タイバニ

恋に煌めく


「ねえねえねえ、それでどんな人なの?」
「いよいよ恋だっていうのなら、聞いておきたいわね、友達として。」
 友達のエミリーとジェーンに誘われてショッピングに出かけたカリーナは、二人と話す間につい虎徹への恋心を漏らしてしまった。
 以前相談したこともあるから、さほど抵抗なく答える。
「だから前にも言ったけど、ドジな奴でさ…。」
「うン、そうじゃなくって、カッコイイの?顔とか。」
「え…そりゃ、…まあ…。」
 視線を上げて少し考える。
「…悪くないと思うわ。うん、見た目はいいのよ、基本的に。」
「何系?インテリ?それともワイルド?」
「…えーっと…。」
 そこはワイルドと即答したいところだが、虎徹のヒーロー名がワイルドタイガーだから何となくバレそうな気がして答えにくい。
「…インテリでないことだけは確かね。」
 返答に困って視線を泳がせつつそう答えた時、視界の中にその人影を見つける。
 彼はスーパーから出てきたところだった。
「…タイガー…。」
 カリーナがごく小さく呟いた。
 カリーナの足が止まってしまったことと、彼女が一点を見つめていることに友人たちは気がついて顔を見合わせた。
 視線の先の男性を指して尋ねる。
「カリーナ、知り合いなの?」
「うん。」
 同じ街に住んでいるとは言っても、休日に偶然出くわすなんてことは中々ない。
 会えるのはヒーローの仕事中かバイト先だけだ。
 視線を落として自分の服装を確認する。
(変じゃない、よね。)
 学校の友達といる、普通の自分。
 そんな姿を見てもらいたいという気持ちが湧き、そのまま歩み寄った。
「…か…鏑木さん。」
「ンあ?」
 恐らく買い出しの帰りだろうと思われる買い物袋を抱え、丁度中身を気にして手元に目をやっていた虎徹は素っ頓狂な声を返した。
「…こんにちは…。」
 プイっと視線を逸らしてよそよそしい挨拶をするカリーナ。
 見てほしいと思っただけで特に話題があるわけではない。
 何を言っていいかわからなかった。
 そんな彼女に、虎徹はやっと気付いたような顔を見せた。
「んおぉ、何だ、奇遇だなぁ、ブ…。」
 ブルーローズと言おうとしたらしい。
 えーっと、と頬を掻いてあさっての方向を向く虎徹に、カリーナは溜め息をついた。
「…カリーナ。」
「ん?」
 ムッとして睨む。
「私の名前。覚えてなかったんでしょ。…カリーナ・ライル。」
「あはは、わりぃわりぃ。カリーナ、ね。」
 不機嫌に視線をそらせているカリーナの頬は微かに染まっている。
 その様子を見ている友人たちはひそひそと話しだした。
 えーうそ、まさか、とか言っているのが聞こえてくる。
 それを自分への疑念と捉えたのか、虎徹は誤魔化し笑いをしながら「友達か?」と聞いた。
「うん、学校の。…鏑木さんは…。」
 買い物?と聞こうとしたところで虎徹が口をはさむ。
「虎徹でいいぞ?」
「え…?」
「苗字、呼ばれ慣れてなくってな。大抵…ほら、アレだし。」
 タイガーだし、と小声で付け足した。
「そ…そう…?」
 名前で呼んでいいと言われたことは嬉しいものの、嬉しすぎてすんなり口には出せない。
 そんなカリーナの気持ちなどつゆ知らず、虎徹はにっこり笑った。
「おう、遠慮すんなって。」
 ドキドキと心臓が高鳴る。
 相手の名前を呼ぶだけの事なのに、頬はさらに赤くなった。
「…こ…虎徹さん…は、買い物?」
 なんとか言い終えてチラリと虎徹を見遣る。
 屈託のない笑顔はやはりカリーナの心情など思いもよらないのだろう。
「おう、冷蔵庫ん中すっからかんになっちまってな。」
 言って袋を見せた。
 中には野菜や生肉が入っていて所帯じみている。
「へー、意外、料理するんだ。」
 素直な感想をいい、最後に「虎徹さんでも。」と揶揄を込めた。
 あはは、と虎徹はまた笑う。
「まあ、殆どアレなんだけどな。チャーハン。」
「ふーん。チャーハン好きなの?」
「ま…まあな、…あはは。」
 勿論好きだから作るのだが、どちらかと言えば一番うまく作れるからという理由の方が大きい。
 それを含んだ誤魔化し笑いにカリーナは気付かなかった。
「…ふーん。…チャーハン美味しいわよね。私も…好き。」
 好き、という言葉を発するのは、まるで告白でもするかのようでドギマギしてしまう。
 そうかぁ、と言った虎徹が嬉しそうな顔をしたのは、目を逸らしていたために見逃していた。
「じゃあ、今度作ってやるよ。俺のチャーハン、ちょ~旨いからよ。」
「え…。」
 突然降ってきた天にも昇るようなお誘いに、カリーナの脳内は軽いパニックを起こし始める。
(え…今、なんて…?チャーハン…作ってくれる?…私の為に?…どこで?うち…なわけないよね。じゃあ、タイガーの家で?…二人っきりで?)
 どうしよう、なんて返事をしたらいいんだろう、と思っている間に、虎徹は袋の中をごそごそと探り始めた。
「悪かったな、友達と一緒のとこ邪魔して。これ、お詫びな。」
 そう言って差し出されたのはペットボトルのジュースだった。
 まだパニック状態のカリーナにジュースを三本押しつけ、虎徹はひらひらと手を振って去っていく。
「…貰っちゃった。」
 手の中のジュースを見てうっとりする彼女はまさに恋する乙女だ。
 あのジュースは飲めないのだろうな、と友人二人は思っていた。





fin.
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