ショートショート
アレルヤの受難
皆が集まって作戦会議をしているところに、マリーがやって来た。
彼女は戦力外だから普通は会議に参加しない。
皆が不思議に思って彼女を見ると、「アレルヤに用がある。ちょっといいか。」と言う。
口調から彼女の中身がマリーではなくソーマだと分かった。
「いいわ。ひと段落ついたところだし、休憩にしましょ。」
スメラギがそう言って笑みを向ける。
ソーマは会釈をして部屋に入り、つかつかとアレルヤに歩み寄った。
「どうかしたかい?マリー。」
ニコッと笑って首を傾げるアレルヤに、ソーマは言った。
「生理が来ない。妊娠というやつじゃないかと思うのだが。」
声量はいつも通り。
周りの人間にももちろん聞こえている。
皆が「え?」という顔を二人に向け、ライルに至ってはヒュ~っと口笛を吹いた。
途端慌てだすアレルヤ。
「マ、マリー、こんな所でそんな話…。」
「ここではダメなのか?」
「だって…は…恥ずかしいじゃないか。」
ソーマはキョトンとしてスメラギの方に振り返った。
「妊娠というのは恥ずかしい事なのか?」
話を振られたスメラギは苦笑いで答える。
「いいえ、そんなことないわよ?おめでたいことだもの。でも早合点かもしれないから、ちゃんと医務室に言った方がいいと思うわ。」
「分かっている。今から行くところだ。その前にアレルヤに話をしておくのが筋だと思ったから話しに来た。」
そう、と返してスメラギはアレルヤに向けて言った。
「アレルヤ、付き添いに行っていいわよ。」
普段ならアレルヤもそうしていただろう。
しかし今は会議の途中だということがあって、遠慮するつもりでアレルヤは首を横に振る。
「いえ、そういう訳には。大丈夫ですよ。ね、マリー。医務室へ行くだけだし、一人で行けるよね?」
微かにソーマがムッとしたが、アレルヤはそれに気付かなかった。
いいのよ?というスメラギに依然、大丈夫ですと繰り返してまたソーマに向かって言う。
「大丈夫だよね。一人で。」
さあ、と背中を押すように手を添えた時、ソーマはくるっと体をひねってアレルヤの正面に立った。
そして、グーの形に握られた拳を顔の横に構える。
「え…?」
何が起こっているか分からずにいるアレルヤの顔面を、ソーマのパンチが打った。
バコン!
「う…。な…ん…で…。」
「お前をあてにした私が馬鹿だった。」
くるっと踵を返し、ソーマは去っていく。
慌ててスメラギがフェルトに付いて行くようにと声を掛けた。
パタパタとフェルトがソーマを追っていく。
痛みによろめきながら顔を押さえ、アレルヤは助けを求める様に言った。
「どう…して?僕、何も悪いことしてないよね?」
皆苦笑いだ。
「…無意識の悪意という奴だな。」
「ああ、今のはアレルヤに非がある。」
ティエリアと刹那の言葉にアレルヤはべそをかきながら反論する。
「どうしてさ!?僕、医務室に行くように言っただけだよ!?」
はあ、と大きな溜め息が女性陣から漏れた。
「ダメダメです。ハプティズムさん。」
「ええ、ちょっとあれはいけないと思うわ。」
「だから付き添いにって言ったのに。」
「だから何がいけなかったんです!?」
じとーっといった感じのスメラギとミレイナとアニューの視線にアレルヤはたじろぐ。
あのねぇ、とスメラギが呆れたように言った。
「妊娠って女にとってそりゃあもう一大事なのよ?…まあ、私も経験ないからちゃんとは分かんないけど。」
「私も経験はありませんけど、それはもう大変な不安だと思いますよ?」
「きっと不安だったから、ピーリスさんが出てきてたんじゃないかと思うです。」
うんうん、と頷き合う女性陣に賛同してティエリアも思い出したことを口に出す。
「妊娠期間中は精神的に不安定になると何かに書いてあった。」
「お腹の中に別の命が入っているというのは怖い事なのかもしれないな。」と刹那。
「いつも以上に優しくしてやらなきゃな。」
ライルもそう言って、アレルヤは四面楚歌な状態だ。
ラッセがポン、とアレルヤの肩を叩いた。
「それを分かってやんのが男の責任ってヤツじゃねぇか?アレルヤ。」
その日の午後、アレルヤのところにまたソーマがやって来た。
「検査をしてきた。妊娠ではなかったらしい。」
ソーマが言ったことに、アレルヤはつい笑顔で答えてしまった。
「え!?ホント!?良かった~。」
ピシッとソーマのこめかみに力が入る。
バコン!!
渾身の一撃をまた顔面に受け、アレルヤは後ろにつんのめり尻もちをついた。
「な…なん…で…。」
ソーマはビシッとアレルヤを指差して言った。
「言っておくが!この一発はマリーも同意の上だ!!」
スタスタと帰っていく。
「マ…マリー…。」
事態を見守っていた一同は揃って溜め息を吐く。
「ないな、あれは。」とティエリアが言うと刹那も「ああ、ない。」と呟いた。
ライルも腕組みをしてうんうんと頷く。
「『良かった』は酷いと思うぜ。」
だって、だって、とアレルヤは半泣きで訴えた。
「赤ちゃんが出来たらここに居ちゃ危ないし、どうしていいか色々と考えてたんだ。だから出来てないって聞いてホッとしただけなのに…。」
「はいはい、分かるけどね。とにかく彼女追っかけて謝ってらっしゃい。」
スメラギに促され、アレルヤは走って行った。
皆肩を竦める。
「困った子ね。…ところで、アニューは大丈夫?」
「はい。ちゃんと避妊してますから。」
アニューはニコッと笑って答えた。
fin.
皆が集まって作戦会議をしているところに、マリーがやって来た。
彼女は戦力外だから普通は会議に参加しない。
皆が不思議に思って彼女を見ると、「アレルヤに用がある。ちょっといいか。」と言う。
口調から彼女の中身がマリーではなくソーマだと分かった。
「いいわ。ひと段落ついたところだし、休憩にしましょ。」
スメラギがそう言って笑みを向ける。
ソーマは会釈をして部屋に入り、つかつかとアレルヤに歩み寄った。
「どうかしたかい?マリー。」
ニコッと笑って首を傾げるアレルヤに、ソーマは言った。
「生理が来ない。妊娠というやつじゃないかと思うのだが。」
声量はいつも通り。
周りの人間にももちろん聞こえている。
皆が「え?」という顔を二人に向け、ライルに至ってはヒュ~っと口笛を吹いた。
途端慌てだすアレルヤ。
「マ、マリー、こんな所でそんな話…。」
「ここではダメなのか?」
「だって…は…恥ずかしいじゃないか。」
ソーマはキョトンとしてスメラギの方に振り返った。
「妊娠というのは恥ずかしい事なのか?」
話を振られたスメラギは苦笑いで答える。
「いいえ、そんなことないわよ?おめでたいことだもの。でも早合点かもしれないから、ちゃんと医務室に言った方がいいと思うわ。」
「分かっている。今から行くところだ。その前にアレルヤに話をしておくのが筋だと思ったから話しに来た。」
そう、と返してスメラギはアレルヤに向けて言った。
「アレルヤ、付き添いに行っていいわよ。」
普段ならアレルヤもそうしていただろう。
しかし今は会議の途中だということがあって、遠慮するつもりでアレルヤは首を横に振る。
「いえ、そういう訳には。大丈夫ですよ。ね、マリー。医務室へ行くだけだし、一人で行けるよね?」
微かにソーマがムッとしたが、アレルヤはそれに気付かなかった。
いいのよ?というスメラギに依然、大丈夫ですと繰り返してまたソーマに向かって言う。
「大丈夫だよね。一人で。」
さあ、と背中を押すように手を添えた時、ソーマはくるっと体をひねってアレルヤの正面に立った。
そして、グーの形に握られた拳を顔の横に構える。
「え…?」
何が起こっているか分からずにいるアレルヤの顔面を、ソーマのパンチが打った。
バコン!
「う…。な…ん…で…。」
「お前をあてにした私が馬鹿だった。」
くるっと踵を返し、ソーマは去っていく。
慌ててスメラギがフェルトに付いて行くようにと声を掛けた。
パタパタとフェルトがソーマを追っていく。
痛みによろめきながら顔を押さえ、アレルヤは助けを求める様に言った。
「どう…して?僕、何も悪いことしてないよね?」
皆苦笑いだ。
「…無意識の悪意という奴だな。」
「ああ、今のはアレルヤに非がある。」
ティエリアと刹那の言葉にアレルヤはべそをかきながら反論する。
「どうしてさ!?僕、医務室に行くように言っただけだよ!?」
はあ、と大きな溜め息が女性陣から漏れた。
「ダメダメです。ハプティズムさん。」
「ええ、ちょっとあれはいけないと思うわ。」
「だから付き添いにって言ったのに。」
「だから何がいけなかったんです!?」
じとーっといった感じのスメラギとミレイナとアニューの視線にアレルヤはたじろぐ。
あのねぇ、とスメラギが呆れたように言った。
「妊娠って女にとってそりゃあもう一大事なのよ?…まあ、私も経験ないからちゃんとは分かんないけど。」
「私も経験はありませんけど、それはもう大変な不安だと思いますよ?」
「きっと不安だったから、ピーリスさんが出てきてたんじゃないかと思うです。」
うんうん、と頷き合う女性陣に賛同してティエリアも思い出したことを口に出す。
「妊娠期間中は精神的に不安定になると何かに書いてあった。」
「お腹の中に別の命が入っているというのは怖い事なのかもしれないな。」と刹那。
「いつも以上に優しくしてやらなきゃな。」
ライルもそう言って、アレルヤは四面楚歌な状態だ。
ラッセがポン、とアレルヤの肩を叩いた。
「それを分かってやんのが男の責任ってヤツじゃねぇか?アレルヤ。」
その日の午後、アレルヤのところにまたソーマがやって来た。
「検査をしてきた。妊娠ではなかったらしい。」
ソーマが言ったことに、アレルヤはつい笑顔で答えてしまった。
「え!?ホント!?良かった~。」
ピシッとソーマのこめかみに力が入る。
バコン!!
渾身の一撃をまた顔面に受け、アレルヤは後ろにつんのめり尻もちをついた。
「な…なん…で…。」
ソーマはビシッとアレルヤを指差して言った。
「言っておくが!この一発はマリーも同意の上だ!!」
スタスタと帰っていく。
「マ…マリー…。」
事態を見守っていた一同は揃って溜め息を吐く。
「ないな、あれは。」とティエリアが言うと刹那も「ああ、ない。」と呟いた。
ライルも腕組みをしてうんうんと頷く。
「『良かった』は酷いと思うぜ。」
だって、だって、とアレルヤは半泣きで訴えた。
「赤ちゃんが出来たらここに居ちゃ危ないし、どうしていいか色々と考えてたんだ。だから出来てないって聞いてホッとしただけなのに…。」
「はいはい、分かるけどね。とにかく彼女追っかけて謝ってらっしゃい。」
スメラギに促され、アレルヤは走って行った。
皆肩を竦める。
「困った子ね。…ところで、アニューは大丈夫?」
「はい。ちゃんと避妊してますから。」
アニューはニコッと笑って答えた。
fin.