メゾネット・ソレスタル
父親
アレルヤは溜め息をついた。
傍にはフェルトがいるが、特に気にする様子は無い。
それと言うのもその溜め息がもう数日前からの恒例になっているからだ。
誰も気にしてくれないのがかえって気まずく、アレルヤは苦笑いで話し出す。
「最近、マリーと会えなくて、ね。ごめん、溜め息吐いたりして。」
「いえ。…電話してみたらどうですか?」
出来ないよと返事が返ってくるのを知りながら、フェルトは他に会話の広げ方が分からなくてそう言った。
「それは出来ないよ。」
やはり帰ってきた答えに、次は何を言えばいいか本当に分からなくなってしまった。
フェルトがそれ以上何もいわないため、アレルヤはまた苦笑いだ。
アレルヤは数日前、マリーの父親であるセルゲイ・スミルノフに出入り禁止を言い渡されてしまったのだ。勿論電話も禁止である。
しかし、実を言えばアレルヤに罪は無い。
彼は誠実だしマリーのところの家人への態度もきちんとしていて、元々は気に入られていた。
だから互いに行き来していたし、二人は公認の仲なのだが…。
原因はハレルヤの素行だった。
アレルヤがマリーと付き合いだしたのと同時期に、ハレルヤはマリーの双子の妹であるソーマと仲良くなった。
謹厳実直なソーマと荒くれ者のハレルヤがどうして気が合うのかは謎だが、二人はよくつるむようになり、最近ではハレルヤの素行の悪さに引きずられるようにソーマが家でのルールを破るようになってしまった。
出入り禁止は、その事にセルゲイが憤慨しての事である。
アレルヤは関係ないのだが、以前ハレルヤだけに出入り禁止を言い渡したところ、彼はアレルヤのふりをして家を訪れたり電話をかけたり、あらゆる手段でソーマと連絡を取っていた。
「…はぁ…、ハレルヤは何処行ってるのかなぁ…。」
ハレルヤの場合、彼女と会えないとしても誰か別の仲間と適当に遊んでいる筈だ。アレルヤのように思い悩んで過ごすなんてことはあり得ない。
「…アレルヤも…気晴らしに出かけてみたらどうですか?」
フェルトがボソッと言う。
正直、彼女はこのジメジメした空気を払拭したいと思い始めていた。
先程から自室に帰るべきかどうか悩んでいる。
別に自室に帰るのに理由はいらないのだが、ここで立ち去ってはまるでアレルヤを避けているように思われそうでどうにも立ち去れないでいたのだ。
普段なら気にならなくても、この落ち込んでいるアレルヤはちょっとしたことを気にしそうだから困る。
「え?…ああ、そう…だね。ごめんね、気分悪いよね、溜息ばかり聞かされたら。」
しまった、とフェルトは思うものの、謝り返すのもどうかと思うと何も言えない。
ちょっと出てくるよ、と言ってアレルヤは行ってしまった。
ふう、と困惑とも安堵ともつかない息を吐いて、フェルトも自室に戻るべくその場を離れた。
アレルヤが本屋にでも行こうかと街を歩いていると、向こうからハレルヤがやってきた。
「あ、ハレ…。」
声を掛けかけて、そこで止まってしまう。
ハレルヤはソーマと一緒だった。
「な…なななななんで!?」
驚愕のあまり、周りを気にすることなく大声を出していた。
ハレルヤは呆れたような顔を向ける。
「うるせーぞ、アレルヤ。」
「だだだだって!!」
「何がだってだよ。俺はデート中なんだ。邪魔すんじゃねえ。」
「だって、お父さんから出入り禁止を言い渡されたじゃないか!」
「はあ!?だから、出入りなんてしてねーよ。デートするなとは言われてねーんでな。」
だから、どうやってデートの約束を取り付けたのかという話をしたいのだが、アレルヤは上手く言葉が出ない。
「…あ、電話したの?…電話も禁止されてるのに…。」
落ち着いて、取り敢えずそう聞くと、ハレルヤは得意げに笑った。
「家に電話したって取り合ってくれるわけねーだろうが。こいつら携帯も持ってねえしな。」
そう、マリーもソーマも携帯を持つことを禁止されている。父セルゲイは厳しいうえに過保護なのかもしれない。
「…じゃあ、家の近くまで行って頭の中に直接?」
「あの家その辺、鉄壁じゃねーか。」
「そ、そうだよね…。」
どういう仕組みだか知らないが、スミルノフ家の建物は脳量子波を遮断するらしい。
前にハレルヤが試してみたがダメだったと怒っていたことがある。
他に思い付かなくて頭をひねっていると、ソーマがつまらなそうに視線を他にやりながらボソッと呟いた。
「…別に難しいことではない。私が家を抜け出しただけの事だ。」
「そんなことしたらまたお父さんが怒るじゃないか!!会うなって言われてるだろう?君。」
「…父はハレルヤの事を誤解している。だから、…会ってもいいと思う。」
「それは分かるけど、言いつけを守らないってところに問題が…。」
アレルヤとしては何とかセルゲイの怒りを静めて早く出入り禁止を解いてもらいたい。そのためには二人にも従順になってもらう必要がある。
真面目なソーマならルールを守る大切さを理解できる筈。そう思って説得にかかろうとするが…。
「うるせえんだよ、アレルヤは。お前こいつの父親かってんだ。大体お前だってマリーと会えなくて迷惑してんだろ?あの頑固親父の蛮行に。」
「そ…そんな言い方は…。」
「昨日もめそめそ泣いてたじゃねーか。」
「な、泣いてなんかないよ!」
ムキになって言い返すが、ハレルヤは馬鹿にするようにケッと喉を鳴らして背中を向けた。
「行こうぜソーマ。折角羽根伸ばしてんのにこんな奴といたら時間潰れちまう。」
「…アレルヤ、明日はマリーも連れてくるから、今日の事は黙っておいてほしい。」
ハレルヤが強引に手を引いていくため、ソーマは後ろ髪を引かれるように振り返りつつそう言い残して行った。
「どうしよう…マリーまで言いつけを守らなくなったら、ますますお父さんが厳しくなっちゃうよ…。」
「お前も苦労してんな~。」
ライルは自分とアニューのことを思い浮かべてリボンズの事を思い出すと、アレルヤに同情の目を向けた。
リボンズは厳しくはないようだが、どうもアニューの動向を逐一探っている節がある。
アニューにしてもマリー達にしても、大事にされているのは間違いないが、恋人の立場からすると目の上のたんこぶだということも間違いない。
アレルヤは溜め息をついた。
傍にはフェルトがいるが、特に気にする様子は無い。
それと言うのもその溜め息がもう数日前からの恒例になっているからだ。
誰も気にしてくれないのがかえって気まずく、アレルヤは苦笑いで話し出す。
「最近、マリーと会えなくて、ね。ごめん、溜め息吐いたりして。」
「いえ。…電話してみたらどうですか?」
出来ないよと返事が返ってくるのを知りながら、フェルトは他に会話の広げ方が分からなくてそう言った。
「それは出来ないよ。」
やはり帰ってきた答えに、次は何を言えばいいか本当に分からなくなってしまった。
フェルトがそれ以上何もいわないため、アレルヤはまた苦笑いだ。
アレルヤは数日前、マリーの父親であるセルゲイ・スミルノフに出入り禁止を言い渡されてしまったのだ。勿論電話も禁止である。
しかし、実を言えばアレルヤに罪は無い。
彼は誠実だしマリーのところの家人への態度もきちんとしていて、元々は気に入られていた。
だから互いに行き来していたし、二人は公認の仲なのだが…。
原因はハレルヤの素行だった。
アレルヤがマリーと付き合いだしたのと同時期に、ハレルヤはマリーの双子の妹であるソーマと仲良くなった。
謹厳実直なソーマと荒くれ者のハレルヤがどうして気が合うのかは謎だが、二人はよくつるむようになり、最近ではハレルヤの素行の悪さに引きずられるようにソーマが家でのルールを破るようになってしまった。
出入り禁止は、その事にセルゲイが憤慨しての事である。
アレルヤは関係ないのだが、以前ハレルヤだけに出入り禁止を言い渡したところ、彼はアレルヤのふりをして家を訪れたり電話をかけたり、あらゆる手段でソーマと連絡を取っていた。
「…はぁ…、ハレルヤは何処行ってるのかなぁ…。」
ハレルヤの場合、彼女と会えないとしても誰か別の仲間と適当に遊んでいる筈だ。アレルヤのように思い悩んで過ごすなんてことはあり得ない。
「…アレルヤも…気晴らしに出かけてみたらどうですか?」
フェルトがボソッと言う。
正直、彼女はこのジメジメした空気を払拭したいと思い始めていた。
先程から自室に帰るべきかどうか悩んでいる。
別に自室に帰るのに理由はいらないのだが、ここで立ち去ってはまるでアレルヤを避けているように思われそうでどうにも立ち去れないでいたのだ。
普段なら気にならなくても、この落ち込んでいるアレルヤはちょっとしたことを気にしそうだから困る。
「え?…ああ、そう…だね。ごめんね、気分悪いよね、溜息ばかり聞かされたら。」
しまった、とフェルトは思うものの、謝り返すのもどうかと思うと何も言えない。
ちょっと出てくるよ、と言ってアレルヤは行ってしまった。
ふう、と困惑とも安堵ともつかない息を吐いて、フェルトも自室に戻るべくその場を離れた。
アレルヤが本屋にでも行こうかと街を歩いていると、向こうからハレルヤがやってきた。
「あ、ハレ…。」
声を掛けかけて、そこで止まってしまう。
ハレルヤはソーマと一緒だった。
「な…なななななんで!?」
驚愕のあまり、周りを気にすることなく大声を出していた。
ハレルヤは呆れたような顔を向ける。
「うるせーぞ、アレルヤ。」
「だだだだって!!」
「何がだってだよ。俺はデート中なんだ。邪魔すんじゃねえ。」
「だって、お父さんから出入り禁止を言い渡されたじゃないか!」
「はあ!?だから、出入りなんてしてねーよ。デートするなとは言われてねーんでな。」
だから、どうやってデートの約束を取り付けたのかという話をしたいのだが、アレルヤは上手く言葉が出ない。
「…あ、電話したの?…電話も禁止されてるのに…。」
落ち着いて、取り敢えずそう聞くと、ハレルヤは得意げに笑った。
「家に電話したって取り合ってくれるわけねーだろうが。こいつら携帯も持ってねえしな。」
そう、マリーもソーマも携帯を持つことを禁止されている。父セルゲイは厳しいうえに過保護なのかもしれない。
「…じゃあ、家の近くまで行って頭の中に直接?」
「あの家その辺、鉄壁じゃねーか。」
「そ、そうだよね…。」
どういう仕組みだか知らないが、スミルノフ家の建物は脳量子波を遮断するらしい。
前にハレルヤが試してみたがダメだったと怒っていたことがある。
他に思い付かなくて頭をひねっていると、ソーマがつまらなそうに視線を他にやりながらボソッと呟いた。
「…別に難しいことではない。私が家を抜け出しただけの事だ。」
「そんなことしたらまたお父さんが怒るじゃないか!!会うなって言われてるだろう?君。」
「…父はハレルヤの事を誤解している。だから、…会ってもいいと思う。」
「それは分かるけど、言いつけを守らないってところに問題が…。」
アレルヤとしては何とかセルゲイの怒りを静めて早く出入り禁止を解いてもらいたい。そのためには二人にも従順になってもらう必要がある。
真面目なソーマならルールを守る大切さを理解できる筈。そう思って説得にかかろうとするが…。
「うるせえんだよ、アレルヤは。お前こいつの父親かってんだ。大体お前だってマリーと会えなくて迷惑してんだろ?あの頑固親父の蛮行に。」
「そ…そんな言い方は…。」
「昨日もめそめそ泣いてたじゃねーか。」
「な、泣いてなんかないよ!」
ムキになって言い返すが、ハレルヤは馬鹿にするようにケッと喉を鳴らして背中を向けた。
「行こうぜソーマ。折角羽根伸ばしてんのにこんな奴といたら時間潰れちまう。」
「…アレルヤ、明日はマリーも連れてくるから、今日の事は黙っておいてほしい。」
ハレルヤが強引に手を引いていくため、ソーマは後ろ髪を引かれるように振り返りつつそう言い残して行った。
「どうしよう…マリーまで言いつけを守らなくなったら、ますますお父さんが厳しくなっちゃうよ…。」
「お前も苦労してんな~。」
ライルは自分とアニューのことを思い浮かべてリボンズの事を思い出すと、アレルヤに同情の目を向けた。
リボンズは厳しくはないようだが、どうもアニューの動向を逐一探っている節がある。
アニューにしてもマリー達にしても、大事にされているのは間違いないが、恋人の立場からすると目の上のたんこぶだということも間違いない。