ショートショート
心をこめて
チャイムが鳴って沙慈が玄関に出ると、そこに居たのは刹那だった。
「久しぶりだね。びっくりしたよ。」
顔を見て一呼吸置いてから、沙慈はそう言った。
ニコッと笑う沙慈とは対照的に、刹那はムスッとしたままだ。
「ちょっと付き合ってくれないか。」
刹那は沙慈の後ろを覗きこんだ。
沙慈も釣られて振り返ると、部屋の奥からルイスが顔を出している。
「ルイス・ハレヴィ、沙慈を借りるぞ。」
沙慈がOKを出す前だというのに、刹那はもう連れていく前提でそう言った。
「え…と…。」
「了解。いいわよ。沙慈、行ってらっしゃい。」
沙慈が困っている間にルイスも話を進めてしまっている。
ルイスはにこやかに手を振った。
「仕事は見つかったか。」
街に出ると、刹那は歩きながらそう訊いた。
「ああ、一応ね。宇宙に出る仕事じゃないけど、取り敢えず暮らしてはいけそうだよ。」
「そうか。…ルイス・ハレヴィの具合は?」
「体の方はもうすっかりいいみたいだよ。再生した手も問題なく動くし、痛みもないって。…あー、ただ、ずっと使ってなかった手を使うようになったから、どちらかというと再生した部分より、二の腕とか肩に負担がかかってるみたいでね、肩がこるってぼやいてたよ。」
そう言って沙慈は柔らかに笑む。
ふん、そうか、と刹那は小さく頷いた。
「こっちだ。」
促されるまま沙慈はついて行く。
刹那はスタスタと先を歩き、酒屋に入った。
いくつかのボトルを見て回り、コレだ、と言ってレジに持っていく。
沙慈はただ刹那の行動を眺めるばかりだ。
自分は何の為に連れ出されたのだろうと小首をかしげ、店を出たところで訊ねてみる。
「…えっと…刹那、それは?」
「スメラギ・李・ノリエガが好きな酒だ。」
即答に唖然とする。
もしかして、買出しに付き合わされているだけなのか?と。
その後も特に沙慈がいなければ困るような事態はなく、ただ刹那は淡々と買い物をしていた。
「昼はどうする。…俺はそこのファーストフードでも構わないが。」
「え、…ちょっとルイスに電話してみるよ。用意してくれてるといけないし。」
沙慈が携帯を出してルイスに電話をすると、彼女は珍しく音声だけで電話に出た。
『いいよ?こっちはこっちで適当に食べるから、ゆっくりしてきて。』
肩すかしなほどあっさりとした返事だ。
普段ルイスは一人放っておかれるのを凄く嫌がる。
珍しいなと思いつつ、沙慈は電話を切った。
最初の会話以外、会話らしい会話もなく、二人はルイスの待つ部屋に帰った。
それなりの荷物があるのに、沙慈が手伝おうとしても刹那は必要ないと断る。
本当にいったい何の為に自分は連れ出されたのだろう。
そんな疑問を抱えたまま、沙慈はドアを開けた。
パーン!
部屋に足を踏み入れると、沙慈の頭上には色とりどりの紙が舞う。
それがクラッカーの所為だと気付くのに数秒かかった。
「…え?…」
「ハッピーバースデイ!沙慈!」
「おめでとう!」
「ハピバなのですぅ!」
パチパチと拍手が重なった。
部屋にはスメラギやフェルト、それからミレイナもいる。
驚いてフリーズした沙慈にルイスが駆け寄った。
「ほら、早く来て!」
ルイスが沙慈の手を引く。
リビングには飾り付けがしてあり、テーブルの上にケーキが乗っていた。
「ルイスさんが作ったの。」
フェルトが静かにそういうと、ルイスはえへへ、と頭を掻いた。
「でも、結構手伝ってもらっちゃった。」
「そんなことないです。殆ど一人で作ったです。」
「そうね、頑張ってたわよ、彼女。」
再生した手は問題なく動くとは言え、やはり疲れるとルイスは言っていた。
それなのにケーキなんて手間のかかるものを作ってくれたのだという。
照れたように笑うルイスは、甘えるように沙慈の腕に掴まっている。
その様子を見て沙慈も照れ笑いを浮かべた。
「…ありがとう。嬉しいよ。」
ライル達男性陣は別で食べ物の買出しに行っていたらしく、暫くしてからやってきて皆で沙慈の誕生日を祝った。
「さて、と。そろそろお暇しましょうか。」
スメラギの号令で皆帰り支度を始めた。
まだ明るい時間、しかもまだケーキも切っていない。
沙慈が引き留めると、ライルがポンポンと背中を叩いた。
「二人の邪魔をするほど、俺達野暮じゃないぜ?あとは恋人の時間ってこった。」
あ、と言葉を止め、沙慈はルイスと顔を見合わせた。
そしてまた照れて笑った。
去り際に刹那がプレゼントだと沙慈に包みを渡していった。
「いい人たちだよね。」
ルイスがしみじみとそう言う。
彼女の中の恨みはもう消化されているのだ。
うん、と頷いて、沙慈は包みを開けた。
「ところで刹那、みんなからのプレゼント、何にしたの?」
スメラギがそう言うと、刹那はボソッと答えた。
「トランクス。」
「は!?」
「アイツがどんなものを喜ぶか分からなかったから、誰でも使うものにした。」
「だからって何でトランクスなんだよっ!」
「…ブリーフの方が良かったか?」
「そういう問題じゃなーい!!」
そのころ沙慈の部屋では…。
「イヤッ!寄らないでよ沙慈の馬鹿っ!フケツ!」
「ルイス!だから誤解だってば!」
「あの男とパンツを贈り合う仲だったなんてっ!」
「違うってば!それに贈り合ってないよ!贈られただけで…。」
誤解が解けるまでの数時間、ケーキは放置されていた。
fin.
チャイムが鳴って沙慈が玄関に出ると、そこに居たのは刹那だった。
「久しぶりだね。びっくりしたよ。」
顔を見て一呼吸置いてから、沙慈はそう言った。
ニコッと笑う沙慈とは対照的に、刹那はムスッとしたままだ。
「ちょっと付き合ってくれないか。」
刹那は沙慈の後ろを覗きこんだ。
沙慈も釣られて振り返ると、部屋の奥からルイスが顔を出している。
「ルイス・ハレヴィ、沙慈を借りるぞ。」
沙慈がOKを出す前だというのに、刹那はもう連れていく前提でそう言った。
「え…と…。」
「了解。いいわよ。沙慈、行ってらっしゃい。」
沙慈が困っている間にルイスも話を進めてしまっている。
ルイスはにこやかに手を振った。
「仕事は見つかったか。」
街に出ると、刹那は歩きながらそう訊いた。
「ああ、一応ね。宇宙に出る仕事じゃないけど、取り敢えず暮らしてはいけそうだよ。」
「そうか。…ルイス・ハレヴィの具合は?」
「体の方はもうすっかりいいみたいだよ。再生した手も問題なく動くし、痛みもないって。…あー、ただ、ずっと使ってなかった手を使うようになったから、どちらかというと再生した部分より、二の腕とか肩に負担がかかってるみたいでね、肩がこるってぼやいてたよ。」
そう言って沙慈は柔らかに笑む。
ふん、そうか、と刹那は小さく頷いた。
「こっちだ。」
促されるまま沙慈はついて行く。
刹那はスタスタと先を歩き、酒屋に入った。
いくつかのボトルを見て回り、コレだ、と言ってレジに持っていく。
沙慈はただ刹那の行動を眺めるばかりだ。
自分は何の為に連れ出されたのだろうと小首をかしげ、店を出たところで訊ねてみる。
「…えっと…刹那、それは?」
「スメラギ・李・ノリエガが好きな酒だ。」
即答に唖然とする。
もしかして、買出しに付き合わされているだけなのか?と。
その後も特に沙慈がいなければ困るような事態はなく、ただ刹那は淡々と買い物をしていた。
「昼はどうする。…俺はそこのファーストフードでも構わないが。」
「え、…ちょっとルイスに電話してみるよ。用意してくれてるといけないし。」
沙慈が携帯を出してルイスに電話をすると、彼女は珍しく音声だけで電話に出た。
『いいよ?こっちはこっちで適当に食べるから、ゆっくりしてきて。』
肩すかしなほどあっさりとした返事だ。
普段ルイスは一人放っておかれるのを凄く嫌がる。
珍しいなと思いつつ、沙慈は電話を切った。
最初の会話以外、会話らしい会話もなく、二人はルイスの待つ部屋に帰った。
それなりの荷物があるのに、沙慈が手伝おうとしても刹那は必要ないと断る。
本当にいったい何の為に自分は連れ出されたのだろう。
そんな疑問を抱えたまま、沙慈はドアを開けた。
パーン!
部屋に足を踏み入れると、沙慈の頭上には色とりどりの紙が舞う。
それがクラッカーの所為だと気付くのに数秒かかった。
「…え?…」
「ハッピーバースデイ!沙慈!」
「おめでとう!」
「ハピバなのですぅ!」
パチパチと拍手が重なった。
部屋にはスメラギやフェルト、それからミレイナもいる。
驚いてフリーズした沙慈にルイスが駆け寄った。
「ほら、早く来て!」
ルイスが沙慈の手を引く。
リビングには飾り付けがしてあり、テーブルの上にケーキが乗っていた。
「ルイスさんが作ったの。」
フェルトが静かにそういうと、ルイスはえへへ、と頭を掻いた。
「でも、結構手伝ってもらっちゃった。」
「そんなことないです。殆ど一人で作ったです。」
「そうね、頑張ってたわよ、彼女。」
再生した手は問題なく動くとは言え、やはり疲れるとルイスは言っていた。
それなのにケーキなんて手間のかかるものを作ってくれたのだという。
照れたように笑うルイスは、甘えるように沙慈の腕に掴まっている。
その様子を見て沙慈も照れ笑いを浮かべた。
「…ありがとう。嬉しいよ。」
ライル達男性陣は別で食べ物の買出しに行っていたらしく、暫くしてからやってきて皆で沙慈の誕生日を祝った。
「さて、と。そろそろお暇しましょうか。」
スメラギの号令で皆帰り支度を始めた。
まだ明るい時間、しかもまだケーキも切っていない。
沙慈が引き留めると、ライルがポンポンと背中を叩いた。
「二人の邪魔をするほど、俺達野暮じゃないぜ?あとは恋人の時間ってこった。」
あ、と言葉を止め、沙慈はルイスと顔を見合わせた。
そしてまた照れて笑った。
去り際に刹那がプレゼントだと沙慈に包みを渡していった。
「いい人たちだよね。」
ルイスがしみじみとそう言う。
彼女の中の恨みはもう消化されているのだ。
うん、と頷いて、沙慈は包みを開けた。
「ところで刹那、みんなからのプレゼント、何にしたの?」
スメラギがそう言うと、刹那はボソッと答えた。
「トランクス。」
「は!?」
「アイツがどんなものを喜ぶか分からなかったから、誰でも使うものにした。」
「だからって何でトランクスなんだよっ!」
「…ブリーフの方が良かったか?」
「そういう問題じゃなーい!!」
そのころ沙慈の部屋では…。
「イヤッ!寄らないでよ沙慈の馬鹿っ!フケツ!」
「ルイス!だから誤解だってば!」
「あの男とパンツを贈り合う仲だったなんてっ!」
「違うってば!それに贈り合ってないよ!贈られただけで…。」
誤解が解けるまでの数時間、ケーキは放置されていた。
fin.