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●雪の日







「あ~…寒っ」





季節は真冬。

天気予報の日本地図のあちこちに、雪マークが現れだしてもう数ヶ月経って。
いよいよこの辺りも、雪雲に覆われてきたようだ。

朝起きたら、やけにシン…としてるなと思ったら。カーテンを開けたら、真っ白だった。




「うっわ…」



一瞬、真っ白な世界に心を奪われるも、次の瞬間頭に浮かぶのは、今日これからの事。




「車…は、止めるか」



明日の仕事のスケジュールも加味しつつ、今日の予定に思いを馳せる。



今日はこれから、隆のところに行く予定がある。
お互い、ルナシーとソロの予定の合間に見つけたオフ。最初は、デート行こうか?と言っていたけど。
ずっと忙しかったから、のんびり家で過ごす事にした。


隆が、いいもの買ったんだよ!と目をキラキラさせて誘ってくれたから、今日は隆の家だ。
翌日は仕事があるから、一晩過ごして行くつもりだけど。…この雪じゃ、明日の状況が読めないから、身軽で行った方がいい。
久し振りに、駅まで歩こう。電車は止まってなさそうだから、電車で行こう。

俺は一泊分の荷物を持って、家を出た。











隆の家の最寄り駅まで電車に乗って、そこから徒歩だ。

いつもは車で通り過ぎる街を、雪を踏みしめて歩く。



隆の好きなベーカリーで、焼き立てのパンを買って。あとコンビニで飲み物を少し買う。
するとポケットのスマホが震えて着信を知らせた。





「もしもし、隆ちゃん?」

『あ、イノちゃん?あのさ、今日…』

「うんとね、もう隆ちゃん家の近く」

『え?どうやって来たの?』

「電車」

『えーっ?電車で来てくれたんだ!』

「パンと飲み物買ったよ。あと要るものある?」

『んー…。あ、アイス!』

「…この寒いのに…」

『イノちゃんも絶対食べたくなるよ!気をつけて来てね』

「はいはい、じゃ、もうちょっと待っててね」

『うんっ!』





電話を切って、今出たばかりのコンビニに引き返す。隆との会話を思い出して、思わず口元が緩んでしまう。


だって、声を聴いただけでわかる。
隆が今、どんなカオしているか。


ほっぺたを染めて、にこにこしてるんだろうなぁ…って。









アイスを追加して、今度こそ隆の家を目指す。足先がジンジンしてくる。
出がけに、ブーツにたっぷり防水スプレーをかけて来たお陰で、染み込む様子は無いけど。それでも雪の中を歩くと、末端から冷えてくる。



はぁ…と吐き出した息が、白くなって、宙に消えた。










「イノちゃんいらっしゃい!」

「隆ちゃん…お邪魔しま~す…。寒いよ~」




はい、と土産を渡すと。隆ちゃんは嬉しそうにお礼を言ってくれて、洗面所に連れて行かれて、お湯をだしてくれた。
手を洗ってうがいして。また手を繋いで連れて行かれたのは、いつものリビング。

そこには。







「こたつ‼」

「えへへっ…買っちゃった」

「うわっ…もう最高!」

「ね。やっぱ冬はね…」




ごそごそと脚を入れると。
あぁ~…ホント最高。


隆ちゃんはコーヒーを持ってきてくれて、俺の向かいに座った。





「…ヤバイね」

「ね?出らんなくなっちゃうの、分かるね」

「うん」





コーヒーを啜って、ふと。





隆が、遠い…。



そこまでも大きい、という程でもないサイズのこたつ。
でも、隆が遠いよ…。
せっかくこんな素敵なこたつに入ってるんだからさ。
隆ともっと、一緒にいたいじゃん。






「隆ちゃん」

「ん?」

「こっち来て?」

「えー?」

「くっつこうよ」

「え?……狭くなっちゃうよ」

「それがいいじゃん。…ね?」

「んーー…。うん…」





隆ははにかんで頷いて。恥ずかしそうに、こたつを抜け出すと、四つん這いのまま俺の方に寄ってくる。



「…イノちゃん」

「ん。おいで?」




両手を広げて待ってたら、ぽすっ…と、胸に寄っかかってきた。
ぎゅっ…とすると。
あー…幸せ…。

ホンット…幸せ…。






しばらく幸せに浸っていたら、隆がモゾ…と動いて見上げてきた。
あったかい部屋でほわほわした隆。

抱いたらあったかそう…。
なんて事考えてたら。






「イノちゃん?」

「ん?」

「こたつでは、ダメだからね?」

「ん⁉」

「赤外線って身体かわいちゃう。喉も乾くし」

「…ん。」

「ベッドで。…あとでね?」

「んっ‼」

「イノちゃん、ん。しか言ってない」

「だって、隆ちゃん…俺の心読んだのかと思った」

「…やっぱり」

「ははっ…」




隆はジト…と俺を見ると、次の瞬間には微笑んで。でもね…?と囁いた。





「キスは…いいよ?」

「っ…」

「いいよ…?」




スッ…と瞼を閉じて、キスを待つ隆がかわいくて。
それはもう、かわいくて。
隆の肩を掴んで、唇を重ね合わせる。



「ンっ…」



隆の唇を、心ゆくまで堪能する。



隆の身体は、やっぱりあったかい。
もっと側に居たくて、キスを深めると。
こたつの中で、互いの脚が絡み合う。

…ヤバイ。止まんなくなりそう。





「イノちゃん…っ」

「ん、?」

「あつくなっちゃった」

「うん…俺も」




上気した頬で。
見つめあって、ふふっ…と笑う。




「喉乾いたね」

「確かに…アイス食いたくなるな」

「そうでしょ?」









end


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