ティエ×ライ
誘惑
ある部屋のドアが開いていることに気付き、ティエリアは中を覗いた。
誰もいないのかと足を踏み入れてみると、ソファに横になっている人物が目についた。
「ライル・ディランディ…。」
呼ぶでもなく口に出してから、起こしてしまったんじゃないかと拳で口元を隠した。
ライルはぐっすりと眠っている。
手に持った雑誌は開いたまま、ドアも開けっぱなしだったことからして眠るつもりではなかったのだろう。
クスッと笑みを漏らす。
そういえばこのところシミュレーションばかりやっていた。
もっと訓練をしろと言った張本人はティエリアなのだが…。
(しかし…限度を考えて欲しいものだ。)
いざ戦闘に入って体調が万全でないでは元も子もない。
ティエリアは収納からブランケットを出し、そっとライルに掛けた。
その感触にも起きる気配はない。
(よほど疲れているのだな…。仕方のない…。)
足音をたてないように気を付けて、ドアに向かった。足を一歩踏み出して、ふと思い付く。
どうせ1時間ほどで起こさなくてはならないのだ。
傍らで本でも読んで、時間になったら声を掛けよう。
内側からドアを閉めると、表示を仮眠中にして鍵をかけた。
ライルの手からそっと雑誌を奪い、それを開きつつすぐ傍の一人掛けのソファに座る。
特に興味のないスポーツ記事をぺらぺらとめくって飛ばすと、今度はまた興味の湧かない芸能記事だった。
これでは自分の興味を引く記事を探している間に眠くなりそうだ。
そう思ってライルに目をやる。
ああ、彼もそれで眠くなったのか。
ライルがその記事に興味があるかないかなどティエリアには分からなかったが、彼が眠っているのが何よりの証拠だと思った。
もう一度ぱらぱらと捲り、一気に最後のページまで行くと雑誌を閉じてマガジンラックに戻した。
こんな物を見ているより…。
彼の顔を眺めていた方が有意義だ。
そんな事を考えて、じっとライルの顔に見入った。
端正な顔立ちにふわっとした柔らかそうな髪が掛かる。
その髪に触れたくて、ティエリアはそっと近づいた。
ライルの前髪を軽く指に巻きつけるようにしても起きそうにないのを見て、もう片方の手をソファ背もたれにつくと上体を屈めた。
間近で息を殺しつつ見詰める。
(無防備すぎだな…。)
何処まで気付かないのだろうという好奇心に駆られ、ライルの腹の傍に膝をついた。
ゆっくりと体重を掛けるとそれに合わせてソファが沈んだ。
微かにピリピリとまつ毛が揺れたようだ。
(覚醒…するか…?)
ティエリアは静かに笑み、息がかかる程に顔を近付けた。
目を開けて、目前に顔を見つけたらどう反応するだろう。
ライルの息が頬にかかった。
恐らくティエリアの息も彼の頬に当たっている筈だ。
(…まだ起きないのか…しぶといな。)
数秒の後、痺れを切らしてティエリアは唇を微かにライルの頬に当てた。
ライルのまぶたに力が入り、小さく「ん…。」という声と共にうっすらと目が開く。
ボーっとした瞳は焦点の合わないままティエリアを視界に入れた。
「もう一度、しようか?」
ティエリアの声にライルはまだ半覚醒のまま、返事ともつかない声を出した。
「ん~…?」
それを勝手に肯定の返事として受け取ると、ティエリアはしっかりと唇を当てた。
今度は頬ではなく唇に。
やっとはっきりと覚醒したライルはいきなりの状況に驚いて目を見開いた。
体を起こそうと背もたれを掴むが、ティエリアが覆いかぶさるようになっているため身動きがとれない。
じたばたとして身をよじると唇が離れた。
ティエリアは楽しげに見下ろしていた。
「な、な、な、何を…。」
「キスをしたのだが。」
「したのだがって…、こんな所で…。」
「心配するな。鍵を掛けてある。」
ホッとすると同時に、相手の意図が分からず驚く。
「…か…ぎ…?」
「そう、鍵、だ。二人きりになりたかったので。」
ストレートな言葉にライルは頬を染め、ふいっと目を逸らした。
「…その…もうすぐ…招集がかかるんじゃないのか?」
作戦会議がある筈だと思いだして言うと、ティエリアはフフンと笑って見せる。
「まだ30分以上もある。急ぐ必要はない。折角だから、君のその艶めかしい姿を眺めていようと思ってね。」
「なっ…。」
艶めかしいと言われ、どこが、と慌てて返した。
「少し崩れて頬にかかった柔らかい髪、ちらりとのぞく胸元、けだるそうな表情、それに加えて、微かに上気したその顔…。ピンクに染まった頬がまた何とも。」
「何言ってんだよっ!」
ボッと火を噴くように赤くなった顔を背け、ティエリアの体を押した。
ティエリアは体を離しながら続ける。
「ああ、忘れていた。その襲ってくださいと言わんばかりの態勢もなかなか。」
「言ってねーっって!」
「私もまだまだ人間が出来ていないな。君の誘惑についふらふらと。」
「誘惑してねーからっ!」
立ち上がってライルを見下ろしているティエリアは、何か納得したように頷いた。
「無自覚か。恐ろしい。その色香で余計な人間を惑わしてしまわないとも限らないな。…よし。」
「な…何だよ…。」
しっかりと起き上がり、開いた襟元を閉めて、ライルは警戒するような顔を見せた。
その顔にティエリアは余裕の笑みを向ける。
「君の無自覚がどれほどの罪かを教えてやろう。次の空き時間に、君の部屋で。」
ある部屋のドアが開いていることに気付き、ティエリアは中を覗いた。
誰もいないのかと足を踏み入れてみると、ソファに横になっている人物が目についた。
「ライル・ディランディ…。」
呼ぶでもなく口に出してから、起こしてしまったんじゃないかと拳で口元を隠した。
ライルはぐっすりと眠っている。
手に持った雑誌は開いたまま、ドアも開けっぱなしだったことからして眠るつもりではなかったのだろう。
クスッと笑みを漏らす。
そういえばこのところシミュレーションばかりやっていた。
もっと訓練をしろと言った張本人はティエリアなのだが…。
(しかし…限度を考えて欲しいものだ。)
いざ戦闘に入って体調が万全でないでは元も子もない。
ティエリアは収納からブランケットを出し、そっとライルに掛けた。
その感触にも起きる気配はない。
(よほど疲れているのだな…。仕方のない…。)
足音をたてないように気を付けて、ドアに向かった。足を一歩踏み出して、ふと思い付く。
どうせ1時間ほどで起こさなくてはならないのだ。
傍らで本でも読んで、時間になったら声を掛けよう。
内側からドアを閉めると、表示を仮眠中にして鍵をかけた。
ライルの手からそっと雑誌を奪い、それを開きつつすぐ傍の一人掛けのソファに座る。
特に興味のないスポーツ記事をぺらぺらとめくって飛ばすと、今度はまた興味の湧かない芸能記事だった。
これでは自分の興味を引く記事を探している間に眠くなりそうだ。
そう思ってライルに目をやる。
ああ、彼もそれで眠くなったのか。
ライルがその記事に興味があるかないかなどティエリアには分からなかったが、彼が眠っているのが何よりの証拠だと思った。
もう一度ぱらぱらと捲り、一気に最後のページまで行くと雑誌を閉じてマガジンラックに戻した。
こんな物を見ているより…。
彼の顔を眺めていた方が有意義だ。
そんな事を考えて、じっとライルの顔に見入った。
端正な顔立ちにふわっとした柔らかそうな髪が掛かる。
その髪に触れたくて、ティエリアはそっと近づいた。
ライルの前髪を軽く指に巻きつけるようにしても起きそうにないのを見て、もう片方の手をソファ背もたれにつくと上体を屈めた。
間近で息を殺しつつ見詰める。
(無防備すぎだな…。)
何処まで気付かないのだろうという好奇心に駆られ、ライルの腹の傍に膝をついた。
ゆっくりと体重を掛けるとそれに合わせてソファが沈んだ。
微かにピリピリとまつ毛が揺れたようだ。
(覚醒…するか…?)
ティエリアは静かに笑み、息がかかる程に顔を近付けた。
目を開けて、目前に顔を見つけたらどう反応するだろう。
ライルの息が頬にかかった。
恐らくティエリアの息も彼の頬に当たっている筈だ。
(…まだ起きないのか…しぶといな。)
数秒の後、痺れを切らしてティエリアは唇を微かにライルの頬に当てた。
ライルのまぶたに力が入り、小さく「ん…。」という声と共にうっすらと目が開く。
ボーっとした瞳は焦点の合わないままティエリアを視界に入れた。
「もう一度、しようか?」
ティエリアの声にライルはまだ半覚醒のまま、返事ともつかない声を出した。
「ん~…?」
それを勝手に肯定の返事として受け取ると、ティエリアはしっかりと唇を当てた。
今度は頬ではなく唇に。
やっとはっきりと覚醒したライルはいきなりの状況に驚いて目を見開いた。
体を起こそうと背もたれを掴むが、ティエリアが覆いかぶさるようになっているため身動きがとれない。
じたばたとして身をよじると唇が離れた。
ティエリアは楽しげに見下ろしていた。
「な、な、な、何を…。」
「キスをしたのだが。」
「したのだがって…、こんな所で…。」
「心配するな。鍵を掛けてある。」
ホッとすると同時に、相手の意図が分からず驚く。
「…か…ぎ…?」
「そう、鍵、だ。二人きりになりたかったので。」
ストレートな言葉にライルは頬を染め、ふいっと目を逸らした。
「…その…もうすぐ…招集がかかるんじゃないのか?」
作戦会議がある筈だと思いだして言うと、ティエリアはフフンと笑って見せる。
「まだ30分以上もある。急ぐ必要はない。折角だから、君のその艶めかしい姿を眺めていようと思ってね。」
「なっ…。」
艶めかしいと言われ、どこが、と慌てて返した。
「少し崩れて頬にかかった柔らかい髪、ちらりとのぞく胸元、けだるそうな表情、それに加えて、微かに上気したその顔…。ピンクに染まった頬がまた何とも。」
「何言ってんだよっ!」
ボッと火を噴くように赤くなった顔を背け、ティエリアの体を押した。
ティエリアは体を離しながら続ける。
「ああ、忘れていた。その襲ってくださいと言わんばかりの態勢もなかなか。」
「言ってねーっって!」
「私もまだまだ人間が出来ていないな。君の誘惑についふらふらと。」
「誘惑してねーからっ!」
立ち上がってライルを見下ろしているティエリアは、何か納得したように頷いた。
「無自覚か。恐ろしい。その色香で余計な人間を惑わしてしまわないとも限らないな。…よし。」
「な…何だよ…。」
しっかりと起き上がり、開いた襟元を閉めて、ライルは警戒するような顔を見せた。
その顔にティエリアは余裕の笑みを向ける。
「君の無自覚がどれほどの罪かを教えてやろう。次の空き時間に、君の部屋で。」