すばらしきこのせかい

※注意:ここからBL
(羽音)

宵待ち草




現実世界に戻って、シキたちと会って。

オレ達は笑っていた。

ビイトもライムも楽しそうで。

そして。

誰も、あの二人の事は口にしなかった。






 それからも時々、シキ達には会ってる。
 でも、一人になるとオレはあの場所に向かう。

 もういない人に会う為に。

 閉じられた店はシャッターが下りていて、中をうかがうことも出来ない。

 オレはそこに着く度、シャッターに歩み寄り、コツンとおでこをぶつける。

「ハネコマさん…。」

 この胸の中の虚空はなんだろう。

 前に友達を事故で亡くした。

 その時に感じた虚無感とは別の物だ。



 何だろう…。



 おでこをシャッターに付けたまま、涙を堪える為に目を閉じる。



───その時。



「ちょっと、どいてくんねーかな?」

 後ろから声を掛けられた事と、その声が知った声である事に驚き、オレは跳ねるように振り向いた。

「…ハネコマ…さん…」

「久しぶりだな、ヘッドフォン……ってそんな久々でもないか。」

 ハネコマさんはシャッターの鍵を開けた。

「何だ? ヘッドフォ…ああ、そーいやヘッドフォンしてねーな。…で、お前もしかして毎日ここに来てたのか?」

 慌てて首を横に振る。ホントは毎日来てたけど。

「と…時々、…かな?」

「へえー。」

 ハネコマさんが口の端を上げたから嘘がバレたかと思ったけど、もうハネコマさんはそのことには触れなかった。



 促されて店内にはいると、中はあの時荒らされていたのが嘘の様に元通りになっていた。

「また店を、やるんですか?」

「俺の仕事、だからな。」



 店をやるということは、またあのゲームをやるんだろうか。

 そもそも、ヨシュアはまだあの位置に居るんだろうか。



 聞きたいことは山程ある。

 でも、どう聞けばいいのか、聞いてもいい事なのか、考えあぐねてオレは黙っていた。

「何だよ。話があるから、ここに来たんじゃないのか?」

「…あ…ああ…。」

 オレが黙りこくってる間に、ハネコマさんはコーヒーを入れてくれた。
 そして、カウンター席に座るオレの前にカップを置いてから、思い出した様に砂糖とミルクも入れてくれた。オレの好みに合わせて。

「ありがと。」

 礼を言うと、ハネコマさんはニヤッと笑った。

「お。ちったあ、素直になったか?」

「!? オレ、そんなひねくれてなかったろ? 礼くらい言うよ。」

「そーだったかなあ。うちのマフィンやった時、ひとっことも礼がなかったけどなあ。」

「あ、あれは…その…」
…嫌いなんだよ、あのマフィン…。

 またハネコマさんはニヤッと笑って、奥へ引っ込んだ。

 どうしたんだろう、と思いながらコーヒーを一口すする。



 ハネコマさんは、すぐに戻ってきた。

 そして。

「ホイ。」

 出されたのはマフィン。

「ブッ!!」

 吹き出してしまった。

「おいおい。大丈夫か?」

 ゲホゲホとむせるオレの背中を叩く為に、ハネコマさんはカウンターから出て隣りに座った。



う…;カッコ悪い…。



 ポンポンと背中を叩かれて咳が治まると、オレは恥ずかしくてまともにハネコマさんの顔が見れなかった。

「ま、コーヒーのお供に、食えや。」

 もう一度差し出されたマフィンをどうしようか迷っている間に、ふと疑問が浮かんだ。

「…あれ…? これ、いつ作ったんだ?」

「今。」

って、数分しか経ってないだろ!?

「なわけないだろっ!」

 オレが目一杯否定すると、ハネコマさんは言った。

「じゃあ、昨日。」

「じゃあって何!? それに昨日は居なかっただろ!?」

 さっきは荷物持ってなかったから、今持って来たわけはない。

 ハネコマさんはイタズラっぽく笑って、また言った。

「じゃあ、おととい。」

「嘘だろ! おとといも居なかった!」

 だんだんマフィンの製造日が怪しくなってきて、オレはそれを食べない事に決めた。



 マフィンを無視してコーヒーを飲んでいると、ハネコマさんは頬杖をついてこっちを眺めていた。

 そしてまた、ニヤッと笑う。

「やっぱり素直じゃないな、ネク。」

「はあ!?」

 何を言いたいのか、さっぱり解らない。

「…来てたんだろ? 毎日。」

「!!」



 しっかり飲み込んだ後で良かった。

 さっきより盛大に吹き出すところだった。



「そ、そんなこと確かめる為にマフィン出したのかよっ!」

「何で嘘ついた?」

 率直に聞かれ、たじろぐ。

「そ、それは…」

「ん?」

「…ガキだって…笑われそうだから…。」

 少し顔をそむけて答えた。

 すると、耳に入ってきた言葉は。

「ああ、ガキだな。」

 ムッとして振り返り、オレは口を尖らせた。

「やっぱり。」

 ハネコマさんはずっと勝ち誇ったような笑みを浮かべていて、…オレは拗ねたようにそれを見返して。



「ちげーよ。」

「え?」
 何が?

「毎日来てた事じゃなくて、そーやって嘘ついてカッコつけたがるトコがガキだって言ってんだ。」



 即、その通りだと思ってしまったから、言い返す言葉もない。



 恥ずかしくて視線を落とすと、視界にハネコマさんの手が入ってきた。

 その手は、オレの頬に当てられて…。



「まんま、正直に言やあいい。」

 ハネコマさんの言葉に導かれ、オレは口を開いた。



 ドキドキと鼓動が高鳴る。



「オレ…」

「ん?」

「オレ…ハネコマさんに…会いたかった…。だから…毎日…ここで待ってた…。」

「そうか。」



 その時の、この上なく優しい笑顔は、オレの胸に焼き付いて離れない。

 その手のぬくもりも。


fin.
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