『刻の止まった部屋』シリーズ

ハロ


「ロックオン、ロックオン」
 ニールとライルの前で楽しそうに跳ねるハロ。
 ロックオンが二人いるということを、このロボットは理解しているのだろうか。
「おいおい、それじゃどっちを呼んでんだか分んないぜ?」
 ライルが呆れたように言うと、ハロはキュルキュルっと機械音を出してからニールの足元にじゃれついた。
「アイボー、アイボー。」
 ちゃんとその呼び方を覚えていることに、ニールは喜びの笑みを漏らす。
「おう、サンキュ、相棒。」
 抱きしめたいくらいの気持ちはあるのだが、ライルがいる手前、そんな子供っぽいことをするのは躊躇われた。

 そういえば、とニールは口を開いた。

 なぜだか手放せなかったオレンジのボールはこのハロの代わりだったのだと今更気付く。
 サーシェスにも呆れられながら、結局ボールを身近に置いていた。
 時々話しかけたい衝動に駆られてボールを持ち上げた。
 口を開きかけて自分の行動のおかしさにイラついたりして…。
 そして、サーシェスから相棒と呼ばれる度、何故かそのボールのことが頭をよぎった。
 何か大事な事を忘れているという焦燥感が湧きあがった。
 結局自分の力で思い出すことはできなかったが、それらの事柄はこのハロに起因していた。

「お前は俺に思い出せって言ってたのかな。」

 大切な人達を忘れるな、と。

「サンキュ、ハロ。」

 まだ尚、足元で飛び跳ねる相棒を拾い上げた。
 焦燥感に襲われた時はボールを抱きしめると落ち着いた。
 うん、と頷く。
 いいじゃないか、子供っぽくったって。

「会いたかったぜ?相棒。」

 ぎゅっと抱きしめた。
 やっと、本物の相棒に再会できたんだ。
 嬉しくて何が悪い。


 兄の意外な行動に呆気に取られるライル。
 年は同じでも、精神的には自分よりずっと大人だと思って見ていたのだから。

 ハロはキュルキュルっと嬉しそうにまた機械音を出した。





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