ティエ×ライ

戯れ


「ライル・ディランディ。」

 俺は気付かれないように溜め息をついた。
 ティエリアはいつも他に人が居ないと俺を本名で呼ぶ。
 兄さんに対して特別な思い入れがあるようだから、ロックオンと呼ぶのは皆の前だけにしたいんだろう。

 …にしても、だ。
 いい加減こっちだって嫌になってくる。
 そんなに俺が兄さんの名前を使うのが気に入らないのか。
 なら他のコードネームをくれと言いたい。

「ライル・ディランディ、聞こえないのか。」
「何だよ。」

 機嫌悪く返してやると向こうも顔をしかめた。

「君が不機嫌なのは勝手だが、こちらに当たらないでもらいたいな。」

 お前のせいなんだよ。
 そう思ったら自然と口は舌打ちをしていた。

「…分からないな。何が気に入らない。」

 真っ直ぐに見てくる視線を避け、おもっきり首を横に向けて答えた。

「呼び方だよ。…そんなに俺がロックオンと名乗るのが気にくわねーかよ…。」

 俺の言葉に小さく「え」と声を出したきり何も言わないティエリアが気になって、ちろっと横目で見てみる。

 と…。
 いつになく真摯な表情で俯いていた。

 今度は俺が「え」と声を出す番だった。
 居心地が悪くて問いかけてみた。

「…な…何だよ…。」
「…そうだったのか。申し訳ない。」
「な…何いきなり謝ってんだよ。お前らしくない。」
「私の呼び方に傷ついていたんだな、君は。申し訳ない。…しかし…私は君がロックオンと呼ばれる度に重荷を背負っているのではないかと、…そう…思っていたんだ。すまない。気がつかなくて。」

 ハッとして俺は慌てて答えた。

「いやっ…その…こっちこそ悪かった。そういうつもりで呼んでくれんなら、いいんだ。ちょっと、…勘ぐりすぎた…。」

 コイツも結構いいとこあるな。
 悪いこと言っちまった。

 まだ俯いているティエリアに、場を明るくしようと言葉を掛けた。

「それならさ…、もっとこう、フレンドリーに名前だけで呼んでくれりゃあ、分かりやすかったかもな。」

 ニコッと笑顔を見せると、ティエリアは急に顔を上げた。

「ライル。」

 呆気に取られ、俺は笑顔のまま固まった。
 まさかホントに呼ばれるとは思っていなかった。
 数秒間呆けていると、ティエリアは真顔で目を細めた。

「なんだ。気に入らないのか。」
「えっ! いや、違うぞ!?」
「いや、今の様子は気に入っていない。元の呼び方に戻すことにしよう、ライル・ディランディ。」
「いや、いいんだって! ライルでいいっ!」
「気を使わなくていい。やはり気に入らない呼び方は気分を害するだろう、ライル・ディランディ。」
「気を使ってるわけじゃないって!」
「それともやはり、ロックオン・ストラトスと呼んだほうがいいか?ライル・ディランディ。」
「だからっ!ライルでいいんだって!」
「君は優しいからそう言うのだろうが、それでは公正ではない。そう思わないか?ライル・ディランディ。」

 埒が明かない。
 折角、一歩近付くチャンスだったってのに、おもいっきり逃してしまった…。








 それ以来…。

「ライル…」

 そう呼ばれて期待一杯に相手を見れば、すぐに付け足される。

「ディランディ。」

 肩を落とすとティエリアは片方の頬を微かに引き上げた。
 コイツ…ワザとやってるな…。


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