遙か彼の地にいる君




 ニールが最後にアリーに会ってから、一年近くが過ぎた。

 ライルはソレスタルの新商品研究開発チームにいて、電子部品を使う様々な商品を扱っている。
 ニールは企画開発部に所属していた。
 イオリアが死んでから、グループは衰退の一途を辿っていたが、それは半数の会社が脱退や倒産をした辺りで落ち着いた。
 あの頃スタートしようとしていたプロジェクトも一旦はお蔵入りになったものの、先頃再始動を始めたところだ。

 社員の意気が上がって来たというこの時、事件が起こった。
「またなの!?」
 スメラギが何処からか報告を受けた途端そう声を上げた。
 近くで書類の確認をしていたニールが顔を上げる。
「どうしたんです?」
 仕事モードでそう訊ねると、スメラギはクシャクシャと頭を掻いた。
 ヒステリーを起こしそうな気配だ。
「明日発表予定だった新商品、ダメになったわ。」
「何だって!?」
 ニールは勢いよく立ちあがった。
 駒の付いた椅子がすぐ後ろの棚に当たって音を立てる。
 驚くのも無理はない。
 同じことが数週間前から立て続けに4件も起こっているのだ。
「どっから漏れてるのよ…。」
「また、なのか?」
 スメラギのデスクに歩み寄ったニールに並んで、刹那とアレルヤも近付いた。

 起死回生を図るプロジェクトだというのに、開発改良して生産ラインを整えていざ世に出そうという時を見計らったように同じ機能や特徴を持った類似商品を一歩早く出される。
 勿論と言うべきか、類似商品を発売するのは決まってアルマークグループだ。
 生産ラインまで整えるのにかかった費用が全て水の泡である。
 それを回収するには、二番煎じという風評を覚悟で世に出すしかない。
 しかも特許権の問題で訴えられる可能性まである。
 そして出したところで風評を覆すほどの売れ行きは望めないだろう。

「機密事項が漏れているとしか考えられないわ。みんな、きちんと文書は処分してるんでしょうね。持ち歩いたりしてない!?」
 仲間を疑いたくはないが、そういう事も頭に置いておかなくてはいけないのが上の者の役目だ。
 スメラギが苦虫をかみつぶしたような顔をしているところに、ライルが入って来た。
「兄さん、居るか?」
 何も知らないライルはのほほんとした空気を纏っている。
 ニールは困り顔で人差し指を立てて唇に当てた。







「ハロの調子、どうだった?」
 戻って来たライルにそう訊いたのはアニューだ。
 ライルがソレスタルに入社してすぐ、新入社員として彼女はやって来た。
 思わぬ再会に喜んだライルが、アルマークグループに行くって言ってなかっただろうかと少し気になって訊ねてみれば、「良くない噂を聞いたからやめたのよ。」と彼女は答えた。
「ああ、いいみたいだ。…それより…。」
 開発中であるペットロボットのハロは、ニールに預けて不具合を見つけては改良を重ねていた。
 先程もその様子見の為に顔を出したのだが、それよりも気にかかる話を聞かされてしまった。
「…そう…。嫌になってしまうわね。必死で作りだした商品を横取りしていくなんて…。」
 アニューも難しい顔をして目を伏せた。
「まったくだ…。」
「…今度はうまくいくわ、きっと。」
 そう言ってアニューは無理やりに作った笑顔を向ける。
 ライルも笑顔を返した。
 彼女はこうやって常に励ましてくれる。
 その優しさが嬉しかった。
「だよな。俺とアニューで育てたハロだからな。」





「で、今日はどういう用件?」
 突然やって来たティエリアをオフィスに案内しながらスメラギは訊ねた。
 イオリアの孫である彼は、今どの会社にも属していない。
 遺産を相続はしたものの、イオリアの持っていた様々な地位を継ぐ気はないようだ。
 そうは言ってもイオリアの死後、その後処理に追われていたのは事実で、グループの存続のために次の会長への引き継ぎや立て直しの費用の投資など重要な役割を担っていた。
「もちろん漏えいについてですよ。本来僕には関係ない話なんですが、そうも言っていられない事態になったので。」
「…事態…?」
 ティエリアの背後にはぴったりとSPが従っていた。
「機密文書の処理はどのように?」
「会議の後、ここでシュレッダーにかけてるわ。アナログな資料が出て言った形跡はないわね。」
 ふん、と納得するように頷いて、ティエリアはシュレッダーから視線を外した。
 仕事の途中でペコ、と頭を下げる社員を尻目につかつかと歩きまわる。
 スメラギのデスクの背中には大きな窓があった。
 オフィスを隅々まで見ているティエリアの背中にSPが張り付くように立つ。
「そちらへ。」
 一人が窓に近づけないようにティエリアの背を押した。
 ティエリアは視線を色々なものに移しつつ、言われるまま場所を移動する。
「掃除は業者にやらせているのですか?」
「いいえ。社員が交代で。外の人間は入れられないわ。」
 ふん、とまたティエリアは頷いた。
「ハッキングの可能性は?」
「クリスティナが通常業務から離れて調べてくれてるけど、その形跡はないらしいわ。」
「一人でですか。…もう一人いたでしょう、優秀なプログラマーが。」
「彼女は…社員じゃないわ。まだ子供だし。」
「そんな事を言っている場合ですか。使えるものは何だって使ってください。」
 スメラギは苦笑を向けて「そうね。」と返事をする。
「で…、あなたが首を突っ込まなくちゃならない事態って?」
 苦笑のままそう訊ねると、ティエリアは一呼吸間をおいて口を開いた。
「リボンズ・アルマークから、資金提供の申し出があったんです。」
「リボンズから!?」
「グループを存続させ得る以上の額を提示してきました。もちろん交換条件ありですが。」
「交換条件?」
「イオリアの遺産です。」
 驚きの溜め息が漏れる。
 リボンズの名前が出た時点で、そこに居たメンバーは仕事の手を止め二人に注目していた。
「彼の目的はそこのようです。昔から彼とは因縁がありましたからね。」
「それで、返事はしたの?」
「もちろんはっきりと断りました。…それで、これ、です。」
 そう言ってSP達を指し示す。
「…狙われてるの?」
「そういうことを仄めかされました。向こうには腕のいいスナイパーがいるらしいですからね。」
 パソコンのキーに添えていたニールの指がピクッと動いた。

 腕のいいスナイパー。
 アリーの事だ。

 あれからリボンズ絡みだと思われる殺人事件が数件起こっていた。
 それまでもそういう事件はあったが、一つ明らかな相違点がある。
 殺しの手口が変わったのだ。
 イオリアの死後に起こった事件は、使われた銃の種類は違っても、必ず遠距離からの狙撃によるものだった。

「僕の知る限り…いえ、イオリアの資料に残っている限りでは、今リボンズの傍に居る人間でそれだけの腕を持っているのは一人だけです。」
「アリー・アル・サーシェス。」
 ポツ、とニールが呟いた。
 ティエリアが驚いたように眉を上げて彼を見る。
「よく知っていますね。」
「…ああ、ちょっとな…。」
 そう答えて、ニールは視線を落とした。
 表情を固めて唇に力を入れる。
「なあ…ティエリア…。」
「なんです?」
「俺を、お前のボディーガードに雇ってくれないか。」
 皆が驚きの表情を見せた。
「何を言い出すの!?あなた、ここの社員なのよ?…それに何より…危ないわ…。」
 スメラギの言にティエリアも頷いた。
「あなたの射撃の腕は知っていますよ。でもそれは狙撃手向きだ。ボディーガードが務まるとは思えない。」
「いや?これ以上ないガードになると思うぜ。」
 ニールはニッと笑って見せた。
「なぜそう言えるんです。」
「俺がお前の前に立てば、アイツは絶対に撃たない。断言出来る。」
 しんと静まった。
 二人の関係を知る者はいない。
 しかし、そう言うからにはそれなりの間柄なのだろうと憶測は立つ。
 沈黙の中、ニールが目を伏せた。
「頼む。」
「何故です。」
「…アイツを止めたい…。」
 懇願の目に、ティエリアは困惑する。

 プロのボディーガードなら一度契約してしまえば信頼を置いて任せるだろう。
 現にSP達とはそういう契約関係なのだ。
 しかし、この青年をそういうふうには見れなかった。
 何度か顔を合わせているが、気さくに話しかけてくる彼に好感を持ちこそすれ知らない間柄のように危険な任に付かせる気にはなれない。

「サーシェスという男が引き金を引かないという保証はありません。」
「…引かないさ…引かせない。」
 そう言ったニールの目に強い決意が窺える。
 しばしの沈黙の後、ティエリアは溜め息をついた。
「分かりました。ただし、きちんと訓練は受けて貰います。敵がその男だけだと思われては困る。いつ誰が差し向けられるかなど、こちらには解らないんですから。」






 皆の反対を押し切って、ニールはティエリアのところに行ってしまった。
 ライルも心配はしているが、今は仕事を放り出して兄の所に入っている場合ではない。
 相次ぐ漏えいへの対応策として、次の商品の発表を急遽繰り上げて行う事になった。
 それも前日まで関わっている社員にも知らされていなかった。
「明日!?待ってくれよ!ハロはまだ開発中だぜ!?」
「改良版は第二弾で出せばいいわ。今の状態でも充分商品としての価値はあると上が判断したのよ。」
 確かにペットロボットとしての商品価値はそれなりにあるだろうとライルも思ってはいたが、まだ会話機能のプログラミングを練ろうと思っていた段階だったのだ。
 当然納得がいかず、イライラとした気分のまま研究室に戻った。
「前日まで知らせてくれないなんて、ひどいわ。…私達を信用してくれてないってことじゃない。」
 乱暴に煙草の煙を吐き出しているライルの横で、アニューが悲しげに笑った。
「ねぇ、ライル?」
「ん?」
「ライルは、私の事、信じてくれる?」
 え?とアニューの顔を見る。
 何を言っているのだろう。
 自分たちを信じていないのは上層部の人間だ。
「当たり前だろ?そんなこと聞くなって。」






 そして、その夜。







 就業時間が過ぎると、ライルは早々に帰り支度を始めた。
 このところずっと残業続きだったが事情が変わってしまった。
 明日あのハロを新商品として世に出すのなら、今からあれこれ改良をしようとしても無駄だ。
 後々改良版を出すとは言っていたが、すぐというわけではない。
 焦って改良を施す意味がないのだ。
 当然他の社員も定時で仕事を切り上げている。
 さて帰ろうと荷物に手をやって振り向いたとき、そこにはまだ帰る様子のないアニューがいた。
「帰ろうぜ。あくせくしたって意味ないだろ?」
 肩を竦めてライルがそう言うとアニューは困ったような顔で笑った。
「私ちょっとやっておきたい事があるの。先に帰ってて。」
「やっておきたい事?」
「うん、…データの整理。」
「…手伝おうか?」
 今日それをやる必要性は感じないが、彼女がやるのなら付き合うかとライルは持ち上げた荷物をもう一度机に置いた。
 すると慌てたようにアニューが両手を体の前で振る。
「い、いいのよ。私が勝手にやりたいだけだから。…それに…私のファイルばかりだから…きっと分からないわよ?」
 それを聞いてライルは苦笑いをして見せる。
「そいつは手伝えないな。」
「でしょ?」
「…んじゃ…先帰るけど、程々にしとけよ?折角だから休まなきゃ。」
「うん、すぐ終わらせる。」
 軽く手を振ってライルは研究室を出た。




 まったく、とボヤキながら帰り路を歩く。

 どっかの誰かが漏えいなんてドジを踏むから、こんな事になる。
 それさえなければ納得がいくまで改良を施せたはずなのだ。
 まだ会話機能に不具合があった。
 その程度の子供騙しな商品なら世に五万とある筈だ。
 起死回生を図る一押しの商品がその程度でいいのかよ。

 漏えいをドジだと考えているのはやはり仲間を疑いたくないからだ。
 皆気のいい人たちばかりで、とても仲間を裏切るような人間には見えない。
 いったい誰が、と考えたところで、アニューが言ったあの言葉を思い出した。
『信じてくれる?』

 彼女は何故あんな事を訊いたのだろう。
 大学時代からの友達で、ずっと仲良くやってきた相手を疑うわけがないじゃないか。
 いつも気にかけてくれて、励ましてくれて…。
 そう、就職のことだって気にしてくれて…。

『親戚に大手と繋がりがある人が…。』
 ハタと気がついてライルは足を止めた。

 そうだ、彼女はアルマークグループとの繋がりがあった。
 そこの伝手で面接まで準備してくれていた筈だ。

 彼女が良くない噂を聞いてアルマークグループへの就職を止めたと言ったことで納得してしまっていたが、繋がっている可能性は誰よりも高い。
「…まさか…な。」
 ハハ、とライルは自分の思考に笑った。

 疑われる可能性があるから「信じてくれる?」と訊いたのであって、漏えいに関わったからでは断じてない。
 そんな事があるものか。
 彼女はそんな事が出来るような腹黒い人間ではない。

 そう思いながら、ライルの足は会社に向かっていた。
 彼女の無実を証明するために。





 戻ってみると研究室はもう真っ暗だった。
 他の部署も外から見た限りでは明かりが消えていた。
 もう帰ったのだ、とライルはホッとする。
 自分がここを出た後きっと気が変わってアニューもすぐに出たのだと。
 余計な心配をしてしまったと踵を返そうとした時、目の端に何かのランプが点滅しているのを見つけた。
「珍しいな…。」
 コンピュータの電源を落とし忘れたのだろうと、ライルは近づいてパネルに触れる。
 あの几帳面なアニューがこんなミスをするなんてやはり連日の残業で疲れているのだろう、と小さく溜め息を吐くと同時に画面が現れた。
「!?何だ?」
 画面にはでたらめな文字の羅列。
「なんだよッ!これはっ!!」
 パネルに触れてもキーに触れても正しい画面は表示されない。
 焦りつつも自分の知る限りの方法を試みていく。
「…これもダメか。」

 なんで、なんでだ…

 ここには大事な資料が入っていた。
 社外に漏れては困るのも当然だが、これまでの研究成果を見ることもままならない状況では今後の開発に影響が出るだろう。
 手を尽くしてもフリーズしたままの画面に、ライルは項垂れた。
「…ちくしょう…。」

 ふいっと顔を上げる。
 何かの音を聞いた気がした。
 酷く、攻撃的な音…。
 胸騒ぎがして廊下に出た。

 ガシャン。

 小さい音ではあるが、はっきりと耳に届く。
 廃材をプレッシャーにでも掛けているようにも聞こえる。
 金属系の物が壊れる音。
 しかしこの社内でそんな音が聞こえるのは異常だ。

「…なんだよ…。」
 薄明かりの中、ライルは音に向けて走り出した。

 酷い音がするその部屋を開けると、そこには書類やら事務用品やらが乱雑に散らばっている。
 誰かが荒らしているのだとすぐにわかり、ライルは足を踏み入れた。




「…ア…ニュー…。」




 信じられない光景に、ライルは動けなかった。
「あら、ライル。早かったのね。」
 鉄パイプを横にスイングしてすぐ傍のディスプレイをまた一つ壊したところでアニューは振り向いた。
 ニコッといつものように笑いかけている。
「な…何してんだよ…。」
「ああ、これ?これね、間違ってもデータを引き出せないように、壊してるの、よッ!!」
 ガシャン!!
「やめろ!!」
 俯きながらライルは叫んだ。
 アニューがそんな事をしている場面など、見たくなかった。
「…これでよし。…ねえ、ライル?」
「何で…何でお前が…。」
「戻って来たのは、私を信じてたから?それとも、疑ったから?」
 部屋の奥、ライルから数メートル離れたところで、アニューは体を彼の方に向けていつものようにシャンと立っている。
 今部屋を荒らしていたのが嘘のように。
「…信じてたに…決まってるだろ…。」
 なのに、とまたライルは目を伏せる。
 アニューは少し首をかしげて微笑んだ。
「ありがとう。こんな私を信じてくれて。」
 私ね、とアニューは窓の方に歩きながら話し始める。
「リボンズに命を貰ったの。」
「え…?」
「両親が事故で死んだって言ったでしょ?その事故の時ね、私もいたのよ。全身にやけどを負って、虫の息だった…。」
 リボンズが助けてくれたのよ、と言いながら窓を開け、その淵に座った。
「見える所の皮膚は直してもらったけど、まだ胴体にひどいやけどの痕があってね、…今度消してもらうの。」
 そこでアニューはウフフ、と笑ってみせる。
「そうしたら、一緒に泳ぎに行ったり、あ、そうだ、一緒にお風呂にも入れるわね。楽しみ。」
「アニュー…。」

 バシュッ─

 どこかで何かの音がする。
 しかしライルにはどうでも良かった。
 目の前の光景に釘付けになっていた。

 バシュッバシュッ…
 何度か同じような音がして、それと同時に走り回るような足音が聞こえる。
 煙が二人のいる部屋に回って来た。

「ああ、そろそろ、危ないかしら。」
 バタンっとドアが音をたて、そこに来たのは刹那だった。
「ライル!何をして…!…アニュー…リターナー…。」
「もう燃え始めてるわよね?逃げないと危ないわよ?」
「アニュー・リターナー。お前が仕組んだことなのか。」
「ええ。そう。ここも危ないわ。ここが火元ってことになるから、こんがり焼かなくっちゃね。」
 ニコ。
「刹那!」
 刹那の後ろからアレルヤとスメラギが走って来た。
 入口のところで二人とも唖然として立ち止まる。
「何…これ…」
 それを無視して、アニューは窓の外に身を乗り出した。
「ねぇ、ライル。私を信じてくれたお礼。」
「………。」
「一緒に、来ない?」
「…何を…。」
「この会社、潰れるのよ。ここに居る意味、無いでしょ?リボンズはあなたの能力を高く買ってるわ。今まで通りに、一緒に、仕事をしましょう?」
 何を言うんだ!と声を上げたのはアレルヤだった。
 ライルはふいっと足を踏み出した。
「ライル!?」
 初めはゆっくりと、そして徐々に足を速めてアニューに駆け寄る。
 そこで振り向いた。
「…わりぃな、みんな。俺、貧乏な生活に飽き飽きしてんだよ。…兄さんによろしくな。」
 アニューが手に持っていた小さなスイッチを押した。
 バシュッと音がして、部屋の中央から発火する。
 その火が二人と刹那たちを隔てた。
 炎に背中を向けて、ライルはアニューに手を差し出す。
「高待遇、期待してるぜ。」
「ええ。もちろん。」
 ひゅるッとワイヤーが街灯の支柱に巻きついてキャッツアイよろしくワイヤーに体を預けると、二人は火の大きくなった社屋から離れた。

「ライル!」
 追いかけようとするアレルヤを刹那は止めた。
「いいのかい!?行かせてしまって!」
「ニールによろしくと言っていた。考えがあってのことだ。…恐らく。」
 それよりも今は火事の対応が優先だ。
「ハレルヤに連絡を。」
「あ…ああ、分かった。」








「ご苦労だったね。」
 リボンズはいつになく優しげに微笑んだ。
 いいえ、とソファーに座ったアニューは笑んで目を伏せる。
 その横でライルはあらぬ方向を向きつつ出されたティーカップに手を伸ばした。
「面白いことになっただろう?」
 そう言ってリボンズが笑いかけた相手はアリーだ。
 向かいのソファに居るライルを冷めた目で一瞥すると、アリーはニッと口角を上げて肩を竦めて見せた。




5/7ページ
スキ