ショートショート

ルイスの日記



 CBの艦に収容されて、私は今病室にいる。
 地球の病院の近くまで連れて行ってくれるって言ってた。
 みんな優しくて、沙慈も優しくて。
 今私は穏やかです。


 私は憑き物が落ちたみたいにすっきりしてる。
 あの時まであったあの気持ちは何処から来たんだろう。

 確かに私はガンダムを怨んでた。
 だって、パパやママを殺したから。

 でも仇を目の前にしていた時の私はどうかしていたと思う。

 コイツさえ殺せば、またあの幸せな時間が戻ってくる。
 そう思ってた。
 パパやママが戻って来て、またあの頃に戻れる。
 でも違っていた。
 パパもママも戻って来なかった。当たり前だけど。

 その当たり前の事を理解できなくて、どうしたらパパやママが戻ってくるのかを考えて、次に思いついたのはCBを潰すこと。
 そうすればいいんだ。そうすれば幸せになれるんだ。
 コイツらさえ、コイツらさえ潰せば。

 馬鹿みたい。

 そんな馬鹿な考えで、私は沙慈を殺そうとしてた。

 あの時、何が起こったのか、私はあんまり覚えていない。
 後から沙慈に聞いた話だと、光に包まれて私は元に戻ったんだって。
 その光は、あの刹那って子のガンダムが出したものらしいんだけど…。

 不思議なことが起こったの。

 私、薬を飲まなくても苦しまなくなった。
 ここの医務室で見てもらったら、細胞異常が抑えられてるみたいだって。
 もしかしたら、再生治療が出来るかも知れないって言われた。

 嘘みたい。
 あんなに苦しかったのに。
 ホントに死ぬような苦しみだったのに。

 沙慈は毎日そばにいてくれる。
 私は、甘えていいんだ。
 昔みたいに。

「沙慈ぃ。」

 驚いた。
 私、まだこんな声を出せたんだ。
 こんな甘えた声。

 私が呼ぶと、優しい顔がこっちを向いた。
「何?ルイス。」
「この手。治るかな。」
「うん。きっと治るよ。」
「じゃあさ、もしこの手が治ったら、指輪、はめてくれる?」
「もちろん。」
 一段と優しい顔でそう返事をくれて嬉しかったけど、一つ気になることがあった。
「…でも、サイズ合うかな。」
 沙慈はにっこり笑った。
「大丈夫だよ。太りでもしない限り、ちゃんと元の手と同じサイズになる筈だから。」
「なによそれっ!私が太るわけないでしょ!?」
「え!?だ、だから、太りでもしない限りって、例え話みたいなものじゃないか。」
「例え話でも、女の子に太るって単語は厳禁なのっ!!」
 私がぷーっと膨れて見せると、沙慈はシュンとなった。
「ご、ごめん…。」
 その顔を横目で見て、昔を思い出した。
 こんなやり取り、何回やったかな。
 いつも私は沙慈を困らせてた。

「いいよ、許してあげる。」
 そう言って目を瞑って少し上を向いた。
 すると優しいキスが下りてきた。

 沙慈、男らしくなったじゃん。
 あの頃は私が迫ると困った顔をしてたのに。

 ううん、男らしいのはちょっと前から知ってた。
 だって、あんな戦場で、あんなにも一生懸命に、私を止めようとしてくれたんだもん。

「大好きだよ、沙慈。」
「僕もだよ。」

 これからもいっぱい迷惑かけると思うけど、よろしくね、沙慈。




fin.
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