TALES OF THE ABYSS
※注意:ここからBLです
(ジェイピオ)
謁見の部屋
「やはりここでしたか。」
自分の執務室に入ると、ジェイドはそう言って溜め息をついて見せた。
菓子を貪り食いながらチラッとその顔を一瞥するのはピオニーである。
「皆が大慌てで捜していましたよ。困った国王陛下ですね。」
長旅でくたびれたマントを外しながら、ジェイドは肩を竦める。
そんな苦言がピオニーに効かないのは百も承知ではあるのだが。
「俺が王宮を抜け出すことなど珍しくもないだろう?」
「到着する時間は先に知らせておいたはずですが…。王が謁見のアポイントをすっぽかしてよろしいので?」
「それもよくあることだ。」
本当に困ったお人だ、とジェイドは目を伏せて笑った。
それに呼応するように、ふんっとピオニーが顔を顰めた。
ルーク達との旅の合い間、少し時間の余裕が出来たから現状の報告の為に立ち寄ったのである。
が、謁見に向かえば臣下たちがあたふたとしている。
どうしたのかと問うと「陛下のお姿がない」と。
「豪華なフルコースを用意して待てとは言いませんが、長旅から帰った臣下を労って下さるくらいいいんじゃありませんか?」
ジェイドはカタカタと自分のデスクの引き出しの中身を確認するようにあちこち開けては閉じて、ペンと報告書の用紙を出した。
その様子をピオニーはソファから横目で眺める。
「臣下の一人や二人帰って来たぐらいで謁見の必要はないだろう。言いたい事があるなら今言え。」
「公式の場で報告しなくてはならないこともあるのですよ。お分かりにならない陛下ではないと思っておりましたが。」
ポンっと先程出した用紙を叩くように押さえる。
別に何か書くために出したわけではないのだとピオニーは理解した。
誰に対してかは知らないが、仕事をしているという体を作るためだ。
もちろん目の前に居るサボタージュを決め込んだ国王に対してではない。
「…それくらい分かっている。だが、別に火急の用件でもあるまい。」
「火急でなくても、私達には限られた時間しかないのですよ。それもご存じでしょう?」
煩い、といった具合にピオニーは顔を背ける。
すると、返事をしない主にジェイドは含み笑いを向けた。
「それとも、私に会いたくない理由でも?」
「なっ…。…だったらこんな所にいるわけがないだろう。」
「ですよね~?」
含み笑いは楽しそうな笑みに変わる。
「だったらどうして、すっぽかしたんです?」
ジェイドは笑みをたたえつつ、尋問をするような目つきで歩み寄った。
「そ…それは…。」
「それは?」
ソファの後ろに回ったジェイドの視線を感じつつ、ピオニーはボソッと言う。
「臣下たちに見せられないと思ったからだ。」
「何をです?」
それは、とまたピオニーは言い淀んだ。
ん?とジェイドは促すように短く声を出す。
「…たかだかお前ごときが帰ってくるぐらいで、だ。…その…。」
ごく小さい声で続ける。
「浮かれている姿を見せられないだろうが。」
背けた顔は頬の一部しか見えない。
しかしそこだけでも色付いているのが分かる。
吹き出しそうになるのを堪え、ジェイドはピオニーに覆いかぶさるように顔を近付けた。
勢い、長い髪がピオニーの首筋をくすぐる。
「うわっ!?」
驚いて振り向けば間近にジェイドの顔が。
「何です?聞こえませんでしたよ?そんな小さな声ではこのくらい近くじゃないと。」
さらに赤く染まる主の顔を楽しむため、離れようとはしない。
「…ジェイド……その…。」
「何です?」
こくんとピオニーの喉が鳴った。
「…人払いを…。」
クスリと笑ってジェイドは答える。
「ご心配なく。陛下が見つかるまで私はここに籠って調べ物をすることになっていますから、人を近づけさせないように言ってあります。あなたが出て行かない限り、誰もここに来ませんよ。」
fin.
(ジェイピオ)
謁見の部屋
「やはりここでしたか。」
自分の執務室に入ると、ジェイドはそう言って溜め息をついて見せた。
菓子を貪り食いながらチラッとその顔を一瞥するのはピオニーである。
「皆が大慌てで捜していましたよ。困った国王陛下ですね。」
長旅でくたびれたマントを外しながら、ジェイドは肩を竦める。
そんな苦言がピオニーに効かないのは百も承知ではあるのだが。
「俺が王宮を抜け出すことなど珍しくもないだろう?」
「到着する時間は先に知らせておいたはずですが…。王が謁見のアポイントをすっぽかしてよろしいので?」
「それもよくあることだ。」
本当に困ったお人だ、とジェイドは目を伏せて笑った。
それに呼応するように、ふんっとピオニーが顔を顰めた。
ルーク達との旅の合い間、少し時間の余裕が出来たから現状の報告の為に立ち寄ったのである。
が、謁見に向かえば臣下たちがあたふたとしている。
どうしたのかと問うと「陛下のお姿がない」と。
「豪華なフルコースを用意して待てとは言いませんが、長旅から帰った臣下を労って下さるくらいいいんじゃありませんか?」
ジェイドはカタカタと自分のデスクの引き出しの中身を確認するようにあちこち開けては閉じて、ペンと報告書の用紙を出した。
その様子をピオニーはソファから横目で眺める。
「臣下の一人や二人帰って来たぐらいで謁見の必要はないだろう。言いたい事があるなら今言え。」
「公式の場で報告しなくてはならないこともあるのですよ。お分かりにならない陛下ではないと思っておりましたが。」
ポンっと先程出した用紙を叩くように押さえる。
別に何か書くために出したわけではないのだとピオニーは理解した。
誰に対してかは知らないが、仕事をしているという体を作るためだ。
もちろん目の前に居るサボタージュを決め込んだ国王に対してではない。
「…それくらい分かっている。だが、別に火急の用件でもあるまい。」
「火急でなくても、私達には限られた時間しかないのですよ。それもご存じでしょう?」
煩い、といった具合にピオニーは顔を背ける。
すると、返事をしない主にジェイドは含み笑いを向けた。
「それとも、私に会いたくない理由でも?」
「なっ…。…だったらこんな所にいるわけがないだろう。」
「ですよね~?」
含み笑いは楽しそうな笑みに変わる。
「だったらどうして、すっぽかしたんです?」
ジェイドは笑みをたたえつつ、尋問をするような目つきで歩み寄った。
「そ…それは…。」
「それは?」
ソファの後ろに回ったジェイドの視線を感じつつ、ピオニーはボソッと言う。
「臣下たちに見せられないと思ったからだ。」
「何をです?」
それは、とまたピオニーは言い淀んだ。
ん?とジェイドは促すように短く声を出す。
「…たかだかお前ごときが帰ってくるぐらいで、だ。…その…。」
ごく小さい声で続ける。
「浮かれている姿を見せられないだろうが。」
背けた顔は頬の一部しか見えない。
しかしそこだけでも色付いているのが分かる。
吹き出しそうになるのを堪え、ジェイドはピオニーに覆いかぶさるように顔を近付けた。
勢い、長い髪がピオニーの首筋をくすぐる。
「うわっ!?」
驚いて振り向けば間近にジェイドの顔が。
「何です?聞こえませんでしたよ?そんな小さな声ではこのくらい近くじゃないと。」
さらに赤く染まる主の顔を楽しむため、離れようとはしない。
「…ジェイド……その…。」
「何です?」
こくんとピオニーの喉が鳴った。
「…人払いを…。」
クスリと笑ってジェイドは答える。
「ご心配なく。陛下が見つかるまで私はここに籠って調べ物をすることになっていますから、人を近づけさせないように言ってあります。あなたが出て行かない限り、誰もここに来ませんよ。」
fin.
