日記(fragment)のとても短いお話
02/27の日記
23:15
怖い事
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外はびゅうびゅうと冬の嵐。
窓越しの空は灰色で、太陽の光は朧げで。
気温も低くて、切られるような寒さ。
そんな日のWオフ。
俺と隆は、暖房の部屋で。
ソファーの上で。
俺は後ろから隆を抱きしめて。
隆は音量を下げたテレビのワイドショーをぼんやり見つめて。
ちょっと贅沢な、ふたりののんびり時間。
いつしか始まった言葉遊びに。
俺達は、ことのほか熱中してた。
お題『怖い事』
「地震」
「落雷」
「ーーー火事」
「…怖いひと?」
「ははっ、地震・雷・火事・オヤジってよく言ったもんだよな」
「そっか。その言葉ってホントに的を得てるんだね」
「だな。…あとは?」
「んー…悪夢」
「ああ~。…ーーー音楽が嫌いになった自分」
「怖い…っ…ーーーそんな日来るの?」
「有り得ないし、考えらんないけど。…未来は誰にもわからないし」
「…そっか」
「そうならないように、音楽に夢中なんだろうけど」
「うん」
「…じゃあ、あとは?」
「ーーーん…」
「隆ちゃん、ある?」
「あるけど…言うのも怖い」
「ーーー言うのも?」
「…聞きたい?」
「例えばだから」
「ーーーそうだね」
「悪い事でも怖い事でも、口に出して言っておくと、いざって時に狼狽ないよ」
「…うん。…ん、そうだね。ーーーじゃあ」
「うん」
「ーーーーーイ…」
「ーーー」
「イノちゃんと…離れ離れになる。…事」
「ーーー」
「ーーー」
「ーーー」
「ーーー…あの…」
「ヤバ…」
「ん?」
「怖いレベル超えてる。…超えて…」
「…うん?」
「ーーー悲しい」
「うん」
「これは仮に前もって覚悟してても狼狽るわ…」
「ーーーやだよ」
「ん?」
「イノちゃんと離れ離れなんて。…絶対いやだ」
「隆ちゃん…」
「ーーーやだ」
「っ…隆ちゃん」
潰れたような隆の声。
想像なのに、悲しげな声をするから。
俺も堪らなくなって、ぎゅっと腕に力を込めた。
「ーーーやめよ?…怖い話」
「そうだな。やめよっか」
「せっかくのオフなんだし」
「じゃあ今度は、怖い事の話じゃなくて。いい事の話にしようか」
「いいよ!」
隆の声は、パッと晴れる。
姿勢も急にシャンとして、抱きしめる俺の腕に手を添えてくれた。
「いい事。…歌う事、音楽、歌う事」
「ははっ!隆ちゃんらしい」
「イノちゃんは?」
「俺もそうかな。歌、ギター、音楽」
「うんうん」
「あと。…酒、乾杯、旅…」
「あはは!イノちゃんも〝らしい〟ね!」
「いい事…つーか。幸せな事かな」
「うん!」
くるっと向きを変えて、隆は俺の方を向いた。
するとその表情は。…幸せそのもの。
隆の溢れそうな微笑みは、何度見ても癒されるんだ。
「こうやって、オフの日にイノちゃんとペッタリくっいてるのも、すっごく幸せな事」
「っ…」
「ーーーさっきの…。離れ離れじゃないけど…ーーーいつかはさ?」
「ーーーん?」
死が、ふたりを引き離すまで。
「だから…。愛し尽くすって、決めた」
「ーーー隆」
「後悔しないようにね?」
隆はじっと、俺を見る。
迷い無く。
綺麗な目で。
一分一秒も無駄にせずに。
この瞬間の俺を、求めてくれている。
そんな隆を見ていると、この世で一番怖いものがわかった。
とさっ…。
隆を抱きしめたまま、ソファーから転げて。隆の手首をつかんで押し倒した。
ソファーとローテーブルの狭い隙間でこんな事するのも…何度目かな?
頭の隅でそんな事を考えつつも、すぐに夢中になるのは、目の前の恋人。
暴れる隙も与えずに、服の隙間から手を差しこんだ。
「ーーーっあ…」
「隆ちゃん、早い。…ここ、もう勃ってる」
「んっ…ーーーゃ…」
小さな胸の突起を指先で弄ると、すぐにツンと勃って。隆は我慢できないみたいに身体を捩った。
ーーーそんな姿見せられちゃ…さ。
「俺も…もう我慢できない」
「ーーーぅんっ…」
コクンと頷く隆の目元から、涙がころんと溢れた。
ーーー気持ちイイ…涙?
ーーー幸せの涙?
ーーーそれとも…いつか訪れる別れを。…憂いてる涙?
ーーー隆。
どれでもいいよ。
どんな涙だって綺麗だからさ。
俺ができることは、この涙を受け止めてあげる事だから。
「ーーー隆っ…ーーー俺」
「あっ…ん…んっーーーなあ…に?」
「お前が…好きだよ」
怖い事ってさ。
何より恐ろしいのはさ。
その先を憂う事も、見ようとする事もしないで。
その先に続く今を。
今を…疎かにする事じゃないかって。
だから言うよ。
何度でも。
これから先も、何度でも。
一緒にいられる、この瞬間の時間を、無駄になんてするもんか。
「側にいるよ。愛してる」
〝今〟のお前を、愛し尽くすよ。
end
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03/04の日記
23:23
綺麗な怒り
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怒り…って。
理由によって様々だと思うんだけど。
例えばね。
自分自身が許せなかったり、不甲斐ないって思ったりする時。自身に怒りを感じる事ってある。そうゆう時の怒りの感情は、外へ…というより。内へ内へ。自分の中に全部押し込んで、苦しくて、もがいてもがいてってイメージがある。
ーーーどちらかというと、不透明な絵の具を溶かした水みたいな。…ちょっと、重たい感じの怒り…かな。
ーーーでもね。今俺が目の当たりにしてる怒りの様子って、そうゆうんじゃなくて。
もっと鋭利で。
もっと透明で。
ピリッと張り詰めた空気が、間違っても冗談なんか言える場面じゃないって…。そんななんだ。
「ーーー」
「ーーー」
ーーー隆が、怒りの表情を俺に向ける。
それは、ごめんね…って。ちょっと頭を下げれば済むような感じじゃない。
俺が時折、隆を茶化してちょっかいだした時なんかに。『もう!イノちゃんのばか!』…なんて憤慨するような、そんな感じでもない。
なんて言うか。
ーーー鋭い…
…剣の切っ先みたいだ。
俺が隆をここまで怒らせた理由。
実はたった今まで。
その理由がわからなかった。
でも、こうして隆に冷たい視線を送り続けられて。その目を何とかそらさずに見つめている間に。
ーーーああ…。もしかして…
って。
気付けたんだ。
…多分。
俺は今日。…朝起きた時から。
ちょっと、体調…あんまり良くないかも…って。何となく思ってた。
夕べは久々にひとりで長々と晩酌をしてしまって。
加えて今朝は、ガクンと気温も下がっての雨降りで。
飲み過ぎ×遅寝×寒暖差×低気圧
そんな条件が揃ってしまった今日というわけだ。
ーーー体調も優れないわけだよな。
で。
寝起きでぼんやりしてた俺の元に、いつものように隆が来てくれて。
いまだ寝間着のままベッドに横たわる俺を見て。隆はきっと心配してくれたんだろう。
「イノちゃん、どうしたの?」
「ーーー具合悪い?」
「食欲は?」
ーーーなんて。
眉を顰めて。
俺の額に手をあててくれたり、掛け布団をもう一枚引っ張り出してくれたり…
なんだか。
昨夜の晩酌が原因の体調の不調に、ここまで心配してくれる恋人に申し訳なくて。
この時は深く考えずに。
隆に、言ったんだ。
「もうちょっと休めば大丈夫だから」
「ん…ーーーでも」
「隆ちゃんはそんなに気にしなくていいよ」
「ーーーーー」
…って。
ついさっき。
確かに俺は言った。
〝隆ちゃんは気にしなくていいよ〟
To be continued…
・
03/05の日記
23:35
綺麗な怒り…2
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〝隆ちゃんは気にしなくていいよ〟
日本語ってのは。
難解だ…って。こうゆう時に思い知る。
そんな意味で言ったんじゃないって弁解しようにも。
その時のニュアンス、言葉の区切り、表情、声の大きさ…。挙げていけばキリがないんだけど。あ、あと。相手のその時の受け止め方や状態にもよる気がする。
とにかく。
間違っても、隆を信頼して無いとか、頼りにして無いとか。そんなんじゃ無いんだ。
それどころか、体調不良の時ほど。恋人の存在って心強いものなんだから。
(…ただ、さ。二日酔いの、自業自得の体調不良なんかで。隆に心配掛けるのが心苦しいって…思ったわけで…)
「ーーー」
ーーーでも。
隆はそんな事、知る由も無いよな。
せっかくの心配を邪険にされたって、思っているんだろうな…。
ベッドに横たわって、天井ばかり目で追う…俺。
そんな寝室の片隅の、ベッドの脇で膝を抱えて押し黙る…隆。
時計の音が、すげえ良く聞こえる。
ーーー要するに、黙ってしまった空間なんだ。…ふたりして、
(ーーーあー…。どうすっかなぁ…)
ごろんと向きを変えて、隆の方に視線をずらす。すると隆も、俺が動いた気配を察知したのか。ゆっくりと俺の方を見てくれた。
(ーーーっ…うわ…)
怒れる君は美しい。…とかさ。
なんかの映画で聞いた事がある台詞だけど。
まさに今。
俺は隆に、そう言いたい。
ーーー言わないけどさ。…取り敢えず、今は。
相変わらず、目尻をいつもより吊り上げて。唇もきゅっと引き締めて。怒ってるせいか…わからないけど。
目元も、唇も、頬も。
紅を差したみたいに色づいていて。
黒髪が、そんな表情をさらさらと縁取って。
(なんだよ…)
(ーーー隆、すげえ綺麗)
「ーーー隆、綺麗」
「ーーーーーーーーは?」
「あ…。」
ーーーつい。
口に出してしまったようだ。
隆は呆れ顔。
眉を寄せて、斜めに俺を見据えてる。
ーーーちょっと…迫力あるんですけど…。
まだ尖りまくってた頃の隆が、ちょっとだけ顔を見せてる。
「ーーーごめんな。…こんな雰囲気もう嫌だから…謝りたい。ーーーさっき変な事言って、ごめん」
「ーーーーーーー…ん」
「心配してくれてる隆ちゃんを、軽視してるんじゃないよ。頼りにしていないんじゃない。…じゃなくて…ーーー悪いなって、思って」
「ーーー悪い?なんで?」
「二日酔いなんて自業自得だろ?…そんななのに隆ちゃんに心配してもらうなんてさ…」
「ーーー」
「ーーー言い方悪かった。気にしなくていいよ。…じゃなくて、こう言えばよかった」
「ーーーなに?」
ーーーあ。
隆の表情が、少しだけ。
泣きそうに揺らいだ。
「隆ちゃん、ここにいてくれる?」
「っ…」
「ーーーって。さっき、思ってた事素直に…言えば良かった」
「ーーーっ……そうだよ」
「ーーーうん」
「俺、邪魔なのかと思って。…頼りにもしてくれないのかと…思っ…」
「違う」
ベッドから両手を伸ばして。
膝を抱える隆を、抱き寄せた。
唐突で驚いたような隆だったけど。
そのまま、ベッドの上に隆を引き摺りあげると。隆が俺の上に覆い被さる体勢で。
しばらく。
そのまま見つめ合ってた俺たちだけど。
こうして見る隆は、やっぱり綺麗で。
薄っすら涙の滲んだ目元を指先で触れてやると。
にっこり。
今度は可愛く、微笑んでくれた。
ーーーほら。
俺にはやっぱり、君が必要なんだ。
「仲直り」
「ん?」
「仲直りしよう?」
「ーーーうん」
「ごめんな、隆」
「俺も。怒って…ごめんなさい」
「いや、それはいいんだよ」
「え…?」
「ーーーだってさ」
「っあ…」
隆の髪に指を絡ませて。
引き寄せて。
キスを交わす。
仲直りのキスだ。
俺を想ってくれて、怒れる君は。
とてもとても、綺麗だから。
end
・
03/07の日記
22:44
×××
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「っ…ゃ あ、」
「ちょっ…と。ーーー隆!」
「んっ…あ ぁっ…ふふっ」
「りゅーっう」
「ぁは、は…はは!」
ーーーだめだこりゃ。
せっかくの逢瀬。
せっかくのふたりの時間。
せっかくの…えっちの時間。
どこでどう、こうなったのか解らないけど。
どうやら今の隆は、気持ちよさより、くすぐったさが先行してるみたいだ。
ベッドの上で、隆の寝間着を肌蹴させて。
照明も少し落として、ムードは最高なのにさ。
いつもみたいに隆の肌に触れた途端、今日はジタバタと身体を捩りだした。
「りゅーう!ねえ!これじゃできないよ?」
「だっ…てぇ。なんか今日はすごくくすぐったく感じるんだもん」
「ーーーいつもと大して手順も変わんないよ?」
「ーーーだって…」
俺に責められたと思ったのか。隆はバツが悪そうに唇を尖らせる。
ーーーその格好でその表情…煽られてるとしか思えないんですけど…。
つか。早く進みたいんだけどな…。
「ーーーん…」
「ーーー」
「ーーーあ。…じゃあさ、今日はこんなのどう?」
「え?」
「考えてみれば、いつもと同じ手順ってのも味気ないよな?だから今日は、もっと隆ちゃんを気持ちよくさせてあげる為に、こうゆうの」
「ーーーどんな…の?」
隆は、きょとんとしてた。
こちょこちょこちょ‼
「あははっ…や…っ…ちょっ…イノちゃん‼」
「どうだ‼くすぐり責め‼」
「はははっ!…やだっ…あはっ…あははははっ」
打って変わって。
繰り広げられるくすぐり大会。
ベッドの上で、大の大人がくすぐり合い。
側から見ると…どうなんだ?って思うかも?
ーーーでもね?ちょっとある事を思い出したんだ。
「あははっ…あ、ふふっ…ぁっ」
「ーーー」
「っ…ーーーん…は ぁ、」
息絶え絶えの隆。
ーーーでもその表情と様子は、さっきまでとはちょっと違う。
息荒く、頬を染めて。くすぐりに耐える笑い声に、だんだんと艶が混じってくる。
ーーー思ったとおり。
うまくいったみたいだ。
俺は嬉しくて、思わず微笑んでしまう。
それを目敏く見た隆は、荒い呼吸で、なに?って睨む。
「ーーーくすぐったいの、通り越しただろ?」
「ぁっ…ん ん…ーーーえ?」
「さっき笑い転げる隆を見て思い出したんだ。ーーーえっちの時ね?」
「?」
「愛撫でくすぐったいのって、敏感になってるからなんだって。感度が良い証拠。くすぐったいの我慢して通り越せばーーー」
「え…?っ…ーーーぁんっ…」
「いつも以上に、もっともっと気持ちよくなれる。ーーーほら」
「やっ…ゃ…あっ…」
「どう。ーーー気持ちいいだろ?」
「イノちゃっ…ゃだ!…待っ…」
「却下。二度も待たないよ。もう俺もこれ以上我慢できないし」
「あっ…あぁっ」
隆の寝間着を一気に剥ぎ取って。
俺も服を脱いで。
一度待ったをかけられた分、遠慮なく隆の身体を抱きしめる。
隆はもう、肌が触れ合うだけで感じるみたいで。早々に涙を零して、俺に縋り付く。
愛おしい気持ちが、いっぱいになる。
愛撫しながら、まだ早いかな?って思ったけど。
隆は待ち切れなさそうに脚を擦り寄せるから。
すぐに指先で慣らしてあげて、俺も早く繋がりたかったから。
請われるままに、隆を貫いた。
「ん…っんっ…ぁん…あ!」
「りゅうっりゅ…う」
「やっ…ーーーおかしく…なっ…ちゃ」
「ーーーお前っ…ホン…ト」
いつも以上に、最高。…って。
ぎゅっと俺の背中に爪を立てる隆の耳元で囁いたら。
隆は達して、俺を締め付けて。
肩で息をしながら微笑んで。
俺の唇に、噛み付くようなキスをした。
「これからも、えっちの前くすぐり大会しようか」
「やだ!気持ちいいけど、する前から疲れるもん!別の方法考えようよ」
「ええ?」
「イノちゃんも考えて。ふたりで気持ちよくなる方法だよ?」
「ーーー」
「ん?」
「ーーーヤバい…。」
「ヤバい?」
「俺、すげえ幸せかも」
「っ…!」
「隆ちゃん、俺幸せだよ」
だって、こんな会話を繰り広げられる君が、側にいてくれるんだから。
end
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