ショートショート
love child
フェルトの平手打ちを食らったあと、ライルは部屋に帰るとベッドにドサッと横になった。
ワザとそうしたとは言え、やはり人に嫌われて気分がいいわけがない。
ここに来てからというもの、ニールニールニール。
ニールと呼ばれることはないが皆が兄と自分を重ねて見ているようで腹が立つ。
不機嫌な顔で天井を睨んだ。
皆が待っていたのは俺じゃなく兄さんだ。
射撃の腕だってあの人の方が上だし、人望も厚いらしい。
なんだってあの刹那って奴は顔が同じなだけの俺を連れに来たのか。
「兄さん…か…。」
******
「ニールぅ、アレ貸してくれよ。」
軽い感じでそう言いながら、ライルは部屋に入った。
「アレってなんだ?」
ニールのキョトンとした顔は無視して、勝手知ったる兄の部屋を探り始める。
机のあたりからノートを取り出すとそれを見せた。
「これこれ。」
ニッと笑って続ける。
「今日の宿題♪」
さっさとそれを持って部屋を出ようとすると、ニールは立ちはだかるようにしてノートを取り返した。
「何言ってんだよ。宿題は自分でやるもんだろ? それに…」
ニールは口を尖らせて怒って見せた。
「『兄さん』だろ?」
その言葉にライルもムッとする。
「何だよ。双子なんだからいいだろ? たまたまニールが先に生まれただけじゃんか。」
「それはそうだけど。」
ニールは困った顔をした。
彼は別にライルに兄さんと呼ばれたいと思っているわけではない。
ただ、身近な相手であっても礼儀はわきまえるべきだという両親の考えに従っているだけだ。
ニールが怯んだのをいいことに、ライルはニッと笑った。
「それに、知ってるか? ある国では昔、双子は後から生まれた方が兄貴だったんだぜ?」
「え…? ホントか?」
聞いたことのない話に、ニールは目をパチクリさせた。
「後から生まれるってことは、お腹の中で上にいたからだって。だから、もし俺達がその時代にその国で生まれてたとしたら、オレの方が『兄さん』だ。」
得意げに語るライルに、ニールは笑って言い返す。
「何だよそれ。お腹の中で縦に並んでるわけないじゃないか。」
「つまり、どっちが兄かなんて意味がないってことさ。」
ライルは肩を竦めた。
ニールはまた困った顔を見せる。
「そうだけどさ、母さんにまた怒られるだろ? いちいち注意されるのって嫌じゃないか?」
ニールはライルの事を純粋に心配している。
それはライルにも分かっていた。
ライルはふいっと視線を落とし、間を置いて笑顔を見せた。
「はいはい、分かったよ。『兄さん』」
ワザとらしく「兄さん」と呼んで部屋を出て行く。
その姿が少し寂しげに見え、ニールは追うように一歩踏み出して声を掛けた。
「あっ、ライル!」
「何だよ、『兄さん』」
「…ノート…、持って行くか?」
クスッと笑って答える。
「さっきと言ってることが真逆だぜ? 自分でやるよ。」
「…ライル…。」
ニールに笑顔を見せ、背中を向けると不機嫌な顔で自分の部屋に戻った。
******
眉間に皺をよせ、ライルは寝返りを打った。
楽しい思い出だってたくさん頭の中に残っているというのに、ここに来てから思い出すのは嫌なことばかり。
「ちくしょう…。」
勝手にCBなんかに入って、勝手に死んじまいやがって…。
兄の困ったような笑顔がよぎる。
いつでも彼は自分の事は二の次だった。
「…分かったよ。仕方ねーからやってやるよ。」
くっと口元に力が入る。
「でもな、俺がやるのはロックオン・ストラトスって役だ。」
ニール・ディランディには絶対にならない。
俺はライル・ディランディだ。
fin.
(注:ラブチャイルドは私生児という意味ですが、このお話では「ライルも愛されるべき子供だよね」という想いを込めてこじつけてます)
フェルトの平手打ちを食らったあと、ライルは部屋に帰るとベッドにドサッと横になった。
ワザとそうしたとは言え、やはり人に嫌われて気分がいいわけがない。
ここに来てからというもの、ニールニールニール。
ニールと呼ばれることはないが皆が兄と自分を重ねて見ているようで腹が立つ。
不機嫌な顔で天井を睨んだ。
皆が待っていたのは俺じゃなく兄さんだ。
射撃の腕だってあの人の方が上だし、人望も厚いらしい。
なんだってあの刹那って奴は顔が同じなだけの俺を連れに来たのか。
「兄さん…か…。」
******
「ニールぅ、アレ貸してくれよ。」
軽い感じでそう言いながら、ライルは部屋に入った。
「アレってなんだ?」
ニールのキョトンとした顔は無視して、勝手知ったる兄の部屋を探り始める。
机のあたりからノートを取り出すとそれを見せた。
「これこれ。」
ニッと笑って続ける。
「今日の宿題♪」
さっさとそれを持って部屋を出ようとすると、ニールは立ちはだかるようにしてノートを取り返した。
「何言ってんだよ。宿題は自分でやるもんだろ? それに…」
ニールは口を尖らせて怒って見せた。
「『兄さん』だろ?」
その言葉にライルもムッとする。
「何だよ。双子なんだからいいだろ? たまたまニールが先に生まれただけじゃんか。」
「それはそうだけど。」
ニールは困った顔をした。
彼は別にライルに兄さんと呼ばれたいと思っているわけではない。
ただ、身近な相手であっても礼儀はわきまえるべきだという両親の考えに従っているだけだ。
ニールが怯んだのをいいことに、ライルはニッと笑った。
「それに、知ってるか? ある国では昔、双子は後から生まれた方が兄貴だったんだぜ?」
「え…? ホントか?」
聞いたことのない話に、ニールは目をパチクリさせた。
「後から生まれるってことは、お腹の中で上にいたからだって。だから、もし俺達がその時代にその国で生まれてたとしたら、オレの方が『兄さん』だ。」
得意げに語るライルに、ニールは笑って言い返す。
「何だよそれ。お腹の中で縦に並んでるわけないじゃないか。」
「つまり、どっちが兄かなんて意味がないってことさ。」
ライルは肩を竦めた。
ニールはまた困った顔を見せる。
「そうだけどさ、母さんにまた怒られるだろ? いちいち注意されるのって嫌じゃないか?」
ニールはライルの事を純粋に心配している。
それはライルにも分かっていた。
ライルはふいっと視線を落とし、間を置いて笑顔を見せた。
「はいはい、分かったよ。『兄さん』」
ワザとらしく「兄さん」と呼んで部屋を出て行く。
その姿が少し寂しげに見え、ニールは追うように一歩踏み出して声を掛けた。
「あっ、ライル!」
「何だよ、『兄さん』」
「…ノート…、持って行くか?」
クスッと笑って答える。
「さっきと言ってることが真逆だぜ? 自分でやるよ。」
「…ライル…。」
ニールに笑顔を見せ、背中を向けると不機嫌な顔で自分の部屋に戻った。
******
眉間に皺をよせ、ライルは寝返りを打った。
楽しい思い出だってたくさん頭の中に残っているというのに、ここに来てから思い出すのは嫌なことばかり。
「ちくしょう…。」
勝手にCBなんかに入って、勝手に死んじまいやがって…。
兄の困ったような笑顔がよぎる。
いつでも彼は自分の事は二の次だった。
「…分かったよ。仕方ねーからやってやるよ。」
くっと口元に力が入る。
「でもな、俺がやるのはロックオン・ストラトスって役だ。」
ニール・ディランディには絶対にならない。
俺はライル・ディランディだ。
fin.
(注:ラブチャイルドは私生児という意味ですが、このお話では「ライルも愛されるべき子供だよね」という想いを込めてこじつけてます)