蟻ニル
不機嫌
アリーは煙草に火を付けると、じとーっと目の前のニールを見遣った。
ニールはと言えば、パソコンに集中していてちらりともアリーの方を見ない。
大体何で仕事を家に持って帰るんだコイツは。
久々に訪れてみれば仕事中だと言い、それでもすぐに終わるからと部屋に上げておいて、そのまま1時間近く経つ。
そりゃ大変だなと思って珈琲まで入れてやったんだぞ。…インスタントだけどな。
珈琲はとっくに無くなり、アリーは自分だけ2杯目も入れてそれも飲み終わり、人の部屋だからと遠慮していたがそんなもの知るかと煙草を吸い始めたところだ。
そんなアリーの不機嫌な様子に気付きもせず、黙々とパソコンを操作するニール。
アリーはチッと舌打ちして目を逸らした。
そして視界に入ってきたのはパソコンの電源プラグ。
ちょっと手を伸ばせば届くところにそれはあった。
暫しそれを眺め───。
当然のごとく手を伸ばした。
その途端。
「あー!!待てっ!!」
振り返るとこんな時だけしっかりとニールはこっちを見ていた。
ムッとして返す。
「犬っころに命令するみてーに言うんじゃねーよ。」
「いきなり電源落としたらデータが飛んじまうだろ!?」
「知るか。暇なんだよ俺は。」
「だからってプラグ抜くことねーだろ!?」
「俺が抜く前に終われ。」
あんまりな言いようにニールは当然抗議をした。
「もうすぐ終わるって言ってんだろ!?いいおっさんがガキみたいなことすんなよ!」
そう言って立ち上がると、プラグとアリーの間に立って睨みつけた。
アリーは「はいはい。」と顔を背ける。
少しアリーの様子を眺め、プラグを抜く気はなくなったと判断してニールはまた作業に戻った。
面白くねー。
ぷはーっと煙草の煙をワザとニールの方に向ける。
ニールは苦笑して言った。
「マジでもうすぐ終わるって。」
「そう言ってどんだけ待たせんだよ。」
「すぐすぐ。」
子供をなだめるようにそう返す。
まったく、何で仕事を家でやるんだ。
別に堅物な性格してるわけでもねーくせに。
どっかの国の人間みたく、そのうち過労死するぞ。
…いや、そんな事本気で心配してるわけじゃねーが…
何が面白くねーって、そりゃ…。
俺が放っておかれてる状況が面白くねーんだよ。
睨みつけるのに飽きて、アリーは横を向いてただ煙草の煙をすぱすぱと吐き出していた。
また10分ほどが経ち、パソコンからの音が変わった事に気付いた。
ポヨン。
明らかにさっきまでと違う気の抜けた電子音だ。
連続してポヨンポヨンとなったのを聞いて、アリーは立ち上がって回り込む。
「…てめー…。」
「ん?」
「何してやがんだよッ!!」
画面を見た途端、アリーはニールにヘッドロックを掛けた。
グイッと力を入れる。
「仕事はどうした仕事はっ!!」
「っててててて!…お、終わった。さっき終わった。」
「何でゲームなんて始めてやがんだっ!!」
「ギブギブっ!離せって!」
ニールは仕事のファイルと閉じ、パズルゲームを始めていた。
怒り心頭のアリーだが、申し開きをしろとばかりに頭を小突きながら手を離す。
アハハ、とニールは苦笑いを見せた。
「人を散々待たせやがって…。」
「わりぃ。パソコン閉じる前の習慣でさ、つい、開いちまったんだよな。で、折角開いたんだから一回だけと思って。」
「思うなッ!!」
「わりぃって言ってんだろ?もう閉じるから。」
「当然だろうが!」
ニールはやっとパソコンの前から立ち上がり、とうに乾いてしまった珈琲カップを持ってキッチンに立った。
アリーはソファーにドカッと腰掛ける。
何か飲むか?と訊かれて不機嫌に要らないと返した。
「悪かったって。」
何か機嫌を直すものがないかと冷蔵庫を覗き、つまみになりそうなものとビールを出してアリーの所へ持って行った。
「んなもんで誤魔化す気か。」
「何か作ろうか?」
「いらねーよ。」
取りつく島もない様子に、ニールは手にあるつまみとビールをどうしようかと立ち尽くすと、しばらく考えてアリーの前に置いた。
「いらねーっつってんだろ?」
「んー、じゃあ、俺は?」
そう言ってニールはアリーに寄り添うように座った。
「機嫌直せよ。」
少し背けた顔を覗き込むように上目づかいを向ける。
ちろっとその顔を横目で見て、アリーはチッと舌打ちをした。
面白くねー。
何がと言えば、そんな事で機嫌を直してしまう自分が、である。
fin.
アリーは煙草に火を付けると、じとーっと目の前のニールを見遣った。
ニールはと言えば、パソコンに集中していてちらりともアリーの方を見ない。
大体何で仕事を家に持って帰るんだコイツは。
久々に訪れてみれば仕事中だと言い、それでもすぐに終わるからと部屋に上げておいて、そのまま1時間近く経つ。
そりゃ大変だなと思って珈琲まで入れてやったんだぞ。…インスタントだけどな。
珈琲はとっくに無くなり、アリーは自分だけ2杯目も入れてそれも飲み終わり、人の部屋だからと遠慮していたがそんなもの知るかと煙草を吸い始めたところだ。
そんなアリーの不機嫌な様子に気付きもせず、黙々とパソコンを操作するニール。
アリーはチッと舌打ちして目を逸らした。
そして視界に入ってきたのはパソコンの電源プラグ。
ちょっと手を伸ばせば届くところにそれはあった。
暫しそれを眺め───。
当然のごとく手を伸ばした。
その途端。
「あー!!待てっ!!」
振り返るとこんな時だけしっかりとニールはこっちを見ていた。
ムッとして返す。
「犬っころに命令するみてーに言うんじゃねーよ。」
「いきなり電源落としたらデータが飛んじまうだろ!?」
「知るか。暇なんだよ俺は。」
「だからってプラグ抜くことねーだろ!?」
「俺が抜く前に終われ。」
あんまりな言いようにニールは当然抗議をした。
「もうすぐ終わるって言ってんだろ!?いいおっさんがガキみたいなことすんなよ!」
そう言って立ち上がると、プラグとアリーの間に立って睨みつけた。
アリーは「はいはい。」と顔を背ける。
少しアリーの様子を眺め、プラグを抜く気はなくなったと判断してニールはまた作業に戻った。
面白くねー。
ぷはーっと煙草の煙をワザとニールの方に向ける。
ニールは苦笑して言った。
「マジでもうすぐ終わるって。」
「そう言ってどんだけ待たせんだよ。」
「すぐすぐ。」
子供をなだめるようにそう返す。
まったく、何で仕事を家でやるんだ。
別に堅物な性格してるわけでもねーくせに。
どっかの国の人間みたく、そのうち過労死するぞ。
…いや、そんな事本気で心配してるわけじゃねーが…
何が面白くねーって、そりゃ…。
俺が放っておかれてる状況が面白くねーんだよ。
睨みつけるのに飽きて、アリーは横を向いてただ煙草の煙をすぱすぱと吐き出していた。
また10分ほどが経ち、パソコンからの音が変わった事に気付いた。
ポヨン。
明らかにさっきまでと違う気の抜けた電子音だ。
連続してポヨンポヨンとなったのを聞いて、アリーは立ち上がって回り込む。
「…てめー…。」
「ん?」
「何してやがんだよッ!!」
画面を見た途端、アリーはニールにヘッドロックを掛けた。
グイッと力を入れる。
「仕事はどうした仕事はっ!!」
「っててててて!…お、終わった。さっき終わった。」
「何でゲームなんて始めてやがんだっ!!」
「ギブギブっ!離せって!」
ニールは仕事のファイルと閉じ、パズルゲームを始めていた。
怒り心頭のアリーだが、申し開きをしろとばかりに頭を小突きながら手を離す。
アハハ、とニールは苦笑いを見せた。
「人を散々待たせやがって…。」
「わりぃ。パソコン閉じる前の習慣でさ、つい、開いちまったんだよな。で、折角開いたんだから一回だけと思って。」
「思うなッ!!」
「わりぃって言ってんだろ?もう閉じるから。」
「当然だろうが!」
ニールはやっとパソコンの前から立ち上がり、とうに乾いてしまった珈琲カップを持ってキッチンに立った。
アリーはソファーにドカッと腰掛ける。
何か飲むか?と訊かれて不機嫌に要らないと返した。
「悪かったって。」
何か機嫌を直すものがないかと冷蔵庫を覗き、つまみになりそうなものとビールを出してアリーの所へ持って行った。
「んなもんで誤魔化す気か。」
「何か作ろうか?」
「いらねーよ。」
取りつく島もない様子に、ニールは手にあるつまみとビールをどうしようかと立ち尽くすと、しばらく考えてアリーの前に置いた。
「いらねーっつってんだろ?」
「んー、じゃあ、俺は?」
そう言ってニールはアリーに寄り添うように座った。
「機嫌直せよ。」
少し背けた顔を覗き込むように上目づかいを向ける。
ちろっとその顔を横目で見て、アリーはチッと舌打ちをした。
面白くねー。
何がと言えば、そんな事で機嫌を直してしまう自分が、である。
fin.