ショートショート
おしまいの日~クルジス最後の聖戦~
神の為の戦いだ。神の為に命を賭し、皆で神の御元に集おう
アリー・アル・サーシェスの言葉で、最後の聖戦に向かう子供たち。
「神の御元で。」
それを最後のあいさつにし、外に出て行く。
サーシェスは何の感慨もなくその光景を見ていたが、最後に出て行こうとした少年にだけ声をかけた。
「おい、ボウズ。」
「?」
少年は無言で振り向く。
「…お前、死ぬなよ。」
「死を恐れるのは、神への冒涜だろ?」
そう言った少年の目は荒んでいた。
サーシェスは口の端を上げる。
「ああ。でも、死を恐れずに戦って生き残るのは悪い事じゃない。」
その言葉に少年が何を思ったかは読み取れなかった。
しかし、ややあって少年は口を開く。
「…でも、オレ達、死ぬんだろ? 死んで神の所へ行くんだろ?」
「…ん…ああ、そうだな。」
「じゃあ、神の御元で。」
「ああ、神の御元で。」
「ケッ、くっだらねー。」
戦火が辛うじて見える場所で車を止め、サーシェスは名残を惜しむように出てきた街を眺めた。
「何が神だよ。皆マジで信じてんのかね。」
今ごろ、子供たちは必死で戦っているだろう。
神の為に。
腰には無線機をぶらさげ、そこからは延々サーシェスの言葉が流れているはずだ。
「可哀想な奴等だぜ。最後に聞くのが俺の声なんてな。」
もしかしたら子供たちは、サーシェスが今無線機を手に戦いながら喋っていると思っているかもしれない。
「ホーント、哀れだねぇ。」
少しも哀れむ様子もなく、そう呟く。
何せ、自分が逃げ出す時間稼ぎの為に、敵を引きつける役目をやらせているのだから。
それでも子供たちは皆、神の為だと信じている。
「…いや? アイツは違うな。」
サーシェスは、最後に言葉を交わしたあの少年を思い出した。
アイツはもう、勘付いているハズだ。
神なんて居ないってコトに。
「なーんで死ぬな、なんて言っちまったかな。」
どう頑張ったところで、アイツも死ぬ運命だってのに。
それでも、あの少年だけは他の子供とは違うと感じてしまっている。
他の子供は皆、神の元に行くのだと信じて疑わないだろう。
戦っている今、この時でさえ。
でもまあ、アイツも死ぬことには変わりねえ。
きっと神を呪って死ぬさ。
「って違うか。神がいない事に気付いたんじゃあ、呪う相手は…俺…かな?」
目を閉じて想像してみる。
あの少年が、自分を罵る姿を。
“うそつき!! 神様がいるって言ったじゃないかっ!!”
涙目でそう訴える子供。
「いや、違うな。アイツは泣きわめくようなタマじゃねえ。」
もう一度目を閉じる。
…そうだ。アイツは泣きわめいたりなんかしねぇ。
ただ黙って俺を見据えて…
あの強い目でじっとサーシェスを見、ゆっくりと銃を構える。
サーシェスの意識の中、少年の姿は成長した姿に変わり、
青年となった彼は引き金を引いた。
スローモーションで弾が銃口から発射され、サーシェスに迫る。
ハッと目を開いた。
ぶんぶんと首を振る。
「おいおい、冗談だろ?」
生き残るワケがない。
あの戦場で。
ククッと笑いが込み上げる。
それもいいかもな。
そういう運命の巡り合わせもいい。
小気味いいじゃねーか。
「ま、あり得ねーけどな。」
サーシェスは「あちー」とぼやきながら車を出した。
「そこいらにアイスでも売ってねーかなぁ、しょっぱいやつ。したら、ちっとぐらいアイツらの為に泣いてやれるのによぉ。」
そう言いながら、もうサーシェスは別の事を考えていた。
次は何処に行って戦争をするか。
数年後、あの少年の瞳が彼を見つけ出す事を知らぬままに。
fin.
神の為の戦いだ。神の為に命を賭し、皆で神の御元に集おう
アリー・アル・サーシェスの言葉で、最後の聖戦に向かう子供たち。
「神の御元で。」
それを最後のあいさつにし、外に出て行く。
サーシェスは何の感慨もなくその光景を見ていたが、最後に出て行こうとした少年にだけ声をかけた。
「おい、ボウズ。」
「?」
少年は無言で振り向く。
「…お前、死ぬなよ。」
「死を恐れるのは、神への冒涜だろ?」
そう言った少年の目は荒んでいた。
サーシェスは口の端を上げる。
「ああ。でも、死を恐れずに戦って生き残るのは悪い事じゃない。」
その言葉に少年が何を思ったかは読み取れなかった。
しかし、ややあって少年は口を開く。
「…でも、オレ達、死ぬんだろ? 死んで神の所へ行くんだろ?」
「…ん…ああ、そうだな。」
「じゃあ、神の御元で。」
「ああ、神の御元で。」
「ケッ、くっだらねー。」
戦火が辛うじて見える場所で車を止め、サーシェスは名残を惜しむように出てきた街を眺めた。
「何が神だよ。皆マジで信じてんのかね。」
今ごろ、子供たちは必死で戦っているだろう。
神の為に。
腰には無線機をぶらさげ、そこからは延々サーシェスの言葉が流れているはずだ。
「可哀想な奴等だぜ。最後に聞くのが俺の声なんてな。」
もしかしたら子供たちは、サーシェスが今無線機を手に戦いながら喋っていると思っているかもしれない。
「ホーント、哀れだねぇ。」
少しも哀れむ様子もなく、そう呟く。
何せ、自分が逃げ出す時間稼ぎの為に、敵を引きつける役目をやらせているのだから。
それでも子供たちは皆、神の為だと信じている。
「…いや? アイツは違うな。」
サーシェスは、最後に言葉を交わしたあの少年を思い出した。
アイツはもう、勘付いているハズだ。
神なんて居ないってコトに。
「なーんで死ぬな、なんて言っちまったかな。」
どう頑張ったところで、アイツも死ぬ運命だってのに。
それでも、あの少年だけは他の子供とは違うと感じてしまっている。
他の子供は皆、神の元に行くのだと信じて疑わないだろう。
戦っている今、この時でさえ。
でもまあ、アイツも死ぬことには変わりねえ。
きっと神を呪って死ぬさ。
「って違うか。神がいない事に気付いたんじゃあ、呪う相手は…俺…かな?」
目を閉じて想像してみる。
あの少年が、自分を罵る姿を。
“うそつき!! 神様がいるって言ったじゃないかっ!!”
涙目でそう訴える子供。
「いや、違うな。アイツは泣きわめくようなタマじゃねえ。」
もう一度目を閉じる。
…そうだ。アイツは泣きわめいたりなんかしねぇ。
ただ黙って俺を見据えて…
あの強い目でじっとサーシェスを見、ゆっくりと銃を構える。
サーシェスの意識の中、少年の姿は成長した姿に変わり、
青年となった彼は引き金を引いた。
スローモーションで弾が銃口から発射され、サーシェスに迫る。
ハッと目を開いた。
ぶんぶんと首を振る。
「おいおい、冗談だろ?」
生き残るワケがない。
あの戦場で。
ククッと笑いが込み上げる。
それもいいかもな。
そういう運命の巡り合わせもいい。
小気味いいじゃねーか。
「ま、あり得ねーけどな。」
サーシェスは「あちー」とぼやきながら車を出した。
「そこいらにアイスでも売ってねーかなぁ、しょっぱいやつ。したら、ちっとぐらいアイツらの為に泣いてやれるのによぉ。」
そう言いながら、もうサーシェスは別の事を考えていた。
次は何処に行って戦争をするか。
数年後、あの少年の瞳が彼を見つけ出す事を知らぬままに。
fin.
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