蟻刹

静寂の中



 チッと舌打ちをして新聞を投げ捨てる。

 面白くない。
 こいつらとかかわって以来、ロクな事がない。

「何を怒っている。」

 刹那が床に落ちた新聞を拾い上げた。
 不機嫌に目を逸らしつつ、アリーはもう一度舌打ちをした。

「分かってるくせに訊くんじゃねーよ。」

 その様子に刹那は笑みを漏らす。

「分からないから訊いている。俺はすこぶる機嫌がいいしな。」

 そうですか、そりゃあ良かった、と取って付けたような文句を返し、アリーは不貞腐れたようにソファに寝転がった。
 その背もたれに軽く腰を掛けて、刹那は笑みをたたえたまま見下ろす。

「久しぶりにのんびりできるだろ?お互い。」
「それが気にくわねーってんだ。」

 お前らをぶっつぶして俺は儲けた金で遊ぶ予定だったんだよ。
 そんな事をブツブツという様子にも刹那はクスリと笑った。

「俺達が負けていても、お前の望む世界があったとは思えないが。」
「お前らを殺ってからアイツも殺す予定だったんだよ。金をたんまり貰ってからな。」
「…お前にリボンズ・アルマークを殺せたとは思えない。」

 三度目の舌打ちをするとアリーはガバッと起き上がって刹那の顔を指差した。

「見くびんじゃねぇよ。あのヴェーダってコンピューターがアイツのウィークポイントだってことくらい知ってたんだ。
アレを壊しちまえばどうにでもできんだろ。」
「どうかな…。」
「てめぇに殺れて俺に殺れねぇ訳ねぇだろうが。」
「フフッ。まあ、そうかもな。」

 終始笑みを崩さない刹那。
 顔を顰めるアリー。

「面白くねぇ。」
「何が?」
「お前が笑ってる事が、だよ。」
「俺だって人間だ。笑う事もある。」
「その笑顔は俺をバカにしてるだろ。」
「そう感じるのはお前が悔しいからだろ?」

 ムッとしてアリーは頬杖をついた。
「珈琲。」
「ん?」
「珈琲、淹れろ。」
「…インスタントだぞ?」
「何でもいいから早くしろ。」

 了解、と返事をして刹那はキッチンに向かった。

 お互い相手を殺す理由は山ほど在る筈なのに、刹那は笑みを見せる様になった。
 アリーはそれをまだ素直には受け止められずにいる。
 自分が生かされているのだっておかしな話だ。
 刹那の仲間にはそれこそ一も二もなく撃ち殺したいと思っている奴がいる筈なのだし。
 それを説得したのは刹那だろうか。
 何の為に…。
 そんな事を考えていると、目の前にカップが差し出された。

「ん。」
「ああ。」

 一口飲んで吹き出しそうになる。

「てめっ!砂糖入れやがったな!?」
「旨いだろ?」
「マズイ!!」
「たまには甘い珈琲も飲んでみろ。気分が変わる。」

 アリーは無言で刹那を睨み、珈琲を口に運んだ。

 一口啜って刹那を乱暴に引き寄せる。
「アリーっ!?」
 文句を言いかけた口に唇を重ねて、珈琲を流し込む。

「こんな餓鬼の飲みもんはテメェが飲んでろ。」

 ニッと勝ち気に笑って見せるアリーに刹那も同じように笑って返した。

「お前が飲ませてくれるなら飲んでもいい。」






fin.
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