タイバニ

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 久々に入った虎徹からの連絡で会う約束をしたバーナビーは、待ちわびたようにその日、指定された場所に向かった。


 待ちながら静かに笑む。
 そして、そんな自分に少し顔を顰めた。


 どんな顔をして会えばいいのか、正直分からなかった。
 勿論嬉しい。
 でも、腹を立ててもいるのだ。

 何故、今まで一度も連絡をくれなかったのか。

 引退をして彼が故郷に帰ってから、もう一年近く経つ。
 その間、全く音沙汰がなかった。

 理由を推察することはできる。
 彼には家族があり、まだ独り立ちするには早い娘がいて、またその娘がネクストに目覚めてしまっていることを考えれば、とても他人の事などかまってはいられないという状況はありうる話だ。
 ネクストのコントロールには訓練が必要だし、差別の残るこの社会の中では色々と厄介なことがあるだろう。
 それに家業を継ぐというようなことを聞きはしたが、その仕事が順調かどうかもわからない。
 恐らく、かなりの確率で、そういう理由だ。

 それでも、電話の一本ぐらい、とバーナビーは視線を落とした。
 二人の関係はそんな希薄なものだったろうか。
 互いに互いを必要としていた筈だ。
 それは単に仕事のパートナーというだけでなく。
 それともそれは自分一人の思い込みだったのか。


「よ。」
 軽い、挨拶とも言えないような短い声に、バーナビーは顔を上げた。
 懐かしいその笑顔に、自分も笑顔を返してしまいそうになる。
 それを何とか止めて真顔を向けた。
「久しぶりですね。…おじさん。」
 名前を呼ぶのはやめておこう。このくらいの意思表示は許される筈だ。
「おう、ホント、久々だな。元気だったか?バニー。」
 思わずクスリと笑いを漏らした。
 相変わらずバニーか、と。
「はい。お陰さまで、足を引っ張る人の尻拭いをせずに済んでいますから、元気でいましたよ。」
「ったく、バニーちゃんの減らず口は相変わらずだなぁ、もう。」
 おどけた顔で拗ねて見せる虎徹も以前のままだ。
 事実を言っただけですよ、と返してバーナビーは歩き出した。
 人通りが多い公園を出て、景色のいい高台へ向かう。
 モノレールを乗り継ぐ間、虎徹は近況報告のようなことを喋り、バーナビーはそれに短く相槌を返した。


「じゃあ、楓ちゃんのことは一段落ですか。」
「ああ、やっとだ。発動さえコントロールしてしまえばどんな能力コピーしてきても危険は無いからな。」
「それはよかった。」
 仕事の方はどうですか、と問えば、まあまあ、と曖昧な返事が返ってきた。
「良くないんですか?」
 少し心配になって尋ねる。
「え?あ、いやあ…もともと兄貴がうまくやってる店だからな、問題なんてなーんも?…俺がいなくても、な。」
 最後の言葉は苦笑いだった。
 ひょっとしたら居心地が悪いのかもしれない、とバーナビーは思った。
 だから気晴らしに出てきたのだろうか。
 なら、一時でもそんなことを忘れられた方がいいだろう。
「ここ、景色いいでしょう?」
 高台の公園からはシュテルンビルトのほぼ全貌と、遠くに海が見えた。
「ああ、出てきた甲斐があるってもんだ。うちでゴロゴロしてるよりずっといいな。」
 満足気に伸びをするのを見てバーナビーもフッと表情が緩んだが、その次の瞬間、彼の言を反芻して眉を顰める。
「…ゴロゴロ…?してたんですか?」
「ん?ああ、ケッコー暇でよ。」
「…暇…。」

 数秒の沈黙に、虎徹が首を傾げるようにバーナビーを覗きこんだ。
「…どうかしたか?」
「…………暇、だったんですか。」
「…まあ、田舎だしな、うちは。」
 バーナビーはくるっと背中を向けて歩きだす。
「お、おい、どうしたんだよ。」
「じゃあ、ごゆっくり。時間はたっぷりあるのでしょう?僕は帰ります。」
「はあ!?どうゆう…。何怒ってんだよ!」
 虎徹が慌てて追いかけて立ちはだかるが、その横をあっさり通り抜けた。
「怒ってなんていませんよ。僕がいても暇つぶしにもならないようですから、ご自分で何とでもしてください。」
「はああ!?お前っ!訳分かんねぇぞ!?」
「分からなくて当然でしょう?僕とあなたは他人だ。」
「ちょっ…待てよ!バニー!!」
 まるで初対面の時のように冷たく背中を向ける相棒の腕を、虎徹は掴んだ。
 掴まれた部分の圧迫感が虎徹の意思を伝える。
 逃すまいと。

「…放してください、おじさん。」
 そう返しながら、バーナビーは振り払おうとしなかった。
 振り払ってしまったら、走りだすしかなくなる。
 そうなればもう会えなくなるかもしれない。もう、自分と彼はパートナーではないのだから。

 腕を掴んだまま、虎徹は足が止まったバーナビーの正面に立って真っ直ぐに目を見た。
「何を…怒ってんだよ。…わりぃけど…まったく解んねぇ。言ってくれ。」
 ゆっくりと紡がれた言葉はバーナビーの気持ちを落ち着けた。同時に真摯に話を聞こうとしているのだと理解できる。
 しかしまだ素直にはなれずに「怒ってません。」と返す。
「怒ってないこたねーだろ。言ってくれねぇと解んねーままだ。」

 虎徹の言葉に応えることに躊躇って、目を伏せた。
 暫しの沈黙の後。
 ボソッとバーナビーは呟く。

「…暇だったんでしょう?」

「……俺が暇してると腹が立つのか?」
 虎徹はまた解らないといった風に眉間にしわを作った。
 その表情を目の端に入れ、また目を伏せる。
「違います。………暇だったなら……何故……連絡をくれなかったんです?」
 声が震えていることに、バーナビー自身気付いていた。
 泣いていると思われそうで嫌だった。
 別に泣くようなことではないのだし、涙腺が弛んでいる訳ではない。
 それを証明するというわけではないが、先程までとは反対に、しっかりと虎徹と目線を合わせる。
 すると、彼はパチクリと瞬きをしていた。
「…へ?」
「連絡です。電話ぐらい数分で済むじゃないですか。」
「え…それで…怒ってんの?」
「……ええ、怒ってます。この数ヶ月、一度も連絡くれなかったじゃないですか。」
 再びパチクリと瞬きをして、虎徹は掴んでいた手を離した。
「えーっと…だなぁ…、なんでって…あれだな…。」
 ポリポリと頬を掻く。
「…なんつーか…お前の邪魔したくなかったってのもあるし……、あ、言っとくけど俺だってずっと暇だったわけじゃないからな?…あと、思い付くのが何か夜中だったりするとこんな時間に電話しちゃ迷惑だろうな、とか………。」
 難題を出されたかのように頭をひねりながら色々と理由を上げていく虎徹。
「あとは…えーっと…。」
 バーナビーの納得のいく理由がないかと懸命に考える中、ふと気がつく。
「あ、ってか、お前だって連絡くれなかったじゃねーか。」
 それにはあっさりと返事を返した。
「おじさんの電話番号覚えてませんから。」
 は?と虎徹が唖然とする。
「携帯に入ってんだろ!?」
 当然YESの答えが返ってくると思って待ち構えている虎徹に、バーナビーは無言を返した。
「…な、何?バニーちゃん、携帯、トイレに落としたりしたの?」
「落としてませんよ。データは飛んでません。」
「…じゃあ、入ってんだろ?俺のデータも。」
 また無言。
「…バニーちゃ~ん、おーい。」
「……………ました…。」
「はい?」
 バーナビーの声が聞き取れず、斉藤さんの言葉を聞くときのように耳に手を当てて近付いた。
 すると。

「あなたの名前はアドレス帳から削除しました。」

「はああああ!?」

 何それ酷っ!それなのに連絡くれってどういうことだよ!とバーナビーの謎の行動に対して虎徹は文句を言っている。
 しかしバーナビーはシレっと返す。
「あなたの名前が目障りだったので。」
「さらに酷っ!なんでだよっ!」
「かかってこない電話番号を入れてあっても仕方ないでしょう?」
「いや、だから、お前がかければいいだろう!?」
「嫌です。」
「は!?」
「僕は自分からは電話しないと決めたんです。」
「何だよそれっ!!」
 芸人のように突っ込みを入れられた事が気に入らず、バーナビーはプイっと横を向いた。

 決めたのだから仕方がない。
 家庭がある虎徹の邪魔になってはいけないと思ってしまったのだから。

「…電話をかけた時に、もしかしたら楓ちゃんと話をしているかもしれないでしょう?そしたら親子の会話を切ってしまうことになります。」
 静かに出された声に、虎徹は真顔で聞き入った。
 口元に笑みを湛える。
「そんなんタマにはいいだろ。」
「大事な話をしているかもしれない。」
「ンなこと滅多にねえって。」
「その稀な状況に当たってしまわないとも限らない。」
「ンなこと気にしてたら誰にも電話できねえだろ?そんなこと気にしてくれてたのか?」
 他の誰でもなく、あなただから気になったのだと思いながら、虎徹の言を引き合いに出した。
「あなただって…、僕の邪魔って何です?」
「え?いや、そりゃまあ…なんつーか…お前はお前で生活が…。」
 虎徹の言葉が止まり、二人は顔を見合わせた。

「同じか。」
「同じですね。」
 フフフと笑い合う。

 また携帯には虎徹の番号が入ってしまった。
 今度は消すなよと念を押されたが、かかってこないようならまた消しますと返して見送る。
「ったく、バニーちゃんにはまいるなぁ。」
 そのおどけた顔をまた次も見たいと、バーナビーは思っていた。





fin.
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