FF7
電話
「電話屋はどこだ。」
そうヴィンセントに尋ねられたのは、戦いの最中 だった。
たった一言だったし、直後に戦闘が激しくなったし、平穏が訪れた時にはもう、ティファはそのことを忘れていた。
「教えてくれないか、あの事。」
ヴィンセントがそんな言い方をするものだから、余計にティファは混乱した。
───あの事? 何?あの事って……どの事?
何の反応も出来ずに固まっていると、横からデンゼルがつんつん、とつついた。
くいっとティファの腕を引っ張り、耳打ちする。
「昨日の事じゃない? 電話屋さん。」
「え?…あ!あーぁ。」
ティファは上体を戻し、軽く咳払いをしてから応じた。
「コホン。えーっと…ヴィンセント、携帯買うの?」
ヴィンセントも少し目をそらして咳払いをした。
「ん、あー、まあ、…何だ。やはり、連絡は取りやすい方がいいかと思ったのでな。」
取って付けたような理由が少し気になりはしたが、ティファはごそごそと広告を探り始めた。
「それはそうね。携帯は初めて? じゃあ、親切な所、教えてあげる。」
一枚の広告を見付け出し、それを手渡した。
「ここ対応いいし、受付の女性が可愛いし、粗品もいい物くれるし。」
「そうか。」
ティファに貰った広告を頼りに、ショップを目指すヴィンセント。
彼の頭には、ある言葉がリフレインされていた。
『信じられない!!』
シンジラレナイ、シンジラレナイ、シンジラレナイ……………
マリンに携帯を持っているかと聞かれ、マントを開いて持っていない事を示した時、彼女が思わず言った言葉だった。
今時携帯を持っているのが普通だという事を一応知ってはいたが、あんな小さな子供に、そんな言われ様をするとは思ってもみなかった。
「いらっしゃいませー♪」
元気の良い店員の声に迎えられ、少し気後れしながらも、今日は絶対に携帯を手に入れるぞという決意の下、カウンターに近付いた。
「携帯が欲しいのだが。」
「はい。では取りあえずお掛けになって、こちらのカタログをご覧下さい。」
店員は、カタログをパラパラとめくりながら説明を始めた。
「こちらは、最新式の通称おサイフケータイといいまして、様々なお支払いをこの携帯で済ませることが出来ます。」
「…いや、そういう機能は別に…。」
「でしたら、こちらは…。」
ナビの付いているもの、トランシーバーになるもの、音楽の聞けるもの、鮮明な写真が取れるもの…。
次々と丁寧な説明をしてくれるが、ヴィンセントにはどれも必要ないものばかりだ。
何を言っても反応の薄い彼に困り、店員は別の提案をした。
「では、料金の割り引きの種類からお選びになりますか? こちらの機種ですと家族割引がありまして、ご家族で…。」
「家族などいない。」
「…では、こちらですとお一人でも家族割引と同等の割り引きを受ける事が出来ますが。」
ヴィンセントはそこに引っ掛かった。
「一人でも家族割引? では、さっきの家族割引のイミがないのではないか?」
「…えーっと、確かに同じようなものではありますが、多少違うところも…。」
店員は説明をしながら、(あんた、家族いないんなら、そんなとこに引っ掛からなくても…;)と思っていた。
一通りの説明を受け、「カメラはやっぱりあった方が何かと便利ですよ。」とか「料金はこちらがお得ですよ。」とか言う店員の進めに応じ、ヴィンセントは何とか選ぶ事ができた。
早速、手に入れた携帯をピコピコ触りながら歩くヴィンセントの足は、自然とティファの店に向かっていた。
─── 一番にマリンに見せなくては。
何となく、そんな強迫観念にかられ、足が速くなる。
店の前に着くと携帯をズボンのポケットに入れ、入口のドアを開けた。 カランコロン。
「いらっしゃい…、あら、ヴィンセント。」
カウンター席につき、酒を頼んだ。
「ところで…、マリンはいるか?」
ティファはグラスを差し出しながら、不思議そうに聞き返す。
「…いるけど、マリンに何か用なの?」
「い、いや、別に。…元気かな、と思って…。」
「昨日も会ったでしょ?」
「…あ、ああ、そうだったな。」
様子のおかしなヴィンセントを見て、ティファはマリンを呼んだ。
「マリン、ちょっと来て。」
呼ばれたマリンは、何か手伝いかと思って急いでかけてきた。
「なあに? ティファ。何すればいい?」
「うーん、別に…。…ちょっとヴィンセントのお相手を…。」
「はーい。」
マリンは別に訝 しがりもせず、ヴィンセントの隣りに座った。
「こんにちは。…あ、もうこんばんは、かな?」
「…コンバンワ…」
ヴィンセントの態度は明らかにおかしい。そんな彼に、マリンはにこっと笑顔を向けた。
言うことが見つからず、ヴィンセントはポケットから携帯を出した。
「何? これ、ヴィンセントの?」
「ああ、買った。」
マリンの反応を待つ。『わぁ、買ったんだー』とか、『すごーい』とか、そんなリアクションを期待しながら…。
ところが。
「ふーん。で、それがどうかしたの?」
何の悪気もないマリンは、ズバッと端的に尋ねた。
ガンッ!
あまりのショックに、ヴィンセントはグラスを落としそうになった。
「い、いや、別に…。」
おずおずと、携帯をポケットに戻す。
その後、ヴィンセントはマリンととりとめのない話をし、店を出た。
───何の為に携帯を買ったのだ。…いや、別にマリンに見せる為だけに買ったわけではないが…。ないが…。
「何か納得ができん!」
最後は思わず声を出してしまっていた。
電話 2
ヴィンセントの最近の日課は携帯の説明書を読む事だ。
取りあえず電話のかけ方、受け方と電話帳の使い方だけはマスターしたが、他の機能はまだ説明書頼みだ。
使いながら覚えようと、読みながらやってみる。
カシャッ!!
写真を撮ってみた。
───カンタンだな。
と思ったのも束の間、撮った画像を見る、送る、壁紙にする、加工する、消す、印刷する、なんてのもある。
───めんどくさい。
そうは思ったが、折角の機能を使わずにいるのもシャクに障る。
彼は携帯を窓の外に向け、空の写真を撮った。 ピコピコと説明書に従ってボタンを押し、壁紙にしてみた。
「…ふん。なかなか良い。」
そこに電話がかかってきた。
ズンチャカ、ズンチャカ…。
彼に似合わない軽快な音楽だ。彼自身違和感を持ち、やっぱり別のにしようと思いながら電話に出た。相手はユフィだと画面で分かった。
「……。」
『もしもし? ヴィンセント?』
「何だ。」
『おー、ヴィンセントじゃん。あんたが携帯買ったって聞いたからさ、かけてみた。』
「それだけか。今、忙しい。」
『あ、そーなの? 元気?って、あんたいっつも元気あるんだかないんだか分かんないよねー。』
「用がないなら切るぞ。」
『あ、ちょっと待ってよ。これでいつでも連絡取れるんだからさ、マテリアの情報、知らせてよね。いい? 分かった?』
「ああ、情報があればな。」
『よろしい! では、健闘を祈る。じゃねー♪』
ツー、と電話の切れた音を聞きながら、ヴィンセントは何となくムカついた。
───勝手にかけてきて、勝手なことを言って、勝手に切った。何て勝手な奴だ。
そんな事を考えながら、着信音を変える為、またピコピコとボタンを押す。
それから度々、ユフィから電話がかかるようになった。しかし、その内容はどうも暇つぶしとしか思えないものだった。
「なぜ私にそんな話を。」
『えー? だって、あんた黙って聞いてくれるからさー。』
「…切るぞ…。」
『あー、まあまあ、いいじゃん。あんただって、たまには仲間の声聞かないと淋しいでしょ?』
「…たまに、ならな。」
『特にこの元気美少女のユフィちゃんの声は、聞いとかないと禁断症状が起きるぞ?』
「……起きるか!」
『え? 何? 聞こえないー! とにかくっ! あたしがわざわざ電話してあげてるんだから、感謝しなさいよね。あ、キャッチ入った。じゃねー♪』
嵐の様に去って行くユフィの電話に、毎回頭を悩ませる。
───全くっ! あいつは、こちらの都合はおかまいなく………。
数日後、またユフィから電話がかかった。
面倒だと思いながらも、ヴィンセントは律義に出た。
「何だ。」
『ねー、聞いてよぉー!』
頭をかかえる。今日はグチか。
『クラウドに何回電話しても出ないんだよ? 仕事の依頼だってのに、何考えてんだっつーの!』
「忙しいんだろう。」
『いや、そーは思えない。あれは絶対、面倒だから出ないんだよ。そーゆー奴だもんっ! で、そーゆーわけだから、あんたの方からもクラウドに電話してみてよ。伝言は、“バレットの所に行け!”いい? 分かった?』
「…ああ。」
早く電話を切りたくて、ヴィンセントは了解した。
すぐにクラウドに電話をかける。すると、2回程のコールでクラウドは出た。
「ユフィからの伝言だ。バレットの所へ行け。」
『今、向かっているところだ。』
「そうか。それから、ユフィに言っておいてくれないか。これは私の電話だ、勝手にかけてくるな、と。」
『…ふっ。分かった。』
互いに素っ気ない言葉を交わし、電話を切った。
切ってから気付く。
クラウドがユフィの電話に出ないのは、彼女の嵐の様な話に巻き込まれたくないからか。
───なるほど。出たくない相手の電話には、出なければいいのか。
今度は留守電の操作方法を覚えよう、とヴィンセントは決意した。
電話 3
「え? あの戦いの時にショップを聞いてたの?」
「うん、ティファは答えなかったけどね。」
マリンとデンゼルが部屋で話してるのは、ヴィンセントの事だ。
「でさ、次の日にまたティファに聞きに来て、すぐ買いに行ったみたいだよ?」
「ふーん、じゃあ、その日に買って、またすぐここに来たんだね。」
2人は床に座り込んで本をめくりながら話していたが、同時にその手を止めた。
「ヴィンセント、携帯見せに来たのかな。」
「…わざわざ? 携帯買っただけなのに?」
あの時、ティファに呼ばれてヴィンセントの隣りに座った時、彼は何も言わずに携帯を出した。
マリンは気になってティファを呼んだ。
「ねー、ティファ、今、暇?」
「なあに? 少しならいいわよ?」
部屋に来たティファに、2人で話していた事を伝えた。
「ティファ、あの時どうして私を呼んだの?」
「…えーっと、どうだったかしら…。確か、ヴィンセントの様子が何か変だったのよね。会ったばかりなのに、マリンは元気か、とか…。」
「やっぱり…。ヴィンセント、私に携帯見せに来たんだ。」
顔を見合わせるティファとデンゼル。
「どうしてマリンに?」
「うーん、気にしてたのかな…あの事。」
「あの事?」
『(携帯)持ってる?』
『……(持ってない)。』
『信じられない!!』
確かあの時、妙にがっくりした顔をしていた様な気がする。
「マジで?」
「ホントに?」
驚く2人に、マリンはこくんと頷いた。
「私、ヴィンセントの事、傷つけちゃったかも。」
「何で?」
「あの時、携帯見せられて、つい『それがどうしたの?』って言っちゃったから…。」
「…そういえば、元気なかった気もするわね。」
ティファが思い出しながらそう言った。
「…今度、何かお詫びしようかな。」
マリンが気にしてる様子なのを見て、ティファもデンゼルもにこっと笑った。
「気にする事ないわ。彼は大人なんだから。それに、この前来た時は普通だったわよ?」
「そーそー、大丈夫だって。」
「そーかなー。…あ、そーだ、いいこと思い付いた。」
マリンはそう言って、嬉しそうに手を打ち合わせた。
次の日、クラウドとティファが急に仕事を休みにして、みんなでピクニックに出かけた。
花畑の真ん中でのんびりと寝転がるクラウドに、マリンは手を差し出した。
「クラウド、携帯貸して。」
「構わないが、どこにかけるんだ?」
「ヴィンセントにかけるの。呼んでいい?」
少々面食らう。
「ここに呼ぶのか? 急に呼んでも来れないだろう。それに…、弁当が足りないぞ。」
「私の分、分けてあげる。」
「いや、…それはちょっと…足りないだろうし…。」
渋るクラウドを見限って、今度はティファに向かって言う。
「ねえ、ティファ。ダメ? ヴィンセントも一緒にピクニックしたい。」
「…うーん、一応多めには作ってきたけど…。お弁当はいいとしても、彼、ピクニックなんて柄じゃないと思うわよ?」
「えー!? やだー! ヴィンセント呼びたいー!」
普段聞き分けのいいマリンは、ダダをこね始めると頑固だった。
「やだやだやだー! ヴィンセント呼ぶのー!」
「わ、分かった、分かった。来るかどうかは別にして、一応、かけてみるか?」
クラウドが携帯を差し出すと、マリンは嬉しそうに飛び付いた。
タタタ、とクラウドたちから離れ、ピコピコとボタンを押す。そして、携帯を耳にあてた。
次の瞬間、マリンはクスンクスンと泣き始めた。
驚く一同。デンゼルはおろおろしている。
「ヴィンセントぉ~。すぐに来て~。クラウドがいぢめるのぉ~。場所はね、……」
「!!??」
あまりの事に、クラウドは息を飲み、一拍遅れて口を開いた。
「マ、マリン! 一体何を!」
抗議をした時には既に電話は切られ、マリンはペロッと舌を出す。
「ヴィンセントは優しいから、これで絶対来てくれるよ♪」
一時間程で彼は到着した。
花畑の横を通る道にトラックが止まり、ヴィンセントが降りるとトラックは発進した。多分、通り掛かりをつかまえて乗せてもらったのだろう。
つかつかと4人に歩み寄る中、状況が見えて来た。
───もしかして、ピクニックか?
「何のつもりだ、クラウド。」
「俺に聞くなよ。」
「お前が入れ知恵したんじゃないのか。」
「マリンが勝手にやったんだ。」
ヴィンセントは無言でマリンを見た。
にこっ。
マリンは満面の笑みで見上げている。
「こんにちは、ヴィンセント。」
「ああ。…何か…用、か?」
「ケータイ貸して♪」
不思議に思いながらも、ポケットから携帯を出す。
するとマリンはパッとそれを奪い、走って離れて行った。
「おいっ! 壊すなよっ!」
「大丈夫♪」
しゃがみ込んで何かをしているのを見てクラウドたちに目をやると、クラウドもティファもデンゼルも心当たりはないようで、肩をすくめたり首をかしげたりするばかりだ。
しばらくするとマリンは立ち上がり、タタタ、とヴィンセントの所まで戻って来た。
そして差し出す。
「はい。プレゼント♪」
見ると、ヴィンセントの携帯にはストラップが付けられていた。
「…こ、これは…;」
カラフルなビーズで作られたストラップの先には、可愛らしいくまさんが付いている。
「かわいいでしょ?」
「あ、ああ…し、しかし…。」
「昨日作ったの。使ってね♪」
マリンが善意でやっているのが分かるだけに、無下にも出来ない。
───しかし…これは、可愛らし過ぎる…。
「プッ、クククッ…。」
ヴィンセントのうしろから、クラウドの笑いが聞こえた。
振り返り、睨む。
「何だ、クラウド。」
「いや、いーじゃないか。うらやましーな。」
ヴィンセントは口の端を上げた。
「ほーお、そうか、うらやましいか。マリン、クラウドがうらやましいそうだ。」
「ホント!?」
マリンのポケットには、同じ物がもう一つ入っていた。ヴィンセントはそれに気付いていたのだ。
「大丈夫だよ、クラウド♪ 実はクラウドの分もあるの♪」
ほら、とストラップを見せるマリン。
引きつるクラウド。
「あ、い、いや、…俺はやっぱり、遠慮するよ。」
「え、どうして? うらやましいんでしょ?」
「えっと…ほら、俺がヴィンセントとお揃いっていうのは、変、だろ?」
「変じゃないよ。だって、2人は仲良しでしょ?」
流石は子供だ、と褒めたくなる様な思考に、クラウドは困ってしまった。
すかさずヴィンセントが答える。
「ああ、とっても仲良しだ。」
今度は、クラウドがヴィンセントを睨んだ。
「お前! 俺とお揃いでいいのかっ!」
「私は構わないぞ。笑った罰だ。」
一人で恥ずかしい思いをするのはゴメンだ、とヴィンセントはクラウドを引き込む気満々だ。
何とか逃れようと、クラウドは言葉を探した。
「マ、マリン。やはりそれは、ちょっとかわい過ぎるから、俺には似合わないと思うんだ。」
「気に入らないの?」
マリンの顔がくもる。
「い、いや、もちろん気に入ってる。でも、気持ちだけで充分だよ。」
「うっ…、ヴィンセントは…ヒック…受け取ってくれたのに…。うっ…」
うあーん。
電話の時と違い、本当に泣き出してしまった。 ティファが小声でたしなめる。
「クラウドっ。そーゆーものは、受け取るのが優しさってもんでしょ!」
クラウドは、おろおろしながらマリンに言った。
「分かった。受け取る。受け取るから、泣かないでくれ。」
「うあーん、もういいもん。」
「マリン! 悪かった! 言い方が悪かったな。つまり、その…、そのストラップはマリンらしくて、とても可愛いと思うし、気に入ってもいる。…そ、そうだ! それをマリンだと思って付けておこう。そうすれば、遠くへ仕事に出ても淋しくなくていいな。うん。」
「ホント?」
マリンは少し落ち着き、上目遣いでクラウドを見る。
「ああ、もちろん。」
「…じゃ、私が付けてあげる。」
クラウドは一瞬躊躇したが、覚悟を決め携帯を渡した。
涙を拭き拭きストラップを付けると、マリンはにこっと笑って差し出す。
「はい。どうぞ。」
「…ありがとう。」
クラウドは観念した笑顔を向けた。
ヴィンセントがニヤッと笑ったのが分かった。
それから数週間が過ぎ、そのストラップにも慣れて付けている事さえ気にならなくなってきた頃、クラウドは仕事でユフィの家を訪れた。
「届け物だ。」
「サンキュ。あ、そーだ、丁度よかった。ちょっと携帯貸してよ。あたしの昨日、壊れちゃってさー。」
全く、と文句を言いながら、クラウドは自分の携帯を出す。
ユフィはそれを受け取った瞬間、「げっ!」と声を上げた。
「うわっ! 気持ち悪っ! 何ヴィンセントとお揃いのストラップ付けてんの!?」
しまった!と思ったが、もう遅い。
「い、いや、それは…。」
「ヴィンセントも変な奴だと思ってたけど、あんたもそーとーだね。」
「だからっ! それはマリンが…」
「きしょーい。2人あやしーい。皆に言っちゃおー。」
ユフィは、そう言いながら電話をかけ始めた。「ユフィ! ゴカイだ!」
慌てるクラウドを余所に、ユフィは話し始めた。
「あ、シド? 聞ーてよー。クラウドったらね、ヴィンセントとお揃いの…」
「う゛あ゛ー!! やめろっ!」
携帯を奪い取り、そのまま切る。
「じゃ、じゃあなっ!」
クラウドは、そそくさとその場を立ち去った。
誤解を解かずに帰った為、発信元ユフィのその噂は、すぐに仲間に知れ渡った。
fin.
「電話屋はどこだ。」
そうヴィンセントに尋ねられたのは、戦いの
たった一言だったし、直後に戦闘が激しくなったし、平穏が訪れた時にはもう、ティファはそのことを忘れていた。
「教えてくれないか、あの事。」
ヴィンセントがそんな言い方をするものだから、余計にティファは混乱した。
───あの事? 何?あの事って……どの事?
何の反応も出来ずに固まっていると、横からデンゼルがつんつん、とつついた。
くいっとティファの腕を引っ張り、耳打ちする。
「昨日の事じゃない? 電話屋さん。」
「え?…あ!あーぁ。」
ティファは上体を戻し、軽く咳払いをしてから応じた。
「コホン。えーっと…ヴィンセント、携帯買うの?」
ヴィンセントも少し目をそらして咳払いをした。
「ん、あー、まあ、…何だ。やはり、連絡は取りやすい方がいいかと思ったのでな。」
取って付けたような理由が少し気になりはしたが、ティファはごそごそと広告を探り始めた。
「それはそうね。携帯は初めて? じゃあ、親切な所、教えてあげる。」
一枚の広告を見付け出し、それを手渡した。
「ここ対応いいし、受付の女性が可愛いし、粗品もいい物くれるし。」
「そうか。」
ティファに貰った広告を頼りに、ショップを目指すヴィンセント。
彼の頭には、ある言葉がリフレインされていた。
『信じられない!!』
シンジラレナイ、シンジラレナイ、シンジラレナイ……………
マリンに携帯を持っているかと聞かれ、マントを開いて持っていない事を示した時、彼女が思わず言った言葉だった。
今時携帯を持っているのが普通だという事を一応知ってはいたが、あんな小さな子供に、そんな言われ様をするとは思ってもみなかった。
「いらっしゃいませー♪」
元気の良い店員の声に迎えられ、少し気後れしながらも、今日は絶対に携帯を手に入れるぞという決意の下、カウンターに近付いた。
「携帯が欲しいのだが。」
「はい。では取りあえずお掛けになって、こちらのカタログをご覧下さい。」
店員は、カタログをパラパラとめくりながら説明を始めた。
「こちらは、最新式の通称おサイフケータイといいまして、様々なお支払いをこの携帯で済ませることが出来ます。」
「…いや、そういう機能は別に…。」
「でしたら、こちらは…。」
ナビの付いているもの、トランシーバーになるもの、音楽の聞けるもの、鮮明な写真が取れるもの…。
次々と丁寧な説明をしてくれるが、ヴィンセントにはどれも必要ないものばかりだ。
何を言っても反応の薄い彼に困り、店員は別の提案をした。
「では、料金の割り引きの種類からお選びになりますか? こちらの機種ですと家族割引がありまして、ご家族で…。」
「家族などいない。」
「…では、こちらですとお一人でも家族割引と同等の割り引きを受ける事が出来ますが。」
ヴィンセントはそこに引っ掛かった。
「一人でも家族割引? では、さっきの家族割引のイミがないのではないか?」
「…えーっと、確かに同じようなものではありますが、多少違うところも…。」
店員は説明をしながら、(あんた、家族いないんなら、そんなとこに引っ掛からなくても…;)と思っていた。
一通りの説明を受け、「カメラはやっぱりあった方が何かと便利ですよ。」とか「料金はこちらがお得ですよ。」とか言う店員の進めに応じ、ヴィンセントは何とか選ぶ事ができた。
早速、手に入れた携帯をピコピコ触りながら歩くヴィンセントの足は、自然とティファの店に向かっていた。
─── 一番にマリンに見せなくては。
何となく、そんな強迫観念にかられ、足が速くなる。
店の前に着くと携帯をズボンのポケットに入れ、入口のドアを開けた。 カランコロン。
「いらっしゃい…、あら、ヴィンセント。」
カウンター席につき、酒を頼んだ。
「ところで…、マリンはいるか?」
ティファはグラスを差し出しながら、不思議そうに聞き返す。
「…いるけど、マリンに何か用なの?」
「い、いや、別に。…元気かな、と思って…。」
「昨日も会ったでしょ?」
「…あ、ああ、そうだったな。」
様子のおかしなヴィンセントを見て、ティファはマリンを呼んだ。
「マリン、ちょっと来て。」
呼ばれたマリンは、何か手伝いかと思って急いでかけてきた。
「なあに? ティファ。何すればいい?」
「うーん、別に…。…ちょっとヴィンセントのお相手を…。」
「はーい。」
マリンは別に
「こんにちは。…あ、もうこんばんは、かな?」
「…コンバンワ…」
ヴィンセントの態度は明らかにおかしい。そんな彼に、マリンはにこっと笑顔を向けた。
言うことが見つからず、ヴィンセントはポケットから携帯を出した。
「何? これ、ヴィンセントの?」
「ああ、買った。」
マリンの反応を待つ。『わぁ、買ったんだー』とか、『すごーい』とか、そんなリアクションを期待しながら…。
ところが。
「ふーん。で、それがどうかしたの?」
何の悪気もないマリンは、ズバッと端的に尋ねた。
ガンッ!
あまりのショックに、ヴィンセントはグラスを落としそうになった。
「い、いや、別に…。」
おずおずと、携帯をポケットに戻す。
その後、ヴィンセントはマリンととりとめのない話をし、店を出た。
───何の為に携帯を買ったのだ。…いや、別にマリンに見せる為だけに買ったわけではないが…。ないが…。
「何か納得ができん!」
最後は思わず声を出してしまっていた。
電話 2
ヴィンセントの最近の日課は携帯の説明書を読む事だ。
取りあえず電話のかけ方、受け方と電話帳の使い方だけはマスターしたが、他の機能はまだ説明書頼みだ。
使いながら覚えようと、読みながらやってみる。
カシャッ!!
写真を撮ってみた。
───カンタンだな。
と思ったのも束の間、撮った画像を見る、送る、壁紙にする、加工する、消す、印刷する、なんてのもある。
───めんどくさい。
そうは思ったが、折角の機能を使わずにいるのもシャクに障る。
彼は携帯を窓の外に向け、空の写真を撮った。 ピコピコと説明書に従ってボタンを押し、壁紙にしてみた。
「…ふん。なかなか良い。」
そこに電話がかかってきた。
ズンチャカ、ズンチャカ…。
彼に似合わない軽快な音楽だ。彼自身違和感を持ち、やっぱり別のにしようと思いながら電話に出た。相手はユフィだと画面で分かった。
「……。」
『もしもし? ヴィンセント?』
「何だ。」
『おー、ヴィンセントじゃん。あんたが携帯買ったって聞いたからさ、かけてみた。』
「それだけか。今、忙しい。」
『あ、そーなの? 元気?って、あんたいっつも元気あるんだかないんだか分かんないよねー。』
「用がないなら切るぞ。」
『あ、ちょっと待ってよ。これでいつでも連絡取れるんだからさ、マテリアの情報、知らせてよね。いい? 分かった?』
「ああ、情報があればな。」
『よろしい! では、健闘を祈る。じゃねー♪』
ツー、と電話の切れた音を聞きながら、ヴィンセントは何となくムカついた。
───勝手にかけてきて、勝手なことを言って、勝手に切った。何て勝手な奴だ。
そんな事を考えながら、着信音を変える為、またピコピコとボタンを押す。
それから度々、ユフィから電話がかかるようになった。しかし、その内容はどうも暇つぶしとしか思えないものだった。
「なぜ私にそんな話を。」
『えー? だって、あんた黙って聞いてくれるからさー。』
「…切るぞ…。」
『あー、まあまあ、いいじゃん。あんただって、たまには仲間の声聞かないと淋しいでしょ?』
「…たまに、ならな。」
『特にこの元気美少女のユフィちゃんの声は、聞いとかないと禁断症状が起きるぞ?』
「……起きるか!」
『え? 何? 聞こえないー! とにかくっ! あたしがわざわざ電話してあげてるんだから、感謝しなさいよね。あ、キャッチ入った。じゃねー♪』
嵐の様に去って行くユフィの電話に、毎回頭を悩ませる。
───全くっ! あいつは、こちらの都合はおかまいなく………。
数日後、またユフィから電話がかかった。
面倒だと思いながらも、ヴィンセントは律義に出た。
「何だ。」
『ねー、聞いてよぉー!』
頭をかかえる。今日はグチか。
『クラウドに何回電話しても出ないんだよ? 仕事の依頼だってのに、何考えてんだっつーの!』
「忙しいんだろう。」
『いや、そーは思えない。あれは絶対、面倒だから出ないんだよ。そーゆー奴だもんっ! で、そーゆーわけだから、あんたの方からもクラウドに電話してみてよ。伝言は、“バレットの所に行け!”いい? 分かった?』
「…ああ。」
早く電話を切りたくて、ヴィンセントは了解した。
すぐにクラウドに電話をかける。すると、2回程のコールでクラウドは出た。
「ユフィからの伝言だ。バレットの所へ行け。」
『今、向かっているところだ。』
「そうか。それから、ユフィに言っておいてくれないか。これは私の電話だ、勝手にかけてくるな、と。」
『…ふっ。分かった。』
互いに素っ気ない言葉を交わし、電話を切った。
切ってから気付く。
クラウドがユフィの電話に出ないのは、彼女の嵐の様な話に巻き込まれたくないからか。
───なるほど。出たくない相手の電話には、出なければいいのか。
今度は留守電の操作方法を覚えよう、とヴィンセントは決意した。
電話 3
「え? あの戦いの時にショップを聞いてたの?」
「うん、ティファは答えなかったけどね。」
マリンとデンゼルが部屋で話してるのは、ヴィンセントの事だ。
「でさ、次の日にまたティファに聞きに来て、すぐ買いに行ったみたいだよ?」
「ふーん、じゃあ、その日に買って、またすぐここに来たんだね。」
2人は床に座り込んで本をめくりながら話していたが、同時にその手を止めた。
「ヴィンセント、携帯見せに来たのかな。」
「…わざわざ? 携帯買っただけなのに?」
あの時、ティファに呼ばれてヴィンセントの隣りに座った時、彼は何も言わずに携帯を出した。
マリンは気になってティファを呼んだ。
「ねー、ティファ、今、暇?」
「なあに? 少しならいいわよ?」
部屋に来たティファに、2人で話していた事を伝えた。
「ティファ、あの時どうして私を呼んだの?」
「…えーっと、どうだったかしら…。確か、ヴィンセントの様子が何か変だったのよね。会ったばかりなのに、マリンは元気か、とか…。」
「やっぱり…。ヴィンセント、私に携帯見せに来たんだ。」
顔を見合わせるティファとデンゼル。
「どうしてマリンに?」
「うーん、気にしてたのかな…あの事。」
「あの事?」
『(携帯)持ってる?』
『……(持ってない)。』
『信じられない!!』
確かあの時、妙にがっくりした顔をしていた様な気がする。
「マジで?」
「ホントに?」
驚く2人に、マリンはこくんと頷いた。
「私、ヴィンセントの事、傷つけちゃったかも。」
「何で?」
「あの時、携帯見せられて、つい『それがどうしたの?』って言っちゃったから…。」
「…そういえば、元気なかった気もするわね。」
ティファが思い出しながらそう言った。
「…今度、何かお詫びしようかな。」
マリンが気にしてる様子なのを見て、ティファもデンゼルもにこっと笑った。
「気にする事ないわ。彼は大人なんだから。それに、この前来た時は普通だったわよ?」
「そーそー、大丈夫だって。」
「そーかなー。…あ、そーだ、いいこと思い付いた。」
マリンはそう言って、嬉しそうに手を打ち合わせた。
次の日、クラウドとティファが急に仕事を休みにして、みんなでピクニックに出かけた。
花畑の真ん中でのんびりと寝転がるクラウドに、マリンは手を差し出した。
「クラウド、携帯貸して。」
「構わないが、どこにかけるんだ?」
「ヴィンセントにかけるの。呼んでいい?」
少々面食らう。
「ここに呼ぶのか? 急に呼んでも来れないだろう。それに…、弁当が足りないぞ。」
「私の分、分けてあげる。」
「いや、…それはちょっと…足りないだろうし…。」
渋るクラウドを見限って、今度はティファに向かって言う。
「ねえ、ティファ。ダメ? ヴィンセントも一緒にピクニックしたい。」
「…うーん、一応多めには作ってきたけど…。お弁当はいいとしても、彼、ピクニックなんて柄じゃないと思うわよ?」
「えー!? やだー! ヴィンセント呼びたいー!」
普段聞き分けのいいマリンは、ダダをこね始めると頑固だった。
「やだやだやだー! ヴィンセント呼ぶのー!」
「わ、分かった、分かった。来るかどうかは別にして、一応、かけてみるか?」
クラウドが携帯を差し出すと、マリンは嬉しそうに飛び付いた。
タタタ、とクラウドたちから離れ、ピコピコとボタンを押す。そして、携帯を耳にあてた。
次の瞬間、マリンはクスンクスンと泣き始めた。
驚く一同。デンゼルはおろおろしている。
「ヴィンセントぉ~。すぐに来て~。クラウドがいぢめるのぉ~。場所はね、……」
「!!??」
あまりの事に、クラウドは息を飲み、一拍遅れて口を開いた。
「マ、マリン! 一体何を!」
抗議をした時には既に電話は切られ、マリンはペロッと舌を出す。
「ヴィンセントは優しいから、これで絶対来てくれるよ♪」
一時間程で彼は到着した。
花畑の横を通る道にトラックが止まり、ヴィンセントが降りるとトラックは発進した。多分、通り掛かりをつかまえて乗せてもらったのだろう。
つかつかと4人に歩み寄る中、状況が見えて来た。
───もしかして、ピクニックか?
「何のつもりだ、クラウド。」
「俺に聞くなよ。」
「お前が入れ知恵したんじゃないのか。」
「マリンが勝手にやったんだ。」
ヴィンセントは無言でマリンを見た。
にこっ。
マリンは満面の笑みで見上げている。
「こんにちは、ヴィンセント。」
「ああ。…何か…用、か?」
「ケータイ貸して♪」
不思議に思いながらも、ポケットから携帯を出す。
するとマリンはパッとそれを奪い、走って離れて行った。
「おいっ! 壊すなよっ!」
「大丈夫♪」
しゃがみ込んで何かをしているのを見てクラウドたちに目をやると、クラウドもティファもデンゼルも心当たりはないようで、肩をすくめたり首をかしげたりするばかりだ。
しばらくするとマリンは立ち上がり、タタタ、とヴィンセントの所まで戻って来た。
そして差し出す。
「はい。プレゼント♪」
見ると、ヴィンセントの携帯にはストラップが付けられていた。
「…こ、これは…;」
カラフルなビーズで作られたストラップの先には、可愛らしいくまさんが付いている。
「かわいいでしょ?」
「あ、ああ…し、しかし…。」
「昨日作ったの。使ってね♪」
マリンが善意でやっているのが分かるだけに、無下にも出来ない。
───しかし…これは、可愛らし過ぎる…。
「プッ、クククッ…。」
ヴィンセントのうしろから、クラウドの笑いが聞こえた。
振り返り、睨む。
「何だ、クラウド。」
「いや、いーじゃないか。うらやましーな。」
ヴィンセントは口の端を上げた。
「ほーお、そうか、うらやましいか。マリン、クラウドがうらやましいそうだ。」
「ホント!?」
マリンのポケットには、同じ物がもう一つ入っていた。ヴィンセントはそれに気付いていたのだ。
「大丈夫だよ、クラウド♪ 実はクラウドの分もあるの♪」
ほら、とストラップを見せるマリン。
引きつるクラウド。
「あ、い、いや、…俺はやっぱり、遠慮するよ。」
「え、どうして? うらやましいんでしょ?」
「えっと…ほら、俺がヴィンセントとお揃いっていうのは、変、だろ?」
「変じゃないよ。だって、2人は仲良しでしょ?」
流石は子供だ、と褒めたくなる様な思考に、クラウドは困ってしまった。
すかさずヴィンセントが答える。
「ああ、とっても仲良しだ。」
今度は、クラウドがヴィンセントを睨んだ。
「お前! 俺とお揃いでいいのかっ!」
「私は構わないぞ。笑った罰だ。」
一人で恥ずかしい思いをするのはゴメンだ、とヴィンセントはクラウドを引き込む気満々だ。
何とか逃れようと、クラウドは言葉を探した。
「マ、マリン。やはりそれは、ちょっとかわい過ぎるから、俺には似合わないと思うんだ。」
「気に入らないの?」
マリンの顔がくもる。
「い、いや、もちろん気に入ってる。でも、気持ちだけで充分だよ。」
「うっ…、ヴィンセントは…ヒック…受け取ってくれたのに…。うっ…」
うあーん。
電話の時と違い、本当に泣き出してしまった。 ティファが小声でたしなめる。
「クラウドっ。そーゆーものは、受け取るのが優しさってもんでしょ!」
クラウドは、おろおろしながらマリンに言った。
「分かった。受け取る。受け取るから、泣かないでくれ。」
「うあーん、もういいもん。」
「マリン! 悪かった! 言い方が悪かったな。つまり、その…、そのストラップはマリンらしくて、とても可愛いと思うし、気に入ってもいる。…そ、そうだ! それをマリンだと思って付けておこう。そうすれば、遠くへ仕事に出ても淋しくなくていいな。うん。」
「ホント?」
マリンは少し落ち着き、上目遣いでクラウドを見る。
「ああ、もちろん。」
「…じゃ、私が付けてあげる。」
クラウドは一瞬躊躇したが、覚悟を決め携帯を渡した。
涙を拭き拭きストラップを付けると、マリンはにこっと笑って差し出す。
「はい。どうぞ。」
「…ありがとう。」
クラウドは観念した笑顔を向けた。
ヴィンセントがニヤッと笑ったのが分かった。
それから数週間が過ぎ、そのストラップにも慣れて付けている事さえ気にならなくなってきた頃、クラウドは仕事でユフィの家を訪れた。
「届け物だ。」
「サンキュ。あ、そーだ、丁度よかった。ちょっと携帯貸してよ。あたしの昨日、壊れちゃってさー。」
全く、と文句を言いながら、クラウドは自分の携帯を出す。
ユフィはそれを受け取った瞬間、「げっ!」と声を上げた。
「うわっ! 気持ち悪っ! 何ヴィンセントとお揃いのストラップ付けてんの!?」
しまった!と思ったが、もう遅い。
「い、いや、それは…。」
「ヴィンセントも変な奴だと思ってたけど、あんたもそーとーだね。」
「だからっ! それはマリンが…」
「きしょーい。2人あやしーい。皆に言っちゃおー。」
ユフィは、そう言いながら電話をかけ始めた。「ユフィ! ゴカイだ!」
慌てるクラウドを余所に、ユフィは話し始めた。
「あ、シド? 聞ーてよー。クラウドったらね、ヴィンセントとお揃いの…」
「う゛あ゛ー!! やめろっ!」
携帯を奪い取り、そのまま切る。
「じゃ、じゃあなっ!」
クラウドは、そそくさとその場を立ち去った。
誤解を解かずに帰った為、発信元ユフィのその噂は、すぐに仲間に知れ渡った。
fin.
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