『刻の止まった部屋』シリーズ
日課
ニールが寝入った頃、サーシェスは起き出してデスクの小さなスポットライトを点ける。
音をたてないようにそっと紙とペンを出し、すぅ~っと線を引く。
最近の日課だ。
毎日少しずつではあるが、トレミーの内部の地図を描いていた。
今日行った場所と昨日行った場所の位置関係を推測する。
(…多分、ありゃあ壁一枚隔てた向こうだな。)
廊下の長さがこうでそこから曲がってこう行って…。
昨日までの記憶と今日新たに仕入れた情報を照らし合わせ、頭の中で艦の全体図を組み立てていく。
あの完全オートメーションになっている倉庫の奥に入れれば、格納庫とはまた別の搬入口に出ることが出来るだろう。
(中からは操作できないとか言ってやがったが、そんなわけねぇ。)
恐らく内側にも操作パネルがある筈だ。
ただ、それが分かりやすい場所にあるか、外部からの侵入者に備えてカモフラージュしてあるかはわからない。
入ってみて操作パネルが見つからなかったら目も当てられない。
(ここの通風孔はこっちと繋がってるか…。)
逃走経路として通風孔を使う気はない。
地上の施設と違い、宇宙を行く船の中の通風孔は、いつ何処に支障が出てもいいように、いたるところにシャッターがついている。
下手をすればそれに閉じ込められる。
もっと悪くすればそのシャッターに挟まれて終わりだ。
それでも空気の流れを知っておくのは、逃走途中で自分の居る区画だけ空気を止められる可能性を考えての事だ。
常に誰かしらが居る区画と繋がった場所を通ることが出来ればより安全に逃げられるだろう。
確実に覚えている場所、そして様々な情報から予測できる場所。
それらを一通り図に描き入れて、ペンを止めた。
(…まだ足りねーな…。)
そう思いつつ、描いた地図を頭に入れる。
そして紙をクシャクシャっと丸めると、ダストシュートにそれを捨てた。
(便利過ぎるのも考えもんだな。俺としてはそれで助かってるんだけどな。)
ダストシュートに入れられたゴミはひと所に集められ、圧縮されて保管される。
よほどのことがない限り、そのゴミを漁って中を確認するなんてことはない。
確認しようとしたところで、極限まで圧縮されたクシャクシャの紙切れ一枚を探し出すなんて不可能に近い。
サーシェスが何を描いたかは、サーシェスの頭の中にしかないのだ。
フフッと笑んだ所に、声が掛けられた。
「…どうかしたのか?」
眠そうな顔をして体を起こしたニールを振り返り、サーシェスは肩を竦めた。
「ちょっと目が覚めちまったから本を読んでただけだ。」
そう言ってそこにあったSF小説を持ち上げた。
ああ、それね、とニールが返すとサーシェスは乱雑にそれを本棚に戻す。
「つまんねー話だった。」
「え~?んなことねーだろ?」
不服そうなニールの態度に、彼がこの小説を気に入っているのだと認識してわざと貶す。
「作者の考え方の甘さが至る所に出てきて鬱陶しい。」
「…そうかぁ?…面白いと思うんだけどな…。」
「お前も同じくらい甘いからじゃねーのか?」
「…なんだよ…どうせ甘いよ、俺は。」
プイっと顔を背けてニールはまたベッドに潜り込んだ。
それを見やってから、サーシェスも自分のベッドに入る。
「つまんねーもん読んだから、いい具合に眠くなったなァ。」
「はいはい、おやすみ。」
「おー。」
記憶の保持には睡眠は重要だ。
次の日に備えて、サーシェスは大人しく眠りについた。
ニールが寝入った頃、サーシェスは起き出してデスクの小さなスポットライトを点ける。
音をたてないようにそっと紙とペンを出し、すぅ~っと線を引く。
最近の日課だ。
毎日少しずつではあるが、トレミーの内部の地図を描いていた。
今日行った場所と昨日行った場所の位置関係を推測する。
(…多分、ありゃあ壁一枚隔てた向こうだな。)
廊下の長さがこうでそこから曲がってこう行って…。
昨日までの記憶と今日新たに仕入れた情報を照らし合わせ、頭の中で艦の全体図を組み立てていく。
あの完全オートメーションになっている倉庫の奥に入れれば、格納庫とはまた別の搬入口に出ることが出来るだろう。
(中からは操作できないとか言ってやがったが、そんなわけねぇ。)
恐らく内側にも操作パネルがある筈だ。
ただ、それが分かりやすい場所にあるか、外部からの侵入者に備えてカモフラージュしてあるかはわからない。
入ってみて操作パネルが見つからなかったら目も当てられない。
(ここの通風孔はこっちと繋がってるか…。)
逃走経路として通風孔を使う気はない。
地上の施設と違い、宇宙を行く船の中の通風孔は、いつ何処に支障が出てもいいように、いたるところにシャッターがついている。
下手をすればそれに閉じ込められる。
もっと悪くすればそのシャッターに挟まれて終わりだ。
それでも空気の流れを知っておくのは、逃走途中で自分の居る区画だけ空気を止められる可能性を考えての事だ。
常に誰かしらが居る区画と繋がった場所を通ることが出来ればより安全に逃げられるだろう。
確実に覚えている場所、そして様々な情報から予測できる場所。
それらを一通り図に描き入れて、ペンを止めた。
(…まだ足りねーな…。)
そう思いつつ、描いた地図を頭に入れる。
そして紙をクシャクシャっと丸めると、ダストシュートにそれを捨てた。
(便利過ぎるのも考えもんだな。俺としてはそれで助かってるんだけどな。)
ダストシュートに入れられたゴミはひと所に集められ、圧縮されて保管される。
よほどのことがない限り、そのゴミを漁って中を確認するなんてことはない。
確認しようとしたところで、極限まで圧縮されたクシャクシャの紙切れ一枚を探し出すなんて不可能に近い。
サーシェスが何を描いたかは、サーシェスの頭の中にしかないのだ。
フフッと笑んだ所に、声が掛けられた。
「…どうかしたのか?」
眠そうな顔をして体を起こしたニールを振り返り、サーシェスは肩を竦めた。
「ちょっと目が覚めちまったから本を読んでただけだ。」
そう言ってそこにあったSF小説を持ち上げた。
ああ、それね、とニールが返すとサーシェスは乱雑にそれを本棚に戻す。
「つまんねー話だった。」
「え~?んなことねーだろ?」
不服そうなニールの態度に、彼がこの小説を気に入っているのだと認識してわざと貶す。
「作者の考え方の甘さが至る所に出てきて鬱陶しい。」
「…そうかぁ?…面白いと思うんだけどな…。」
「お前も同じくらい甘いからじゃねーのか?」
「…なんだよ…どうせ甘いよ、俺は。」
プイっと顔を背けてニールはまたベッドに潜り込んだ。
それを見やってから、サーシェスも自分のベッドに入る。
「つまんねーもん読んだから、いい具合に眠くなったなァ。」
「はいはい、おやすみ。」
「おー。」
記憶の保持には睡眠は重要だ。
次の日に備えて、サーシェスは大人しく眠りについた。