TALES OF THE ABYSS
(ジェイガイ)(「どうしてこうなった」と対)(どうしてもこうなった)
預言に詠まれていたんじゃないですかぁ?
その日、ガイは見るからに飲み過ぎていた。
様子が気になり酒場まで付き合ったジェイドは気付かれないように小さく溜め息を吐く。
ガイの深酒の原因はルークだ。
もともといい印象ではなかったが、このところ見直していただけにルークの事が少々憎たらしくなる。
「聞いてるかぁ?ジェイドの旦那ぁ。俺の言ってる事分かるか!?分かるよな?な?な?」
「はいはい、聞いてますよ。困りますねぇ、彼には。」
「だよな。俺の気持ち、ぜんっぜんアイツには伝わんねぇんだ…。こんな虚しいことあるかよ…。」
ルークの傲慢な性格が削れたことには満場一致で大喜びだ。
しかし今度は別の問題が出てきている。
後悔のあまり、彼は自分を卑下するようになってしまった。
それも極端に。
卑下するあまり、自分は嫌われていて当然だと思ってしまっている。
ガイが何度となく自分はお前の味方だ、とアピールしているのにもかかわらず、ルークは変な所で遠慮して気を使い、他人行儀になってしまう。
それを嘆いているのである。
「そろそろ宿に戻りましょう。明日もやることはあるんですよ?」
ジェイドがそう言うと、ガイはギロッと睨んだ。
「俺はまだまだ呑み足りねーの!帰るなら一人で帰ってくれ。」
困りましたねぇ、とジェイドは肩を竦め、ほんの数秒考える。
「ガイ、別に私は飲むのをやめろと言ったわけではありませんよ?場所を変えて飲もうと言ったまでです。どうです?」
言われてガイは顔を上げた。
もう目はとろんとしている。
「んぁ?…んー…宿で飲み直す…のか?」
「はい。宿でなら、私も朝まで付き合いますよ?」
ガイはもう一度唸るように声を出して了承した。
「だろ?分かるだろ?」
「はいはい。そうですねぇ。」
何度目かガイは同じ話をしてジェイドに同意を求めた。
ジェイドももう同じ言葉を繰り返すばかりだ。
二人はそれぞれのベッドに腰かけて飲んでいた。
「…ジェイドの旦那…。」
「はい?何です?」
「旦那、アンタ、俺の言ってる事、どうでもいいと思ってんだろ…。」
「どうしてそう思うんです?」
「はいはいってさっきから二度返事ばっかだぜ。」
「おや、気付いてましたか。意外ですねぇ。」
「気付いてたか、じゃねぇ!」
怨むような目を向けるガイ。
それに対し、ジェイドは相変わらずの笑顔だ。
「だって、仕方ないでしょう?あなたは文句ばかり言って現状がきちんと見えていないのですから。」
急に反論を返され、ガイはたじろいだ。
「な…何だよ…。」
「それは時間が解決する筈です。嘆く必要はないと思いますよ?」
そんなこと言ったって、と視線を落とす。
それなりにアピールはした。
自分はいつもお前の側に居るのだと事あるごとに言っている。
いい加減伝わったっていいじゃないか、とガイは拗ねるように呟いた。
「困った人ですね。弱気になってどうするんですか。」
さあ、とジェイドがグラスを差し出した。
ガイは自分のグラスにもう酒が入っていないことに気付き、サンキュ、と手を出す。
受け取る寸前にジェイドの手がガイの手を避けるようにふいっと上がった。
「気を紛らわすなら、酒以外にもやりようはあるんですけどね。」
「え?」
「やはりそろそろやめましょう。飲みすぎです。」
「…やりよう…ってのは?」
「内緒です。」
「…なら酒くれよ。」
さらに伸ばされたガイの手をまた避けて立ち上がると、ジェイドはグラスをテーブルに置いた。
溜め息を吐いて歩み寄る。
「もう一度言いますよ?ルークの事は時間が解決します。いずれあなたの気持は届くでしょう。そう納得して、今日は眠りませんか。」
「そんな簡単なら飲んでねぇよ。」
そう言ってガイは肩を落とした。
そのすぐ前に立ってジェイドは手袋を外す。
いつも完全防備の彼が人前で手袋を外すのは珍しい。
現にガイはそんな場面を初めて見た。
その動きに視線を奪われていた。
「仕方ありませんねぇ。」
ジェイドの呆れたような声にガイは顔を上げる。
と。
その顎を素手に捕らえられた。
「え…。」
「気を紛らわせてあげます。」
「触れられること自体が怖いわけではないのですね。」
ジェイドはガイの“女嫌い”の事を持ち出した。
深酒の所為で朦朧としている頭で、ガイは重い口を開く。
「…男なら平気なんだ。…何故だかは知らないが…。」
「…なら、心配いりませんよ。任せてください。」
そう言ってジェイドは肌蹴たガイの胸に唇と落とした。
酒に酔って前後を失った相手を手中に収めるようなやり方は本意ではない。
だから、これは一夜の夢なのだとジェイドは冷めた感覚でとらえている。
彼は忘れてしまうだろう。
だから無かったことと同じなのだ。
誰にも晒すことのない肌を晒すのも、彼の記憶に残らないからこそ。
重ねた素肌の感触も、すべて…。
小鳥のさえずりと朝の光、そして傍に居る相手の動きに覚醒を促され、ジェイドは目を覚ました。
案の定目の前の彼は青ざめたように自分を見ている。
それが可笑しくて、ジェイドは問いかけた。
「どうしたんです?そんな顔をして。」
自分の顔が優しげな表情になっていることに、ジェイドは気付いていなかった。
ガイはガバッと起き上がってしどろもどろに言葉を出す。
「な…なんで…てか…まさか…いや…その…えっと…その…。」
「そろそろ起きましょうか。顔を洗ってきます。」
するっとベッドから抜け出し、ジェイドはガウンを羽織る。
バスルームに向かう様子はまるで何もなかったかのようだ。
「あ!…あの…さ、旦那…?」
意を決したような声にジェイドは振り向いた。
「…俺、昨日のこと覚えてなくって…。」
「何があったか、知りたいですか?」
「…やっぱり何かあったのか?」
「さあ?…自分の体に聞いてみたらどうです?」
勘付いているであろう相手にはぐらかすような事を言うのは勿論趣味の問題だ。
さらに愕然とするガイを残し、ジェイドはバスルームのドアを閉めた。
仕方ないでしょう?
他に方法を思いつかなかったんですから。
fin.
預言に詠まれていたんじゃないですかぁ?
その日、ガイは見るからに飲み過ぎていた。
様子が気になり酒場まで付き合ったジェイドは気付かれないように小さく溜め息を吐く。
ガイの深酒の原因はルークだ。
もともといい印象ではなかったが、このところ見直していただけにルークの事が少々憎たらしくなる。
「聞いてるかぁ?ジェイドの旦那ぁ。俺の言ってる事分かるか!?分かるよな?な?な?」
「はいはい、聞いてますよ。困りますねぇ、彼には。」
「だよな。俺の気持ち、ぜんっぜんアイツには伝わんねぇんだ…。こんな虚しいことあるかよ…。」
ルークの傲慢な性格が削れたことには満場一致で大喜びだ。
しかし今度は別の問題が出てきている。
後悔のあまり、彼は自分を卑下するようになってしまった。
それも極端に。
卑下するあまり、自分は嫌われていて当然だと思ってしまっている。
ガイが何度となく自分はお前の味方だ、とアピールしているのにもかかわらず、ルークは変な所で遠慮して気を使い、他人行儀になってしまう。
それを嘆いているのである。
「そろそろ宿に戻りましょう。明日もやることはあるんですよ?」
ジェイドがそう言うと、ガイはギロッと睨んだ。
「俺はまだまだ呑み足りねーの!帰るなら一人で帰ってくれ。」
困りましたねぇ、とジェイドは肩を竦め、ほんの数秒考える。
「ガイ、別に私は飲むのをやめろと言ったわけではありませんよ?場所を変えて飲もうと言ったまでです。どうです?」
言われてガイは顔を上げた。
もう目はとろんとしている。
「んぁ?…んー…宿で飲み直す…のか?」
「はい。宿でなら、私も朝まで付き合いますよ?」
ガイはもう一度唸るように声を出して了承した。
「だろ?分かるだろ?」
「はいはい。そうですねぇ。」
何度目かガイは同じ話をしてジェイドに同意を求めた。
ジェイドももう同じ言葉を繰り返すばかりだ。
二人はそれぞれのベッドに腰かけて飲んでいた。
「…ジェイドの旦那…。」
「はい?何です?」
「旦那、アンタ、俺の言ってる事、どうでもいいと思ってんだろ…。」
「どうしてそう思うんです?」
「はいはいってさっきから二度返事ばっかだぜ。」
「おや、気付いてましたか。意外ですねぇ。」
「気付いてたか、じゃねぇ!」
怨むような目を向けるガイ。
それに対し、ジェイドは相変わらずの笑顔だ。
「だって、仕方ないでしょう?あなたは文句ばかり言って現状がきちんと見えていないのですから。」
急に反論を返され、ガイはたじろいだ。
「な…何だよ…。」
「それは時間が解決する筈です。嘆く必要はないと思いますよ?」
そんなこと言ったって、と視線を落とす。
それなりにアピールはした。
自分はいつもお前の側に居るのだと事あるごとに言っている。
いい加減伝わったっていいじゃないか、とガイは拗ねるように呟いた。
「困った人ですね。弱気になってどうするんですか。」
さあ、とジェイドがグラスを差し出した。
ガイは自分のグラスにもう酒が入っていないことに気付き、サンキュ、と手を出す。
受け取る寸前にジェイドの手がガイの手を避けるようにふいっと上がった。
「気を紛らわすなら、酒以外にもやりようはあるんですけどね。」
「え?」
「やはりそろそろやめましょう。飲みすぎです。」
「…やりよう…ってのは?」
「内緒です。」
「…なら酒くれよ。」
さらに伸ばされたガイの手をまた避けて立ち上がると、ジェイドはグラスをテーブルに置いた。
溜め息を吐いて歩み寄る。
「もう一度言いますよ?ルークの事は時間が解決します。いずれあなたの気持は届くでしょう。そう納得して、今日は眠りませんか。」
「そんな簡単なら飲んでねぇよ。」
そう言ってガイは肩を落とした。
そのすぐ前に立ってジェイドは手袋を外す。
いつも完全防備の彼が人前で手袋を外すのは珍しい。
現にガイはそんな場面を初めて見た。
その動きに視線を奪われていた。
「仕方ありませんねぇ。」
ジェイドの呆れたような声にガイは顔を上げる。
と。
その顎を素手に捕らえられた。
「え…。」
「気を紛らわせてあげます。」
「触れられること自体が怖いわけではないのですね。」
ジェイドはガイの“女嫌い”の事を持ち出した。
深酒の所為で朦朧としている頭で、ガイは重い口を開く。
「…男なら平気なんだ。…何故だかは知らないが…。」
「…なら、心配いりませんよ。任せてください。」
そう言ってジェイドは肌蹴たガイの胸に唇と落とした。
酒に酔って前後を失った相手を手中に収めるようなやり方は本意ではない。
だから、これは一夜の夢なのだとジェイドは冷めた感覚でとらえている。
彼は忘れてしまうだろう。
だから無かったことと同じなのだ。
誰にも晒すことのない肌を晒すのも、彼の記憶に残らないからこそ。
重ねた素肌の感触も、すべて…。
小鳥のさえずりと朝の光、そして傍に居る相手の動きに覚醒を促され、ジェイドは目を覚ました。
案の定目の前の彼は青ざめたように自分を見ている。
それが可笑しくて、ジェイドは問いかけた。
「どうしたんです?そんな顔をして。」
自分の顔が優しげな表情になっていることに、ジェイドは気付いていなかった。
ガイはガバッと起き上がってしどろもどろに言葉を出す。
「な…なんで…てか…まさか…いや…その…えっと…その…。」
「そろそろ起きましょうか。顔を洗ってきます。」
するっとベッドから抜け出し、ジェイドはガウンを羽織る。
バスルームに向かう様子はまるで何もなかったかのようだ。
「あ!…あの…さ、旦那…?」
意を決したような声にジェイドは振り向いた。
「…俺、昨日のこと覚えてなくって…。」
「何があったか、知りたいですか?」
「…やっぱり何かあったのか?」
「さあ?…自分の体に聞いてみたらどうです?」
勘付いているであろう相手にはぐらかすような事を言うのは勿論趣味の問題だ。
さらに愕然とするガイを残し、ジェイドはバスルームのドアを閉めた。
仕方ないでしょう?
他に方法を思いつかなかったんですから。
fin.
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