日記(fragment)のとても短いお話






10/02の日記

23:00
月と歌。
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隆が月を見てる。


先に隆が風呂を終えて。
俺もテレビがひと段落したところで風呂に入って。
髪を乾かして、冷蔵庫から水を取り出して。キリリとペットボトルを開けて冷たい水を飲みながらリビングに行くと。

部屋は暗くて。
テラスに続く窓が少し開けられて。
そこのフローリングの床に、隆は座ってた。
両手で膝を抱えて、月を見てた。


今夜は満月。
部屋の電気は消えているのに、月明かりで明るい。
淡いブルーで、まるで海の中みたいだ。


それにしても。隆の、この月を見上げる感じ。
じっと、瞬きも忘れたみたいに見つめてる。ーーーっても、後ろ姿しか見えないんだけどさ。
雰囲気でわかるんだよ。


せっかく熱心に見てるのに邪魔しちゃ悪いなって思って。
なるべく音を立てないようにテーブルにペットボトルを置いて。リビングのソファーに、そっと座る。
俺の位置から隆までは。約3メートルってところかな。
たまには良いなって思う。
こんな微妙な距離の、俺と隆。

ソファーの背凭れに身を預けて、ここぞとばかりに隆を眺める。

ーーー身動きもしない。
ただただ、月を見てる。



( …寝てねえよな?)



あまりに動かないから、そんな事も考えてしまう。
ーーーと、思った時だ。

歌いだしたんだ。
隆が、ーーーーー歌を。





「ーーー…ルー…ーーララーーー…ラーラルララーー…」




ーーーあ。この曲…



「ララーラルララー…ラーラ…」




ーーーーームーンリバー…



月明かりと夜にとけそうな、隆の歌声。

ーーーすげえ、綺麗。





そっと立ち上がって、歌い続ける隆の隣へ。隆の反応を待つ間もなく、隆と同じように窓辺に座る。
パッと隆がこっちを見たけど。
歌を止めることはなかった。

ほんのわずかな俺と隆の隙間。
隆はそれをギュギュッと詰めて。
俺の肩に、コテンと頭を預けてくれた。




「隆」

「イノちゃん、お風呂上がりの匂い」

「隆だって。ーーーね、もう歌わないの?」

「ん…?」

「もっと聴きたいな。ムーンリバー」

「ええ~?ーーーあ、じゃあ、イノちゃんも歌って?」

「俺?」

「一緒に歌お?俺コーラスやるから、イノちゃんメロディーラインね」

「なんでよ!隆がメロディーだろ」

「俺、イノちゃんの歌好きなの!一番独り占めできる場所でイノちゃんの歌聴きたいんだもん」



だから!良いでしょ⁇
って、引き下がらない隆。
ーーーこうなると頑固なんだ。




「ーーーーーしょうがねえなぁ」

「やった!」

「まだ良いって言ってないけど」

「でもいいんでしょ?」

「っ…(敵わねえなぁ)ーーーわかったよ」

「へへ!」




期待のこもった目で見られる。
そんな目で見んなっての!照れるから。

ーーーそれに弱いんだから。抗えないんだ。




騒つく心を鎮めて、空を見る。
黄色い月が、俺らを見てる。

冷えた秋の空気を吸い込んで、歌った。




「ーーールールルー…ルールルルルー…」




途中から、隆のコーラスも混じる。




〝あなたと行きたいの〟




ーーー我ながら…なんだけど。
正直、心が震えた。




月明かりの窓辺で。
肩を寄せ合って。
君と二人、歌を歌う。
これは誰にも聴かせない。
俺と君だけの。
秘密のライブだ。

そんな俺たちを。


ーーー月だけが見てる。




end








21:13
月と歌。それから…
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イノちゃんの低くて甘い、守られるみたいな歌声。
それを隣で聴いてたら。
ーーー…眠くなってきちゃった。

俺も一緒に歌ってたのに、眠くて上手く口が回らない。
それで多分、それに気付いたイノちゃんが。




「ーーー隆?」

「…ん…」

「なんだよ。眠いの?」



だってイノちゃんの歌声気持ちいいんだもん。
なんかα波とか出てるんじゃないの?



「ーーー寝るなよ」

「だっ…て」

「明日はお互いオフだって喜んでたの誰だよ?」

「ぇ…ーーーイノ…ちゃ…でしょ?」

「隆もだろ?ーーーーーなぁ…」

「ん…」

「そんな眠いなら、無理矢理起こすよ?」

「んー…い…よ?」

「いいの?」

「ぅん…」



今にも閉じそうな瞼をなんとか開けて、イノちゃんの言葉に頷いた。
そしたら。



とさ。




窓辺のフローリングの床に、寝かされた。
ひと二人分くらい開いた窓からは、相変わらず心地いいひんやりした空気。それから月明かりだけが、この部屋を照らす照明になっている。

ーーーって。

窓!開いてるよ‼



「イノちゃんっ…」

「お。目、覚めた?」

「違くて!ナニしようとしてんの⁉」

「ナニって…わかるだろ?」

「わ…ーーーかる…けど」

「じゃあいいじゃん?」

「じゃなくて、窓‼開いてるでしょ⁉」

「だな。たまにはこうゆうのもいいんじゃない?刺激があってさ」

「ええーっ⁇」

「声我慢する隆も好きなんだ」



もう!何嬉しそうに言ってんだよ!
声我慢するったって、限度もあるんだからね!しかもこんな静かな夜に…



「ーーー隆…」

「っ…ん…ぁ、ちょっ…待って」

「ダメ、待てない」

「ーーーあっ…」

「ふっ…ーーー隆」



耳を甘噛みされて、首筋にキスされて。
もうこんなになったら止められない。
たった今まで気にしてた事全部飛んでしまって、目の前のイノちゃんに縋り付くだけ。



「ーーーっぁ 、ん」

「隆?…我慢すんじゃなかったの?」

「や 、…無理っ…だよ」

「くくっ…わかったよ」



そう言って笑うとイノちゃんは。
片手を伸ばして、カララ…と窓を閉めた。
それからレースのカーテンだけを引っ張ると、そのまま俺の唇を塞いだ。すぐに深く重なる唇。こんな風に抱き合ってするキスは、気持ちよくて夢中になる。



「ん…っふ」

「っは…ーーーやっぱ」

「ぅ っん…ン」

「隆のこんな声、誰にも聞かせたくないもんな」

「あっ…ぁ イノちゃ…」

「月にだって御免だ」



月明かりに照らされる恋人は格好いい。
そんな彼に、俺は両手を伸ばして続きを強請る。

薄いカーテンを通り抜けた月明かりは、さらに淡く。青く。
何も囚われず、我慢せず愛し合う俺たちを包んでいる。


ほら、やっぱり。

月だけが見てる。




end






10/10の日記

22:19
既視感。
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あ、この景色知ってる。初めて来たのに…とか。
この感じ。ずっと前から知ってる…ってゆう。既視感。


あれって不思議だ。
知らないのに、知ってる。
初めてなのに知ってる。

それがなんでなのかは全然わからないけど。あの不思議な感覚に付随するのは、妙な心地良さだ。












「ぁ…っ イノ」

「ーーー隆ちゃん、ホカホカしてる。…あったかい」

「だっ…て ぇ…」

「外はすっかり肌寒いのにさ?」

「っ…んーーーっ…」

「ココも。…熱くて、とろとろだ。ホラ、聞こえる?濡れた音」

「あっ…ゃあ…」





寒空の秋の夕方。
隆と買い物して帰って。さあ夕飯の準備…と思ったところで。
なんかの拍子に盛り上がってしまった二人の気持ち。赤いエプロンを着けたままの隆をリビングの床に押し倒して、テレビは夕方のニュースがつけっぱなしのまま。
なんかそんな日常感が、かえって俺たちを煽り立てる。

白いシャツのボタンをはだけさせて。エプロンの肩紐も肩から落ちて。下は既に俺に脱がされて。
丹念に愛撫している最中に、もう待てないって言うように強請られて。
俺も早々に我慢の限界で、隆と繋がった。



「んっ あ…ぁっ…あ」

「っ…りゅう」

「イ ノ…ちゃ…っぁ」



ーーーこんな風に、隆が俺を呼ぶ時。
俺はいつも襲われる感覚がある。
その感覚の出所がどこなのか、何なのか。
よくわからないんだけど。

いつかどこかで出会った感覚。
既視感みたいな。
隆の甘い声が、俺のその感覚を呼び覚ます。

隆と出会った頃?
ライブの最中?
隆の歌声?
それとも、今まで隆と何度も抱き合った記憶だろうか?



ぎりっ…
俺の襟足に回った隆の手の爪が、深く強く傷を作る。
多分無意識なんだろうな。
大体いつも、俺の背中やなんかに付いた傷痕を見て。隆は焦ったように頬を染めて謝ってくる。
謝る必要なんて無いのにさ。

ーーー今日も、食い込んだ爪はしばらくそのまま。そして俺も、その甘い痛みで既視感なんてものはどこかに消えていく。

目の前の隆だけに、夢中になるんだ。



「あっ…あぁっん…イノっ…」

「っ…ーーーりゅう…いち」

「っ…!」



上り詰める間際に、俺はいつも隆を呼ぶ。
抱きしめて、全部の愛情を注ぐように。
視線を離さないで、隆の最奥を愛した瞬間。
ーーーこれも、いつもなんだけど。


隆が微笑んでくれる。
涙でぐちゃぐちゃの顔で、それでも花のように。

その笑顔を目の当たりにする瞬間。
再び顔を出す、愛おしさの既視感。

ーーーでも、それが何なのか。…なんて、もうどうでもいい。
隆を愛おしいと思う事なんて数え切れない。その今までの、軌跡の表れなんだ。



end







10/11の日記

22:27
溺れる。
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両手を伸ばして、イノちゃんの首元に縋り付いた。
離れたくなくって。
こうするしか、込み上げる熱をどうにかする事ができなくて。
飲み込まれそうで、溺れそうで怖いほど。



「っ…ーーー隆」

「あ…っーーー」





震える手でシャワーを止めた。
ぴたりと消える水音。
でもその代わりに浴室に響く、二人の荒い息遣い。俺の止めようのない喘ぎ声。
それから、別の水音。

まるで水の中にいるみたいだ。




「っ…ぁ んっーーーん」

「ん…気持ちイイ?」




口元を意地悪そうに歪めて微笑むイノちゃん。ーーー気持ちイイ?なんて、当たり前なのに。
キッと睨んでやりたかったけどできなくて。結局こくりと頷くのが今の精一杯だった。

俺の返事に嬉しそうに笑ったイノちゃんは。湯船の縁に座って、その膝の上に抱えてた俺を。
そのまま、繋がったまま抱え上げて。
湯船の中にバシャンと身を沈めた。


ーーー浮遊感。
あったかいお湯と、浮力で。
ホッと力が抜ける。
イノちゃんの襟足に回してた両手の力も、ゆるっと解けた。




「ーーー気持ちいい」

「お湯?」

「うん、あったかい」

「風呂ん中でするのも、たまにはいいな?」

「うん…ーーーんっ…ぁ…」

「けど。…油断し過ぎ」

「ぁんっ…」

「まだ終わってないだろ?」

「あ…っぁ あっーーー」



ゆらゆら…
イノちゃんが俺を突き上げるたびに、水面が揺れる。
霞んでいく視界に、波打つ水面が見えて。
本当に今、溺れそうな錯覚に陥ってしまう。
目の前のイノちゃんを見ると。イノちゃんは快感に眉を寄せて、呼吸も不規則で。
気持ちいいって思ってくれてる事が、嬉しい。




「ぁ…っねえ、イノちゃっ…」

「…ん?」

「…お風呂で、抱き合う…とね?」

「ーーーうん?」

「溺れて…る、みたい…だね?っ…一緒に」

「っ…ーーー」



そう言ったら。
イノちゃんは俺に、息も止まるようなキスをする。その間も、ずっとずっと俺を突き上げて。奥までイノちゃんに愛されて。

苦しくて、恋しくて、イノちゃんしか見えなくて。

溺れてしまう。

イノちゃんっていう、水の中に。




end







10/28の日記

22:18
真矢とうさん。
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「真ちゃん!」

「ん?おー、隆ちゃん。どしたの?」

「はい!これあげる」

「え?ジュース?」

「うん!今イノちゃんと買い出し行って来た」

「ほう。」

「じゃね!」

「おう、ありがと隆ちゃん」




後ろ手に手を振りつつ、向こうへ駆けてく我らがヴォーカリスト隆ちゃん。
トテトテトテ…と、足早に向かった扉の先にはこちらもメンバー。ギタリスト・イノラン。


俺が今寛いでるスタジオのソファーから少し距離がある、ガラス扉の向こう側。
防音の分厚い扉だから、二人の声は聞こえない。
でも。

にこにこ、にっこり。
声は聞こえずとも、二人の表情で全てがわかるんだよね。

一緒にいられて、話せて嬉しいって。
好きだよ、好きだよ。
大好きだよ!って。
そんな雰囲気がこっちまで漏れてきてますよ?



「ーーーかわいいねぇ」



二人が好き合ってるなんて、そんなの遥か昔から知ってた。それこそ本人達が自覚する前からだ。
それにほぼ同時に気づいたスギとJと、今までどれだけ歯痒い思いをしたか知れない。



「今ではこっちが照れるくらい仲良いけどね」



いつの間にか大層男っぽくなって、よく笑う、よく歌うギタリストになっていたイノラン。

歳を重ねる毎に歌声も可愛らしさもアップしてるように感じる、しっとり綺麗になった隆ちゃん。


二人が仲良く寄り添っているのを見るだけで癒されているのは秘密だ。

泣けてきちゃうからさ。

二人の間で生まれる空気がいじらしくって。大切にし合ってて、ついつい目頭が熱くなる。

実はスギもJ。アイツらも二人の事になると視野が狭くなるって知ってる。
時折あわあわする事もある。
自分達の感情に素直なイノと隆を見ていると。こっちの感情も揺さぶられて、あったかさで満ちてくんだ。



「ーーーある意味あの二人セットに強力な耐性があるのって…」



葉山君かもしれない。



「ーーーうん。彼は重要だな」



無邪気なあの二人を嫌味無く、自然に対峙出来る彼の存在は。



「貴重だぁ」





あはははっ…って。
少し開かれた扉の隙間から、隆ちゃんとイノランの笑い声。

計算も無い。
裏も無い。


心からの笑い声。




「ほんっと、愛おしいね」




〝真矢とうさん〟は、そんなお前たちをずっと見守っているよ。




end









11/02の日記

23:25
赤信号の間。
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雨降りの夜道。

君と二人、傘をさして進んだ。




「寒いね」

「そうだな」

「今日って雨予報だった?」

「そんな事なかったと思うけど…」

「イノちゃんが傘持っててくれて助かった」

「俺だって偶然だけどね?」

「それでも。…イノちゃんありがとう」

「ん?いやいや、どういたしまして。…良かったよ」

「うん?」

「愛しの隆ちゃんが濡れずにすんで」

「っ…~~何それ?」

「そのままだけど?」

「もぅ…」



ーーーなんて話しながら、夜道は続く。

傘も、たまたま持ってた折り畳み傘だ。
そこに隆と二人で入ると、肩が薄く濡れて、傘の中は超密着状態になる。



ーーー至福。


暗闇に紛れて、俺が顔をニヤつかせているのは隆に内緒だ。





「あ」



赤信号で立ち止まる。

足音が消えると、途端に雨音の大きさが耳につく。




「強くなってるね」

「ーーーだな。…でも、まあ。もうちょいだし」

「うん」




ここの信号は長いんだ。
青に変わるまで長い。

時と場合によっては足踏みして待ってしまうこの信号も。
今は、違う。

この空間が素晴らしく心地いい。
二度と信号が変わらず、ずっとこのままでも良いとすら思う。



ーーー隆と二人きりの。雨の夜道。ひとつ傘の下。


欲しがりになる心は、仕方ないよな?





交差する側の信号機が点滅しだして、黄色に変わり始める。こうなると、俺たちの目の前の信号が青になるのも間もなくだ。





「ーーーイノちゃん」


「え?」




いつの間にか、隆がこっちを見て…見つめてた。
その気配が。




「隆?」




「変わる前に。…早く」

「ーーーっ…」



して欲しいよ。って、隆の言葉は俺が飲み込んだ。

俺だけじゃなかったんだ。
この雨と夜道とひとつ傘に…
欲しがりになっていたのは。




「っ、ん…」




夜の闇や、傘に隠れてする口づけの。
なんて気持ちいい事だろう。







信号が青に変わって、再び歩き出す。





「隆」

「ーーーうん?」

「…帰ったらさ」

「うん?」



「ーーーあったまろう?」


「っ…ーーーうん」





俺は傘を持ち替えて、雨で濡れた隆の指先を握ってやった。





end






11/15の日記

22:42
ヨアソビ
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「ぁあ~っ!また負けた~」



手元に残った一枚のジョーカーをテーブルに投げ出して。もうこれで何度目かの盛大なため息をついた。

勝てない。
その悔しさで、向かいに座るイノちゃんをジッと睨んでも、彼はどこ吹く風で。
テーブルに散らかったトランプを掻き集めながら、楽しそうに微笑んでいる。



「イノちゃん、強すぎ。全然勝てないんだけど」

「隆ちゃんが分かり易すぎるんだよ。ポーカーフェイス下手だよね?」

「っ…そんな事ないもん!」

「うっそだぁ?だって俺、隆ちゃんの考えてる事手に取るようにわかるよ?」

「(ムカ…)…じゃあいいよ?もう一回勝負!今度は俺、完全なポーカーフェイスに徹するから!そんで勝つから!」

「ーーー負けたら?」

「っ…ーーー負けたら?…負けないもん!」

「まあまあ、一応さ。賭けるものがあった方が張り合いあるだろ?」

「う…うん。ーーーじゃあ…」

「ん?」

「ーーー負けたら…今夜はイノちゃんのしたい夜あそびにずっと付き合ってあげる」

「ーーーヨアソビ?」

「よあそび。ーーーなんでもいいよ?」

「…ホントだな?」

「うん」

「なんでもいいんだな?」

「いいよ!負けないもん!」

「よし。のった」

「うん。ーーーじゃあイノちゃんは?イノちゃんが負けたら何してくれるの?」

「うーん…。そうだな」

「うん?」

「ーーー明日の晩に隆の好きなレストランでディナーなど。いかがでしょうか?」

「いいよ‼」



急に持ち上がった勝負。
…ちょっと思い切った提案をしちゃった気もするけど…。まあ、今度こそ負けないもんね!イノちゃんに負けないくらいのポーカーフェイスを貫いて、絶対勝ってやるんだ。それで明日の夕飯はレストランディナー‼
絶対絶対、俺が勝つからね?覚悟しててよ!イノちゃん。













ーーーこうゆう展開って、やっぱりお約束なのかなぁ…


あんなに意気込んで挑んだババ抜き勝負。いざ終わって手元を見ると。俺の手に握られているのは、やっぱり…

ジョーカー‼




「なんでっ⁉」

「いや…なんでって言われても」

「絶対ポーカーフェイスで!バレないように出来てたと思ったのに!」

「え…?…や。あれは…」

「なに⁉」

「隆ちゃん…やっぱ表情がさ。豊かってゆうか…」

「ええ?」

「でもそこがいいじゃん。無表情な隆ちゃんより、ころころ色んな顔見せてくれる隆ちゃんの方がらしいと思うよ?」

「…えー…?」

「その方が可愛いし」

「もぅ…またそれ?」

「可愛いから可愛いって…だめ?」

「ーーーじゃない…けど」




イノちゃんはテーブルのカードを手早く片付けると、そのままこっちに手を伸ばして。ソファーの上で膝を抱えている俺を引き寄せた。



「っ…イノちゃん?」

「ーーー付き合ってくれるんだろ?ヨアソビ」

「ーーーっ…」

「なんでもいいって約束だったよな?」

「ーーー…わかってるよ」

「くくっ…」

「っ…なに笑ってんの⁉」

「別に?」

「イノちゃんの意地悪」

「悪りい…でも。隆?」




ホントはしたかったんじゃないのか?
俺とヨアソビ。

ーーーって。
耳元で囁かれて。
思わず身体をぎゅっと固くした途端に、イノちゃんが。
コツンとおでこをぶつけてきて、ジッと目を見つめられて。
俺が観念するのを待って。
とうとう根負けして瞼を閉じたら。



「しよう?俺とヨアソビ」



そう言って。
イノちゃんの唇が重なった。













ーーー翌朝。

目覚めたのは朝と言うにはちょっと遅い時間。
今日は二人揃ってオフだからって、ヨアソビし過ぎた結果だよね。



「っ…もぅ…イノちゃん」

「ん?…おはよ。どした?朝から頬っぺた膨らませて」

「どした?じゃないよ!俺の肌…」

「肌?…ああ」

「イノちゃんの!痕だらけじゃん」

「だって可愛くて」

「だから、そればっか!」

「大丈夫だって。服着ればわかんないトコに付けたもん」

「そうだけどっ…」

「服着れば、外出られるよ?ーーー行くんだろ?」

「え?」

「今夜。ディナー」

「っ…え?ーーーいいの?」

「最高のヨアソビだったから。お返し」

「イノちゃん…っーーわぁい!」



ご褒美もらったみたいに嬉しくて、思わずイノちゃんに抱きついた。その時、そう言えば二人ともなにも身に付けて無いって気付いて、慌てて離れようとしたら。

ぎゅっ。

またイノちゃんに抱きしめられた。
素肌が重なって、またドキドキし始める。



「ーーー時間いっぱいあるじゃん?」

「…うん」

「もっとしたいな、ヨアソビ」

「ーーーもう夜じゃないよ」

「夜じゃなくてもさ。ーーー隆に触れたい」

「っ…ん…っぁ」



「一緒にあそんで幸せなの、隆だけだよ?」



そんな事、そんな嬉しそうに言わないで欲しい。
だってそれは俺も同じ。

朝も昼も夜も…ずっとずっと。



end



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