刀剣乱舞

休日



「もしも彼らが人間だったら?」
 審神者仲間数人で話をしていると、そのうちのひとりがそんなことを問いかけた。
「え?だったら?」
「だーかーらー、誰を選ぶかって話。結婚するなら。」
「え!?結婚!?」
 結婚前提か~、と前のめりで話に乗る者もいれば、結婚というワードに頬を赤らめて両手で顔を隠すウブな少女もいた。
「きゃー、選べない選べない!」
「選びたい放題じゃん。主だよこちとら。」
「なおさら選べない気がする…」
「あなたは平等主義だもんね。」
「ねえ、3人ぐらい選んでいい?」
「強欲!」
 ほんの冗談の話題で皆キャッキャと盛り上がった。


「女三人寄ればかしましいって言うけど、今日は特に盛り上がってるね。」
「…5人いるからな…」
「いや、人数の問題じゃないから。」
 主たちの邪魔にならない場所で控えている近侍たちは、少々つまらなそうに見守っていた。
「人間だったら、か。」
「どうした?鶴丸殿。そちらの主はおぬしを選んではくれないか?」
 三日月宗近が隣で呟いた鶴丸国永を揶揄うように尋ねる。
「三日月殿は自信がおありのようで。」
「はっはっは。こちらの主はそういう話題には疎くてな。恐らく誰も選ばないだろう。それより、おぬしが残念そうにしているように見えたのでな、つい、気になってしまった。」
「そうかい?…まあ、そうだな。あの子は、俺を選ばないよ。それを残念に思ってるのも事実だ。」
 そうか、と三日月は目を伏せた。
「我らは人の身を得てはいるが、物だ。心も前の主たちの影響を少なからず受けている。この胸にある主への思いが何によるものなのか…己に問うても判然としない。…そうではないか?」
「…そうだな。おまけにあの子たちにとっても、俺たちは『物』らしい。この胸の内を見せることが出来たら、と思わなくもない。」
 常に笑みの形を取っていた筈の鶴丸の唇から、一瞬ちからが抜けたのを三日月は視界の端に捉えた。
「せんないことを聞いた。申し訳ない。」
「いや?あんたは平気なんだな。」
「この身にどんな思いが生まれても、それを己の心と認識していないだけ…やもしれぬ。」
「楽しいかい?それ。」
「…さあ?どうだろう。少なくとも、今の状態を不服には思っていない。近侍を務めている身だしな。」
「確かに、俺も信頼は得ているってことか。」
「うちは近侍コロコロ変えてるよ。みんな経験積まなきゃダメだって。」
 突然会話に割って入ったのは、先程『平等主義』と言われていた審神者の近侍として付いてきた浦島虎徹だ。
「それに可愛がってくれるし…。みんな仲良くがうちの主さんのモットーだって。」
「そうか、それは平和そうだ。」
「うん。でもちょっと無理してる。」
 主殿が?と問うと、みんな、と浦島は答えた。
「主さんは俺たちに気を遣って、俺たちは主さんに気を遣って、…仲良しごっこしてる気がするんだ…」
 そう言ってから、ニコッと笑って「なんてね。」と付け加えた。
「別に、ホントは仲悪いのに仲良いふりをしてるって意味じゃないよ。仲が良いのはホントなんだけどさ。」
「平等も難しい。」
「うん、そんな感じ。」
 物であり、人であり、主従関係があり、戦場では強さが求められる。昔見知った人間たちの主従関係とはまた違った空気がそれぞれの本丸にある。審神者を主と呼びながら、友のように接する刀もいれば恋慕の情を向ける刀もいる。どれが正解かなど、誰にも分からない。
「おや、お開きのようだ。」
 審神者たちが名残惜しそうに立ち上がったのを見て、近侍たちも立ち上がる。
「では、また。」
「うん、じゃあね。」
「ああ、また会おう。」
「…ああ。」
「また。」



「主さん、楽しそうだったね。」
「友達と喋るのはやっぱり楽しいよ。」
「…そう、だよね。主さんが楽しくて良かった。」
 刀剣たちと喋るのがつまらないと言われたわけではない、と自分に言い聞かせて浦島はそう返した。
 一呼吸置いてから、審神者がぼそりと呟く。
「…キミたちも…人間だったら良かったのに…」
 その真意を計りかね、今度は返事を返せなかった。



「主よ、気晴らしは出来たか?」
「うん、楽しかった。」
「…面白そうな話をしていたな。」
「あ、聞こえてた?みんな面白いよね、喧嘩の原因になるからあーゆーのはダメとか、こういうところは許せるけどこっちは絶対許せない、とか。私は結婚生活なんて想像がつかないな。」
「そうか。人それぞれ、時期もあろうからな。」
「そうだね、焦ることないよね。」
「ああ、短気は損気とも言う。主はゆっくり構えていればよい。」
 三日月はホッとしている己を胸のどこかに隠した。



「楽しかったか?」
「もちろん。ごめんね、付き合わせて。」
「いや?こっちはこっちで駄弁ってたから気にしなさんな。」
「何喋ってたの?」
「ん?そうだな、本丸ごとの違い、とか。浦島虎徹んとこはみんな仲良しだって言ってたぞ?」
「あー、あの子凄く良い子だからね。昔から級長とか任されるタイプだったもん。…で、私のことはなんて言ったわけ?」
「え…あー…何話したっけかな…。」
「…あ、私の悪口とか言ってない?」
「言ってない、それはまったく。」
「…鶴丸は何考えてるかわかんないからなー。」
「主のことを悪く思ってる刀剣なんてウチには居ないぞ?」
「…私は鶴丸のことを言ってるんだけどな。みんなじゃなくて。」
「…だから、俺を含めて、みんなって意味だ。」
「……馬鹿……(聞きたいのはあなたの気持ちなのに)」



fin.
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