ダーククロニクル

再会



 サンの心が救われて、世界が救われて、そして、モニカは帰って行った。
 あの冒険の全てを未来にいる母さんに向けての手紙に記して、それをストーンヘンジに収めてから、僕は一人で新たな冒険をすることになった。
 モニカがいないことに多少の不安はあったけど、あの冒険をくぐり抜けたことで力はついている。
 ちょっとやそっとじゃ負ける気はしない。

 頑張るぞ、と自分自身を叱咤して進んでいたところに。

 モニカが現れた。
「えええええ~!?」
「何よ、その驚き方。」
 少し怒った顔でプイっと横を向いたモニカは、相変わらずのおてんばのようだった。
 きゃらきゃらとした性格に、はっちゃけた言動。
 これでもお姫様なんだよな、と時々確認したくなる。

 僕がゼルマイト鉱山道を奥に向けて進んでいるのを知ると、「面白そう」という理由でモニカがついてくることになった。
「前より危険なんだよ?」
「関係ないでしょ、そんなこと。ユリスに出来てあたしに出来ないわけないじゃない。」
 有無を言わせないのも前のままだ。



「そうそう、これ、預かって来たのよね。」
 そう言って出したものは、母さんからの手紙だった。
「わぁ…。」
 僕は喜びの余りそれ以上声が出なかった。
 落ち着いて読むために家に戻ろうということになると、モニカは「ついでもあるしね。」と言った。
「ついで?」
「いいのよ、気にしなくて。」
 そう言っていたモニカが家について、父さんがいないことを知ると怒りだしてしまった。
「なによっ!ダメじゃんっ!」
「え…何が?」
「どうしてお父さんいないのよっ!」
「だって…ガンドールに住んでるよ?今は。モニカだって知ってるだろ?」
 ハッとしてモニカは口ごもった。
「…そ、そう…だったわね。…行くわよ。」
「え?」
「ほら、ガンドールに行くって言ってるの。」
 まだ手紙を開いてもいないのに、僕はモニカに連れ出されてしまった。


「これを?」
「はい、預かってきました。」
「ありがとう。」

 モニカの言っていた「ついで」は、母さんから父さんへの手紙の事だった。
 受け取った父さんが封も開けずに手紙をじっと見ているのを不思議に思って僕がそれを眺めていると、モニカが僕を無理やり家から出した。
「もうっ!男の子ってホント気が利かないんだから。」
「どういうこと?」
「もう会う事の出来ない恋人からの手紙なのよ?一人でゆっくり読みたいに決まってるじゃない。」
 あ、そうか。
 この前の冒険で、僕は母さんに会った。
 でも、父さんは顔を見ることも、声を聞くこともできなかったんだ。
 そういえばさっきの顔、初めて見たな。

 僕が父さんと和解した時、つまり、僕が刃向うのをやめて態度を軟化させた時、父さんはそれまで見せたことのない顔をした。
 優しい顔だった。
 でも、さっきの顔はその顔とも違っていた。
 はにかんだ様な、少し寂しげな笑顔。

「ねえ、モニカ。」
「何?」
「父さん、母さんの事、好きだったのかな。」
 馬鹿ね、とモニカは言った。
「決まってるじゃない。」
「母さんは、父さんの事、好きだったのかな。」
 馬鹿ね、とまたモニカは言った。
「好きだったのよ。大恋愛だったの。使命を忘れて、愛する人の子供を産んじゃうくらいにね。」
「使命…。」
 そうか、そうだよね、と僕は頷いた。
「きっと今でも想い合ってると思うわ。…会えなくてもね。」
 そう言ったモニカはおてんば娘の顔をしていなかった。
 僕の知らない、少し大人びた女性の顔だった。
「モニカ…。」
「何よ。」
「綺麗だね。」
「ばっ…。」
 急にモニカは背中を向けた。
「どうしたの?」
 覗きこむと顔が真っ赤だった。
「アナタいつからそんな軽い男になったのよっ!」
「え?何?」
「無自覚!?なお悪いわよっ馬鹿っ!」
 なぜか怒りだしてしまったモニカは、しばらく赤い顔をしていた。





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