ティエ×ライ

待ち合わせ



 待ち合わせの場所に着くと、そこにはもうティエリアが来ていた。
 駅前の噴水の前、おそらく目立たないようにと植え込みの窪地に陣取っていたのだろう。
 しかし彼の風貌はその程度の配慮で人目を避けることはできなかったようだ。
 彼より少し背の低い二人連れの女性に声を掛けられていた。
 ライルは少し面白くなく、数m離れた場所で立ち止まってじっと見つめた。

 こっちに気付けよ、と。

 念が通じたのか、ティエリアは一瞬こちらに目を向けた。
 しかもその一瞬で射抜くような視線を送ってくる。
 ライルは先程の不快な感情も忘れて唖然とした。
 今のは何だ?
 あれこれ考えても、これという意味は浮かんでこない。
 とにかくさっきのはどちらかというと威嚇に近い、と思うばかりだ。

 少々ショックに思ってゆっくりと距離を取る。
 なんで待ち合わせの相手に威嚇されなきゃならないんだ。
 大体今日誘ってきたのは向こうじゃないか。
 そんな事を思いながら移動し、ちらっと振り返ってもやはりまだティエリアは女性二人と喋っていた。
 ちくしょう。
 口の中でぼやいて、ライルは木の陰で立ち止った。
 ここなら視界に苛立つ原因を入れなくて済む。
 待ち合わせの相手との距離を感じつつ、懐から煙草とライターを出した。

 いつもと違い、それは心もとない手応えで手のひらに収まった。
 夏祭りに行くのだからと浴衣で出てきたのだ。
 財布も煙草もどこに収めようかと出がけに迷ったが、結局胸元に無造作に突っ込んだだけだった。
 そう、慣れないこんな格好までして出てきたのは、勿論ティエリアからの誘いだったからだ。
 それなのにこの仕打ちはないだろうとライルは腹立ちまぎれに煙草に火を点けた。

 煙草の煙をくゆらせてしばらく経った頃、やっとティエリアがやってきた。
「待たせた。行こうか。」
 それだけを言って歩き出すティエリアをじとっとした視線で眺めるライルの足取りは重い。
 それに気づいたのか、ティエリアは足を止めた。
「どうかしたのか。」
「…別に?」
 そう答えてライルが横を向くと、パッとティエリアが煙草を奪った。
「あ…。」
「歩きたばこは危険だ。特にこんな時は。」
 通りがかりにあった灰皿に押しつけて火を消す。
「…わーってるよ…。」
 また不機嫌な声で返した。
 するとティエリアが不敵な笑みを見せた。
「君の不機嫌な理由は想像がつくが…。」
 そう言ってフフッと軽く噴き出す。
「なんだよっ。」
「失礼。私も口がうまくなったものだと思ってね。」
「は?どこが。」
「さっきの女性二人、見ただろう?どうやら祭りに連れ立っていく相手を探しているらしいんだが、少々手を焼いていたんだ。」
 それをうまく追い払えたとティエリアは口角を上げる。
 それで時間がかかったのかと一応合点がいったものの、さっきの威嚇の視線は納得がいかない。
 ライルはまだ不機嫌に「ふーん?」と相槌を打つ。
 それくらい俺が追い払ってやったのに、と独り言のように呟くと、またティエリアが笑った。
「君が来たら逆効果だ。いい男二人を、あの積極的なお嬢さんたちが放っておくはずがないだろう?」
 だから来るなと念じたのだと言う。
「…念じたって…あれは威嚇されたんだと思ったぜ。」
「まあ、意図は伝わっていたわけだ。」
 結果オーライだとティエリアは歩き出す。
 その背中を追いかけてライルもすぐ後ろを歩きながらふと思った。

 その姿なら…。

「あんたなら女に声掛けられないようにできるんじゃないか?」
 どうやって?とティエリアは小さく振り向く。
「女モンの浴衣を着りゃあいい。その浴衣よりよっぽど似合うと思うけどね。」
「なるほど。」
 てっきり反論されると思っていたのに、意外に同意の返事が返ってきた。
「そういう案は事前に言ってほしいものだな。そうすれば準備ができたのもを。」
 意外すぎて言葉を返せずにいると、ティエリアは続けて言った。
「君の背丈に合わせて。」
「!!??」
 はあ!?と声を出そうとして、ライルは咳き込んでしまった。
「なんでそうなんだよっ!」
 息を整えてやっとそう言うと、ティエリアはしれっと返す。
「私が女物の浴衣を着て君と並んだのでは絵になりすぎて面白みに欠ける。ここは君が女装するべきだろう。」
 そうすれば彼女がいるからと断れるわけだし。なんてことも付け足して、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

 ティエリアといると圧されてしまうのは性格所以なのか、それとも惚れた弱みだろうか。



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