メゾネット・ソレスタル

脳内インターネット




 うふふふ、とアニューは笑った。
「そんなことがあったの?」
「そうそう。で、今日は俺たちが付添いってわけ。」
 ライルはそう言って自分とアレルヤを指した。
「…屈辱的な扱いだ…。」
「…ああ、そうだな…。」
 どんよりとした空気を纏ってそう呟いたのは、先日おつかいミッションを失敗したティエリアと刹那だ。
 ペアを組み直すことも話に出たのだが、汚名返上のチャンスが無くなることを危惧して二人は断固拒否した。
 しかしスメラギの信用を得られず、付き添いをつけられることになったのである。
 アニューはライルの向こうから申し訳なさそうな笑顔をのぞかせる。
「あ、ごめんなさい、笑ったりして。…でもそんなに気にすることないと思うわ。誰だって最初はそんなものだもの。」
 私も失敗したし、と彼女は恥ずかしそうに笑った。
「へえ?意外だな。」
「そうだね。慎重そうに見えるのに。」
 ライルの言葉にアレルヤも同意する。
 アニューはぶんぶんと顔を横に振った。
「慎重なつもりではいるんだけど、ボーっとしてるってリボンズにいつも言われるのよ。」
「あぁ~…。」
 リボンズね、とライルは苦笑した。
 何故だかあの人物は苦手だ。
 恐らくソレスタルにいる全員が同意見だろう。
 少々言葉に困っていると、アニューはハッとしたような顔をした。
 どうかしたのかと彼女の顔を見れば、苦笑のような表情を向ける。
「ごめんなさい。今、リボンズから別のおつかい頼まれちゃった。もう行かなくちゃ。」
 どうやら頭の中に直接話しかけられたらしい。
 アニューはもう一度ごめんなさいと謝って、急いで行ってしまった。
 それを見送りながら、ティエリアと刹那が同時に「そうか。」と呟く。
 ライルも感心したような溜息を吐いた。
「便利だよな、アニュー達はいつでも連絡できんだから。」
「…僕もできなくはないが…連絡のつく相手がリジェネじゃ使う機会がないな。」
「…あいつらと意識を繋げても意味がないからな。」
 アニューの背中に向けていた視線をティエリアと刹那の方に向けた。
 そう言えばこの二人も同じような能力があったのだ。
「おまえら二人で使えばいいじゃないか。」
 便利だろ?と問えば、行動を共にしている今は必要ないと返ってきた。
 確かにそうだ。
 軽く笑ってアレルヤを見ると、嬉しそうな顔をしている。
「僕もハレルヤとならいつでも話せるよ。」と双子の弟の事を持ち出した。
 うげっと顔を顰めるライル。
「なんだよ、便利機能持ってねえの俺だけかよ。」
 あははと笑うアレルヤとは対照的に、刹那が真顔で返す。
「お前も頑張ってみたらいい。ニールと連絡がつくかもしれない。」
「んなわけねーだろ!?フツーの人間にはそんな便利機能付いてねえから!」
 ライルの渾身のツッコミに、ティエリアと刹那はニヤリと見下すように笑った。
「我々の勝ちだな、刹那。」
「ああ、そのようだ。」
 付き添いを付けられてしまった屈辱を晴らせたというように、二人は嬉しそうに買い物に向かった。








「まったく、困るよあの子には。」
 自宅のソファーで優雅にお茶を飲みながら、リボンズが呟いた。
「アニューの事ですか?」
 リヴァイヴがそう訊ねると、そうだよと返事が返る。
「自分の回線が僕に向けて開きやすくなっているっていう自覚が足りないんだ。何度あの男とのやり取りを聞かされたことか。」
 リヴァイヴと共にリジェネも声を立てて笑った。
「自分でそういう風につくった癖に、リボンズは欲張りだよ。」
 それはそうなんだけどねと言いつつもうんざりした顔をしている。
 少し間をおいて、リボンズは告白をするかのようにトーンを落とした。
「前に帰りが遅いのを心配して声をかけようとしたら…、まっ最中だったことがあるよ。…あの時は本気であの男を殺そうと思ったね。」
 リヴァイヴが頭痛を感じてこめかみを押さえた。
「…それは…キツイですね。」
「やめてよリボンズ。気持ちはわかるけどさ。」
 リボンズの言う『本気』が真面目に本気なんだと感じてリジェネがくぎを刺す。
「分かっているよ。僕はそんな愚かじゃない。」
 まだ憎しみの残る表情をしながらそう答える。
 苦笑を見せてリヴァイヴが言った。
「回線を閉じるように治してあげればいいじゃないですか。出来るのでしょう?そうすれば嫌なシーンを見なくて済む。」
 リボンズは不機嫌な顔をする。
「だめだよ。あんなポーっとした子を野放しにしたら何が起こるか分かったもんじゃない。この間なんて声をかけてきた不良相手にまともな受け答えをして、騙されそうになっていることにも気付かなかったんだから。僕が指示を出してやらなかったらどうなっていたことか。」
「リボンズはアニューにだけは過保護だよね。」
「心配はわかりますが。」
 二人の呆れたような言葉に、余計なことだとリボンズは視線だけで返した。







「スメラギ・李・ノリエガに文句を言われても、責任を取ってくれるのだろうな。」
 ティエリアは不機嫌にそう言った。
 今日の買い物は順調に終われそうだったと言うのに、どうしてもとライルがスイカを一個購入したのだ。
「だから、責任は取るって。なんか無性に欲しくなったんだよ。ってか、買わなくちゃいけない気がしたんだ。」
「そんな我儘で任務失敗を言い渡されたらお前を恨む。」
 刹那も、じとーっとした目でライルを見やる。
 アレルヤは困り顔でまあまあと宥めた。

 二人も付き添いをつけたのに余計なものを買ってきたことに、スメラギは愕然として言葉を出せずにいた。
 そこにやってきたニールが「お?」と嬉しそうな声を上げる。
「スイカ買ったのか、丁度喰いたかったんだよ。グッドタイミングだな。」
 買い物に行った四人は顔を見合わせた。



「良かったな、ライル。お前にも便利機能が備わっていたようだ。」



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