蟻刹
床に座り込んでテレビゲームをするアリーを少し離れたところから見ていた刹那は、しばらく何やら考えるとつかつかと歩み寄った。
「おい。」
声を掛けても生返事しか返って来ない。
当然か、と思いつつ、いきなりアリーの手にあるコントローラーのスタートボタンを押した。
「おいっ、何だよ!」
アリーは刹那を見上げて眉間にしわを寄せている。
そんな表情も気にせず、刹那はアリーの真ん前に屈み込んだ。
普段から言葉数の少ない刹那だから、何をしたいのかは暫く行動を見なくては分からない。
訝しげな顔をしながらもアリーは黙って刹那を見ていた。
「…あのな…。」
刹那が屈み込んだだけでなく、腕の中に入り込んできたところでアリーは呆れたような声を出した。
それでも刹那は何も言わない。
そして最終的にアリーの腕の内側で、アリーに凭れる様に体を預ける格好になっている。
「どけよ。やりにくいだろうが。」
「気にするな。」
「邪魔なんだよ。」
「気にするな。猫だとでも思っておけ。」
「どこにンなでかい猫がいんだよ。」
すぐに何か言い返されるかと思っていたが、しばしの間が空く。
何だ?と思って顔を覗きこめば、微かに口元が緩んでいた。
「なーに笑ってやがんだ。」
「でかいと言った。」
は?とアリーは眉を顰めたが、すぐに思い至って頭を小突いた。
「馬鹿か。猫と比べてでかいのがそんなに嬉しいかよ。」
そう言っても刹那はめげる様子もない。
「小さいと思うなら気にしなければいい。」
「邪魔だっつってんだろうが!これからラスボス戦突入すんだよ!」
じっとアリーを見上げ、刹那は言った。
「どんな不利な状況に置かれても、それを切り抜けて勝って見せるのが格好良いんじゃないか?」
ムッとしつつアリーもじとーっと刹那を見た。
それから一転口元に笑みを浮かべる。
「見てろよ?…言っとくが視界遮ったら容赦なく蹴り飛ばすからな。」
「わかった。」
十数分後。
「うっしゃ~!!」
得意げな顔で、どうだ?と見下ろすアリーに刹那はまた一言。
「手間取ったな。」
むかっ!
てめ~!!と凄みながらアリーは刹那の首を絞めにかかった。
fin.