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●band-aid
ぺりっ
ぺた。
「はい、イノちゃんできたよ」
「ありがと~隆ちゃん」
隆ちゃんが絆創膏を貼ってくれた。
今日は二人ともオフで。
それでまぁ…いつもみたいに、俺の家で二人一緒に過ごしてたんだけど。
昼は外で食べる?
家で作る?って話してて。
さっきから俺のギターを抱えて触っていた隆ちゃんが、パッと顔を上げてニッコリした。
「お家で食べよ?一緒に作ろうよ」
………お家…。
「……」
「?」
何も言わなくなった俺に、隆ちゃんはニコニコしたまま首を傾げる。
……かわいい
「イノちゃん⁇」
「ーーーあのさ」
「ん?」
ーーーーー…。
「まぁ、いいか…」
かわいい姿を見られるのはいい事だ。
…でも俺の前でだけにしてな。
「じゃあ、作るか」
「うん!」
「何にする?」
「カレー‼」
「即答だね」
「だってイノちゃんと作るカレー美味しいもん」
「まあね。俺も隆ちゃんと作るの好きだよ」
「うんうん、楽しいよね!じゃあ…えっと、材料あるかな」
「ある…と思う」
キッチンを捜索すると、何とか材料は揃っていて。
隆ちゃんは早速エプロンをかけている。
シンプルな赤いエプロン。
隆ちゃんと一緒に料理をするようになって、俺が買って来たものだ。
ずーっと前に、赤いコートを着てステージに立った隆ちゃんが可愛かった。
赤いの似合うな~とあれ以来思っていたから、選んだ赤いエプロン。
米を研いで炊いている間に、二人で材料を刻む。
その時に、やってしまった。
雑念が混じっていたんだろうか。
いつもはこんな事ないのに。
「切った」
「わぁっ イノちゃん大丈夫っ ⁉」
ニンジンと一緒に指を切ってしまった。
そこまで深く無さそうだけど、水分の多いまな板の上。少量の血でも、ジワリと広がる。
意外と冷静な俺に対し、隆ちゃんは慌ててキッチンペーパーで押さえてくれた。
心配そうに眉を顰めて。俺のすぐ側で。
「痛い?」
「いや。痛みはそんなに…」
痛みは無いんだけど。
どっちかっていうと、すぐ側に隆ちゃんがいる事が最大の関心事。
…心配してくれてるのに…不謹慎なんだけど…。
「そーっと、見てみるね」
押さえていたキッチンペーパーをゆっくり外して、隆ちゃんは恐る恐るといった感じで傷口を見てくれる。
「ぁ……。血、止まったかも」
「そんな深くなかったんだ」
「良かったね。でも絆創膏は貼ろうね?どっかにある?」
「そこの棚の引き出しに…あったかな?」
俺の言った場所を隆ちゃんはガサガサと探して。見つかったのか、安心した顔で戻って来た。
「イノちゃん指出して」
「貼ってくれんの?」
「うん。あ、自分で貼れる?」
「貼って欲しいです」
「ん。じゃあ早く」
ジワリと血の滲む指先を差し出すと。隆ちゃんはニンマリ笑って言った。
「気を付けてね?ギタリストさん」
「っ……」
ペリっ
ぺた。
「はい、イノちゃんできたよ」
「ありがと~隆ちゃん」
そして。
「ごめんね」
「う?…なんで?」
「心配させちゃったし…色々」
「え~?」
「反省…」
「……うん」
「……」
「でもさ?」
「ん?」
「俺がいて良かったね!」
「ーー…」
「すぐに手当て出来たし。ーーー…なんか心強くない?」
「ーーーうん」
「ふふっ 」
「うん」
いつのまにか二人してキッチンの床にペタリと座って、顔を見合わせてくすくす笑ってた。
赤いエプロンの隆ちゃんが、最高な笑顔で俺の目の前にいてくれる。
赤って元気出る。
隆ちゃんの存在も。
隆ちゃん自体が、傷口を保護する絆創膏みたいなもんだ。なんて思ってたら。
イノちゃん。と、隆ちゃんは座ったまま、グッと身体を寄せて来た。
両手を床について、じっと俺を見てる。
仔犬みたいに縋り付く表情で。
エプロンの肩紐が片方だけずり落ちていて、それもすごく扇情的で。
そんな隆ちゃんを見ると、俺も別のスイッチが入ってしまう。
「隆ちゃん…」
「ん…?」
「隆ちゃん…。誘ってる?」
「わかんない…けど」
「うん?」
「イノちゃんの血。見たからかな?」
「吸血鬼じゃないんだから」
「そ…だけど。でも…」
…シたくなっちゃった。
恥ずかしそうに、小声で呟く隆ちゃんを見て。
当然。我慢は出来なかった。
「ーーン…っ …んっ」
調理そっちのけで。隆ちゃんを床に押し倒して、めちゃくちゃにキスをしながら。
頭の端でぼんやり思う。
やっぱり隆ちゃんは絆創膏みたいだ。
傷口とか、血とか。
人の痛みとか。
寂しさとか。
どうにかして、おさえてあげたいって思うくせに。
俺の血を見て俺に縋り付くなんて。
俺を見たら、剥がすまでペタリとくっついて離れない絆創膏。
かわいいにも程がある。
「俺だけ…だからな?」
「…んっ……ぅ?」
優しくて、最高にかわいい。
俺限定の。
end
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