月光石

序章



 街には夜になっても淡い光が降り注いでいる。
 その光源は街の中心にある廃墟と化した城にある大きな結晶である。
 それは月光石と呼ばれていた。

 太陽の光を吸収して蓄積し、それを夜に放っているのだと昔から言われている月光石。
 不思議な力が宿っていると信じられているため、それをめぐって幾度となく諍いが起こっていた。
 その愚かな争いで城を潰し国を潰し、今は治める者もいない状態で人々は暮らしていた。

 だからと言って無法地帯かと言えばそうでもない。
 城に残った元軍人たちが月光石を守り、それに追随するような形で街は成り立っていた。
 今は他の地方も自給自足で持ちこたえている。
 しばらく大きな争いは起こらないだろう。

 元軍人たちはソルジャーと呼ばれた。
 もともと戦う者だからそう呼ばれているのだが、今、戦争はない。
 主に街の外に生息するモンスターを相手にするのが仕事だ。
 街の外で仕事をしている者達の護衛だったり、異常繁殖したモンスターの討伐だったり、時には街に迷い込んだモンスターを退治したり。
 街の周囲にはモンスター避けの樹木(これはモンスターが嫌うものだ。)をびっしりと植えてあり、特に人間を主食にしているモンスター以外は滅多に寄って来ない。
 それでも何らかの要因で街に紛れ込むモンスターも時折いる。
 それを退治するのである。
 街の人間はソルジャーたちに全幅の信頼を置いていた。
 彼らのお陰で安心して暮らしていられるというわけだ。

 そしてもうひとつ、人々が彼らを信頼する理由がある。
 それが月光石である。
 色々な神話も絡んでいるその石を守ることは信仰に近いものがあり、当然すべきことだと考えられている。
 しかし街の人間にはその力はなく、それはソルジャーに委ねられているのだ。
 ソルジャーに自治に口出しする権利はないが、石を守る者だからこそ敬われている。

 そんな世界。
 そこにいるソルジャーの話をしたいと思う。




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