すばらしきこのせかい
変わらぬ街並みの中で
人と会っていて、こんなに楽しかったことがあっただろうか。
「ふう。」
ビイトとライムが去ってシキと二人きりになると、ネクはあからさまに溜め息をついた。
「どうしたの?」
シキは去った二人に向けて振っていた手を下ろし、ネクを振り返る。
「ん?…うん。…楽しいって、ケッコー疲れるな。」
「ふふっ。そうだね、私も少し疲れたかも。」
暗くなって街灯が点いた公園でベンチを見つけ、二人はそこに座った。
「良かったよね。ライム、ちゃんとビイトのことお兄ちゃんだって思い出して。」
「ああ。それに、夢も思い出したみたいだし。」
UGでのゲームを終え、目を覚ましてから初めて仲間と会った。
キツかったよな、とゲームのことを振り返ったり、他愛ない話で笑ったり。
皆、あれは夢ではなかったんだという確認と、今のこの時間も本物だということの確認をしたのだった。
「夢が何なのかは教えてくれなかったね。」
「エントリー料に取られてたぐらい大切なものなんだ。そう簡単に人に言えないだろ?」
ネクが“エントリー料”と言ったのを聞いて、シキは顔を赤くした。
そういえば、自分はネクのエントリー料だったんだ、と。
「どうした?」
少し黙ったシキの顔を覗き込むネク。
「…あの…さ、ネク…?」
「ん?」
「私の姿見て、どう思った? やっぱ、ちょっと引いた? ううん、いいの。正直に言ってくれていいからね。引くよね。うん、エリの姿は可愛いけど、私、こんなだし。」
俯いてそう言うシキを、ネクは軽く睨む。
「やめろよ、そーゆーの。」
「え…」
「やめたんじゃなかったのか? そーゆー後ろ向きなのは。」
「あ…う、うん。」
「…分かってるのか? お前、オレのエントリー料だったんだぞ?」
ネクは少し照れたように目をそらした。
シキはきゅっと目を瞑る。
「で、でもさ、やっぱ好みってあるじゃない? ホラ、中身は良くても、ちょっとなーとかさ。ゴメン、ちょっとタイプ違いすぎるわ、とかさ。そーゆー可能性だって否定しきれないじゃない? だから…」
「オレは、そんなこと、ない。」
ぼそっと答える。
シキは、そのネクの顔をじっと見た。
「ホント?」
「お前はお前だろ? それにイケイケな感じより、そのくらい落ち着いた感じの方がいい。」
「服は? この服装、ヘンじゃない?」
「似合ってる、と思うぞ?」
「ホントに?」
「ああ。それがお前らしさなんだなって分かった。」
うれしい、という呟きと共に固まってしまったシキの手を、ネクはそっと取った。
「シキ? ちょっとお願いがあるんだけど…。」
「?」
赤い顔で見上げる。
「抱き締めていいか?」
「えっ!?」
シキの顔はさらに赤みを増した。
「生きてるってコト、実感したい。」
「う、うん、いいよ。」
ネクは体を寄せ、大事そうにシキを包み込む。
「…生きて、いるんだな、オレたち。」
「…うん…生きてる。」
しばらくそのまま、二人は動かなかった。
そして、シキが口を開く。
「ネク、…………。」
名前を呼んだ後に何かを言ったようだったが、ネクにも届かないような小声で。
「ん? 何だ?」
体を離して顔を見ると、シキの顔はまだ真っ赤だった。
「聞こえなかったのならいいっ!」
くるっと向こうを向いてしまったシキに、ネクはさらに尋ねる。
「何だよ。気になるだろ?」
「い、いいの。また今度。」
「今度言えることなら、今言えばいいじゃないか。」
「いいのっ!」
「言えって。」
「いいのったらいいのっ!」
かたくなに言おうとしないシキの手を、ぎゅっと掴むネク。
「じゃあいいよ。言うまで帰さない。」
「えーっ!?」
いたずらっぽく笑うネクを上目遣いで見てちらっと目を逸らすと、公園の時計が目に入った。
「あ、もう帰らなきゃ。」
「さっきの、言ってからな。」
「や、やだ。」
「じゃあ帰さない。」
こんな風に意地悪な顔をするネクは初めてだと思いながら、シキは真面目に言った。
「ダメだよ。門限あるんだもん、うち。お母さん怖いんだから。」
立ち上がって身を引く。
「言えば離すって。」
ネクも立ち上がった。
「ダ、ダメ。もう帰るっ!」
「言わなきゃ離さない。」
シキは本当に困り顔で目を泳がせる。
本当に、もう帰らなくてはいけない時間だ。
「ホントにダメなの。もう帰らなきゃ。だって、もし遅れて怒られて、ネクと一緒だったことバレたら…そしたらきっと…お母さん、ネクと付き合うこと反対するもん。そしたら…」
そこでハッとして、慌てて胸の前で手を振った。
「ご、ごめんっ! ネク何にも言ってないのに、勝手に“付き合う”なんて…」
ネクは掴んでいた手の力を少し抜いた。
「…送るよ。家、どっち?」
「え?」
「遅れて、付き合うの反対されたら困るだろ?」
「…ネク…」
シキも引っ張る力を抜いて、真っ直ぐにネクを見る。
「ネク…好きだよ。」
「え?」
突然言われたことに驚いて、聞き返してしまった。
シキは俯いて、少し怒ったように言う。
「もー! また聞こえなかったの!? 3回も言わせないでよ!」
「聞こえた。聞こえたけど…じゃあ、さっきのって…」
こくん、とシキは頷いた。
恥ずかしそうに目を逸らしているシキの顔を覗き込む。
「シキ…。」
呼ぶと、シキはちらっと目を向けた。
潤んだその目をじっと見て、ネクは言った。
「シキ。オレも…好きだよ。」
見つめ合う二人。
ややあって、シキが声を上げた。
「あっ!大変! 門限に遅れちゃうっ!!」
「よし! 走るぞ!」
走り出した二人の頬は赤い。
その顔は、つい先日まで忘れていた、未来への希望で明るかった。
「シキ、そいつ動かせよ、にゃんタン。」
「えっ?」
「乗って行けばラクだろ?」
「えー? にゃんタン大きくするには、ネクも力合わせてくれないとダメなんだよ?」
「疲れるの嫌いなんだよネ。」
「えー!? じゃあ私も疲れるのキラーイ!」
「動けよ、にゃんタン!」
「そーだよ、気合いだよ! にゃんタンっ!」
二人して、走りながらにゃんタンを小突く。
ぬいぐるみは小突かれるまま、揺れるばかり。
アハハハ、と二人の笑い声が、街並に溶けた。
fin.
人と会っていて、こんなに楽しかったことがあっただろうか。
「ふう。」
ビイトとライムが去ってシキと二人きりになると、ネクはあからさまに溜め息をついた。
「どうしたの?」
シキは去った二人に向けて振っていた手を下ろし、ネクを振り返る。
「ん?…うん。…楽しいって、ケッコー疲れるな。」
「ふふっ。そうだね、私も少し疲れたかも。」
暗くなって街灯が点いた公園でベンチを見つけ、二人はそこに座った。
「良かったよね。ライム、ちゃんとビイトのことお兄ちゃんだって思い出して。」
「ああ。それに、夢も思い出したみたいだし。」
UGでのゲームを終え、目を覚ましてから初めて仲間と会った。
キツかったよな、とゲームのことを振り返ったり、他愛ない話で笑ったり。
皆、あれは夢ではなかったんだという確認と、今のこの時間も本物だということの確認をしたのだった。
「夢が何なのかは教えてくれなかったね。」
「エントリー料に取られてたぐらい大切なものなんだ。そう簡単に人に言えないだろ?」
ネクが“エントリー料”と言ったのを聞いて、シキは顔を赤くした。
そういえば、自分はネクのエントリー料だったんだ、と。
「どうした?」
少し黙ったシキの顔を覗き込むネク。
「…あの…さ、ネク…?」
「ん?」
「私の姿見て、どう思った? やっぱ、ちょっと引いた? ううん、いいの。正直に言ってくれていいからね。引くよね。うん、エリの姿は可愛いけど、私、こんなだし。」
俯いてそう言うシキを、ネクは軽く睨む。
「やめろよ、そーゆーの。」
「え…」
「やめたんじゃなかったのか? そーゆー後ろ向きなのは。」
「あ…う、うん。」
「…分かってるのか? お前、オレのエントリー料だったんだぞ?」
ネクは少し照れたように目をそらした。
シキはきゅっと目を瞑る。
「で、でもさ、やっぱ好みってあるじゃない? ホラ、中身は良くても、ちょっとなーとかさ。ゴメン、ちょっとタイプ違いすぎるわ、とかさ。そーゆー可能性だって否定しきれないじゃない? だから…」
「オレは、そんなこと、ない。」
ぼそっと答える。
シキは、そのネクの顔をじっと見た。
「ホント?」
「お前はお前だろ? それにイケイケな感じより、そのくらい落ち着いた感じの方がいい。」
「服は? この服装、ヘンじゃない?」
「似合ってる、と思うぞ?」
「ホントに?」
「ああ。それがお前らしさなんだなって分かった。」
うれしい、という呟きと共に固まってしまったシキの手を、ネクはそっと取った。
「シキ? ちょっとお願いがあるんだけど…。」
「?」
赤い顔で見上げる。
「抱き締めていいか?」
「えっ!?」
シキの顔はさらに赤みを増した。
「生きてるってコト、実感したい。」
「う、うん、いいよ。」
ネクは体を寄せ、大事そうにシキを包み込む。
「…生きて、いるんだな、オレたち。」
「…うん…生きてる。」
しばらくそのまま、二人は動かなかった。
そして、シキが口を開く。
「ネク、…………。」
名前を呼んだ後に何かを言ったようだったが、ネクにも届かないような小声で。
「ん? 何だ?」
体を離して顔を見ると、シキの顔はまだ真っ赤だった。
「聞こえなかったのならいいっ!」
くるっと向こうを向いてしまったシキに、ネクはさらに尋ねる。
「何だよ。気になるだろ?」
「い、いいの。また今度。」
「今度言えることなら、今言えばいいじゃないか。」
「いいのっ!」
「言えって。」
「いいのったらいいのっ!」
かたくなに言おうとしないシキの手を、ぎゅっと掴むネク。
「じゃあいいよ。言うまで帰さない。」
「えーっ!?」
いたずらっぽく笑うネクを上目遣いで見てちらっと目を逸らすと、公園の時計が目に入った。
「あ、もう帰らなきゃ。」
「さっきの、言ってからな。」
「や、やだ。」
「じゃあ帰さない。」
こんな風に意地悪な顔をするネクは初めてだと思いながら、シキは真面目に言った。
「ダメだよ。門限あるんだもん、うち。お母さん怖いんだから。」
立ち上がって身を引く。
「言えば離すって。」
ネクも立ち上がった。
「ダ、ダメ。もう帰るっ!」
「言わなきゃ離さない。」
シキは本当に困り顔で目を泳がせる。
本当に、もう帰らなくてはいけない時間だ。
「ホントにダメなの。もう帰らなきゃ。だって、もし遅れて怒られて、ネクと一緒だったことバレたら…そしたらきっと…お母さん、ネクと付き合うこと反対するもん。そしたら…」
そこでハッとして、慌てて胸の前で手を振った。
「ご、ごめんっ! ネク何にも言ってないのに、勝手に“付き合う”なんて…」
ネクは掴んでいた手の力を少し抜いた。
「…送るよ。家、どっち?」
「え?」
「遅れて、付き合うの反対されたら困るだろ?」
「…ネク…」
シキも引っ張る力を抜いて、真っ直ぐにネクを見る。
「ネク…好きだよ。」
「え?」
突然言われたことに驚いて、聞き返してしまった。
シキは俯いて、少し怒ったように言う。
「もー! また聞こえなかったの!? 3回も言わせないでよ!」
「聞こえた。聞こえたけど…じゃあ、さっきのって…」
こくん、とシキは頷いた。
恥ずかしそうに目を逸らしているシキの顔を覗き込む。
「シキ…。」
呼ぶと、シキはちらっと目を向けた。
潤んだその目をじっと見て、ネクは言った。
「シキ。オレも…好きだよ。」
見つめ合う二人。
ややあって、シキが声を上げた。
「あっ!大変! 門限に遅れちゃうっ!!」
「よし! 走るぞ!」
走り出した二人の頬は赤い。
その顔は、つい先日まで忘れていた、未来への希望で明るかった。
「シキ、そいつ動かせよ、にゃんタン。」
「えっ?」
「乗って行けばラクだろ?」
「えー? にゃんタン大きくするには、ネクも力合わせてくれないとダメなんだよ?」
「疲れるの嫌いなんだよネ。」
「えー!? じゃあ私も疲れるのキラーイ!」
「動けよ、にゃんタン!」
「そーだよ、気合いだよ! にゃんタンっ!」
二人して、走りながらにゃんタンを小突く。
ぬいぐるみは小突かれるまま、揺れるばかり。
アハハハ、と二人の笑い声が、街並に溶けた。
fin.
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