蟻ニル
夢、育、見…?
テレビを見ているアリーの隣に腰掛け、ニールは甘えるように凭れかかった。
二人でいても、時々ふと寂しくなる時がある。
どうしてだろうと考えていると、アリーが口を開いた。
「…重い。」
ニールはムッとして体を離すと、何も言わずに傍らにあったクッションを投げつけた。
不機嫌な顔に、アリーもしかめっ面を返す。
「何しやがんだ、てめぇ。」
「あんたが冷たいからだろ!?」
「重いもんを重いっつって何が悪い。」
ぷうっと膨れてニールは背中を向けた。
恋人が甘えて凭れかかっているのにそれはないだろ。
大体いつも優しい言葉ひとつ掛けもしないで、俺がいることが当たり前の様な顔して…。
「…俺の事、何だと思ってんだよ。」
「あぁ?」
面倒臭そうな声で聞き返すアリーに半ばキレて、語調を強めて言った。
「俺の事どう思ってんだよ!」
ふう、とアリーの口から溜め息が出ると、ニールは背を向けたまま項垂れた。
「…何か…言ってくれたったいいだろ…。」
「何かって何をだよ。」
何をって、だから…。
例えば、愛してる、とか…。
そうは思ってもすんなりと口からは出せない。
どうせそんな言葉、言ってはくれないだろう。
「…なんで俺と暮らしてるわけ?」
「いろいろ便利だからじゃねーの?」
帰ってきた答えに、ニールは「もういい。」とソファの隅で膝を抱えた。
するとアリーがボソッと言う。
「ゆめ…。」
なんだろう、と振り向くと、また何やら言った。
「…iく…みha…p…。」
何処の言語かもわからないようなイントネーションで、しかも最後の方は小さくて聞き取れない。
「え?何?」
「理由。」
ニールはキョトンとしてから、それが『俺と暮らしてる理由』だと気付いて聞き返した。
「なんて言ったんだよ。もう一回。」
「一回だけだ。」
「俺が分んなかったら意味ねーだろ?」
「自分で考えろ。」
「分かんねーよ。何処の言葉だったんだ?」
「教えねぇ。」
しれっとしたアリーの顔に、ニールは怒ったような顔で返す。
「分かった。解読してやるよ!」
立ち上がって紙とペンを出すと、ダイニングのテーブルに陣取ってさっき聞こえた言葉を書きだした。
確か最初はyumeと言っていた、と思い出しつつ。
ゆめ…ってあれかな?日本語でドリームをゆめって言ったよな。
でも…イントネーションはどっちかって言うと中国語っぽかったような…。
真剣に考え出したニールを見て立ち上がる。
「煙草でも買いに行ってくるかな。」
「お好きにどうぞ。」
軽くあしらうような返事にクスッと笑いを漏らしてアリーは出て行った。
yume iku miha …
最後にP音が聞こえたような気がするが、分からない。
それにそこで終わりだったかどうかも定かではない。
日本語だとすれば、最初は夢だろ?
いく…ってなんだ?
辞書を見ないと分からないか、でも日本語とは限らねーし…。
取り敢えず、と思い日本語で調べ出す。
時間がかかりそうだと小さく溜め息を吐いた時、点けたままのテレビが軽快な宣伝を流し始めた。
子供向け商品の宣伝の中で、しきりに小さな子が「ハッピー、ハッピー!」と繰り返している。
待てよ?
最後に付いたPは…。
バッと自分の書いた文字を覗き込む。
Pの前はhaだ。
ハッピー?
って事は、…もしかして、英語か?
英語を、分かりにくく変な発音で言ったのか。
一度しか言わなかったのは、何度も言えば簡単に分かってしまうからで…。
てことは…。
最初は夢じゃなく…。
ゆ。
you、だ。
後はつらつらと出てくる。
You make me happy.
「You make me happy!」
解けたという喜びと共に、その意味から来る喜びに頬が染まる。
貴方は私を幸福にする。
それがアリーが自分といる理由だというのだから。
ガチャっと玄関が開く音が聞こえると、ニールは急いで駆けて行った。
「アリー!」
飛びつくように抱きついた。
「重ぇ…。」
「You make me happy!」
「そりゃどうも。」
面倒臭そうにそう返すのを聞いてニールは「違う。」と苦笑した。
「さっきのあんたの言葉。You make me happy.で正解だろ?」
「何の話だ?」
とぼけて視線を上げる。
「ずりーよ。正解なんだからご褒美ぐらいよこせっての。」
「…しゃーねーな…。」
首にぶら下がるように抱きついているニールの腰に腕を回すと、アリーはいつもよりも優しいキスをした。
fin.
テレビを見ているアリーの隣に腰掛け、ニールは甘えるように凭れかかった。
二人でいても、時々ふと寂しくなる時がある。
どうしてだろうと考えていると、アリーが口を開いた。
「…重い。」
ニールはムッとして体を離すと、何も言わずに傍らにあったクッションを投げつけた。
不機嫌な顔に、アリーもしかめっ面を返す。
「何しやがんだ、てめぇ。」
「あんたが冷たいからだろ!?」
「重いもんを重いっつって何が悪い。」
ぷうっと膨れてニールは背中を向けた。
恋人が甘えて凭れかかっているのにそれはないだろ。
大体いつも優しい言葉ひとつ掛けもしないで、俺がいることが当たり前の様な顔して…。
「…俺の事、何だと思ってんだよ。」
「あぁ?」
面倒臭そうな声で聞き返すアリーに半ばキレて、語調を強めて言った。
「俺の事どう思ってんだよ!」
ふう、とアリーの口から溜め息が出ると、ニールは背を向けたまま項垂れた。
「…何か…言ってくれたったいいだろ…。」
「何かって何をだよ。」
何をって、だから…。
例えば、愛してる、とか…。
そうは思ってもすんなりと口からは出せない。
どうせそんな言葉、言ってはくれないだろう。
「…なんで俺と暮らしてるわけ?」
「いろいろ便利だからじゃねーの?」
帰ってきた答えに、ニールは「もういい。」とソファの隅で膝を抱えた。
するとアリーがボソッと言う。
「ゆめ…。」
なんだろう、と振り向くと、また何やら言った。
「…iく…みha…p…。」
何処の言語かもわからないようなイントネーションで、しかも最後の方は小さくて聞き取れない。
「え?何?」
「理由。」
ニールはキョトンとしてから、それが『俺と暮らしてる理由』だと気付いて聞き返した。
「なんて言ったんだよ。もう一回。」
「一回だけだ。」
「俺が分んなかったら意味ねーだろ?」
「自分で考えろ。」
「分かんねーよ。何処の言葉だったんだ?」
「教えねぇ。」
しれっとしたアリーの顔に、ニールは怒ったような顔で返す。
「分かった。解読してやるよ!」
立ち上がって紙とペンを出すと、ダイニングのテーブルに陣取ってさっき聞こえた言葉を書きだした。
確か最初はyumeと言っていた、と思い出しつつ。
ゆめ…ってあれかな?日本語でドリームをゆめって言ったよな。
でも…イントネーションはどっちかって言うと中国語っぽかったような…。
真剣に考え出したニールを見て立ち上がる。
「煙草でも買いに行ってくるかな。」
「お好きにどうぞ。」
軽くあしらうような返事にクスッと笑いを漏らしてアリーは出て行った。
yume iku miha …
最後にP音が聞こえたような気がするが、分からない。
それにそこで終わりだったかどうかも定かではない。
日本語だとすれば、最初は夢だろ?
いく…ってなんだ?
辞書を見ないと分からないか、でも日本語とは限らねーし…。
取り敢えず、と思い日本語で調べ出す。
時間がかかりそうだと小さく溜め息を吐いた時、点けたままのテレビが軽快な宣伝を流し始めた。
子供向け商品の宣伝の中で、しきりに小さな子が「ハッピー、ハッピー!」と繰り返している。
待てよ?
最後に付いたPは…。
バッと自分の書いた文字を覗き込む。
Pの前はhaだ。
ハッピー?
って事は、…もしかして、英語か?
英語を、分かりにくく変な発音で言ったのか。
一度しか言わなかったのは、何度も言えば簡単に分かってしまうからで…。
てことは…。
最初は夢じゃなく…。
ゆ。
you、だ。
後はつらつらと出てくる。
You make me happy.
「You make me happy!」
解けたという喜びと共に、その意味から来る喜びに頬が染まる。
貴方は私を幸福にする。
それがアリーが自分といる理由だというのだから。
ガチャっと玄関が開く音が聞こえると、ニールは急いで駆けて行った。
「アリー!」
飛びつくように抱きついた。
「重ぇ…。」
「You make me happy!」
「そりゃどうも。」
面倒臭そうにそう返すのを聞いてニールは「違う。」と苦笑した。
「さっきのあんたの言葉。You make me happy.で正解だろ?」
「何の話だ?」
とぼけて視線を上げる。
「ずりーよ。正解なんだからご褒美ぐらいよこせっての。」
「…しゃーねーな…。」
首にぶら下がるように抱きついているニールの腰に腕を回すと、アリーはいつもよりも優しいキスをした。
fin.