日記(fragment)のとても短いお話






12/07の日記

23:09
プラネタリウム
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久しぶり。
ここへ来たの。


暗がりの中で。隣に座るイノちゃんにそんな事を密やかに言ったら。イノちゃんがこっちを向く気配がして。


「俺も」


そう返事した。





プラネタリウム。

人工の夜空。
人工の宇宙。

それでも時々、ふっ…と。
この夜空を見に来たくなる事がある。





ーーー南の夜空を見てみましょう



そんなナレーションが、心地よく暗がりに流れて。見上げるドーム型の天井は、もはや天井では無くて。
俺たちにとっては、れっきとした夜空だ。

夜空にポーン!と、放り投げられたみたいで。座席に座っている筈の身体は、無重力の中にいるみたい。
ーーーふわふわしてる。

そんな時だ。
イノちゃんが、俺を呼んだ。






「ーーーなぁ、隆?」


「っ…え…?」


「くくっ…。ぼーっとしてた?」


「ん…だって。見入っちゃって」


「いいよ。綺麗だもんな?面白いし」


「ーーーうん。…で、どうしたの?」


「ん?…ああ。ーーーあのさ?」


「うん」


「ちょっと今、想像したんだけど」


「?…うん」


「例えばさ?…宇宙とか、空の中とか」


「うん」


「知らない場所とかさ。あるじゃん」


「ーーーまあ…あるね?」


「カンパネルラとジョバンニの…」


「ーーー鉄道?」


「そう。ああゆう、ホントに未知の旅とかね?」


「ーーーうん」


「そうゆう時に一緒にいたいのって誰かな…って想像して…」


「…ん」


「秒でわかった。一緒にいたいのは隆ちゃん」


「ーーー」


「俺は、隆がいい」


「ーーーもぅ。」


「ん?」


「どんな想像してんの?」


「や。ロマンがあっていいかなって」


「ふふっ」


「なんだよー」


「ふふふっーーー知ってるよ?」


「!」


「だって俺だってそうだもん」


「っ…」


「イノちゃんと一緒がいい」


「ーーーん。」


「例えばね?この先は危険だから、お前はここで待て!…とかゆう展開とかさ、よくあるじゃん。物語とかで」


「ああ、まあな?」


「ああゆう時に、イノちゃんに〝危険だから隆はここで待て。俺が見に行って来る〟とか言われたら。俺、イノちゃんのこと殴るから」


「ーーー殴られんの?…俺」


「だから例えば!そうじゃなくて、そんな時こそ一緒にいたいのって事」


「っ…う…わ」


「ん?」


「それってさ」


「うん」


「めちゃくちゃラブラブだよな」


「だって、そうでしょ?」


「ーーーん。」


「愛してるんだから」



「ーーーそうだな」



「うん」




イノちゃんの手が、俺の手を繋いでくれた。

とりとめない会話。
周りが聞いたら、何言ってんの?って言われそうな。

でもね?

こんな人工の夜空の下でもこんな想像が出来ちゃうくらい。

俺はあなたが好きで。
あなたも俺を、好きでいてくれるんだ。




end







12/26の日記

22:31
Anthem of Light
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しんしんと、冷え込む夜。



足先がジン…と冷たくて。
目が覚めてしまった。





「ーーー…あ…れ?」




ころんと寝返りを打つと。
寝入りばなまで、確かに隣にいた筈の彼がいなかった。



「ーーーイノちゃん?」



イノちゃんがいないとわかると。
開ききっていなかった目も完全に覚めてしまって。
爪先も冷たくて、このままじゃ眠れないし。
俺はカーディガンを羽織ると、薄暗い寝室を出た。
…寒い。なんだろう…妙に心細い。

冷え込む廊下をペタペタ歩くと。



「…あ」



リビングから光が漏れている。
薄暗い廊下に、細く道ができていて。
そこだけすごくあったかく思えて。
俺は誘われるままに、リビングの戸をそっと押し開けた。




ふわっ…と。
あったかい灯りと、暖房の温もり。
ジンジンしていた爪先が、ゆるっと温まる。
ーーーそれからね?




「隆ちゃん、起きちゃった?」

「ーーーイノちゃんこそ」

「なんか寒くってさ。足先も冷えてきたから、俺の冷たい足で隆ちゃん起こすと悪いなって」

「ーーー俺も。なんか冷えちゃった」

「寒いもんな、今夜」

「うん」



そうすると、隆ちゃんこっちおいでって。イノちゃんはソファーの隣を空けてくれた。
ソファーの前のローテーブルに、メモ用紙が数枚とボールペン。
見ると歌詞らしい言葉がちょこちょこ…。
作詞してたのかな?

で、まあ。
スルリと誘われるままに座ると。
イノちゃんが俺に言った。



「なんか飲む?」

「ん…飲もうかな」



あったかいの飲んだ方が、身体の中からあったまるもんね。



「俺もコーヒーおかわり。隆はなにがいい?」

「ココアにしようかな」

「OK」



イノちゃんはマグカップを掴むと、ちょっと待ってな。って、リビングの端のテーブルで、二人分の飲み物を作ってる。


コポコポ…

静かな夜だから。
お湯を注ぐ音もよく聞こえる。
途端に漂う、コーヒーとココアのいい匂い。
この匂いだけで、なんだかあったまるね。



「お待ちどう」

「ありがとう」



俺にカップを手渡すと、イノちゃんは再び俺の隣に腰を下ろす。

ふたりして、カップに口をつけて。
ごくんとひと口。



ーーー美味しい



「美味しいよ?」

「そ?良かった」

「ーーーイノちゃん、なにしてたの?」

「ああ…うん。眠れねぇなぁ…って、音楽聞いたり本読んだり、色々」

「そうなんだ」

「このまま眠れなかったら、隆ちゃんには悪いけど起こそうかなって」

「ええ?」

「ひとりで起きてるとさ、なんかつまんないし…。道連れに…」

「ふふふっ…良かったね?俺が自分で起きてきて」

「そうだよ。やっぱりほら、以心伝心って」

「あはは」





「ーーー」

「ーーー」




コチコチコチ…

時計の音。
テンポよく話していたと思えば、急に黙る俺たち。


「ーーー」

「ーーー」



ーーーーーーふう…


イノちゃんが小さくため息をつくのがわかった。
それから、チラッと。
こっちに向けられた視線。


なぁに?

…って思いで。
俺もイノちゃんを見返すと。
イノちゃんは苦笑を浮かべて、かりかりと頭を掻いた。




「ーーーホントはさ」

「ん?」

「つまんないんじゃなくて…違うんだ」

「ーーー」

「ひとりでボーとしてると、時折思考の底に落ちる事ない?」

「ーーーん。…あるね」

「さっき眠れなくて、ここでボーとしてて」

「うん」

「ーーーちょっと、落ちかかってた」

「ーーー」

「だから…ーーー隆ちゃん、ありがと」

「ーーーうん」

「察して来てくれたんだろ?」

「えー?察しては…ないと思うけど…。寒くて目覚めて、隣にイノちゃんがいなくて…」

「…ん」

「ーーー心細いな…って思った…かも」




ちょっと恥ずかしくて。
視線をまたローテーブルに向ける。…と。
さっきは気づかなかったけど。
歌詞らしき言葉に混じって。
知ってる名前が小さくいくつか書かれていた。



「?」



そっと手を伸ばしてメモ用紙を拾い上げると。

隆…SUGIZO…真ちゃん…J…
葉山っち…マネージャー…スタッフ…LUNASEA…SLAVE…みんなみんなみーんな!…



「ーーーイノちゃん?…これ」

「ん?ーーーうん」

「これってさ?」

「ーーーわかる?」

「ーーー…うん。わかるよ」



ーーー俺たちに、なくてはならない人達でしょう?



「ーーー」

「ーーーふふっ…」

「なんだよ~」

「ん?別に?」




イノちゃんの気持ちがいっぱいに詰まったメモ用紙。
心細さや思考の奥に落ちかけた、そんな時に。
そこから飛び出そうと、皆んなの事を想いながら、ひとりでこれを書いていたんだって思ったら…



嬉しいし、こっちも励まされるよね?




「ところでイノちゃん。俺の名前だけハートマークが付いてるね?」

「ああ、そりゃそうだろ」

「皆んな俺にとって特別だけど、隆はさらに特別」

「!」

「ーーーわかるだろ?」

「っ…ーーーうん、」




俺の視界を遮るように、そっと触れ合う唇。すぐに離れたイノちゃんを間近見て。ニッと、笑うイノちゃんを見て。

それから…書かれた名前たち。
俺にとっても大事な皆んなに想いを馳せて。



「あったかくなったら、眠くなってきたよ」

「だな」

「もう一度一緒にベッド入ったら、きっと眠れるね」

「ん、じゃあ…行こうか」



手を繋いで寝室へ向かう。
相変わらず冷え込む廊下。


でもね?


メモ用紙に書かれた名前たちが。
俺たちをあっためてくれているんだ。

リビングから漏れた、光の道みたいに。



end






01/02の日記

22:20
みんな君が好き
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「俺ちょっとそこのコンビニに買い物行ってくるね」



現在ルナシーレコーディングの真っ最中。ちょうど昼も過ぎて、そろそろ遅い昼食にしようかって頃。
我らが愛され歌姫…俺の恋人。隆が席を立ってコートを羽織り出した。

お腹空いたからお昼ご飯と~オヤツも買おっかな~…なんて。本人は至って楽しげ、呑気なもんだけど。
のんびり外出の準備をする隆の後ろで騒めく俺ら四人。



「おい、隆のヤツ買い物だってよ。ひとりで平気か?」

「危険だな。隆がひとりで街を歩くなんて、何があるかわかんないね」

「隆ちゃんは可愛いもんなぁ…。心配になるよね」

「だったらさ。誰か隆に付き添って行くのはどう?」

「お、スギゾー良いアイディア」

「誰かって、誰が隆ちゃんに付いてくの?」

「それは決まってんだろ?恋人である俺が行くに決まって…」

「ずりいっ‼」

「そうだそうだ!イノずるい‼」

「…なんでよ」

「お前いっつも隆と一緒じゃねえかよ!スタジオだって家だってベッタリだろうが!こんな時くらい俺らに譲れ‼」

「ーーー却下。」

「「ああっ⁉」」

「それとこれとは別でしょ?恋人だろうがなんだろうが、隆と出来る限り一緒にいたいのは俺も同じ」

「イノは隆ちゃんにラブラブだもんなぁ」

「真ちゃんも!隆ちゃんと並ぶと親子みたいで微笑ましくて良いなぁって思うよ」

「可愛い隆ちゃんですから」

「ねー」

「ねー」

「…ねー♡…じゃねえっての!よーし、そんじゃ隆に決めてもらおうじゃん。誰と一緒に行きたいか。それなら文句ねえよな?」

「OK」

「いいよ?」

「…なんか隆ちゃん可哀想だなぁ」




俺らのコントのようなやりとりの後ろで。隆はさぞかし呆れてるんだろうと思いきや。いまだ鼻歌を歌いながら、コートのボタンをプチプチと留めているところで。(…そんなマイペースな隆が大好きだ)
俺ら四人に詰め寄られて、ようやくハッとしたように顔を上げた。



「隆」

「んー?どうしたの?…みんな」

「誰を選ぶ⁇」

「ーーーはい?」

「隆の買い物の付き添い。誰がいい⁇」

「え…付き添い?」

「そう!だってひとりじゃ危ないだろ?」

「…や。俺別にひとりでも大丈夫だけど…」

「だめだよ隆ちゃん!俺らの大事な隆ちゃんに何かあったら」

「こんな近所でそうそう何も無いよ…」

「ダメダメ!念には念を。誰か付いてくから、隆選んで?」

「え…ええ~?」



俺らに詰め寄られて隆はタジタジ…。ちょっと可哀想かな…って思うけど、でも一緒に行きたいのは皆んな同じなんだ。



「ーーーえっ…と」


俯いて、困惑気味な隆。
誰か一人を選んだら、残ったメンバーに悪い…とか思っているんだろうな。
ーーーそうか…。
こんな選択を迫るのはやっぱり可哀想か…。


なんて短時間でぐるぐる考えていた時だ。



「おはようございます!」

「あ、葉山っち!」

「遅くなりました。お陰様でこちらの用事も無事済んで…ーーーって…えっと」

「葉山っち~っ…」

「ーーー隆一さん…何かありました?」



そうだった。今日は葉山君のピアノも合わせてレコーディングだった。別件で遅くなるって言ってたんだよな。

葉山君は到着早々、俺らの様子に目をぱちぱちさせて首を傾げて。
そして救世主?葉山君の登場で、隆は涙目で助けを求めてる。








「ーーーはぁ。…つまり隆一さんに誰かひとり選んで欲しい…と」



事の顛末を聞かされて。
葉山君は腕を組んで、うんうん頷いた。



「「「「そう!」」」」

「俺、選べないもん!それにひとりで行けるし!」

「ーーーだ、そうですが…」

「「「「でも‼」」」」

「うー…ん。ーーーようするに皆さん隆一さんと一緒にいたいって事ですよね?」

「「「「‼」」」」

「え?」

「心配は勿論あるけれど、何より片時も離れたく無いって事ですよね?」

「「「「っ…‼」」」」

「…みんな……そうなの?」

「そうでしょ?」

((((…葉山君…さすが鋭い!))))

「ーーーだ、そうですよ?隆一さん」

「っ…ーーーみんな…ホント?」



葉山君に言われて、俺らの方に視線を向けて。隆…なんだか照れくさそうだ。


「ーーーそうだよ」

「隆と買い物行きたい」

「恋人が他の奴と二人きりなんて耐えらんない」

「イノはズルイ~!」

「だって普通そうだろ⁇恋人なんだから」

「まあまあ、皆んな隆ちゃんが好きなんだよね?」」

「「「そう‼」」

「勿論、俺も隆ちゃん好きよ?」



真ちゃんが丸く丸くおさめたところで。
葉山君がぽんっと手を叩いて言った。



「こうしましょう!皆さん一緒に行って来てください!」

「「「「「え?」」」」」

「僕、留守番していますから」



葉山君、にっこり。
唖然とする俺らをぎゅうぎゅうとドアの外に追いやって、行ってらっしゃーい‼…って、手を振った。







コンビニまでの道を五人でテクテク。
隆は勿論、俺の隣。(そこは譲れないよね)



「ーーー葉山君最強」

「何か、隆と同じ強さを感じる…」

「え~?そっかな⁇でも葉山っちともう長いこと一緒に仕事してるもんね」

「波長が揃ってきてんのかもな」

「更にそこにイノが混ざると異次元に迷い込んだような錯覚に陥るんだよな…」

「あはは!J君大袈裟~」



ーーー異次元か…。渦巻の名もあながち的外れじゃないのかもな…

そんな感慨に更ける俺の横で、隆はやっぱりニコニコ楽しそうだ。
思いがけず五人での買い物になったけど。まあ、いいか。

四人の真ん中で、隆が笑ってくれるなら。



end






01/07の日記

23:42
こんな夜は…
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こんな夜は君を愛そう。









「…ぁっ …あ」

「ーーーここ、いい?」

「ん っん…ぅん」

「ん。いいよ?」






車の中。
外は冬の夜。








あまりの寒さに、たまには夜散歩じゃなくて夜ドライブってどう?
そんな提案をしたのは夕飯を終えた後のまったりタイム。
車のキーを取り出して隆を誘ったら、隆は嬉しそうに頷いた。


緩く暖房をつけた車内。
途中のコンビニで買った飲み物を持って、さあどこに行こうか?




「海」


「ーーーやっぱりね」




隆の返答は想定内。
すでに海沿いへと走らせていた車。行き先が確定したから、俺はぐん…とアクセルを踏み込んだ。






「誰もいないね」


「そりゃそうだろ」




こんな真冬の夜の海岸なんてさ。
誰だってこんな寒い夜は、なるべくなら暖かい所にいたいだろ。




「暖房つけてるから平気だけど、外出たら今夜は凍えるよ」

「あはは、そうだねぇ。よく来たよね俺たち」

「君のリクエストだから」

「じゃあイノちゃんはどこが良かったの?」

「え、俺?…俺は」

「うん」

「ーーーーーー隣に隆を乗っけて運転できれば何処でも」

「!」

「よろこんで連れて行きますよ?」




そう言ったら。
隆は頬を染めて、微笑んだ。








飲み物を飲んで、窓の外を見る。
暖房がついているから、車内は温風が吹き出る微かな音に包まれている。




「イノちゃん」


「ん?」


「ーーー波音…ーーー聞こえないね?」


「ん、ああ。窓閉まってるしな。暖房もついてるし」


「ーーーん」


「…一瞬消そうか?冷えるかも知んないけど。せっかく海に来たから聞きたいだろ?」


…波音



「ーーーいいの?」


「いいよ。」


「ありがとう」





暖房を消す。
すると途中に聞こえる、波音。
寒いから相変わらず窓は締め切りだけど。
ーーー聞こえる。




「いいね」


「ん?良かったな」


「うん!」


「ーーー」


「ーーーーー…でも」


「ん?」


「やっぱりちょっと寒いね」





ーーー無意識だろうか。自分の両腕をさする隆。
ふるっ…と小さく震える肩が妙に可愛くて。
こんな寒い夜は、守ってあげたいって。
暖めてあげたいって。
俺の庇護欲は、堰をきる。




ーーーね、隆?
誰もいないから、こんなのもいいよな?










「ーーー…ゃ、ぁん」


「隆ちゃん…もっと」


「んっ…」


「声出してよ」



ーーー誰もいないんだから。



暖房も消えてるから、正直寒いけど。
こうして抱き合えばあったかいな?


隆の服の隙間から手を入れた。
脇腹を撫でて、そのまま胸を弄る。
ーーーもう、反応してる。
指で弄るだけじゃ我慢できなくて、勃ち上がったそこに舌を這わせる。



「もう硬い」


「イっ…ぁん」


「ーーー名前呼んで?」


「っ…ーーーイノ…」


「そっちじゃなくて、ホントの」


「え…?」


「隆だけにいいよって言っただろ?」


「んっ…ぅん…ーーーぁあっ…き」


「…ん?」


「清…っーーー…信」


「っ…」


「んっあん んっ…ーーー」


「っ…いいよ、隆だけだ。ーーーーー俺を呼んでいいのも、俺を…こんなにできるのも」




隆を抱き上げて、貫いた。
熱くて狭い、隆の中。
揺する度に溢れる甘い甘い声。
こんなになったらもう夢中だ。
寒さも、ここが車内だって事も忘れてしまう。
唯一。俺と隆の吐息で曇った窓ガラスが、ここが部屋じゃないんだって事を教えてくれる。

重ねた手を絡ませて。
キスをしようと視線を上げたら、目の端にシートベルトが見えて。
こんな所で抱き合っているって実感が急に湧いてきて。
それが俺たちを興奮させて。
いつまでもいつまでも、めちゃくちゃに俺たちは愛し合った。





「たまにはいいな、こんなのも」


「ーーーえっち」


「でもいいでしょ?」


「ーーーうん。…好き」


「くくっ…。うん」






こんな夜は君を愛そう。



end







01/21の日記

23:53
初詣
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イノちゃんと一緒に手を合わせた。




一月も、もう真ん中。
初詣にまだ行ってなかったから、そろそろ空く頃だよねって。行ってみようよって事になって。
今日はイノちゃんと初詣。



どこに行こうか?
せっかくだし、遠くまで行く?
有名なところも良いけど、行き慣れたところがやっぱり良いかな。

…そんな会話の後に決めたのが。
歩いて行ける、近くの神社。
いつもの散歩の延長で行ける場所。
ご近所っていうのが、こんな時は和むよね。


平日。
昼時。
おまけに寒波到来で、木枯らしが時折吹き抜けて寒い寒い日。

神社の境内は、俺たちの他にちらほら。
そんな程度の人出。






ゆったり、ゆったり。
イノちゃんと境内を歩く。

びゅう…
風が吹く。




「寒っぅ…」




風を受けた木が、葉を落とす。
ハラハラ散って、端の少し欠けた狛犬の頭の上にちょこんと赤い葉っぱ。

見上げれば赤い鳥居。


初詣だなぁ…って。
清々しい気分になる。





「隆ちゃん、ほら」




コインケースをかしゃかしゃ揺すって、イノちゃんが俺の手に渡してくれた五円玉。それからあと何枚か。




「その五円玉は一番ぴかぴかのだよ」


「ありがとう。俺が投げていいの?」


「その方が皆んな喜ぶだろ」


「…皆んな?」


「そ。神社の神様も、狛犬も、五円玉もだ」




ーーーそっかな?
よくわかんないけど、イノちゃんはすごくニコニコしてるから。そうなのかって思う事にして、数枚の小銭を受け取った。





かしゃーん
ちゃり…ちゃりん


ガラン ガラン ガラン




小銭を投げて、鈴を鳴らす。
それから手を叩く。

賑やかな音。


これも初詣だなぁ…って思う。


心に願う事は…内緒。
…でも。
こんな時はやっぱり。
自分の事よりも、大切なひとの事を想いがちだ。
大切なひとを想うと、それが結局は自分の心の安寧になってる気がする。









「ーーー隆ちゃんと来れてよかった」

「うん。俺もイノちゃんと一緒でよかったよ?」




顔を見合わせて微笑んで。
自然と引き寄せられる、手と手。
俺の右手と、イノちゃんの左手。
ただの手繋ぎは、次第に指先が絡んでく。



ゆったりゆったり。
足取りも、会話もゆったりしながら。
奥行きのある境内のその先の桜並木を歩いていたら。
一軒だけ。
ポツンと。
赤いトタン屋根の屋台があった。




「あ、隆ちゃんにぴったりのヤツ」

「え?」

「ほら、あそこ。りんご飴だ」

「ーーーホントだ」

「行こ?買ってあげる」

「ぇ…え?」




ぐいっ…
イノちゃんの手が俺を引いて。
赤い屋根のりんご飴屋へ。




「ひとつ、ください」



イノちゃんがサッとお金払っちゃった。
お店のおじさんが、好きなのいいよって。




「隆、どれがいい?」

「ーーーいいの?」

「もちろん」

「ーーーん。…じゃあ、これ」





一番手前の、丸くて赤くてぴかぴかのりんご飴を指差して。
おじさんが渡してくれたりんご飴は、手に持つとそこそこの重量感。


ーーー綺麗。…美味しそう




「どうもありがとう」



お礼を言って、また再びイノちゃんと歩き出す。



「ーーーイノちゃんありがとう」

「どういたしまして。…やっぱ隆ちゃん、似合うな」

「ええ~?」

「可愛い」

「っ…」

「隆、可愛いよ?」




ーーーもう。

ここどこだと思ってんの?
境内の外とは言え神聖な場所なんだろうに。
それなのにイノちゃんの…今年も絶好調な甘い台詞。

…って。
俺も人の事言えない。
イノちゃんと並んで歩けて嬉しいって、さっきからドキドキしてる。



ぺろ。


…甘い。


カシ。


…小さく飴を齧った。



りんごにはまだ到達しなさそう。
赤い飴を、ひたすた食べよう。





「隆」



くっ…と。
イノちゃんが立ち止まって、つられて俺の足もとまる。




「ん…イノちゃん?」



「ーーー隆」


「っ、?」




イノちゃんの指先が、俺の顎に添えられて。真正面からじっと、見つめられる。

…ちょっと。
そんなに見ないでよ。

ドキドキするから…ーーー


寒いのに…あつい。
飴を持つ手が、いつのまにか小さく震えてる。

…もうわかってる。
イノちゃんが今、どうしたいか。



ちゅ。


イノちゃんの見つめる前で、俺はりんご飴とキスをする。



「ーーーイノちゃん…」



それから、そのまま。
ねぇ、イノちゃん…




「ーーー隆…」



いいよ?



ゆるっ…と、目を閉じたら。
すぐに触れてきたのは、イノちゃんの唇。
触れるだけのキスは、すぐに深くなる。

甘い甘い、初春のキス。




「っ…ん」

「…お前、年始めからエロい」

「イノちゃんだって」

「ん?」

「っ…ーーーなんでもない」

「気になる」

「いいのー」

「りゅーう」




今年も気持ちいい事、いっぱいしようね。

一緒にいられる幸せを願って。




end





01/27の日記

22:38
来るまで。
---------------



ーーー…っちゅ


はっ…ぁ




「ーーーっん…りゅ、う」




んっ…ん、ん



ーーーちゅ…く



っ…ふ、





「っ…隆」


ぁ、あっ…




ーーーちゅ…





「ーーーりゅう」





キスの合間。
イノちゃんが、じっと俺を見つめてる。
そんなに見ないでよ。
今の俺は、力が抜けて。
とろとろに蕩けてしまって。
多分、すごく…




「隆のカオ、ゆるゆるだよ?」



…ほら。
やっぱりそうなんだ。

出てくる声は、今や言葉にならない声ばかり。思考だけはシャンとしなきゃと思うけど。そんなささやかな抵抗も、そろそろ崩れそう。
だって気持ちよくて。
好きなひとと、夢中のキス。





「ーーーそろそろ…さ、」



…うん、




「アイツら…来るよ?」




知ってるよ。
だってここ、スタジオだもん。
もうすぐ集合時間。
五人が集まる時間。




…でも。





ーーーちゅ…っ



んっ…ふ、ぅ



「でも、」



んっ…ン…





「まだ、もうちょっと…な?」




ギシッ…



ソファーの上で、二人一緒に倒れ込む。
イノちゃんの重みに、胸がきゅうっ…となる。
唇が、深く深く絡んでく。




ーーーくちゅ…




ぁっん、…ん




「時間いっぱいまで…」




うん、いいよ?
だってしたいのは、俺も同じ。



言葉の代わりに頷いたら、イノちゃんは嬉しそうに指先を重ねてくれた。

時間なんて、もうわからない。
だからせめて、耳を澄ます。

霞んだ頭の端で。
彼らの靴音を、聞きつけるまで。




end






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