『刻の止まった部屋』シリーズ
スメラギとサーシェス
「は~い、お元気ぃ~?」
などと、軽いノリでサーシェスの病室を訪れたのはスメラギだ。
丁度、彼が着替えているところだった。
「…ねーちゃん、いい匂いさせてんな。」
まだ前がはだけていることも気にせず、振り返ってそう言う。
スメラギは例によって酒を飲んでいた。
「当番なのすっっっっかり忘れちゃっててさァ。アハハハハ。」
スメラギもサーシェスの姿は気にも留めず、ご機嫌な様子で返す。
「…お前ら、そんなんでよく組織を保ってられるな…。」
ボタンを留めながら呆れて呟くと、スメラギはよく聞き取れなかったらしく、つかつかと歩み寄って顔を近付けた。
「ん~?何か言ったァ?」
「…いや、なんも?」
酔っ払いの女に顔を顰めてみせると、癇に障ったらしい。
スメラギはムッとした顔をさらに近付けた。
「はっきりモノを言わないなんて、男らしくないわよ!」
「…へいへい、んじゃ、言っていいか?」
「よし、それでこそ男だ!」
バンッとサーシェスの背中を叩く。
軽く前のめりになりながら、この酔っぱらいをどうしようかと考えて。
「…酒が飲めるなんて羨ましいって言ったんだ。」
「あら、あなたもイケる口なの?」
「まあ、ねーちゃんよりは強ぇんじゃねえかな。」
「言ったわね。あたし、その辺の男よりも強いんだから。まだまだ飲めるわよっ!」
ニッと笑ってサーシェスは言った。
「んじゃ、飲み比べてみっか?」
「いいわよ、ちょっと待ってなさい!」
そう言って出て行こうとするスメラギの足元は少々おぼつかない。
サーシェスは二の腕を掴んで支えた。
「危なっかしいねーちゃんだな。…部屋まで送ろうか?」
「あら、優しいのね…ってんなことさせられるわけないでしょ!」
一応まだ理性は残っているらしい。
ポンっとサーシェスを付き離して、その勢いで自分が尻もちをついた。
「おいおい…。」
腰に手をあてて、呆れ顔で見下ろしていると、スメラギはふらっと立ち上がった。
そして俯いて何やら考えている。
「…まだ飲めるわよ。まだ飲めるけど…ちょっとここにお酒持ってくるのは面倒臭いって気がしてきたわ。」
「その様子じゃそうだろうな。」
「…だから、あなたが私の部屋に来て一緒に飲めばいいのよ。」
まったく、ホントにここはどうなってんだ、と呆れる一方、まあ酒が飲めるなら大人しくついていくか、と納得する。
『部屋まで送っていく』のと、『一緒に行って飲む』のとさほど変わりはない気もするが、酔っぱらったスメラギの中では別物らしい。
「分かりましたよ。お嬢さん。ご一緒しましょう。」
紳士的な返答が気に入ったのか、スメラギはウフフと笑って手を差し出した。
部屋に着いて早速酒を出し、二人で床に座り込んで酒盛りを始めると、一時間もしないうちにスメラギはろれつが回らなくなってきた。
サーシェスの所に行った時には既にかなり飲んでいたのだから当然のことなのだが。
「ら~かぁら~、らいジョーブなの~!」
「…分かった分かった。俺の負けでいいから、そろそろ寝ろって。」
「マケ?負けをミトメタのね~。ふふ~ん、やった~。」
ご機嫌で万歳をしている。
「…で、俺は一人で戻るからな、ねーちゃん歩けねーだろ。」
「らめ!らめに決まってるれしょ!」
「どうすんだよ…。」
「…ん~、…ここにいればぁ?」
「…お前、俺が誰か忘れてるだろ。」
「ぶー!酔ってるとオモッテルわね~?酔ってなんかないんらから!え~っと、名前…名前………なんらっけ…?」
これだから酔っぱらいは…と肩を竦め、サーシェスはスメラギを抱き上げてベッドに乗せた。
「言っとくが、このままねーちゃんの酔いがさめるまで二人っきりでいて、何もしない保証はねーからな。」
「…あーい、ゴチュウコクありあと。」
スメラギはそう言うとまどろみ始めた。
「…ったく、勘弁してくれよ。」
酒にありつけたのは有難いが、酔っ払いの介抱なんてのは予定になかったんだ、と溜め息を吐く。
このままここにいたら何もしていなくても要らぬ疑惑をもたれてしまう。
さっさと立ち去ろう、と立ち上がりかけたところをスメラギに引っ張られた。
「おわっ!?」
「あなた、もうケガ治ったわよねぇ?」
しっかりと手首を掴まれて離れられない。
「…あぁ、普通に動けるぜ?なのに、いつまであの病室に置いとく気だってんだ。」
独房だの何だのもっと管理しやすい部屋に移すのが普通だろう。
それなのに一向にそういう気配はない。
今この船が何処に居るのかまでは分からないが、重力圏に下りたのは分かっている。
逃げ出そうと思えばいつでもできそうだ。
そう、今でも。
「そうよね、へんよね、病室に置いておくのは…。」
「…おー…。」
「らから、…部屋が必要…よね。うん…。」
「いいから寝ろよ。」
「…ロックオン…じゃなかった。ニールと相部屋でいい?」
「…はあ!?」
「今、人れ不足なのよ~。手伝いなさいよあなた暇そうらもの。」
手強いと思っていた敵の組織がこんないい加減な所だったのかと肩透かしを食らったような気分で溜め息を吐く。
(まさか、な。…このねーちゃんが酔ってるからだよな…。)
これがこの組織のデフォルトだとしたら、今すぐにでも逃げ出せるだろう。
ちょっとやってみたい気もする。
格納庫はどっちだったかと、ここにきて自分が把握できた艦内の様子を思い出す。
怪我で運ばれた時でさえ一応の道順を頭に入れていたのだから、最初に入れられた部屋に行きつくこともできるだろう。
そこまで行けば、格納庫は目と鼻の先だ。
小さな飛行機でも、最悪パラシュートでも見つかれば、外に出るのは簡単だ。
パラシュートの場合、あまりに高度が高いと危険が大きいが。
つい考えに入りこんでしまい黙っていると、スメラギが掴んでいる手に力を入れてグイッと引いた。
「…嫌なの?相部屋。」
そこじゃねーだろ、気にしなきゃなんねーとこは。
突っ込みを入れてしまいそうになりながら、頭を掻きつつ答えた。
「嫌じゃねーけどよ。拘束はされないのかと思ってね。」
何でこんな事を自分から言わなきゃならないんだ。と思いはするものの、この警戒心のなさは逆にプライドを傷つけられる。
「…こんらけ世話になったんらから、働いて返してよ。」
「……それは…別にいいぜ?」
そういう状態でいられるなら、なるべく情報を集めてから出て行った方が後々有利だろう。
問題は、他のクルーがこの酔っぱらいほど無警戒でいてくれるかという辺りだ。
(ってか…何マジに考えてんだよ俺は…。酔っ払いの戯言に…。)
自分の思考にも呆れつつ、まあどうせだから話を合わせてやるか、と笑んで見せた。
「どんな仕事くれんだ?あんまりつまんねーのは勘弁だぜ。」
「んー…イアンの手伝いでしょ。それから…食事の準備とか…掃除とか…洗濯とか…。」
「…おいおい…。」
料理なんか任されたら間違いなく毒入れるぞ、と頭の中でツッコミを入れて、苦笑する。
気に入らないの?とスメラギはさらに考えている様だ。
そして何やら思いついたらしく、パッと明るい顔になった。
「あー!らいじな仕事ぁ一つあったわ!」
はいはい、と適当な返事で促すと、スメラギはにっこり笑った。
「あたしのぉ、お酒の相手!重要よ、これぇ。」
そりゃあいいや、とサーシェスが笑う。
スメラギは、最近だ~れも付き合ってくれなくってさァ、と愚痴り出した。
ひとしきり愚痴を言って、ふうっと息を吐く。
それを見てサーシェスは柔らかく笑んだ。
「ほら、寝ろよ。」
お前が寝たら早速艦の中を散策するんだから。
もう酔いも回って、眠りに落ちるのは時間の問題だろう。
そう思って見下ろしていると、スメラギの目がしっかりと開いた。
「…ここに居るから、寝てていいぜ?」
サーシェスの言葉など聞こえていないかのように、ベッド脇の受話器を取る。
そして。
「ニールを呼んれちょうらい。」
ろれつが回らないままではあるが先程よりはしっかりした口調でそう言った。
呆気に取られているサーシェスが、なぜさっきから立ち去らなかったかと言えば、今もなお掴まれている手首。
この女、酔っている割には侮れない。
それほど強くはないが、振りほどくのが面倒だと思う程度の強さでしっかりと捕まえている。
今この手を振りほどいて逃げ出したとしても、すんなりと格納庫まで行けなければ捕まる確率は高い。
そして一度そう言う事をしてしまうと、いくらいい加減な組織でも監視が強化されるのは目に見えている。
後々の事を考え、サーシェスは大人しくその場にとどまることを選択した。
溜め息を吐きつつ首を横にふる。
(まあ、チャンスはいくらでもある。)
酔っぱらったスメラギに呼び出されたニールは、例によってまた絡まれるのだろうと覚悟をして部屋を訪れてみれば、そこにはサーシェスが。
しかも二人が居る場所はベッド。
一瞬誤解してしまいそうになりながらも、目の前の光景を理解しようと脳をフル回転させる。
床に転がる大量の酒瓶を見てある程度の事は把握できた。
「…な…何やってんだよ!あんたはっ!」
真っ先にサーシェスに向かって怒鳴り、ついでスメラギにも説教をする。
「Ms.スメラギ!!いくら酒の相手が欲しいからってコイツを連れてこなくてもいいだろ!」
その様子をスメラギは楽しそうに笑った。
「あはは~。ロックオン怒った~。違うのよぉ?酒の相手が欲しかったんじゃなくてぇ、飲み比べしてたのよぉ?」
「だから!コイツとんなことするなって言ってんの!」
怒るニールに構わず、スメラギが言う。
「この人、アナタと相部屋れいいれしょ?連れてってね?」
「はあ!?」
「じゃあおやすみぃ。ほーら、いつまれも女性の部屋にいるもんじゃないわよ。れてって。」
スメラギは強引に二人を押し出した。
シューン、とドアが閉まり、部屋の前に立つ二人。
「…頭痛ぇよ。」
「…ま、気持ちは分かる。」
頭を抱えるニールに、しれっとそんな事を言うサーシェス。
ニールはムッとして睨んだ。
「は~い、お元気ぃ~?」
などと、軽いノリでサーシェスの病室を訪れたのはスメラギだ。
丁度、彼が着替えているところだった。
「…ねーちゃん、いい匂いさせてんな。」
まだ前がはだけていることも気にせず、振り返ってそう言う。
スメラギは例によって酒を飲んでいた。
「当番なのすっっっっかり忘れちゃっててさァ。アハハハハ。」
スメラギもサーシェスの姿は気にも留めず、ご機嫌な様子で返す。
「…お前ら、そんなんでよく組織を保ってられるな…。」
ボタンを留めながら呆れて呟くと、スメラギはよく聞き取れなかったらしく、つかつかと歩み寄って顔を近付けた。
「ん~?何か言ったァ?」
「…いや、なんも?」
酔っ払いの女に顔を顰めてみせると、癇に障ったらしい。
スメラギはムッとした顔をさらに近付けた。
「はっきりモノを言わないなんて、男らしくないわよ!」
「…へいへい、んじゃ、言っていいか?」
「よし、それでこそ男だ!」
バンッとサーシェスの背中を叩く。
軽く前のめりになりながら、この酔っぱらいをどうしようかと考えて。
「…酒が飲めるなんて羨ましいって言ったんだ。」
「あら、あなたもイケる口なの?」
「まあ、ねーちゃんよりは強ぇんじゃねえかな。」
「言ったわね。あたし、その辺の男よりも強いんだから。まだまだ飲めるわよっ!」
ニッと笑ってサーシェスは言った。
「んじゃ、飲み比べてみっか?」
「いいわよ、ちょっと待ってなさい!」
そう言って出て行こうとするスメラギの足元は少々おぼつかない。
サーシェスは二の腕を掴んで支えた。
「危なっかしいねーちゃんだな。…部屋まで送ろうか?」
「あら、優しいのね…ってんなことさせられるわけないでしょ!」
一応まだ理性は残っているらしい。
ポンっとサーシェスを付き離して、その勢いで自分が尻もちをついた。
「おいおい…。」
腰に手をあてて、呆れ顔で見下ろしていると、スメラギはふらっと立ち上がった。
そして俯いて何やら考えている。
「…まだ飲めるわよ。まだ飲めるけど…ちょっとここにお酒持ってくるのは面倒臭いって気がしてきたわ。」
「その様子じゃそうだろうな。」
「…だから、あなたが私の部屋に来て一緒に飲めばいいのよ。」
まったく、ホントにここはどうなってんだ、と呆れる一方、まあ酒が飲めるなら大人しくついていくか、と納得する。
『部屋まで送っていく』のと、『一緒に行って飲む』のとさほど変わりはない気もするが、酔っぱらったスメラギの中では別物らしい。
「分かりましたよ。お嬢さん。ご一緒しましょう。」
紳士的な返答が気に入ったのか、スメラギはウフフと笑って手を差し出した。
部屋に着いて早速酒を出し、二人で床に座り込んで酒盛りを始めると、一時間もしないうちにスメラギはろれつが回らなくなってきた。
サーシェスの所に行った時には既にかなり飲んでいたのだから当然のことなのだが。
「ら~かぁら~、らいジョーブなの~!」
「…分かった分かった。俺の負けでいいから、そろそろ寝ろって。」
「マケ?負けをミトメタのね~。ふふ~ん、やった~。」
ご機嫌で万歳をしている。
「…で、俺は一人で戻るからな、ねーちゃん歩けねーだろ。」
「らめ!らめに決まってるれしょ!」
「どうすんだよ…。」
「…ん~、…ここにいればぁ?」
「…お前、俺が誰か忘れてるだろ。」
「ぶー!酔ってるとオモッテルわね~?酔ってなんかないんらから!え~っと、名前…名前………なんらっけ…?」
これだから酔っぱらいは…と肩を竦め、サーシェスはスメラギを抱き上げてベッドに乗せた。
「言っとくが、このままねーちゃんの酔いがさめるまで二人っきりでいて、何もしない保証はねーからな。」
「…あーい、ゴチュウコクありあと。」
スメラギはそう言うとまどろみ始めた。
「…ったく、勘弁してくれよ。」
酒にありつけたのは有難いが、酔っ払いの介抱なんてのは予定になかったんだ、と溜め息を吐く。
このままここにいたら何もしていなくても要らぬ疑惑をもたれてしまう。
さっさと立ち去ろう、と立ち上がりかけたところをスメラギに引っ張られた。
「おわっ!?」
「あなた、もうケガ治ったわよねぇ?」
しっかりと手首を掴まれて離れられない。
「…あぁ、普通に動けるぜ?なのに、いつまであの病室に置いとく気だってんだ。」
独房だの何だのもっと管理しやすい部屋に移すのが普通だろう。
それなのに一向にそういう気配はない。
今この船が何処に居るのかまでは分からないが、重力圏に下りたのは分かっている。
逃げ出そうと思えばいつでもできそうだ。
そう、今でも。
「そうよね、へんよね、病室に置いておくのは…。」
「…おー…。」
「らから、…部屋が必要…よね。うん…。」
「いいから寝ろよ。」
「…ロックオン…じゃなかった。ニールと相部屋でいい?」
「…はあ!?」
「今、人れ不足なのよ~。手伝いなさいよあなた暇そうらもの。」
手強いと思っていた敵の組織がこんないい加減な所だったのかと肩透かしを食らったような気分で溜め息を吐く。
(まさか、な。…このねーちゃんが酔ってるからだよな…。)
これがこの組織のデフォルトだとしたら、今すぐにでも逃げ出せるだろう。
ちょっとやってみたい気もする。
格納庫はどっちだったかと、ここにきて自分が把握できた艦内の様子を思い出す。
怪我で運ばれた時でさえ一応の道順を頭に入れていたのだから、最初に入れられた部屋に行きつくこともできるだろう。
そこまで行けば、格納庫は目と鼻の先だ。
小さな飛行機でも、最悪パラシュートでも見つかれば、外に出るのは簡単だ。
パラシュートの場合、あまりに高度が高いと危険が大きいが。
つい考えに入りこんでしまい黙っていると、スメラギが掴んでいる手に力を入れてグイッと引いた。
「…嫌なの?相部屋。」
そこじゃねーだろ、気にしなきゃなんねーとこは。
突っ込みを入れてしまいそうになりながら、頭を掻きつつ答えた。
「嫌じゃねーけどよ。拘束はされないのかと思ってね。」
何でこんな事を自分から言わなきゃならないんだ。と思いはするものの、この警戒心のなさは逆にプライドを傷つけられる。
「…こんらけ世話になったんらから、働いて返してよ。」
「……それは…別にいいぜ?」
そういう状態でいられるなら、なるべく情報を集めてから出て行った方が後々有利だろう。
問題は、他のクルーがこの酔っぱらいほど無警戒でいてくれるかという辺りだ。
(ってか…何マジに考えてんだよ俺は…。酔っ払いの戯言に…。)
自分の思考にも呆れつつ、まあどうせだから話を合わせてやるか、と笑んで見せた。
「どんな仕事くれんだ?あんまりつまんねーのは勘弁だぜ。」
「んー…イアンの手伝いでしょ。それから…食事の準備とか…掃除とか…洗濯とか…。」
「…おいおい…。」
料理なんか任されたら間違いなく毒入れるぞ、と頭の中でツッコミを入れて、苦笑する。
気に入らないの?とスメラギはさらに考えている様だ。
そして何やら思いついたらしく、パッと明るい顔になった。
「あー!らいじな仕事ぁ一つあったわ!」
はいはい、と適当な返事で促すと、スメラギはにっこり笑った。
「あたしのぉ、お酒の相手!重要よ、これぇ。」
そりゃあいいや、とサーシェスが笑う。
スメラギは、最近だ~れも付き合ってくれなくってさァ、と愚痴り出した。
ひとしきり愚痴を言って、ふうっと息を吐く。
それを見てサーシェスは柔らかく笑んだ。
「ほら、寝ろよ。」
お前が寝たら早速艦の中を散策するんだから。
もう酔いも回って、眠りに落ちるのは時間の問題だろう。
そう思って見下ろしていると、スメラギの目がしっかりと開いた。
「…ここに居るから、寝てていいぜ?」
サーシェスの言葉など聞こえていないかのように、ベッド脇の受話器を取る。
そして。
「ニールを呼んれちょうらい。」
ろれつが回らないままではあるが先程よりはしっかりした口調でそう言った。
呆気に取られているサーシェスが、なぜさっきから立ち去らなかったかと言えば、今もなお掴まれている手首。
この女、酔っている割には侮れない。
それほど強くはないが、振りほどくのが面倒だと思う程度の強さでしっかりと捕まえている。
今この手を振りほどいて逃げ出したとしても、すんなりと格納庫まで行けなければ捕まる確率は高い。
そして一度そう言う事をしてしまうと、いくらいい加減な組織でも監視が強化されるのは目に見えている。
後々の事を考え、サーシェスは大人しくその場にとどまることを選択した。
溜め息を吐きつつ首を横にふる。
(まあ、チャンスはいくらでもある。)
酔っぱらったスメラギに呼び出されたニールは、例によってまた絡まれるのだろうと覚悟をして部屋を訪れてみれば、そこにはサーシェスが。
しかも二人が居る場所はベッド。
一瞬誤解してしまいそうになりながらも、目の前の光景を理解しようと脳をフル回転させる。
床に転がる大量の酒瓶を見てある程度の事は把握できた。
「…な…何やってんだよ!あんたはっ!」
真っ先にサーシェスに向かって怒鳴り、ついでスメラギにも説教をする。
「Ms.スメラギ!!いくら酒の相手が欲しいからってコイツを連れてこなくてもいいだろ!」
その様子をスメラギは楽しそうに笑った。
「あはは~。ロックオン怒った~。違うのよぉ?酒の相手が欲しかったんじゃなくてぇ、飲み比べしてたのよぉ?」
「だから!コイツとんなことするなって言ってんの!」
怒るニールに構わず、スメラギが言う。
「この人、アナタと相部屋れいいれしょ?連れてってね?」
「はあ!?」
「じゃあおやすみぃ。ほーら、いつまれも女性の部屋にいるもんじゃないわよ。れてって。」
スメラギは強引に二人を押し出した。
シューン、とドアが閉まり、部屋の前に立つ二人。
「…頭痛ぇよ。」
「…ま、気持ちは分かる。」
頭を抱えるニールに、しれっとそんな事を言うサーシェス。
ニールはムッとして睨んだ。