヤーとしていくつかの街を転々としていたある日、男性に悪態を吐いている女性を見かけた。
「ふざけんじゃねーよ!!てめぇんとこなんか抜けてやる!!」
 その言葉を最後に男から離れていくところをみると、チーム内での喧嘩で仲違いしたのだと分かる。男の方も引き留める気はないらしい。「好きにしろ!一人で勝手におっ死んでろよ!!」と彼女の背中に向けて毒づいた。

 これはいいところに出くわした、とミクは走り出す。勿論、その女性プレイヤーのところに、である。
 彼女はリナリーと名乗った。
 事情を訊いてみると「ちょっとね、ふざけたこと言いやがったからさ…。」と全てを語ろうとはしなかったが、チームを組まないかと誘うと興味を示した。
「へぇ?アンタ一人でやってたの。スゲーじゃん。でもなんで?」
 仲間を集う気があるのなら、もっと早くにチームを組めただろうに何故今になって、という疑問だ。
 そこでミクは、女だけのチームを組みたいのだと話した。するとまた、なんで?と来る。
 何と答えようかと考えあぐねて、娼婦の話を出した。
「まあ、自分で割り切ってやってる子はいいと思うけど、中には脅されてやってる子もいるらしいし…。」
 だから男は嫌なんだ、と言おうとしたとき、リナリーが噴き出した。
「なに?アンタ、女性の人権を守る会でも作ろうっての?悪いけど、そーゆーのはパス。」
「え?そうじゃなくて…。」
「その可哀想な子たちを保護してグループ作るんでしょ?アタシそんな面倒なの手伝えないよ。」
 ひらひらっと手を振って立ち去ろうとするリナリーを、慌てて呼び止める。
「違うわよ!私だってそんな面倒なことしないから!」
 キョトンと振り返った彼女に、ミクはバツが悪そうに続けた。そんな高尚なことを考えているわけではない。そこまで善人ではない。
「つまり…そういう不届きな男たちから身を守るために、女だけのチームを作りたいって…コトで…。」
 なあんだ、とリナリーは体をこちらに向けた。
「自分の身を、ね。OK、なら組んでもいいよ。アタシも丁度、不届きな男どもから抜けてきたとこだしね。」



「チーム名はアマゾネスでしょ、やっぱ。」
 リナリーはそう言ってウインクして見せた。ミクとはタイプが違うが、そういう仕種が似合う美人だと言えるだろう。肌は健康的な小麦色、ギャル系のメイクが似合いそうな顔立ちだ。
 女戦士の代名詞であるその名に、ミクはすぐに賛成した。
「問題はメンバー探しだよね~。」
 それについては二人して溜め息を吐く。
 そうそう運よく仲違いした女性に出会えるとは思えない。それに信頼の問題もある。
 一般的に言って、女は男より戦闘能力が劣るものだ。ゲームの中だから身体的な差はない筈なのだが、精神面や反射能力の差が出るらしい。
 女性たちがどちらを頼りにするかは目に見えている。
 信頼を得るには戦って見せねばならず、とは言ってもそんな場面を見せる機会など作れないだろう。
「説得して引き抜くって手もあるけどね。あんた、話術得意?」
 言われてミクは苦笑した。普通の人付き合いならともかく、説得となると全く自信がない。
「あなたは?」
「あはは、アタシは見た目で駄目だよ。」
 そう言ってリナリーは自身を指し示した。
 ミクは身なりを整えて姿勢を正せば真面目で清楚な雰囲気を作れそうだが、リナリーはギャル系で気の強い印象だ。相手の警戒を解すところから入らなければいけない。
「まあ、とにかく、明日からナンパの名所でも回ってみようよ。男から声掛けられて困ってる子がいるかもしれないしサ。」
 仲間探しに人が集まる場所が、所々にある。
「第二階層にあるプロムナードってとこ、行ってみる?」
「イイね。」



 第二階層は先週開いたばかりだが、新天地を目指す者達が大勢移動していた。既に死者は千を超えているらしい。
 その場所を選んだのは、上に行けば行くほど危険は増す筈だから、より上の方が仲間を失った者が多いのではないか。そう思ってのことだ。不謹慎なものの考え方ではある。

 仲間を探している女性は確かにいた。
「アッ!…チッ…一足遅かったか…。」
 女性が一人、男性チームへの参加を承諾したところだった。
 二人はその女性を諦めて、周りを見回す。
 ざっと見ただけでも、女性が占める割合は低かった。おそらくゲーム人口全体を見てもそうだろうし、このデスゲーム内も例外ではないだろう。
 男にしつこくされて困っているという状況は見当たらない。一人で佇む女性も見つからなかった。女性とすれ違うたびに声を掛けてはみたが、もうどこかに属している者ばかりだった。

「ねえ、お願いします。ホントに困ってるの!」
 そんな声が聞こえて、ミクはその方向に振り向いた。
「お呼びじゃねーよ、デブ。」
「戦えない上にブサイクじゃなぁ。ハハハ。」
 そんな言葉を残して去っていく男たちを失意の表情で見送るプレイヤーは、小柄でポッチャリした女性だった。
「何よアレ!!」
 怒りを言葉に乗せたのはリナリーだ。
 二人はその女性に近付いて、同情の色を窺わせた。
「ひどい男たちね、あんな言い方…。」とミク。
「そうだよ!!自分たちのがブサイクなくせしてサ!!」とリナリー。
「気にすることないわ?」
「そーそー、アンタ可愛い顔してるよ。確かに…ウチらよりは肉付きいいけどサ。」
 リナリーが彼女を眺めてそう言ったところで、ミクが慌ててたしなめる。そして女性に向かって言った。
「ごめんなさいね。気にしないで?彼女…その、口は悪いけど、悪い人じゃないから。」
「何だよそれ。アタシ悪いこと言った?事実でしょ?ウチらが痩せてるのは。」
 それはそうだけど、と言いそうになってミクは口ごもる。
「そ…そんなこと、どうでもいいでしょ!?…と、とにかく、その…。」
 目の前に現れた女性二人が言い争いを始めそうなのを目にして、小柄な彼女は「いいです。」と小声で呟いた。
「え?」
「いいですよ、私が太ってるのは事実だし…。」
 暗い顔の彼女を励ましたいと思いながらも、ミクはうまく言葉を出せない。
「そ、そんなこと…。」
「ホラ、そんなことない、なんて言ってもウソくさいだけじゃん!」
 リナリーはぷいっと横を向き、ミクは申し訳なさそうに下を向いて、もう一人は情けなく笑って見せた。


 シルクというのが彼女のプレイヤー名だ。シルクは成人前の若い女性だった。
 自分で「太っている」と言っていたが、国の指標で言えば健康体、ギリギリ「普通」の範囲内だと思われる。丸顔で童顔なのが、よけいに太ってみせているようだ。
「えー!?置いてかれたの!?ヒドイ!!」
 彼女は、共に行動していたグループからいつの間にかフレンド解除され、置いてけぼりを食らったのだと言う。
「多分、私よりも役に立つ人が見つかったんだと思います。別に友達ってわけじゃなかったし…。」
 戦闘経験はゼロ。ゲームに入った直後に、あの茅場のデスゲーム宣言を聞き、怖くて狩りに出られなかったらしい。お情けで入れてもらったグループで、役に立とうと料理スキルを上げるつもりはあったが、まだろくに作れない。他に出来ることはないかと模索していたところだった。
「今、何品作れるの?」
「10品ぐらい…かな。」
「充分充分!新しい食材が手に入ればもっと増えるでしょ。ウチらに任せなって!!」
 いいんですか?とシルクは遠慮がちに言った。
「大歓迎よ!料理の出来るメンバーがいるってサイコーだわ!」
 相談なしにリナリーがそう言ったが、ミクも文句はないとニッコリ笑った。



 四人目のメンバーはその後すぐに見つかった。
 ササというその女性は、シルクの体系をそのままひと回り大きくしたような体格をしていた。しかも彼女はそれをコンプレックスには思っていない。
「何言ってるのよシルク。女はね、ちょっとポッチャリしてる方がいいの!その魅力が分からない男なんてクズよ、クズ!ミクもリナリーも、もっと太りなさいよね。」
 その強気な姿勢がいいのか、押さえるところは押さえているからなのか、確かに彼女には魅力がある。自分に似合う服装も心得ていて、立ち居振る舞いも優雅なものだ。
 時折男性から声が掛かるらしく、個人的に懇意にしている相手もいるという。
 ただ、仲間の反対を押し切ってチームに加える、といった気概のある男ではないようで、彼女はまだどこにも属していなかった。


「はい、ササ。さっき取れた素材。」
 ミクが防具の材料になるアイテムを出すと、ササは嬉しそうにそれをストレージに仕舞った。
「ありがとー。」
 リナリーが呆れて肩をすくめる。
「あんた、自分の武器も強化しなよ!?取り敢えず、ウチらは今ので充分なんだからサ。」
 ササのやる気はその時々の興味に依るため、その内容もバラバラだ。今はミクに似合う防具を作ることに全力を注いでいる。
「分かってるって。やってるわよ、一応。それより、今のミクの防具のダサさが許せないの!確かに防御力はあるけど、ミクの魅力が半減してるじゃない!」
 絶対似合うの作ってあげるからね、と親指を立てられれば、ミクは困りながらも「ありがとう」と応じるしかない。
 リナリーはもう一度肩をすくめて、「はいはい、好きにして。」と話しを終わらせた。


 家に帰って食材を渡すと、シルクが材料とレシピを見比べて料理を作る。
「今日はクリーム煮でーす。」
「わお!新メニューじゃん!」
 NPCの店を回れば色々とメニューにはありつけるが、勿論お金がかかる。無料で食事を済ますことが出来るのは単純にありがたいし、このデータ世界の微妙な味気無さに家庭的な要素が加わるのは嬉しいものだった。
「もひとつレベルが上がれば、B級食材2つ追加するレシピがあるんだけどね。」
 B級あたりの食材なら店にも並んでいるから、材料は揃えられるだろう。でも料理スキルが足りなければ、失敗して食材全てを無駄にするのがオチだ。
「あら、じゃあ今度作ってみようかな。」
 そう言ったのはササ。彼女は料理にも手を出していた。しかも自分のレベル越えのレシピを使って成功させる運の良さを持ち合わせている。最初こそ皆で止めに掛かったが、彼女がほぼ100%の確率で成功させるため、やりたいようにやらせることになっていた。
 ただ、そんな彼女も必ず失敗するシチュエーションがあった。それは、彼女自身のやる気より皆の食べたい欲が大きい時。
 だからササが料理をするときは、誰も口出ししない、そして期待もしない、という暗黙のルールが出来ている。
「食材が揃ったらねー。」と無難な返しをしてリナリーが食べ始め、それを合図に食事が始まった。



 パリン、と砕けるような音とエフェクトで目の前のモンスターが消える。
「今日はこのくらいにしよう?アイテムも減ってきたし。」
「そだね。」
 ミクの言葉に同意して、リナリーが剣を鞘に納めた。その後ろで、うーんと唸りながらササが自分のストレージを眺めている。
「不満?」
 ササの態度が反論を含んでいると見てリナリーが眉を顰めると、ササはひらっと手を振った。
「じゃなくて、拾ったもの確認してるだけ。私だって無茶してまで素材集めようとは思ってないって。」
『私だって』のところが『タシダッテ』と聞こえて一瞬考える。彼女の一人称は『わ』が抜ける癖があった。
「…だったら、そういうのは帰ってからにしてよ。不満があるのかと思うじゃん。」
「足りないもの買い足したいじゃない。」
 そのやり取りを、ミクは困り笑顔で見守るのが常だ。
 二人とも言いたいことは即口に出すタイプだから、行動を共にすれば口論のような掛け合いはしょっちゅう。それでも大きな喧嘩に発展したことは、今のところ一度もない。
 不思議だよね、とミクはシルクとよく話している。
「ほら、あと数分でモンスターが復活しちゃうわ?行こ?」
「ホラ、行くよ。」
「分かってるってば。」
 ササは、やっと画面を閉じて後に続いた。


「うわあ!!…に、逃げるぞ!!」
 3人が街に向かって歩いていると、道から少しそれたところでモンスターに捕まっている一行があった。見ればHPが半減している。狩りでアイテムを使い果たしたのだろう。
 また一撃を食らってHPを減らした男が、慌てて逃げ出す。
「ス…スマン!先に行く!」
 一人、また一人と逃げ出し、今ターゲットにされている一人を残して、躊躇っていた者も街に向かって走り出した。
「なんてこと!?助けるわよ!?」
「あったりまえ!!」
「もちろん!!」
 即座に走り出し、取り残された一人のガードに入る。
「はい、これ使って。下がってなさいよ。」
 ササがアイテムを手渡して参戦すると、ほどなくモンスターを倒すことが出来た。

「ひっでぇ奴らだねー。仲間見捨てるなんてサ。」
 リナリーが剣を仕舞いながら後方に佇むプレイヤーを振り返ると、その人物はさほど表情を変えずに応じた。
「…まあ、みんなギリギリだったから…仕方ないです。」
 ハッとして3人は顔を見合わせた。
 その諦めた言い方にも驚きはしたが、それよりも…。
「あなた、女性、よね!?」
 170は超えている身長とゴツイ鎧の所為で男だと思い込んでいたが、声は細かった。
「あ、…はい…女ですけど。」
 ミクの問いに、また彼女は淡々と返した。


 その足で、見捨てられた女性、アカの仲間のところを訪れ、リナリーが中心になって引き抜きの交渉を始めた。
 アカの姿を見た面々は、一瞬喜びの表情を浮かべた後、バツが悪そうに目を伏せた。
「まさか、文句はないわよねぇ?」
 彼女を見捨てた一部始終を見ていたことと、それを助けたのが自分たちであることを告げ、その上で彼女をもらい受けると宣言すると、彼らのリーダーは唸りつつ頷く。
「文句はない。…だが、解ってくれ。自分の命を賭けて人を助けられるほど、俺たちは強くない…。」
 分かってますよ、とアカがほほ笑んだ。
 それに救われたというように、口々に謝罪や生還の喜びを彼女に向ける。出来ればフレンドの解除はしないでほしいとの申し出にも、アカは快諾を返した。
 本当に自分が死にそうだったことを理解しているのだろうかと、ミクは半ば呆れてしまった。

「アンタ人が良すぎだよ。」
 リナリーがそう言えば、ササがそれに続ける。
「ホントホント、ちょっとぐらい怒って見せたってバチは当たらないでしょうに。」
 返事に困っているのか、何も言わないアカを見上げ、ミクは意識して笑顔を見せた。
「とにかく、よろしくね。アマゾネスへようこそ。」
「う…ん。よろしくお願いします。」
「カタイカタイ。仲良くやろーね。」
 ぽんぽん、とリナリーが背中を叩いて数歩前へ駆ける。
 最後尾でササが彼女を舐めるように眺めてから言った。
「あんた、もっとスマートな鎧の方が似合うね。そのうち作ったげるから。」



「ねー!聞いてよ!みんな居る!?」
 買い出しから帰ったシルクが興奮気味に皆を呼んだ。
「んー?どーしたの?」
 午後ののんびりした空気に眠くなっていたリナリーが、ぼーっとしたまま返す。今日は狩りはお休みだ。後の3人も、それぞれの場所で振り向いたり顔だけ覗かせたりしている。
「すごいよ!すっごいの!」
「だから何が。」
 興奮のあまり言葉が出てこないらしく、「すごいの見ちゃったんだってば」と説明にならない言葉を繰り返す。
「シルクシルク!落ち着いて。」
 ミクが見かねて歩み寄り、ポンっと両肩に手を乗せると、ようやく彼女は話出した。
「すっ!!…ごいイケメンがいたの!!ホント!!めちゃイケメン!!」
 なあんだ、とリナリーがソファーに項垂れる。顔を出していたアカも引っ込んでしまい、ササも興味をなくしたようで合成レシピを確認し始めた。
「な、何よぅ!みんな見たくないの!?イケメン!」
 拗ねたように訴えるシルクに、リナリーが手をひらひらさせて応じた。
「アンタの美的センスには一度裏切られてるからサ~。ゴメンネ~。」
 それにはシルクも思い当たることがあってうろたえる。
 前にも彼女は「かっこいい人がいた」と騒いで皆を連れだしたことがあるのだが、その人物の容貌は一般的に言えば中の下、単に彼女の好みの系統だというだけだった。
「いいじゃん…マッチョでごつくて渋いの…カッコいいじゃん…。」
 さらにイジけた口調でぼそぼそと呟くシルクに、ミクが苦笑を向ける。
「で、前の人みたいな感じだったの?」
 その問いでシルクはハッとして元気を取り戻した。
「違う!今度のは、マジでイケメン!私だって一般的に言うイケメンがどういうものかは分かってるってば!あれよ、あれ!アイドル系!ホント、イケメンだから!見なきゃ損だって!」
 何かの呼び込みのような煽り文句をつけて皆を連れ出そうとするものの、まだ仲間は疑心暗鬼だ。
「アイドル系~?」
「んなの、この世界にいるわけが…」
「いたんだってばー!!」

 シルクの話に依ると、その男性はチームでこの階層のクエストをやりに来たらしく、転移門から現れたという。だから転移門を張れば、帰るところを捉まえられるはずだ、と。
「クエストやるなら一二時間はこの階層にいるだろうし、今から行けば間に合うって。」
「他の街から帰っちゃったらどーすんのよ。」
「レベルの高い防具つけてたから、きっとこの階層にはクエストやりに来ただけだよ!だったら、一番近い転移門使うはずでしょ!?」
 見たいならつべこべ言わずについてきてよね、とシルクは急き立てた。
 携帯食を準備して、万全の態勢で出かける。結局全員揃ってその場所に向かった。そしてじっと待っていると、小腹が空いたころにシルクが小さく声を上げた。
「あ、あれ!あの人!」
 指さす先には、背丈も性別も年齢もちぐはぐな4人組が歩いてくる。その中の長身の男性をしっかりと視認した途端、皆立ち上がった。
「ウ…ソ…」
「マジ…?」
「確かに…イケメン、ね。」
「うん…」
 アイドルと言うにはいささか年齢は上回って見えるが、充分に若い、美形の青年である。
「ハッ!!今声かけなきゃ!もう会えないかもしれないじゃん!!」
 リナリーが慌てて転移門に駆けていく。転移門を使われてしまったら、もう探しようがない。
「ちょ、リナリー!どうする気よ!?」
「恋愛禁止なんてルールなかったよね?アタシたち。」
 ササもそう言って走り出し、シルクとアカもそれに続く。
「あ~んもう!メンバーには入れないからね!?」
 アマゾネスというチームの当初の目的を忘れられていそうで、ミクはそう釘を刺してから追いかけた。



「あ、あの!スミマセン!ちょっとお時間よろしいですか?」
 リナリーは人生で一番というぐらい気を使って声を掛けた。第一声だけで追い払われたくはない。
 すると目的の男性だけでなく4人全員が振り返り、リーダーと思しき女性が返事をした。
「ん?何か用かい?」
 慌ててリナリーは首を振る。
「あ、いえ、…あの、こちらの方だけ、ちょっとお話よろしいですか?」
 微妙な言い回しと他のメンバーの顔ぶれで女性は察したらしく、「あ、あ~ぁ、そか」と頷いて他の二人に転移門を指し示す。
「じゃ、レイシー、先帰るから何かあったら連絡くれよ。」
 そう言って軽く手を上げた。
「ああ、後でな。」
 男性もそれに応じて手をひょいっとあげると、リナリーの方に向き直った。
 向こうで彼のチームメイトが「いいよなーレイシーは」とこぼしているのが聞こえる。「妬むな妬むな」と女性が言い、3人は転移門へ消えていった。




「で、俺に用って何かな?」
 そのあとはリナリーの独壇場だった。ヘタに会話に入ってつじつまが合わなくなったら困る。皆、リナリーの言葉に頷くに留めた。
 自分たちはレベル上げに悩んでいて、今の狩り場での経験値では足りないのだけれど、かと言って上に行くには不安が大きすぎる。ボディーガードになってくれる人を探していたところだ、とリナリーは話す。
「ああ、レベル上げしたいなら、うちのメンバー全員で連れていこうか?経験値譲るぜ?」
 2階層上の狩り場でモンスターを数体、瀕死で明け渡せばレベルはすぐに上がるだろう、と彼は言った。
 それにはリナリーが難色を見せる。
「いや、そーゆーのは…そんな風に倒してもらってレベル上げなんて、ズルいのはやりたくないんで…。」
 あくまでも自分たちで倒してレベルを上げたい、だから自分たちに見合った場所でいい、と返すと彼は笑った。
「あはは、キミ達もか。女って変なとこ拘るよな。」
 どうやらあの女リーダーがそういう主義らしい。
 正直なところ、リナリーにそんな拘りはない。重要なのは、彼がひとりで来てくれることだ。嘘を信じてくれていることに少しの良心の呵責を感じつつ、話を合わせる。
「そうなんですよ。やっぱり拘りたいじゃないですか。せっかくゲーム世界にいるんだし。」
「いいぜ?了解。都合を合わせてキミ達の狩りに参加するよ。」



「レイシー、かっこ良かったねー。」
「うん、あんなイケメン、リアルでもなかなかいないよね。」
 ササとリナリーがそう言ってうっとりと宙を見上げる。
 アカとシルクもうんうんと頷いている。
 ソファーに身を投げていたリナリーがガバッと起き上がった。
「いい?アタシ達、仲間だけど恋愛は別よ?ライバル同士、全力で戦うわよ! でも、仲間なんだから誰が勝っても恨みっこなしね。」
 こくりと3人が頷いたところで、リナリーはミクを振り返った。
「アンタは?やっぱ男には興味なし?」
 ミクのこれまでの恋愛絡みのイザコザの話は聞いていた。話が出る度、男とは関わりたくないと言うミクが、今回もイケメンでも男は男だとバッサリ切り捨てるかとそう訊ねる。
 すると。
「あら、私がいつ男全部が嫌いだなんて言った?私好みの男は別よ。」
 半分は冗談だったが、彼に対して好感を持ったのは事実だ。先のことはわからない。もし、このチームの関係を壊すことなく恋愛できるなら、拒む理由はない。
「うっわ、最強のライバル登場ね。負けないからね?」
 リナリーは軽いノリでそう返した。



 アマゾネスとの待ち合わせに向かうレイシーは、かすかな罪悪感に溜め息を吐いた。
 彼女たちの本当の目的が自分であることは正直分かっている。気を付けて気付いていないフリをしてはいるけれど。
 そして彼女たちのお願いをあっさり引き受けたのは、久々に感じる優越感ゆえだったりするのだ。
 今、レイシーは仲間がギルドを結成しないことをありがたく思ってしまっている。リーダーの本意は知らないが、彼女はどこのギルドにも入らないし、自分で結成するのも嫌がった。もしギルドを組んでいたら、レイシーの自由度はかなり下がっただろう。別にシステム的には自由に出ることができるが、人間関係のしがらみを考えると言いだしにくい。
 そう、もしかしたら、引き抜きなんてこともあるかもしれないのだから。

 ちやほやとしてくれる女性たちのところに居れば気分がいいだろう、と思うのは、彼が現実世界で似たような環境にあったからだ。
 職場では課に関係なく女性たちが近づいてきたし、飲みに行っても遊びに行っても、常に『いい男』というレッテルで一目置かれていた。
 それが今は失われている。
 仲間が嫌いなわけではない。信頼もしている。ただ、あのメンバーとつるんでいることがカッコ悪い、という感覚があった。自分らしくない。スマートじゃない。…ダサい。

「あー、やだやだ。」
 口に出して思考を追い払う。
(まだ決めるのは先でいいんだ。誘われたわけでもないんだし。考えるのはよそう)
 そう思って表情を整えた。



「あ、来た来た!」
 リナリーが真っ先に気付いてぴょんと立ち上がった。
「みんな大丈夫?変な恰好してないわよね?」
 お互いの装備を指さし合って、うんと頷く。見送りに来たシルクも同様にチェックする。
「悪い、待たせたか?」
 レイシーのすまなそうな顔に全員が笑顔で首を振る。
「いえ、全然、大丈夫です。それに急ぐ理由もないし。」
「何だったらその辺のお店まわります?」
「近くに名所もあるらしいですよ?」
 矢継ぎ早に提案され、レイシーは苦笑する。
「狩り、行くんだろ?俺には気を使わなくていいから、行こうか。」
 あはは、とリナリーが笑って取り繕う。
「そうですよね。狩りが目的ですもんね。はい、行きましょう!」
 考えてみれば、レベルの高い彼がこの階層の武器屋や防具屋に用があるわけがない。プレイヤーが出した店ならともかく、NPCの店は階層に見合ったものしか扱っていないのが普通だ。
 小さな失敗に各々わずかに肩を落とし、それでも少しでも印象を良くしようと決意を新たにする。
「じゃあ、いい食材に巡り合えるように祈ってるからね。」
 門の前でシルクが足を止めて手を振った。
「?キミは行かないのか?」
「はい。料理担当なんです。おいしいもの作りますから、食べてってくださいね。」
「それは楽しみだな。食材になる獲物、頑張って探すよ。」
 そう言って別れて門を出てから、「ああ」とレイシーは振り返った。もうシルクの姿が見える距離ではないが、彼女を見ているようにして呟く。
「わざわざ見送りに、上の階層まで来てたのか。」
 それを変におもうだろうかとミクがフォローを入れる。
「あの子、心配性なんです。きっと待ってるのも不安なんですよ。」
「そうか、繊細な子だね。」
 今のはシルクにポイントが入ったか、とリナリーはこっそり舌打ちをした。



 この階層での狩りが初めてなのは本当のことだったが、危険なことはなく女4人で充分モンスターに立ち向かえた。
 レイシーの役目はせいぜい、皆で会話に夢中になっているときの警戒だけだ。少々退屈を感じて、メニュー画面から情報を覗いていた。
「よし。レイシー!移動しまーす!」
 辺りのモンスターを一掃し終え、ミクが声を掛けると、「ちょっと待ってくれ」と返事が返る。
「どうしたんですか?」
 一番近くにいたアカが歩み寄って覗き込むと、レイシーは地図を指さした。
「ここから少し西に行くと、食材になるモンスターがいるらしい。鳥だけど、どうする?」
「え!?マジ!?どんなの!?」
 リナリーも駆け寄ってレイシーのすぐ横で覗き込んだ。
 パッとモンスターの情報画面が出る。
「B級だな。稀にA級の部位も取れるってさ。」
「獲ろう!新しいメニュー出来るかも!」
 アマゾネスの狩りは元々、レベル上げよりも生活のための食材を集めるのが目的だ。皆、忘れていたものを思い出したかのように嬉々としてその場所に向かった。


「ハァ…A級は取れなかったわねー。」
 ササが残念そうに言った。
「あら、何か作る当てでもあったの?」
 普段淡々としている彼女ががっかりするのは、自分の興味の先に行きつけない時だ。ミクは少し笑ってそう訊ねた。
「うーん、ちょっとね。でも今日はB級の鶏肉でシルクの料理を堪能することにするわ。」
「キミも料理スキル上げてるのかい?」
 レイシーの問いに、いつにない優雅な笑みを向ける。
「ええ、まあそこそこに。」
 その横でアカがポロっと茶々を入れた。
「イチかバチかの大勝負な料理だよね。」
「アカー!?」
 ササが抗議の声を上げるが、リナリーが重ねて言う。
「なーによ。ホントのことじゃない。スキル足らずで上級料理に挑むチャレンジャーだよねー。」
「いいでしょ?成功するんだから!」
 笑い声を立てて、ミクが「そこが凄いわよね。」と褒めると、ササも納得して言い争いにはならずに済んだ。




 食事のあと、「楽しいチームだな」とレイシーが言った。いいチームだ、とさらに重ねる。
「アマゾネスって名前はやっぱり女ばかりだから?」
 その問いにはリーダーのミクが頷いた。
「ええ。男への牽制になるでしょ?」
「あはは。男お断り、か。」
 でも、と慌ててリナリーが割り込む。
「やっぱり女だけじゃ…ねぇ。物騒だし、一人ぐらい男の人にいてもらったほうがいいかなーなんて、アタシは最近思ってたのよね。」
『アタシは』に力を入れて、チームの本意ではないけどあえて、という強調をしたのは勿論ミクへ向けてのものだ。ミクの気持ちは分かってるよ、でも私は、という意見の提示として。
 それに対し、真っ向から反対意見をぶつけてくるかとリナリーは覚悟していたのだが、意外な反応が返ってくる。
「物騒…確かに…そう、かもね。」
 一人ぐらい、と小さく呟いたのも聞き取って、リナリーはドキリとした。
 その『一人』はレイシーだからこそだろう。今まで絶対に男を近づけようとしなかったミクが、彼なら仲間に入れてもいいと言った。それは彼女がかなり本気でレイシーのことを意識しているという証拠だ。もしかしたら、自分たちの中で一番本意かもしれない。
 そんな緊張を感じて、それから逃れようとリナリーは言葉を探す。
「でもね、うん、ミクはいろいろ苦い経験があったから、慎重になっちゃうんだよね。分かるよ。まあ、追い追い話し合うとして、…えーっと、…レイシーはどこのギルドにも属さないの?強いのに。」
 男を仲間に入れたくないと言ったのがミクだと主張したかったわけではないのだが、自分が意地悪くそれを口にした構図が出来上がってしまって、リナリーは激しく後悔する。もっと巧い話の逸らし方はなかったのかと。あとから弁解しても信じてもらえそうにない。
 そんなリナリーの心情は知らずに、レイシーは自身の身の振り方に悩んでいた。
「あー、リーダーがギルド嫌いでね。組むつもりはないらしい。…だから、ま、俺は自由っちゃ自由なんだよな。…どこかに入りたいって言えば…止められはしないと思う。」
 ただ良いところがなくてね、とレイシーは笑う。
「じゃあ、うちに入れば?…なんてね。」
 冗談めかして言ったのはシルクだ。先程のリナリーとミクの微妙な空気に気付かないフリをして、無責任にそう言ってみる。
「ありがたいけど、こっちも色々としがらみがね。…考えとくよ。」


「ミク…。言い訳はしない。でも、謝らせて。」
 ごめんなさい、とリナリーはこくりと頷くようなお辞儀をした。
「わかってる。気にしないで。」
 その返事が本心か否か、リナリーには測りかねた。
 寝室に入って行くミクの背中を眺めながら、
(ああ、これが『苦い経験』か)
と理解した。
 男が絡むと必ずいざこざが起きる。これがその真っただ中の状況。ただ、これまでと違うのは、ミク自身も彼に気があるということだ。
 リナリーは、閉じられたばかりのドアをノックした。
「ミク、聞こえる?」
「…何?」
「素直に…素直になんなさいよ!言ったでしょ!恨みっこなしだって!」
 返事はなかった。
 でもそれ以上つつくのは反則な気がして、リナリーも自分の寝室に向かった。

 ミクは戸惑っていた。これまで自分が避けてきた状況を、自ら作り出そうとしていることに。




 それから数回の狩りをレイシーと共にし、次第に打ち解けて軽口も言える仲になっていた。
 そんな時、ササが疑問に思っていたことを口に出した。
「言っちゃ悪いけど、レイシーのお仲間って…何ていうか…変わってるわよね。どうして一緒にいるのか不思議なんだけど。」
 一度しか見ていないから詳しくは分からないが、中年女性とオタクっぽい高校生男子と小学生男子という組み合わせにレイシーみたいな青年が紛れていることに違和感があった。
 そうよね、とミクも同意して、思いついたことを訊ねる。
「あの3人って、もしかして親子?」
 レイシーは少し笑って首を横に振った。
「ゲームの中で知り合っただけだよ。…まあ、リーダーのルーズは現実世界に子供がいるらしいから、母親みたいになっちまってるかもしれないが。」
 ふーん、とそれぞれ相槌を打って顔を顰める。
「子供がいるのに…お母さんがゲーム世界、か…気の毒は気の毒だけど…」
 どういう家庭なのかを想像して少し嫌な気分になる。
「親がゲームをするのが悪いわけじゃないけどサ、子供を放ってこういうダイブ形式のゲームに入っちゃうのって…どーかなって思うよね。」
 皆の思考を代表するようにリナリーが言った。単なる純粋な感想だった。
 それを受けてミクも続ける。
「きっと本人も後悔してるよ。だから、子供代わりにあの二人を連れてるんじゃないのかな。罪滅ぼしに…。」
 きっとそうだね、とササとアカも頷いた。
 4人とも特に悪意はない。むしろ、一般的な良識のある見解を口にしたつもりだった。
 ところがレイシーが足を止めた。まだ狩りに向かう道中、街を出てさほど経っていない。
「どうかしたの?」
 振り向いてミクが訊ねると、レイシーは背中を向けた。
「悪い、やっぱ今日は帰る。街へ戻ろう。」
「え?」
「急で申し訳ないが、…もう来ないよ。」
 言ってレイシーはスタスタと歩き出してしまった。
 慌てて追いかける。
「待って!あのっ!私たち何か…失礼なことを?」
 追いすがるようにミクがレイシーの歩調に合わせて訊ねると、彼は立ち止まった。
 困ったような笑顔を向けている。
「いや?多分、キミ達の考え方が世間一般のものだ。間違っちゃいない。俺もルーズの家庭のことなんか知らないから、違うとは言い切れない。…でも、違うよ。俺はあの人をそんな人だとは思えない。あの人は…そんな程度の低い人間じゃない。」
 ハッとして皆口々に謝ったが、レイシーはまた街に向かって歩き出した。
「謝らなくていい。キミ達は悪くない。…ただ…申し訳ないが、不愉快だ。」
 そう言ったきり、口を噤んでしまった。

 そのまま彼は、転移門から消えるまで振り向きもしなかった。



「まあ、良かったんじゃない?」
 話を聞かされたシルクが苦笑してそう言った。「残念だけどね。」と付け足す。
 そうだね、とソファーでクッションを抱きかかえてリナリーが言う。
「男が原因でうちらアマゾネスがバラバラにならずに済んだんだから。」
「そう…ね…」
 ミクがふわりと笑った。
 それにつられて皆が笑う。
「あー、みーんな、フラれちゃったねー。」
 あはは、という笑い声の中、それぞれが思う。
 このチームはきっと大丈夫だ、と。









 レイシーは仲間がいるはずの場所に向かいながら考える。
 この感情はなんだろう。何故あれほどまでに不快に思ったのだろう。
「母親…か?」
 いや、違うな、うん。
「家族だ。」
 この世界に来てからきっと深いところで渇望していたであろう家族。それを自分は手に入れていたのだ。もう、ずっと前から。
 仲間のところに着いてレイシーは笑顔を向けた。
「ただいま。ギルド組もうぜ。俺たち4人でさ。」



fin.
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