ショートショート
(ゲイリー話、ユニオンフラッグロールアウト直後)
画策
ユニオンの最新鋭機。
その乗り心地は確かめてみたい。
アリー・アル・サーシェスはゲイリー・ビアッジと名前を変え、ユニオンの軍人になっていた。
もちろん戦争をすることが第一の目的ではあるのだが、どんなモビルスーツでも乗りこなす自信がある彼は、やはりその機体にも興味があった。
それさえなければ敵対する側に雇われたって良かったのだ。
とはいえ、ユニオン軍に入ってもすぐに最新鋭機に触れるわけがない。
でっち上げた書類と口利きで、面倒な審査なしに軍人にはなれたが、階級は軍曹。到底手が届かなかった。
ホールに歓声が上がり、皆が一斉に同じ場所を見た。
吹き抜けの二階からその様子を覗き込み、ゲイリーは微かに笑んだ。
目的の人物が入ってくる。
歓声はその人物を出迎えていた。
グラハム・エイカー少尉。
今回の作戦で戦果をあげた英雄だ。
初陣から数えて二桁の回数になって久しいが、まだ負けなしだという。
エリート中のエリート。フラッグのパイロットである。
栄誉の凱旋に沸くホールの中、一人冷めた表情で眺め、グラハムの様子を窺っていた。
まだ当分騒ぎは収まりそうにないな。
ゲイリーはふいっと視線を外し、その場を立ち去った。
レストルームで一人佇むグラハムを見つけると、ゲイリーはつかつかと歩み寄った。
カッと靴を鳴らして立ち止まり、敬礼をする。
「失礼します!少々お時間頂いてよろしいでしょうか!」
大きなガラスを通して外を眺めていたグラハムは振り返り、きりっとした顔を向けた。
「…貴官は?」
「ゲイリー・ビアッジ軍曹です。お時間よろしいですか?」
「かまわない。」
凱旋に対する敬意と称賛を並べると、グラハムは目を伏せて笑んだ。
「そう褒め称えられるのも居心地が悪い。おだてられて乗せられるのは好きではない。」
「そんなつもりはありませんよ。ただ、少尉の愛国心に頭が下がるばかりで。」
「聞き飽きた。私は私のやるべきことをやっただけだ。」
「そういう羨望も甘んじて受けるのが英雄の務めですよ。」
「…なるほど?」
「ついでに言わせていただくと、少尉の愛国心は私の良心に突き刺さります。」
思いもよらぬ言葉を言われ、グラハムは眉をひそめた。
「それはどういう…君に私の愛国心をどうこう言われる筋合いは…。」
「いやもちろん。私が言っているのは、私自身の事でして。…入隊理由がね、邪なんですよ。だから、少尉の様な真っ直ぐな愛国心が眩しいんです。」
ゲイリーは笑みを浮かべたままの顔をふいっと伏せる。
邪、という言葉にグラハムは引っかかった。
「…それは聞き捨てならないな。…同胞としてはやはり同じ目的をもって戦いに挑んでもらいたい。聞かせて頂こうか、その理由とやら…。」
「…魅せられてしまったんですよ。あの機体、フラッグと言う奴に。そしてあのお披露目での少尉の乗りこなし方に。機体を手足のように使っていらっしゃる。是非、自分も乗ってみたい。その為の志願です。あれに乗るまではやめる訳には行きません。例え少尉に咎められたとしても。」
視線を上げてグラハムの目を真正面から見ると、彼は驚きの表情を見せた。
そして数秒の間の後、少し興奮気味に喋り出した。
「すばらしい。何が邪なものか。その為に非難覚悟で入隊するとは。あの機体はそういう情熱を持った者でなければ乗りこなせない。…そうか、魅せられたか。…わかった。ならば私から上申してみよう。君の様な想いであの機体に乗ってくれるなら、私は協力を惜しまない。」
そう言ってゲイリーに背中を向けた。
「善は急げだ。言っておくがまだ私にはそれほどの権限はない。力になれるかどうかは上次第だ。しかし、叶うならなるべくいい機体を用意させよう。…カスタム機は譲れないがね。」
ありがとうございます、と敬礼をしつつ、思った以上に上手く行ったことにゲイリーは苦笑を浮かべた。
この男に対する時は気を張って臨まなくてはいけない。
下手をすればペースに呑まれる。
そう自分を諌める。
凱旋したばかりの英雄の上申を無下に出来なかったのか、数日後、ゲイリーに異動の命令が来た。
「量産型の試作機だ。もちろん未使用。文句はあるまい?」
「文句だなんてお人が悪い。私には過ぎる待遇です。…これでは傷を付けることも出来ませんよ。」
「問題はない筈だ。君の模擬戦とシミュレーションの成績を調べさせてもらったよ。その階級章は君の実力に追いついていない。早く自分用にチューンして使えるようにしておいてくれ。すぐにでも実戦で使えるように。」
ハハハ、と楽しげに笑ってグラハムは去って行った。
その背中に、ボソッと呟く。
「やるねぇ、兄ちゃん。」
見上げるとまだ傷のないフラッグがそびえ立つ。
せいぜい遊ばせて貰うさ。
このおもちゃで。
数日を掛けて調整した機体の出来は上々だった。
グラハムのカスタム機ほどではなくても、充分に実戦で使える。
それを見てグラハムはすぐに実戦登用を決めた。
「初陣なんですから、お手柔らかに願いますよ、隊長。」
通信回線を開き、そう言うとグラハムは笑った。
「初陣だという気負いなど無いくせによく言う。君の腕を見ていると、何者なのか探りたくなるんだがね、ゲイリー。」
階級などすぐに変わってしまって呼び辛い。
そう言って彼はゲイリーの事を名前で呼ぶようになっていた。
「買い被りすぎです。あまり期待していただいてもそれにお応えできませんからね。」
また、グラハムの高らかな笑い声が聞こえた。
「第一航空戦術隊!出撃!」
グラハムを先頭に、次々に機体が発進する。
敵機が見えたところで、グラハムは指示を出した。
「フォーメーションk!」
さっと隊の陣形が変わる。
ゲイリーはひとりごちた。
「…ったく、こえぇ兄ちゃんだ。俺を敵機のど真ん中に放り込みやがって。んな特殊な陣形で臨む相手でもなかろうに。」
明らかに試されている。
「さてと…どうすっかな…。ご期待に沿うか、それともヘマをやって見せて気を逸らせるか…。」
後者が正解だ、と自分で頷く。
「勿体ねーが、機体に傷を付けて帰るとするか。」
「おいおい…手ごたえなさすぎだぜ…。まいったな、こりゃ。」
戦闘開始数分で、ゲイリーの機体を取り囲んだ最初の5機は大破していた。
「防衛本能ってのは怖いねぇ。思わずやっちまった。そろそろ傷を付けねーと『まぐれでした』が通用しねーよな。」
そうは言っても、あまりに弱い相手にやられたのではわざとらし過ぎる。
これ以上撃墜数を増やすのもどうかと考え、軽く攻撃を当て敵機を蹴散らせた。
「雑魚にゃあ用はねぇ!引っ込んでろ!」
逃げ惑う様に機体を駆り、フラッグに傷を付けるに相応しい相手を探す。
「ったく。ロクな兵士がいねぇな。」
この状況に辟易し、顔を顰めた。
その時。
警告音にハッとする。
「なっ!?」
砲台からのビーム砲が迫っていた。
「くっ。」
寸でのところで直撃は免れたが、機体の片足を持っていかれた。
「ったく…嘘だろ、おい…。」
がっくりと項垂れつつ帰還する方向に機体を飛ばす。
「…よりによって砲台からの攻撃でやられるなんて…間抜けすぎだ。」
まあこれであの男の期待からは解放されるのだと無理やりに納得する。
プライドの部分が全く納得はしていないのだが。
片足がもがれたフラッグを見上げ、ゲイリーはげんなりしていた。
確かに傷を付けて帰ろうとは思っていたが…。
「これはあまりにナンセンスってヤツだ。」
ボソッと言った直後、後ろから声がかかった。
「何に気を取られていたのか、聞かせてもらいたいな。」
振り返ればグラハムの整った顔。
急な問いかけに、ゲイリーは思わず「あんたが…」と素で話しかけそうになり、慌てて脳内で変換して答えた。
「隊長が買い被りすぎるから、調子に乗ってしまったんですよ。」
なるほど、とグラハムは目を伏せる。
「いい言い訳だ。調子に乗ってその程度の被害なら言うことはない。最初の瞬殺はしっかり見せて貰ったしな。」
「あれは…。」
「あれはまぐれだった、なんて、陳腐なことは言わないでくれよ。」
あっさりと遮られてゲイリーは閉口した。
尚も若い士官は独唱のように言葉を続ける。
「手足のように乗りこなす、というのは君の様なのを言うのだ。やはり見込んだ通りの男だな君は。本気を出していれば足を失う事もなかっただろうに。階級を上げる様に進言しておこう。二階級特進は固いよ。」
そう言いおいて去って行こうとする背中に慌てて言う。
「あり得ませんよ、機体を壊して昇進だなんて。」
「私が強く推しておく。君が被弾したのは私のサポートが至らなかったせいだという事にしておくよ。今回も戦果は充分に上げている。上も文句は言えんさ。」
ハハハ、と高らかな笑いが去っていく。
「ったく、余計な事を。」
あまり軍で名を馳せる気はない。
長居する気はないのだ。
仕方ない、もうしばらく付き合ってやるか。
そう思って溜め息をついた。
軍を抜ける時は穏便に退役しなくてはいけないだろう。
あの男に背を向けたら、面倒なことになりそうだ。
「次はもっと上手くやらねーとな。」
もう一度、フラッグのもがれた脚部を見上げた。
fin.
ユニオンフラッグ2304年ロールアウト
グラハム24歳・ゲイリー32歳
第一航空戦術隊
数ヶ月後、量産型フラッグロールアウト。その時のグラハムの階級は中尉。
画策
ユニオンの最新鋭機。
その乗り心地は確かめてみたい。
アリー・アル・サーシェスはゲイリー・ビアッジと名前を変え、ユニオンの軍人になっていた。
もちろん戦争をすることが第一の目的ではあるのだが、どんなモビルスーツでも乗りこなす自信がある彼は、やはりその機体にも興味があった。
それさえなければ敵対する側に雇われたって良かったのだ。
とはいえ、ユニオン軍に入ってもすぐに最新鋭機に触れるわけがない。
でっち上げた書類と口利きで、面倒な審査なしに軍人にはなれたが、階級は軍曹。到底手が届かなかった。
ホールに歓声が上がり、皆が一斉に同じ場所を見た。
吹き抜けの二階からその様子を覗き込み、ゲイリーは微かに笑んだ。
目的の人物が入ってくる。
歓声はその人物を出迎えていた。
グラハム・エイカー少尉。
今回の作戦で戦果をあげた英雄だ。
初陣から数えて二桁の回数になって久しいが、まだ負けなしだという。
エリート中のエリート。フラッグのパイロットである。
栄誉の凱旋に沸くホールの中、一人冷めた表情で眺め、グラハムの様子を窺っていた。
まだ当分騒ぎは収まりそうにないな。
ゲイリーはふいっと視線を外し、その場を立ち去った。
レストルームで一人佇むグラハムを見つけると、ゲイリーはつかつかと歩み寄った。
カッと靴を鳴らして立ち止まり、敬礼をする。
「失礼します!少々お時間頂いてよろしいでしょうか!」
大きなガラスを通して外を眺めていたグラハムは振り返り、きりっとした顔を向けた。
「…貴官は?」
「ゲイリー・ビアッジ軍曹です。お時間よろしいですか?」
「かまわない。」
凱旋に対する敬意と称賛を並べると、グラハムは目を伏せて笑んだ。
「そう褒め称えられるのも居心地が悪い。おだてられて乗せられるのは好きではない。」
「そんなつもりはありませんよ。ただ、少尉の愛国心に頭が下がるばかりで。」
「聞き飽きた。私は私のやるべきことをやっただけだ。」
「そういう羨望も甘んじて受けるのが英雄の務めですよ。」
「…なるほど?」
「ついでに言わせていただくと、少尉の愛国心は私の良心に突き刺さります。」
思いもよらぬ言葉を言われ、グラハムは眉をひそめた。
「それはどういう…君に私の愛国心をどうこう言われる筋合いは…。」
「いやもちろん。私が言っているのは、私自身の事でして。…入隊理由がね、邪なんですよ。だから、少尉の様な真っ直ぐな愛国心が眩しいんです。」
ゲイリーは笑みを浮かべたままの顔をふいっと伏せる。
邪、という言葉にグラハムは引っかかった。
「…それは聞き捨てならないな。…同胞としてはやはり同じ目的をもって戦いに挑んでもらいたい。聞かせて頂こうか、その理由とやら…。」
「…魅せられてしまったんですよ。あの機体、フラッグと言う奴に。そしてあのお披露目での少尉の乗りこなし方に。機体を手足のように使っていらっしゃる。是非、自分も乗ってみたい。その為の志願です。あれに乗るまではやめる訳には行きません。例え少尉に咎められたとしても。」
視線を上げてグラハムの目を真正面から見ると、彼は驚きの表情を見せた。
そして数秒の間の後、少し興奮気味に喋り出した。
「すばらしい。何が邪なものか。その為に非難覚悟で入隊するとは。あの機体はそういう情熱を持った者でなければ乗りこなせない。…そうか、魅せられたか。…わかった。ならば私から上申してみよう。君の様な想いであの機体に乗ってくれるなら、私は協力を惜しまない。」
そう言ってゲイリーに背中を向けた。
「善は急げだ。言っておくがまだ私にはそれほどの権限はない。力になれるかどうかは上次第だ。しかし、叶うならなるべくいい機体を用意させよう。…カスタム機は譲れないがね。」
ありがとうございます、と敬礼をしつつ、思った以上に上手く行ったことにゲイリーは苦笑を浮かべた。
この男に対する時は気を張って臨まなくてはいけない。
下手をすればペースに呑まれる。
そう自分を諌める。
凱旋したばかりの英雄の上申を無下に出来なかったのか、数日後、ゲイリーに異動の命令が来た。
「量産型の試作機だ。もちろん未使用。文句はあるまい?」
「文句だなんてお人が悪い。私には過ぎる待遇です。…これでは傷を付けることも出来ませんよ。」
「問題はない筈だ。君の模擬戦とシミュレーションの成績を調べさせてもらったよ。その階級章は君の実力に追いついていない。早く自分用にチューンして使えるようにしておいてくれ。すぐにでも実戦で使えるように。」
ハハハ、と楽しげに笑ってグラハムは去って行った。
その背中に、ボソッと呟く。
「やるねぇ、兄ちゃん。」
見上げるとまだ傷のないフラッグがそびえ立つ。
せいぜい遊ばせて貰うさ。
このおもちゃで。
数日を掛けて調整した機体の出来は上々だった。
グラハムのカスタム機ほどではなくても、充分に実戦で使える。
それを見てグラハムはすぐに実戦登用を決めた。
「初陣なんですから、お手柔らかに願いますよ、隊長。」
通信回線を開き、そう言うとグラハムは笑った。
「初陣だという気負いなど無いくせによく言う。君の腕を見ていると、何者なのか探りたくなるんだがね、ゲイリー。」
階級などすぐに変わってしまって呼び辛い。
そう言って彼はゲイリーの事を名前で呼ぶようになっていた。
「買い被りすぎです。あまり期待していただいてもそれにお応えできませんからね。」
また、グラハムの高らかな笑い声が聞こえた。
「第一航空戦術隊!出撃!」
グラハムを先頭に、次々に機体が発進する。
敵機が見えたところで、グラハムは指示を出した。
「フォーメーションk!」
さっと隊の陣形が変わる。
ゲイリーはひとりごちた。
「…ったく、こえぇ兄ちゃんだ。俺を敵機のど真ん中に放り込みやがって。んな特殊な陣形で臨む相手でもなかろうに。」
明らかに試されている。
「さてと…どうすっかな…。ご期待に沿うか、それともヘマをやって見せて気を逸らせるか…。」
後者が正解だ、と自分で頷く。
「勿体ねーが、機体に傷を付けて帰るとするか。」
「おいおい…手ごたえなさすぎだぜ…。まいったな、こりゃ。」
戦闘開始数分で、ゲイリーの機体を取り囲んだ最初の5機は大破していた。
「防衛本能ってのは怖いねぇ。思わずやっちまった。そろそろ傷を付けねーと『まぐれでした』が通用しねーよな。」
そうは言っても、あまりに弱い相手にやられたのではわざとらし過ぎる。
これ以上撃墜数を増やすのもどうかと考え、軽く攻撃を当て敵機を蹴散らせた。
「雑魚にゃあ用はねぇ!引っ込んでろ!」
逃げ惑う様に機体を駆り、フラッグに傷を付けるに相応しい相手を探す。
「ったく。ロクな兵士がいねぇな。」
この状況に辟易し、顔を顰めた。
その時。
警告音にハッとする。
「なっ!?」
砲台からのビーム砲が迫っていた。
「くっ。」
寸でのところで直撃は免れたが、機体の片足を持っていかれた。
「ったく…嘘だろ、おい…。」
がっくりと項垂れつつ帰還する方向に機体を飛ばす。
「…よりによって砲台からの攻撃でやられるなんて…間抜けすぎだ。」
まあこれであの男の期待からは解放されるのだと無理やりに納得する。
プライドの部分が全く納得はしていないのだが。
片足がもがれたフラッグを見上げ、ゲイリーはげんなりしていた。
確かに傷を付けて帰ろうとは思っていたが…。
「これはあまりにナンセンスってヤツだ。」
ボソッと言った直後、後ろから声がかかった。
「何に気を取られていたのか、聞かせてもらいたいな。」
振り返ればグラハムの整った顔。
急な問いかけに、ゲイリーは思わず「あんたが…」と素で話しかけそうになり、慌てて脳内で変換して答えた。
「隊長が買い被りすぎるから、調子に乗ってしまったんですよ。」
なるほど、とグラハムは目を伏せる。
「いい言い訳だ。調子に乗ってその程度の被害なら言うことはない。最初の瞬殺はしっかり見せて貰ったしな。」
「あれは…。」
「あれはまぐれだった、なんて、陳腐なことは言わないでくれよ。」
あっさりと遮られてゲイリーは閉口した。
尚も若い士官は独唱のように言葉を続ける。
「手足のように乗りこなす、というのは君の様なのを言うのだ。やはり見込んだ通りの男だな君は。本気を出していれば足を失う事もなかっただろうに。階級を上げる様に進言しておこう。二階級特進は固いよ。」
そう言いおいて去って行こうとする背中に慌てて言う。
「あり得ませんよ、機体を壊して昇進だなんて。」
「私が強く推しておく。君が被弾したのは私のサポートが至らなかったせいだという事にしておくよ。今回も戦果は充分に上げている。上も文句は言えんさ。」
ハハハ、と高らかな笑いが去っていく。
「ったく、余計な事を。」
あまり軍で名を馳せる気はない。
長居する気はないのだ。
仕方ない、もうしばらく付き合ってやるか。
そう思って溜め息をついた。
軍を抜ける時は穏便に退役しなくてはいけないだろう。
あの男に背を向けたら、面倒なことになりそうだ。
「次はもっと上手くやらねーとな。」
もう一度、フラッグのもがれた脚部を見上げた。
fin.
ユニオンフラッグ2304年ロールアウト
グラハム24歳・ゲイリー32歳
第一航空戦術隊
数ヶ月後、量産型フラッグロールアウト。その時のグラハムの階級は中尉。