蟻ニル
運命ってヤツだ。
「なあ、どうしようかなぁ…。」
ニールは何度目かの溜め息を吐いてそう言った。
それを聞かされているライルは呆れ顔だ。
「知るかよ。何でもいいんじゃねぇ?」
「ライル~、頼むから一緒に考えてくれよ~。」
「はいはい、じゃあ、ケーキな。」
「だから、アイツ甘いもん嫌いだって言ったろ?」
「じゃあ、酒。」
「そんなのいつも飲んでるから嬉しくもなんともないだろ?」
「煙草。」
「それも自分で買ってるし。」
「あ~、もう、だから自分で考えろよ!」
ニールが悩んでいるのはアリーへの誕生日プレゼントだ。
さっきから同じことを繰り返し言っては考え込んでいる。
ライルはもううんざりしていた。
「何だって喜ぶんじゃねぇの?普通。ハンカチでも靴下でもネクタイでもさ。」
「…喜ばねぇかもしれないだろ?」
「それ言い始めたらプレゼントなんてあげられないだろうが。」
「だけどさあ…なんかこう、これなら絶対ってもんを…。」
はいはい、とライルは面倒臭そうに返して背中を向けた。
まったく、普段しっかりした兄さんがこうも女々しく思い悩むなんて…
だいたい俺にくれるプレゼントは一人で決めてるだろうに、何でこうも悩むんだ。
はあ、と大きな溜め息がライルから漏れたのを聞き、ニールは流石に気兼ねして口を閉じた。
他にこんな悩みを聞いてくれそうな知り合いはいないしどうしようかとまた悩む。
「あ…。」
ライルが何か思いついたように声を出した。
「どうか…したか?」
「いい事思いついた。絶対喜ぶやつ。」
「え!?ホントか!?」
パッと明るい顔になってニールは期待いっぱいの顔を向ける。
するとライルはニマッと悪戯っぽく笑った。
「兄さんのカ・ラ・ダ。」
カアッとニールの顔が真っ赤になった。
「な、なに馬鹿な事言ってんだよっ!」
「ゼッテー喜ぶだろ?」
「お、おまえなぁ!」
「恥ずかしいんなら俺からのプレゼントってことにしてもいいぜ。」
「ば、馬鹿っ!」
ニールはプイっと怒って出て行ってしまった。
アハハ、とライルはその背中を見送る。
「一人で考えろっての。」
仕方なくニールは一人でデパートを歩きまわっていた。
「…どうすっかな~…。」
これと言って思いつくものがない。
靴はこの前買ったばっかだし、酒や煙草なんて常備してあるし。
服はあんまりあれこれ着ない性質だし、アクセサリーなんて付けそうにないし。
「何だったら喜ぶかな…。」
そう考えているとさっきのライルの言葉を思い出してしまった。
おまけにリボンに巻かれた自分がアリーの前に居る所を思い浮かべてしまった。
「あーバカバカバカ!」
思いっきり恥ずかしい想像をしてしまったことで自己嫌悪に陥り、両手でパシパシと頬をひっぱたく。
「何やってんだお前…。」
呆れたような声が後ろからかかった。
「あ…アリー…。」
ボンッと火を噴くように顔が赤くなる。
それさえも恥ずかしく、あんな事を言ったライルを恨めしく思ってしまう。
「どうかしたのか?」
「い、いや…その…。」
視線を泳がせ言葉を探した。
アリーは肩を竦めて歩き出す。
「暇なら付き合えよ。」
「あ…ああ、うん。」
アリーは何を買いに来たのか、ニールを連れまわすだけで一向に買い物をしなかった。
「アンタもウインドウショッピングすることあるんだな。」
意外だなーとニールが言うとアリーは「いや?」と否定の返事をする。
「一応目的はある。」
「え?何だ?」
ニールがそう訊くと、アリーは「別に。」と答えた。
「え~?何だよ。教えてくれたっていいだろ?」
「ま、無駄足だったから目的がないと言えなくもないがな。」
結局アリーは何も買わずに部屋に帰った。
惰性でニールもついて行く。
そして部屋に着いてからハタと気付いた。
アリーも何も買っていないが、ニールもプレゼントを買わなかったことに。
「しまった…。」
部屋に足を踏み入れる寸前に立ち止まり、引き返そうかと悩む。
「入れよ。」
アリーに促されて余計に困ってしまった。
「あ…あの…さ。」
「なんだ。」
「誕生日おめでとう。」
「そいつはどうも。まあ入れ。」
「いや…その…俺、プレゼント買いに行ったのに忘れてて…。」
ニールが気まずそうにそう言うと、アリーは何故かにんまりと笑った。
「いいから入れよ。」
腕を掴まれて引っ張りこまれる。
「えっ!?とっと…。」
よろけるように部屋に入った所をそのまま抱きとめられた。
「プレゼントがないなら、勝手に貰うぜ?」
「え?」
「ラッピングは無しでかまわねぇ。」
「え!?」
「お前に似合うラッピングを探してたんだが、やっぱ何もないのが一番だって結論に至ったからな。」
「え…ええ~!?」
「ほら、ラッピングはいらねぇんだからそれ脱げよ。」
そう言ってするっとニールのベルトを抜き取った。
「いやっ!…ちょっと!…待てって!!」
「あれ?そういや…兄さん帰り遅いな。」
冗談で言ったことが現実になっているとはつゆ知らず、ライルは時計を見上げた。
fin.
「なあ、どうしようかなぁ…。」
ニールは何度目かの溜め息を吐いてそう言った。
それを聞かされているライルは呆れ顔だ。
「知るかよ。何でもいいんじゃねぇ?」
「ライル~、頼むから一緒に考えてくれよ~。」
「はいはい、じゃあ、ケーキな。」
「だから、アイツ甘いもん嫌いだって言ったろ?」
「じゃあ、酒。」
「そんなのいつも飲んでるから嬉しくもなんともないだろ?」
「煙草。」
「それも自分で買ってるし。」
「あ~、もう、だから自分で考えろよ!」
ニールが悩んでいるのはアリーへの誕生日プレゼントだ。
さっきから同じことを繰り返し言っては考え込んでいる。
ライルはもううんざりしていた。
「何だって喜ぶんじゃねぇの?普通。ハンカチでも靴下でもネクタイでもさ。」
「…喜ばねぇかもしれないだろ?」
「それ言い始めたらプレゼントなんてあげられないだろうが。」
「だけどさあ…なんかこう、これなら絶対ってもんを…。」
はいはい、とライルは面倒臭そうに返して背中を向けた。
まったく、普段しっかりした兄さんがこうも女々しく思い悩むなんて…
だいたい俺にくれるプレゼントは一人で決めてるだろうに、何でこうも悩むんだ。
はあ、と大きな溜め息がライルから漏れたのを聞き、ニールは流石に気兼ねして口を閉じた。
他にこんな悩みを聞いてくれそうな知り合いはいないしどうしようかとまた悩む。
「あ…。」
ライルが何か思いついたように声を出した。
「どうか…したか?」
「いい事思いついた。絶対喜ぶやつ。」
「え!?ホントか!?」
パッと明るい顔になってニールは期待いっぱいの顔を向ける。
するとライルはニマッと悪戯っぽく笑った。
「兄さんのカ・ラ・ダ。」
カアッとニールの顔が真っ赤になった。
「な、なに馬鹿な事言ってんだよっ!」
「ゼッテー喜ぶだろ?」
「お、おまえなぁ!」
「恥ずかしいんなら俺からのプレゼントってことにしてもいいぜ。」
「ば、馬鹿っ!」
ニールはプイっと怒って出て行ってしまった。
アハハ、とライルはその背中を見送る。
「一人で考えろっての。」
仕方なくニールは一人でデパートを歩きまわっていた。
「…どうすっかな~…。」
これと言って思いつくものがない。
靴はこの前買ったばっかだし、酒や煙草なんて常備してあるし。
服はあんまりあれこれ着ない性質だし、アクセサリーなんて付けそうにないし。
「何だったら喜ぶかな…。」
そう考えているとさっきのライルの言葉を思い出してしまった。
おまけにリボンに巻かれた自分がアリーの前に居る所を思い浮かべてしまった。
「あーバカバカバカ!」
思いっきり恥ずかしい想像をしてしまったことで自己嫌悪に陥り、両手でパシパシと頬をひっぱたく。
「何やってんだお前…。」
呆れたような声が後ろからかかった。
「あ…アリー…。」
ボンッと火を噴くように顔が赤くなる。
それさえも恥ずかしく、あんな事を言ったライルを恨めしく思ってしまう。
「どうかしたのか?」
「い、いや…その…。」
視線を泳がせ言葉を探した。
アリーは肩を竦めて歩き出す。
「暇なら付き合えよ。」
「あ…ああ、うん。」
アリーは何を買いに来たのか、ニールを連れまわすだけで一向に買い物をしなかった。
「アンタもウインドウショッピングすることあるんだな。」
意外だなーとニールが言うとアリーは「いや?」と否定の返事をする。
「一応目的はある。」
「え?何だ?」
ニールがそう訊くと、アリーは「別に。」と答えた。
「え~?何だよ。教えてくれたっていいだろ?」
「ま、無駄足だったから目的がないと言えなくもないがな。」
結局アリーは何も買わずに部屋に帰った。
惰性でニールもついて行く。
そして部屋に着いてからハタと気付いた。
アリーも何も買っていないが、ニールもプレゼントを買わなかったことに。
「しまった…。」
部屋に足を踏み入れる寸前に立ち止まり、引き返そうかと悩む。
「入れよ。」
アリーに促されて余計に困ってしまった。
「あ…あの…さ。」
「なんだ。」
「誕生日おめでとう。」
「そいつはどうも。まあ入れ。」
「いや…その…俺、プレゼント買いに行ったのに忘れてて…。」
ニールが気まずそうにそう言うと、アリーは何故かにんまりと笑った。
「いいから入れよ。」
腕を掴まれて引っ張りこまれる。
「えっ!?とっと…。」
よろけるように部屋に入った所をそのまま抱きとめられた。
「プレゼントがないなら、勝手に貰うぜ?」
「え?」
「ラッピングは無しでかまわねぇ。」
「え!?」
「お前に似合うラッピングを探してたんだが、やっぱ何もないのが一番だって結論に至ったからな。」
「え…ええ~!?」
「ほら、ラッピングはいらねぇんだからそれ脱げよ。」
そう言ってするっとニールのベルトを抜き取った。
「いやっ!…ちょっと!…待てって!!」
「あれ?そういや…兄さん帰り遅いな。」
冗談で言ったことが現実になっているとはつゆ知らず、ライルは時計を見上げた。
fin.