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●シーツ
良いお天気だなぁ…
朝から真っ青な空。
気持ちいいそよ風も吹いていて。
穏やかで、最高な陽気。
こんな日は外に出たくてうずうずしてしまう。
「さて…と。掃除機は終わり。洗濯機もそろそろ終わるかな~」
掃除したてのリビングをぐるりと見渡して。耳を澄ますと、まだ微かに聴こえる洗濯機の音。
あっちはもうちょっとかかるね。
「洗濯物干すまでは…洗い物しとこ」
今度はキッチンに向かって行って、朝食に使った食器を洗う。
勢い良く洗剤を出したら、フワッと細かな泡がしゃぼん玉みたいに舞い上がって。思わず笑みがこみあがる。
(しゃぼん玉、懐かしいなぁ…)
ふわふわ泡が飛び交うキッチンを横切って、今度は食器棚からガラスのコーヒーポットと黒のマグカップを取り出す。それから昨日の仕事の帰りに買ってきた、新しいコーヒー。店員さんにオススメを聞いて、コーヒー豆を挽いてもらってきたもの。
それらをトレーに乗せて、コーヒーセットの出来上がり。じっと眺めて、彼の喜ぶ顔を思い浮かべたら、ニンマリしてしまう。
そう。
今日はこれから、イノちゃんが遊びに来てくれるんだ。
イノちゃんは昼過ぎまで仕事。俺は今日は完全なオフ。
最近ずっと忙しくて、なかなか二人だけで会うって出来なかった。
会うのはいつも仕事で…だったから。
嬉しい。
イノちゃんと二人きりで会えるって思ったら。
嬉しくて、楽しみで。
昨夜も早く寝て、今朝も早起きして、朝からバリバリ家事をしている。
だってせっかく来てくれるんだから、おもてなししないとね!
そうこうしてたら、洗濯機が終了した音が聞こえてきた。
洗濯物を取り出して、今日は本当にいい天気だから外に干す。
今日はすぐに乾きそう。
パンっ !と広げる度、洗剤の香りが漂って。…なんだろ…すごく幸せな気分。これって多分、イノちゃんが来てくれるからなんだろうな…
洗濯物を干したら、次は買い物。
イノちゃんとちょっと遅めのお昼ご飯を食べるから、ちょこちょこ買う。
夜は出かけて外で食べようって決めてるからいいとして…。明日の朝用の物も少し買って行く。
買い物を終えて、のーんびり。
近所の公園に寄る。
そうしたら…いたいた。あの子たち。
丸い鳩胸の、白とグレーの二羽の鳩。
まん丸くなって、あったかそうなアスファルトの上で寄り添ってる。
驚かさないように、そっとしゃがんで眺める。
( ふふ…っ )
可愛いな。遠くから見ると、二個並んだお饅頭みたいだけど。近くに寄ると、擦り寄って、仲良しなんだなぁって思う。
( …俺とイノちゃんも、メンバー達から見たらこんななのかな )
もちろん仕事中はしないけど。
休憩の時とか、ふとした時。
俺とイノちゃんはくっ付いてる事が多い。(…と、ニヤっとした顔でスギちゃんに言われた )
イノちゃんは触ってくるのが好きだし、俺もイノちゃんにくっ付くの好きだから。
…というか、好きだからくっ付くんだよね。
なんて、考えてたら。
( 早く会いたくなっちゃった )
「ばいばい」
鳩たちに手を振って、家に帰る。
時計を見たら、いつの間にかもう昼過ぎだった。
買って来た物を冷蔵庫にしまって、洗濯物を見に外に出る。
「早っ」
厚めの衣類はもうちょっとだけど、一枚布の白いシーツはもう乾いてる。
シュッと、シーツだけ取り込んで部屋に入る。
「…いいにおい」
洗剤と太陽の混じった、陽だまりの匂い。まだ太陽の温もりが残ってて気持ち良さそうだったから。
パサッと真っ白なシーツに包まってみる。
「うぁ…あったかい…。いい匂い~」
包まったまま、近くのソファーにコロンと寝転ぶと。…しまった…急激に眠くなってきた。
早朝から動き回ってたからな…
少しだけいいかな…
イノちゃんもまだ来ないし。
少しだけ…
くー…。と、瞼は落ちて。
眠りに入るのは、あっという間だった。
優しい感触が前髪や頬に触れて、少しづつ意識が浮き上がっていく。
それから少ししたら聴こえてきた。
低くて優しい、大好きな声。
「隆ちゃん…」
「そろそろ起きてよ」
「ーーーーーー…ん~…」
「隆ちゃーん?」
「…んー…」
「……そんなね。めちゃくちゃ可愛いカッコで、いつまでも起きないと…」
「ん~…?…ぁ…。イノ…ちゃん?」
「襲うからな」
「ぇ…?…ぁ…っ…」
はっと気付いて目を開けたら、すごく楽しそうに微笑むイノちゃんの顔。
いきなりこんな近くにいて、かぁっ…と顔が熱くなる。
「イノちゃっ…」
「隆ちゃんが悪い。こんなシーツに包まってさ…。」
可愛すぎ…。
耳元でそう囁かれて、思わず身体が震えてしまった。
「まっ…待って、待って‼」
「えー~?」
「ダメっ!まだダメ‼」
「なんでよ」
「だって…」
「ん?」
「だって…。お昼食べてないし。これから出掛けるし。コーヒーも、入れてあげてないし。…それにシャワー…浴びてない…し。…明るいし…」
恥ずかしくて次第に小声になってしまう俺を、イノちゃんはじっと見つめてて。
目が合った途端に、シーツごと抱きしめられた。
「イノちゃんっ」
「ああ~っもう!なんで…こう。俺の恋人はこんな可愛いの⁉」
「うぅ…」
「…わかった、いいよ。これから楽しみな予定もあるもんね。ーーーだから夜にな?」
「…うんっ」
頷いた俺にイノちゃんは笑ってくれて、急に真面目な顔になったと思ったらクッ…と顎を掴まれた。
「じゃあさ…キスだけ。今いい?」
「ーーっ…」
そんな事聞かなくてもいいのに。
ちょっと照れてるみたいなイノちゃんが愛おしくて、シーツを被ったままイノちゃんの首元に抱きついた。
「いいよ?」
「ーーーうん」
「…ンッ…」
やっぱ隆ちゃん、めちゃくちゃ可愛いってイノちゃんは言いながら。
重なった唇は、すぐに深くなって。
夢中になってキスをする。
唇を離して微笑み合ったら。
あ、そういえば…と思い出して、イノちゃんの目を見て言った。
「イノちゃん…おかえりなさい」
俺の言葉に、イノちゃんの目が一瞬見開いて。すぐに嬉しそうに細められた。
耳に届いたのは、愛おしい声。
「ただいま」
end
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