蟻ニル
CAPorCUP?
雑誌の広告ページに美術館の割引券を見つけ、ニールはテレビに没頭しているアリーに声を掛けた。
見に行かないかと問えば、案の定、面倒臭そうに行かないという返事が返ってくる。
大抵の趣味が合わないのだから、こんなのはいつもの事だ。
だから慣れている筈なのだが…。
はぁ、とニールは溜め息を吐いた。
それに対してアリーは眉を顰めている。
「なんだァ?何か文句でもあんのかよ。」
ニールもムスッとして返す。
「だってよ~…。」
拗ねたようにソファの上でクッションを抱いて隣にいるアリーを見た。
「何だよ。」
「…つまんねーだろ?一緒にやることがないと。」
「行きたくねーもんは行きたくねーんだ。無理に付き合わせんじゃねぇよ。」
「分かってっけどさぁ…。何でもいいんだよ。一緒に何かやりたいんだってば。」
映画を観に行けば観たいものが違い、買い物に時間がかかれば先に帰ってしまい、飲みに行ったら行ったで行きずりの奴と盛り上がってしまったり、二人で何かを楽しむ、という時間が極端に少ない気がする。
「もっとさぁ…こう…、恋人って一緒に過ごすもんじゃねーの?」
「じゃあ、今の時間は何なんだよ。」
「…部屋に一緒にいるだけじゃないか。」
しかも、アリーはテレビに没頭していたし、とニールは口を尖らせた。
「それが不満なのかよ。」
「…近くにいるのは…嬉しいけどさ、そりゃ…。」
呆れたようなアリーの視線から目を逸らし、不機嫌に俯く。
するとアリーは立ち上がって窓際に飾ってある色とりどりのビー玉を持ってきた。
「あ…それ…。」
それはニールが気に入って買って来たものだった。
飾ってあるのが気に入らないのかとまたニールは不機嫌な顔をする。
「使う。」
アリーがそう言うと、何に使うんだかと思いつつ、その手を眺めた。
アリーの手は様々な色のビー玉を赤みを帯びたものと青みを帯びたものの二つに分けていく。
そうしてまた立ち上がると、酒を飲む時の小さなグラスを持ってきた。
「これ、キャップな。」
「キャップ?」
オウム返しに聞いたニールの言葉は無視して、二つに分けたビー玉を指差す。
「こっちの赤いのが俺、んでこっちはお前。」
その二つのまとまりの間で両方から少しずつビー玉を寄せ合って、持ってきたグラスを被せた。
「お前はこれの中にもっと入れたいってわけだ。…んでも、このキャップにはこれしか入らねぇ。」
「…もっと大きい奴なら入るじゃないか。」
「キャップの大きさは簡単に変わらねぇんだよ。」
「…俺とアンタの共通項ってそんだけ?」
「不満かよ。」
「…ちょっと…。」
アリーはフッと笑ってキャップを置くと、もともとビー玉を乗せてあった皿を手に取った。
「俺はこれでいい。」
言って、テーブルの上から寄せ集める様にしてビー玉を全てその皿にバラバラと載せた。
「∩(キャップ)より∪(カップ)。これは全部俺のモンだ。…で、全部お前のモンでもある。」
ポン、と皿を手渡され、ニールはアリーの言葉を理解しようと反芻する。
相手の、趣味の合わない部分も全部、自分のものだ、と。
それは嬉しい理論だった。
でも…と思う。
「何か…論点ズレてね?」
「細かいこと気にすんな。禿げるぞ。」
またアリーはテレビを観始めた。
本当に興味を持って観ているんだか疑わしくなるような小難しい内容の番組だ。
やっている内容は分かっても、ニールにはわざわざ時間を割いて観る様な番組だとは思えない。
でもそれはアリーの趣味の問題で、ニールがとやかく言うことではないのだ。
まあいいか、とニールはアリーのすぐ傍に座りなおし、コテンと頭を相手の肩に預けた。
次の日。
「買い物、付き合ってくれよ。」
「嫌だ。」
「…昨日の話、あれは俺の趣味にも付き合うってことじゃねーのかよ。」
「確かに、買い物に出かけたいお前も俺のものではあるが、出掛けたくない俺もお前のものだろ?」
ニールはムッとして近くにあった帽子を手に取った。
叩きつけるようにアリーの頭にその帽子を被せる。
「アンタはこのキャップでも被ってろ!」
プイっと背中を向けて玄関に向かった。
結局アリーは自分のしたいようにしかしないのだ。
美術館の事だってもう忘れているに決まっている。
変に期待をした自分が馬鹿だった、と思いながら靴を履いていると、アリーがやって来て靴を履きだした。
訝しげに見上げれば、さっき被せた帽子を被ったままだ。
「帽子ってのは家の中で被るもんじゃねぇだろ?」
そう言ってアリーは、ニールの手から車のキーを奪って先に出ていく。
「おい、ちょっと…。」
「置いてくぞ。」
「待てって!今鍵閉めるから!」
鍵を閉めながら、ニールは笑みを漏らした。
気まぐれな相手に振り回される。
それも恋人同士の時間なのかな、と。
「…そのキャップ似合わねー…。」
「お前が被せたんだろうが。」
fin.
雑誌の広告ページに美術館の割引券を見つけ、ニールはテレビに没頭しているアリーに声を掛けた。
見に行かないかと問えば、案の定、面倒臭そうに行かないという返事が返ってくる。
大抵の趣味が合わないのだから、こんなのはいつもの事だ。
だから慣れている筈なのだが…。
はぁ、とニールは溜め息を吐いた。
それに対してアリーは眉を顰めている。
「なんだァ?何か文句でもあんのかよ。」
ニールもムスッとして返す。
「だってよ~…。」
拗ねたようにソファの上でクッションを抱いて隣にいるアリーを見た。
「何だよ。」
「…つまんねーだろ?一緒にやることがないと。」
「行きたくねーもんは行きたくねーんだ。無理に付き合わせんじゃねぇよ。」
「分かってっけどさぁ…。何でもいいんだよ。一緒に何かやりたいんだってば。」
映画を観に行けば観たいものが違い、買い物に時間がかかれば先に帰ってしまい、飲みに行ったら行ったで行きずりの奴と盛り上がってしまったり、二人で何かを楽しむ、という時間が極端に少ない気がする。
「もっとさぁ…こう…、恋人って一緒に過ごすもんじゃねーの?」
「じゃあ、今の時間は何なんだよ。」
「…部屋に一緒にいるだけじゃないか。」
しかも、アリーはテレビに没頭していたし、とニールは口を尖らせた。
「それが不満なのかよ。」
「…近くにいるのは…嬉しいけどさ、そりゃ…。」
呆れたようなアリーの視線から目を逸らし、不機嫌に俯く。
するとアリーは立ち上がって窓際に飾ってある色とりどりのビー玉を持ってきた。
「あ…それ…。」
それはニールが気に入って買って来たものだった。
飾ってあるのが気に入らないのかとまたニールは不機嫌な顔をする。
「使う。」
アリーがそう言うと、何に使うんだかと思いつつ、その手を眺めた。
アリーの手は様々な色のビー玉を赤みを帯びたものと青みを帯びたものの二つに分けていく。
そうしてまた立ち上がると、酒を飲む時の小さなグラスを持ってきた。
「これ、キャップな。」
「キャップ?」
オウム返しに聞いたニールの言葉は無視して、二つに分けたビー玉を指差す。
「こっちの赤いのが俺、んでこっちはお前。」
その二つのまとまりの間で両方から少しずつビー玉を寄せ合って、持ってきたグラスを被せた。
「お前はこれの中にもっと入れたいってわけだ。…んでも、このキャップにはこれしか入らねぇ。」
「…もっと大きい奴なら入るじゃないか。」
「キャップの大きさは簡単に変わらねぇんだよ。」
「…俺とアンタの共通項ってそんだけ?」
「不満かよ。」
「…ちょっと…。」
アリーはフッと笑ってキャップを置くと、もともとビー玉を乗せてあった皿を手に取った。
「俺はこれでいい。」
言って、テーブルの上から寄せ集める様にしてビー玉を全てその皿にバラバラと載せた。
「∩(キャップ)より∪(カップ)。これは全部俺のモンだ。…で、全部お前のモンでもある。」
ポン、と皿を手渡され、ニールはアリーの言葉を理解しようと反芻する。
相手の、趣味の合わない部分も全部、自分のものだ、と。
それは嬉しい理論だった。
でも…と思う。
「何か…論点ズレてね?」
「細かいこと気にすんな。禿げるぞ。」
またアリーはテレビを観始めた。
本当に興味を持って観ているんだか疑わしくなるような小難しい内容の番組だ。
やっている内容は分かっても、ニールにはわざわざ時間を割いて観る様な番組だとは思えない。
でもそれはアリーの趣味の問題で、ニールがとやかく言うことではないのだ。
まあいいか、とニールはアリーのすぐ傍に座りなおし、コテンと頭を相手の肩に預けた。
次の日。
「買い物、付き合ってくれよ。」
「嫌だ。」
「…昨日の話、あれは俺の趣味にも付き合うってことじゃねーのかよ。」
「確かに、買い物に出かけたいお前も俺のものではあるが、出掛けたくない俺もお前のものだろ?」
ニールはムッとして近くにあった帽子を手に取った。
叩きつけるようにアリーの頭にその帽子を被せる。
「アンタはこのキャップでも被ってろ!」
プイっと背中を向けて玄関に向かった。
結局アリーは自分のしたいようにしかしないのだ。
美術館の事だってもう忘れているに決まっている。
変に期待をした自分が馬鹿だった、と思いながら靴を履いていると、アリーがやって来て靴を履きだした。
訝しげに見上げれば、さっき被せた帽子を被ったままだ。
「帽子ってのは家の中で被るもんじゃねぇだろ?」
そう言ってアリーは、ニールの手から車のキーを奪って先に出ていく。
「おい、ちょっと…。」
「置いてくぞ。」
「待てって!今鍵閉めるから!」
鍵を閉めながら、ニールは笑みを漏らした。
気まぐれな相手に振り回される。
それも恋人同士の時間なのかな、と。
「…そのキャップ似合わねー…。」
「お前が被せたんだろうが。」
fin.