ティエ×ライ
誘導
ティエリアの「Ms.スメラギ」という呼び方が気になりはしたが、あの後何度話題に上っても必ずそう呼んでいたから俺もそれに合わせていた。
だからすっかりクセになっていたもんだから…。
「Ms.スメラギ。さっきの作戦の話なんだが…。」
ブリッジに行ってそう話しかけると、彼女はハッとしたような顔をした。
彼女だけじゃない。周りのクルーも一斉に俺を見た。
「…?…どうか…したのか?」
俺がおずおずと訊ねると、スメラギ女史は苦笑を見せた。
「ごめんなさい。何でもないの。ただ…双子って妙な所が似るものだなって。」
「え?」
「あなたのお兄さんも、私の事をそう呼んだのよ。あまりそんな呼び方する人居ないから…。」
兄さんが…?
でもティエリアもそう呼んでたぞ、と思って聞いてみた。
「え…。ティエリアは?」
「ティエリア?」
彼女は意外な事を聞かれたという表情で首を傾げた。
「彼は誰のことでもフルネームで呼ぶわよ? あなたもそんな風に呼ばれてるでしょう?」
あのやろう!!
唐突に理解してカッと頭に血が上った。
俺はスメラギ女史に話しかけたことも忘れて、すぐにティエリアの所に向かった。
「ティエリア!!」
声を荒げて呼ぶと自室にいたアイツはいつもの無表情でドアを開けた。
「…随分と気を荒立てているな。…何か用か?」
「何かじゃねーよ!お前っ!」
怒りにまかせて部屋に足を踏み入れると、ティエリアはその気迫に圧されたように数歩下がって部屋の中央に立った。
顔を指差し、俺は言った。
「俺に兄さんと同じ呼び方させただろ!?」
「…何の話だ…。」
しらばっくれるというよりは、俺の説明が足りないせいで本当に分かっていない風だった。
「スメラギ女史のことだよ!!兄さんが『Ms.スメラギ』って呼んでたんだってな!?」
ややあって、ティエリアは「ああ。」と答えた。
「確かに前のロックオン・ストラトスはそう呼んでいたが…それがどうかしたのか?」
「どうかした、じゃねぇだろ!? 俺に同じ呼び方させる為に俺の前でだけその呼び方を使ってたんだろうが!!」
こちらが怒っているのに、今度は完全にしらばっくれる態度だ。
悪びれもせずに返してくる。
「それは勘ぐりというものだ。私が彼女のことをどう呼ぼうと君には関係ないのだし、私がそう呼ぶように強要したわけでもない。君が勝手に真似したのだろう? そんな事で怒りをぶつけられるのは筋違いといだと思うが。」
「強要はされてねぇけど、誘導はされたぜ! それを見越してたんだろ!?」
するとティエリアは一旦目を逸らし、また真っ直ぐこちらを見た。
「…誘導したとして…それのどこに問題がある。」
「開き直りかよッ!!」
俺がそう切り返すと、ティエリアは溜め息を零した。
「誘導した気はないが、誘導したとして問題があるのかと聞いている。」
「大ありだろうが!!」
「だからどうしてかを言って欲しいな。」
そんなの決まっているだろう!?と言おうとして躊躇した。
「どうした、ライル・ディランディ。」
一歩ティエリアが近付いてきた。
俺はたじろぎつつ目を逸らして言った。
「…アンタは俺を兄さんの代わりに…しようとしてるんだろ…。」
「そんなつもりは毛頭ない。」
即答されて言葉に詰まる。
「じゃあ何で…兄さんと同じ呼び方をさせたんだ…。」
「させたつもりはない。」
「嘘だ。」
顔を背けたまま横眼で睨むように見ると、ティエリアはまた一歩近付いた。
俺の腕に手を添えて見上げてくる。
「嘘だとして…君はどうしてそれに怒るんだ?」
「当たり前だろ…。」
「わからない。君の口から言って欲しいな。なぜ、そんなに怒るのかを。」
「だから…俺は兄さんじゃない…。」
「それは分かっている。」
「アンタは…俺じゃなくて兄さんを見てるんだろ。…俺は俺だ。」
「分かっている。君はライル・ディランディだ。だから?」
「兄さんの代わりになんかなるつもりはない。」
またティエリアは溜め息を吐いた。
「分かった。謝ろう。」
謝ってほしい訳じゃない。
俺を俺だと認めて欲しいんだ。
「さっきのは君の言うとおり、嘘だ。すまない。」
「そこかよっ! 俺の言ってるのは…。」
「君が兄にコンプレックスを持っているのは知っている。それを弄ぶようなことをして悪かった。」
「…もういい…。」
「他にも何か?」
「俺を…。」
兄さんじゃなく、俺を見てくれ。
そう、言いたかった。
「ひとつだけ、反論しておかなくてはいけないことがある。」
ティエリアは思い出したように言った。
「君を君の兄の代わりにしようと思ったことはない。君と彼はまるで違うからな。」
「じゃあ何で誘導したんだよ!」
俺がまたトーンを上げて言うと、ティエリアは笑みを見せた。
「そうやって君が拗ねるのが楽しい。」
「なんだよそれっ!」
「だから謝っているだろう?…足りないというなら、これで許してほしいな。」
一方の手は俺の二の腕を引いて、もう片方の手は頬から後頭部に滑って…。
ハッと息を飲むと同時に、ティエリアは唇を重ねてきた。
「ライル。」
「…ティエ…リア…。」
「君は扱いやすくて面白い。」
「はあ!?」
「ニール・ディランディとはまるで別人だ。」
「その理解のされ方も嬉しくねーよ!」
「そういうところが好きなのだが…気に入らないか。」
好き、という単語に俺は思考が一瞬停止した。
「気に入らないなら改めようか。」
「あーっ!改めなくていい!!」
「本当に?」
「本当にっ。」
その答えにティエリアは勝ち誇ったようにニヤリと笑った。
嫌な予感がする。
「なら、遠慮なく。」
しまった…。
これからずっと俺は弄ばれることになるかもしれない…。
ティエリアの「Ms.スメラギ」という呼び方が気になりはしたが、あの後何度話題に上っても必ずそう呼んでいたから俺もそれに合わせていた。
だからすっかりクセになっていたもんだから…。
「Ms.スメラギ。さっきの作戦の話なんだが…。」
ブリッジに行ってそう話しかけると、彼女はハッとしたような顔をした。
彼女だけじゃない。周りのクルーも一斉に俺を見た。
「…?…どうか…したのか?」
俺がおずおずと訊ねると、スメラギ女史は苦笑を見せた。
「ごめんなさい。何でもないの。ただ…双子って妙な所が似るものだなって。」
「え?」
「あなたのお兄さんも、私の事をそう呼んだのよ。あまりそんな呼び方する人居ないから…。」
兄さんが…?
でもティエリアもそう呼んでたぞ、と思って聞いてみた。
「え…。ティエリアは?」
「ティエリア?」
彼女は意外な事を聞かれたという表情で首を傾げた。
「彼は誰のことでもフルネームで呼ぶわよ? あなたもそんな風に呼ばれてるでしょう?」
あのやろう!!
唐突に理解してカッと頭に血が上った。
俺はスメラギ女史に話しかけたことも忘れて、すぐにティエリアの所に向かった。
「ティエリア!!」
声を荒げて呼ぶと自室にいたアイツはいつもの無表情でドアを開けた。
「…随分と気を荒立てているな。…何か用か?」
「何かじゃねーよ!お前っ!」
怒りにまかせて部屋に足を踏み入れると、ティエリアはその気迫に圧されたように数歩下がって部屋の中央に立った。
顔を指差し、俺は言った。
「俺に兄さんと同じ呼び方させただろ!?」
「…何の話だ…。」
しらばっくれるというよりは、俺の説明が足りないせいで本当に分かっていない風だった。
「スメラギ女史のことだよ!!兄さんが『Ms.スメラギ』って呼んでたんだってな!?」
ややあって、ティエリアは「ああ。」と答えた。
「確かに前のロックオン・ストラトスはそう呼んでいたが…それがどうかしたのか?」
「どうかした、じゃねぇだろ!? 俺に同じ呼び方させる為に俺の前でだけその呼び方を使ってたんだろうが!!」
こちらが怒っているのに、今度は完全にしらばっくれる態度だ。
悪びれもせずに返してくる。
「それは勘ぐりというものだ。私が彼女のことをどう呼ぼうと君には関係ないのだし、私がそう呼ぶように強要したわけでもない。君が勝手に真似したのだろう? そんな事で怒りをぶつけられるのは筋違いといだと思うが。」
「強要はされてねぇけど、誘導はされたぜ! それを見越してたんだろ!?」
するとティエリアは一旦目を逸らし、また真っ直ぐこちらを見た。
「…誘導したとして…それのどこに問題がある。」
「開き直りかよッ!!」
俺がそう切り返すと、ティエリアは溜め息を零した。
「誘導した気はないが、誘導したとして問題があるのかと聞いている。」
「大ありだろうが!!」
「だからどうしてかを言って欲しいな。」
そんなの決まっているだろう!?と言おうとして躊躇した。
「どうした、ライル・ディランディ。」
一歩ティエリアが近付いてきた。
俺はたじろぎつつ目を逸らして言った。
「…アンタは俺を兄さんの代わりに…しようとしてるんだろ…。」
「そんなつもりは毛頭ない。」
即答されて言葉に詰まる。
「じゃあ何で…兄さんと同じ呼び方をさせたんだ…。」
「させたつもりはない。」
「嘘だ。」
顔を背けたまま横眼で睨むように見ると、ティエリアはまた一歩近付いた。
俺の腕に手を添えて見上げてくる。
「嘘だとして…君はどうしてそれに怒るんだ?」
「当たり前だろ…。」
「わからない。君の口から言って欲しいな。なぜ、そんなに怒るのかを。」
「だから…俺は兄さんじゃない…。」
「それは分かっている。」
「アンタは…俺じゃなくて兄さんを見てるんだろ。…俺は俺だ。」
「分かっている。君はライル・ディランディだ。だから?」
「兄さんの代わりになんかなるつもりはない。」
またティエリアは溜め息を吐いた。
「分かった。謝ろう。」
謝ってほしい訳じゃない。
俺を俺だと認めて欲しいんだ。
「さっきのは君の言うとおり、嘘だ。すまない。」
「そこかよっ! 俺の言ってるのは…。」
「君が兄にコンプレックスを持っているのは知っている。それを弄ぶようなことをして悪かった。」
「…もういい…。」
「他にも何か?」
「俺を…。」
兄さんじゃなく、俺を見てくれ。
そう、言いたかった。
「ひとつだけ、反論しておかなくてはいけないことがある。」
ティエリアは思い出したように言った。
「君を君の兄の代わりにしようと思ったことはない。君と彼はまるで違うからな。」
「じゃあ何で誘導したんだよ!」
俺がまたトーンを上げて言うと、ティエリアは笑みを見せた。
「そうやって君が拗ねるのが楽しい。」
「なんだよそれっ!」
「だから謝っているだろう?…足りないというなら、これで許してほしいな。」
一方の手は俺の二の腕を引いて、もう片方の手は頬から後頭部に滑って…。
ハッと息を飲むと同時に、ティエリアは唇を重ねてきた。
「ライル。」
「…ティエ…リア…。」
「君は扱いやすくて面白い。」
「はあ!?」
「ニール・ディランディとはまるで別人だ。」
「その理解のされ方も嬉しくねーよ!」
「そういうところが好きなのだが…気に入らないか。」
好き、という単語に俺は思考が一瞬停止した。
「気に入らないなら改めようか。」
「あーっ!改めなくていい!!」
「本当に?」
「本当にっ。」
その答えにティエリアは勝ち誇ったようにニヤリと笑った。
嫌な予感がする。
「なら、遠慮なく。」
しまった…。
これからずっと俺は弄ばれることになるかもしれない…。